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朽葉色の髪の少女…④

造物主の聖域クリエーターズ・サンクチュアリ‼」

 セフィールの口から、魔法の発動を宣言するキーワードが放たれる。


 その場にいたほぼ全員が、自分の目を疑った……。光の色が変わった……。空気の匂いが変わった……。そして、空間そのものが変わった……。はっきりと表現できないが、何かが全く異質な状態に変化したのは解かった。そして、変化が起きた……。


 突然……。倒れた……。


 全く訳が分からない。

 『武装メイド』達全員が一斉に……止まって……倒れた。瞬間的に『機能停止』して、体勢の悪かったものが、倒れた……。そんな感じである。

「何だ、何だ?一体何が起こった⁇」理解を超えて立ち尽くすバリオス。しかし、皆同じようなものだった、誰もが訳が分からないという顔。ただ、セフィールだけが平然としていた。

 逆に最も狼狽えていたのは『人形遣い』である。ただ、玉座に座って高みの見物をしていた筈が、突然自分の兵隊が全て止まってしまったのだから……。言葉も無く、ただキョロキョロとあたりを見回すばかり。

「皆さんご安心を、ここから半径2㎞の領域に居る特定モンスター『メイド型フレッシュゴーレム』の機能を一時停止させただけですから。」セフィールは四人の仲間に軽く笑顔で説明する。死体などの生物由来有機物……つまり(フレッシュ)を原料として製造されたゴーレム……それが、フレッシュゴーレムである。その説明が正しければ、『武装メイド』達は全て生物ではなく、『フランケンシュタイン』のような、人間を原料として造られた擬似生物だった……ということになる。

「まさか……あの『武装メイド』達が『フレッシュゴーレム』?……在り得ない‼あの動きは、生物のもの……あれが……ゴーレム?」バリオスは常識的には在り得ない『メイド』達の動きに、果てしなく驚いている様子だ。『お前は其処に注目するのか⁈』……というツッコミをぐぐっと、飲み込んで、ナージュは問い掛ける。

「そんな、広範囲の特定のモンスターの動きを止めるなどという魔法……聞いたこともない……一体、貴女は……。」

「またあとで、ゆっくり説明します……それより、『人形遣い』の捕縛が優先されるのでは?」セフィールが示す先で、我に返った『人形遣い』が、玉座の間から逃げ出そうと移動を開始していた。

「コイツ逃がすか‼」漸く我に返ったジャックが『人形遣い』を追いかける。ジャックは妹のことで散々コケにされた恨みからか、いきなり『人形遣い』に殴りかかるが、呆気無くカウンターパンチを食らってダウンしてしまう。魔法職だからと油断していたが、意外と身体能力が高い様子。わずかに遅れて追いついた剣士……グリーンの剣と、僧侶……ナージュの錫杖が攻撃を繰り出すが、予想に反して『人形遣い』は杖一本で、それを軽くあしらう。

「『人形遣い』は通常の『ヒト』ではありません……最上位種族の『始祖』で『魔法使い』の上位クラス『魔導師』です。身体能力も通常の戦士よりも余程か優れています。気をつけて下さい。」

 解説するセフィール。しかし、彼女に目をやったものは、次の瞬間に起こった彼女の変貌に驚いた。


 朽葉色だったその髪は、右半分が象牙色へ、左半分が黒檀色へとそれぞれ変化し、鈍色だったその瞳の色も、右は深紅、左は翡翠色に染め上げられる……いつの間に変貌したのか……まるでそれまで交じり合っていた彼女の色彩がくっきりと左右に分離したかのようにも……。より鮮やかに、より鮮明に……。そして、彼女の装いも色彩を変える。苔色の革鎧は、艶を持った烏黒のレザーアーマーに、鶯色のマントは漆黒のそれに、そしてマントの裏地は深紅。いつの間にか衣装のデザインも変わりより装飾過剰気味ながら洗練されたモノへと変化している。

