第1章 12話 高性能執事
クロが高性能すぎてユウができない子に見えてきてしまいますが、そんなことないです。
クロのいた館は老朽化しているといっていたが、多少痛んではいるが街の貧困層の家に比べたらまだまだ問題ない。ただここに住むと地上に出るのが面倒くさいし、クロの希望もあり地上に出て生活をすることとした。
ここはこのままにしておこう。緊急時の避難場所としては打ってつけの場所だ。クロの主人になった時からこの館の所有権は俺になるらしいのでとりあえず別荘のような扱いにしておこう。
地上出るときは廃墟の隠し扉の周りに人がいないか、マテルを使い確認してから開けるようだ。ここは手馴れているクロに任せた。
「さて、とりあえず今は朝を少し過ぎたぐらいだから廃墟の中を散策したいんだが・・・」
「この廃墟の中でございますか?まぁユウ様がそうしたいのであればお供いたします」
「なんかあまり乗り気じゃないね。なんかあるの?」
「いや。失礼いたしました。実はこの廃墟は先ほどお話した闇族の住処を隠すためのものでして、私が数百年前に作ったものなのです。いつの間にか魔物が自然発生するようになったため、無謀な輩が力試しに侵入するようになりましたが、真実を隠すには丁度いいエサとなりました」
クロが作ったのかよ!っていうか扉を隠すためのフェイクだとしてもずいぶん手の込んだ廃墟だこと。
「っというと、クロは何歳になるんだ?それにこんなに広い廃墟を作るにはずいぶん長い時間がかかっているんじゃないか?」
「年齢は今年で723歳となります。闇族では200歳から成人として扱っていただけます。この廃墟はマテルを封じ込めた専用の道具を設置すると自動的に製作開始し、自動で改変を行ってくれます。なので今でも少しずつ広がっているのではないでしょうか?」
なんだそりゃ?!廃墟を自動で作成するマテル道具とか、ゲームでは運営側しか使っちゃいけないような道具だろう。まぁある意味管理者だからいいのか?でもそんな感じで廃墟が作られているのか。ありがたみに欠けるな。
「そっか。今は魔物と戦う訓練を中心に行動したい。実際には戦術やうまく立ち回る方法はあまり知らないため、教えてもらえると助かるんだが・・・」
「承知いたしました。指導させていただきます」
「それではいくか」
クロを引き連れて廃墟の中を歩いていく。オレは暗視ゴーグルのマテルを使用しているが、クロは特にマテルをかける必要な無いようだ。1階は特に敵も出てこないのでどんどん下の階に進んでいこう。
現在地下5階ぐらいに来た。途中魔物に会ったが中型犬ぐらいの昆虫や芋虫だった。以前に拾った剣で、難なく倒すことができた。途中でクロから剣の扱いの指南を受け、初めよりは少し上達したかと思う。地下5階まで来ると大きなトカゲや蜘蛛の魔物が出てくる。天井からいきなり降りてくることもあるため、通常であれば不意打ちで戦闘不能になる人も多いと思うが、オレの場合は気配を感じることができるし、暗視ゴーグルのマテルもあるため周りの状況が手に取るようにわかる。
不意打ちを食らうこともなく先制でマテルを飛ばし、落ちたところを剣で仕留めていった。ちなみに今使っている剣は村にいたときに手に入れた砥ぎ石で砥いでおいた剣だ。これは魔王城で骸骨戦士の中でも小隊の隊長クラスの戦士が使っている剣で、村に寄付したミスリルの剣より装飾が上等だったため、無限リュックに入れておいたのだ。切れ味はかなりいい。
クロに見てもらったが、ミスリルの剣でもマテルの効果が付与されていて刃こぼれがしづらく、切った相手をまれに気絶させる効果があるようだ。っていうかクロが万能すぎてオレがすごく出来の悪い奴に思えてくる。
さらに下に降りていき現在は地下10階だ。5階以下は人がかなり少なくなった。また、魔物を倒した後に売れそうな素材は採るようにした。これもクロにどんなものが高く売れるとかレクチャーをしてもらいながら進んできたため無駄なく効率的に対応できている。
「ユウ様もうそろそろ日が落ちますがこのまま洞窟で野営しますか?」
「いや、今日はもう帰ろう。探索をしなければそんなに時間をかけずに地上に出れるよね?」
「かしこまりました。では帰りは私が前衛を務めましょう。少しは体を動かしたいと思います」
そこれから、帰り道はびっくりすぐらいスムーズだった。クロが出てくるモンスターを秒殺していく。しかもほとんど手刀。なんでもオレとの勝負でオレが使った手刀をいたく気に入ったらしく、「これぞ究極の武器」とか言って次々と倒していった。
