第1章 10話 初めての・・・
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カイの宿はその名の通り、店主がカイさんだからこの名前にしたそうだ。この宿はここらではミドルクラスの宿屋をやっている。借りた部屋はやはり6畳ぐらいの部屋でベッドとテーブルがついていた。これがこの世界の一般的な部屋なんだろう。
久々にゆっくり眠れたのですっきりした。野営した時は火を炊きながら交代で監視をしていたためぐっすり眠れなかった。でもこちらの世界に来て体力も尋常じゃないことになっており、特に辛いと感じるほどではなかったが、やっぱりゆっくり眠れると気持ちがいい。
昨夜は夕食を食べながらカイさんにいろいろと話を聞かせてもらった。エーテハイムの街は人口2万人程度おり、近くにはまだ調べつくされてない地下の廃墟があるらしい。なんか面白そうだから後で行ってみよう。
やはり奴隷商のバルバリーさんは有名らしく、わざわざほかの大陸からも奴隷を買いに来る人がいるほどだそうだ。確かに連れて行った盗賊を見せてすぐに健康状態などを見抜いていたし、猫むすめのほかにも何人か手伝いのメイドや執事っぽい人も見かけた。奴隷の相場はわからないが、オレはこの世界の知識があまりないので一人ぐらい購入しいろいろ教えてもらうのもいいかもしれない。
今日は街の散策をしたいと思う。宿を出て街の大通り沿いを歩く。もう日が上がって結構経っているため人々が忙しく行き来している。馬車が通ったり、リヤカーのような台車を引いている人もいる。活気のある街なのでいろいろと見ていて飽きない。
ふらふら歩いていると小さな子供がぶつかってきた。
「あっごめんなさい」
・・・今のことどもスリだな。田舎者なオレは知らない土地に行くときは財布には少ししかお金を入れず、大金は取り出しずらいところに別に分けて置いておく慎重なタイプだ。今回もそれが功をそうしたようだ。ローブのポケットに入れていた10バルコインが何枚かなくなっている。
すぐさま声をかけたいが、今ここで追いかけても人ごみに紛れて逃げられてしまうため、見失わないよう後をつけていった。すると西側地区の貧困層が住む地区に入っていく。そして路地の一角にほかの子供たちも集まっており、そこの中に入っていった。
「ちゃんと持ってきただろうな?」
「わかってるよ。この金を渡せば昨日俺から奪った母ちゃんの形見を返してくれるんだろ!!金は持ってきたから早く返してくれ」
「うるさいやつだな。まずは金を渡しな」
「これでいいだろ」
さっきスリをした子供が、体が大きな子供に金を渡している。明らかにカツアゲだよな。どうしたもんか。
「約束通りといきたいが、昨日の時点で30バル持って来いって言ったが、一日伸びたから40バル必要だ。もう10バル持て来れば返してやる」
「約束と違うじゃないか!もう俺はスリはやりたくないんだよ。母ちゃんに正直に生きるように言われたからもうやりたくないんだ。荷物運びとか小間使いをして金稼ぎたいんだよ」
うん。その方がいいと思う。ここで1つ思いついた。子供に街を案内してもらいながらいろいろ説明してもらって知識を得ることもできるな・・・。うん、いいかもしれない。1つ芝居をしてみるか。
「おい。ちょっといいか」
少しドスの聞いた低い声で声をかけてみる。
「なっなんだてめぇ」
体の大きなガキがおびえた様子で話しかけてくる。
「いやね、ちょっとそこで子供に小銭をスラれちゃってね。この中に盗んだやつがいないかと思ってね。まさかオレの金持ってないよな」
「そんなん、しっしらなねーよ」
「ん?手に持ってるのはなんだ?コインじゃないか。丁度オレが盗まれたのも30バルなんだよな。どういうわけだ?それは俺のじゃないのか?」
「これは俺のだ。お前の物って証拠でもあるんかよ!」
「いやぁ。証拠はない。だが、それがお前の金だって証拠はあるのか?」
「そっそんなもん、オレが持ってた金だから俺の金だ!」
「そうかそれは悪かったな。なぁそこのガキ、本当にあれはあいつの金なのか?知ってることを話してくれれば数日間は荷物持ちに雇ってやるぞ。何か知らないか?」
「それは・・・」
「正直に生きたほうがまっとうな人生を歩めると思うがね」
「・・・オレがさっきあんたにぶつかったときに盗った金だよ。そいつに脅されて・・・母ちゃんの形見を返してもらうためにどうしようもなかったんだ」
「そうか。正直に話したことは評価するが、金を奪ったことは事実だ。ちゃんと盗んだ金の分はただ働きで返してもらうぞ。」
「わかったよ・・・。オレはもうこんなことしたくないんだよ。助けてくれよ」
「よし、それじゃあとりあえずそっちに行ってろ。こいつらにお仕置きしてやる」
なんかすごい悪役になってきた。子供に本気になるわけじゃないが、今のうちにちゃんと正しい道に進むようにしないと本当にダメな大人になってしまう。