地上に戻り、宿屋に戻る前に廃墟の入り口にいる素材屋に入手したものを見せる。廃墟で手に入れたものをそのまま持ち歩くのは大変なので、入口に素材を買い取る素材屋が居ることが多いらしい。少し相場より安めになってしまうが、持ち運ぶことを考えたら楽なので結構売っていく人がいるらしい。
オレたちも持ち運ぶことが面倒くさいということもあり、素材屋で品々を取り出して並べる。素材は地下5階以降のものがほとんどのため、素材屋の目の色が変わった。
「兄さんたちどんな凄腕の戦士なんだ?5階以降の物ばかりじゃないか!これなんて10階前後でしか出ないマッドタイガーの牙と爪だぞ!なかなかお目にかかれるものじゃない」
なんかすごいレアなものなのだろうか?持っていても使わないから売ってしまうが…
「これ全部で2000バルでどうだ?結構いい品がそろってるから、このぐらいの値段が相場だな」
「ふん。ユウ様はあまり相場には詳しくないためだませるかもしれませんが、私は常に相場を調べているため、この素材でこの量なら3500バルで買い取ってもあなたは利益が出るはずです。この値段が無理なら他に行くだけです」
「ちょっちょっと待てよにいさん。悪かった。オレが数を数え間違えていたようだ。全部で3500バルで買い取ろう」
「ユウ様、この値段であれば妥当だと思いますが、どういたしますか?」
「うっうん。任せるよ」
「それでは交渉成立ですね。素材はすべてここに置いておきます」
「わかった。これがコインだ。持って行ってくれ」
なんか見たことのないものばかりだし相場なんてわからない。オレ一人だったら絶対最初の言い値で売ってたな。15万も違うとでかいな。
「クロ助かったよ。でもすごいね。あんなものの相場も調べてるの?」
「はい、執事として当然のこと。不利益になることは回避するように常に調査をしております」
「そっか。助かるよありがとう。それじゃあ今日は宿屋に戻ってゆっくり食事しながら酒でも飲もうか!」
「私はユウ様が食事を終えてからいただきますので、ご自由にお食事をとってください」
「いやいや、一人で食ってても面白くないじゃん。ここは主人の命令として一緒に食ってくれよ。そんな堅苦しい感じに話さないでいいからあ」
「・・・それでは命令ということでお食事はご一緒させていただきますが、口調は変えることはできませんのでご了承ください」
「わかったよ。じゃあ帰って飯だ!!」
宿屋に戻るとカイさんに連れが増えたことを告げ、ツインの部屋に変更してもらった。本当は別々の部屋にしようとしたが、クロがお金がもったいないというためツインの部屋にすることとなった。
「クロ、この世界では風呂ってみんな入らないけど、そういう習慣ってやっぱりないの?」
「水浴びや湯浴みはしますが、風呂として入ることは王族または貴族や一部の裕福な商人ぐらいしかしていないでしょう。そういう習慣がないのでやっていないだけかもしれません」
「そっか。オレは風呂が大好きなんだけどね。後で人目につかない河原とかでやろうかな」
「お風呂を準備する場合は手伝わせていただきます」
所持金は結構余裕があるし、明日はクロに必要なものを買いに行こう。
次の日、クロに必要なものを聞いたら、特にないと言われた。持ち物も持っていないのでパンツとかシャツなんかもずっと使うのだろうか?クリークのマテルを使えばきれいになるが、やはり新しいものを持っていないと気持ちがよくない気がするが…
「私は闇のマテルでいろいろなものを保管しております。試しに取り出してみましょう」
そういうと、空中に手をかざす。すると目の前に黒い闇が出てきてクロが手を突っ込んで何かを探している。そして手を引き抜くと手にはシャツをつかんでいた。スゲー!!俺の無限リュックもすごいんだけど、空中からものを取り出すってなんかかっこいい。
でも人前であまりやらない方がいいだろう。すごく便利なので、能力を狙われることもあるかもしれない。クロが襲われても、やられることはないと思うが用心したほうがよい。
「クロその闇のマテルでいろいろ物を取り出すのは、人目に付かないところでやるようにしてくれ。下手に見られると利用される可能性がある」
「承知いたしました」
クロの話では一通り生活に必要なものは闇ストレージ(勝手に命名)の中に入っているらしい。
今日やろうとしていたことがなくなってしまったのでとりあえず街をぶらついて、また廃墟にでも行こう。