とりあえずげんこつだな。子供たちの足元に神秘の力を流し土を操作して足を覆うようにして固める。
実は街に着くまでの間、夜一人の時はマテルの色々な練習をしていたのだが、神秘の力を使っているときに土の中に流すといろいろな形に変化させることができた。初めは丸や四角の形を作っていたが、何度も試行錯誤をしてプラモデルのガ〇ダムのようなものまで作れるようになった。
土だけというわけではなく、基本的にはどんなマテルもイメージ次第でいろいろな現象や効果を発揮することが分かった。妄想族になれるな。
話がそれたが、今回は土を使いガキどもの足を固めて動けなくした。ゆっくりと1歩1歩近づいていき、1人ずつげんこつをする。
「ガキのくせにいっちょ前にカツアゲなんかしてるんじゃない。手伝いだの荷物運びだのして金を稼げ!人に悪いことをしたら最終的に自分に返ってくるってことを学べ。今からでも遅くない、まっとうに生きろ!その金はお前たちにやる。飯でも食って気持ちを新たにして明日から生きろ!それにあいつの形見は返してもらうぞ!以上」
でかいガキから形見の品を取り返してから、マテルを解除し路地から立ち去った。
するとすぐ後ろにスリをしたガキが小走りについてきた。
「なぁあんたマテル使いなんだな。すげーな。でもありがとな。初めはただ働きでいいから雇ってくれよ」
「わかってるよ。ほら、形見の品だろ大事にしろよ。オレは行商人のユウ、今日からお前を雇ってやる。ただ、今日から7日間だ。それだけ働けば盗んだ金を返して給料もらえるぐらいになるだろう。後は自分で努力しな。」
「おれはタタ。形見の品を取り返してもらったんだ、頑張って働くからな!」
「じゃあタタ、まずは今日はこの街について教えてくれ。散策しながらいろいろ知ってる情報を教えてくれ」
「おう!じゃあユウさん案内ずるぜ!」
それから1週間いろいろと案内してもらった。やはり知識が乏しいので知っている人がいるのはかなり助かる。細かいことまでいろいろときいたので、一般常識としては問題ないだろう。
この世界ではお金はすべてコインだ。
鉛=1バル(100円)
少し大きい鉛=10バル(1000円)
銅=100バル(1万円)
銀貨=1000バル(10万円)
金貨=10000バル(100万円)
1バル以下の場合は物々交換の場合もある。物を購入する場合は多少値引き交渉ができるが安いものはあまり安くなならないようだ。底値で売っているのであまり利益がないのだろう。
1週間の間に街で服を購入した。スーツを補強してローブを上から羽織っていたが、さすがに暑くなった時にローブを脱ぐと目立ってしまう。パンツやシャツは村でも購入したが、今回は洋服を購入した。麻でできたズボンと上着だ。
パッと見は某ド〇ゴンがクエストするゲームのト〇ネコが着ていた服に似ている感じだが、オレは一応行商人だしいい感じだ。その際、タタにも同じような服を購入してやった。値段は2着で100バルだが、これは雇い主の希望ということで納得させ買ってやった。
タタとはいろいろ教えてもらう代わりに朝飯は街中の屋台で安いところを見つけては一緒に食べ、夜も5バルを渡して自分で食べるようにさせた。そして荷物持ちをさせながらどのようなことが、この街で今できる仕事なのか一緒にいて回った。
簡単にできるのは荷物持ちだが、それではあまりいい稼ぎにはならない。そのため、他の町から来た人間に案内をしたり、お勧めの店を教えたり案内をする観光ガイドのようなものは結構いいのではないかと教えてみた。そして仕事がないときは簡単な手伝い仕事を請け負う何でも屋のような仕事だ。
「そんな仕事聞いたことないけど、旅人も多いから稼ぎになるかもしれないな」
初めは自分でやってみて、うまくいきそうならほかの子供の誘って組織を作ることをアドバイスして1週間が過ぎていった。本人も今回のオレの案内でいろいろ学んだようだ。
「それじゃあ、今日で契約解除だ。また必要な時は声をかける。ありがとうな。これは給料だ。盗んだ30バルは引いてある。後は今後の餞別として少し色を付けておいた。遠慮しないで受け取れ」
「1,2,3、4,5・・・こんなに貰っていいのかよ。・・・ユウさんありがとう。オレ頑張るよ。何かあったら遠慮しないで言ってくれよ。絶対手伝うからさ」
今回オレとしてもだいぶ収穫があったので色を付けて銅コイン5枚、500バルを給料として渡してやった。荷物持ちとしてはかなり高額だが、これで当分は生活できるだろう。
「それじゃあな」
かっこよくきびすを返し歩いて行ったが、オレは泣きそうにだった。だって子供とはいえ初めて仲間のような存在だったからさ。ああそうさ!寂しいさ!!こんなに寂しがり屋だったとは知らなかった。まぁとりあえず自分の知りたいことはある程度分かったから次は地下の廃墟に行きたいな。
数年後、ある程度大きな町に街案内と簡単な雑用業務を請け負う「ガイド屋」が次々と作られた。社長は小さいとき親を亡くしたスラムの子供だったらしいのだが・・・それはまた別の話である。