 そして、異形と化した彼女は、自らが立っていた場所から、全く助走も予備動作もなく、突然跳んだ……。『人形遣い』の座って居た玉座の位置までの10メートルはあろうかという距離を、軽く足を踏み出すように跳躍する……。玉座の背もたれの上……一瞬で『人形遣い』を見下ろす位置に……羽毛のように軽く降り立ったセフィールは、何処からか取り出した漆黒の棒で『人形遣い』を軽く殴り倒した。『人形遣い』は派手に吹っ飛んで、数メートル離れた位置に叩き付けられて、這い(つくば)ることとなる。


 セフィールは玉座の背に立った姿勢のまま、その杖を軽く持ち上げ、その杖先で足元の玉座をトンと叩く。

「既に、この周囲の空間は閉じられました、貴方に逃げ場所はありません。」そのヘテロクロミアの眼で睥睨し、眼光だけで『人形遣い』を威圧する。怯えた長髪の男が懐から『魔晶石』を取り出して作動させようとするが、それは不発に終わる……うろたえて、他にも幾つかのアイテムを使うが、うまく機能しないようだった。

「残念ですが、ここでは、『アイテム』も『スキル』も使えません。」

 にこりと、天使のような笑顔で付け加える。

「そして、この空間では、魔法を使えるのは……私だけ。ここでは、私だけが魔法を使えます……。」

「あ・貴女は、何者でェ~すかァ?」人を喰ったような『人形遣い』の口調が、滑稽かつ哀れに響く……。

「セフィール・ラヴィアン……冒険者ギルドと魔法ギルドに所属する、SSSクラスの特務調査員です……」そして、彼女自身がクスリと憫笑する。「でも、貴方が知りたいのは、……そんな表向きのことじゃないんですよねェ~。……北村将人くん……。」その言葉を聞いた途端『人形遣い』の顔が引きつる。

「お前も、プレイヤーか?」『人形遣い』のキャラ作りも忘れて、北村将人の口調で問いかける長髪の魔法使い……。

「その喋り方が貴方の『地』ですね、こちらも疲れるので、今後その口調で喋って頂けますか?……あ、そうそう、私のことをプレイヤーか?と、問う質問の答えですが……『ノー』です。」

「じゃ……どうして、向こうの名前を……。」

「プレイヤーではなく……私は『エニグマ・スタッフ社』の者です。」

「『運営』⁈」

 『人形遣い』の遠くなってしまった記憶の中で、とあるゲームのスタートアップ時の画面に表示されていた『エニグマ・スタッフ社』のロゴが通りすぎてゆく。


「そう、『あの事件』……に巻き込まれ、実体ある異世界と化したゲーム世界の住人となったのは、何も、あなた方だけに限った事ではありません。」そこで、営業スマイルを浮かべるセフィール……「私共も、不本意に、全く意図せずにこの世界の住人にされてしまい、自力で脱出不能であることは、貴方方と何ら変わりありません……とは言え、私共には、もともとのゲームの制作・運営・管理会社として、この世界の創造の一端を担った責任があります。また、プレイヤーの方々に出来るだけ快適にプレイを続けて戴けるように、ある程度は管理していく義務があると思っております。……そこで、他のプレイヤーの方々やNPCの方々に強いストレスを与える、行き過ぎたプレイングスタイルの方々とは、その都度、面談・指導を行なっている訳です。」

「オレのやったことの何が悪いんだよ‼可愛い女の子集めてハーレム作ろうとしただけじゃないか‼男だったら誰しも持つ欲望さ‼VRMMOの世界でプレイしていたら、そのままファンタジー内世界にトリップしちまった、ついでに、ゲームの中の『能力』も手に入れられた、チョ~ラッキーって感じでさ、ちょっと可愛い子をその『素材』に使っただけだよ‼」

「ここは、ファンタジー的な世界ですが、ちゃんとNPCの方々も血肉を持った人間なんです。アナタや私がかつてそうだったように、……まして、一般プレイヤーの方は我々と同じ境遇の者達なのです。貴方は、相手の方の身になって考えたことがおありですか?」

「それが、どうした‼お前らにオレの気持ちの何がわかる……向こうでは不細工でトロくて……『キモ男』『キモ男』と呼ばれ、女の子にモテないまま三〇歳を迎え、『童帝』とか、開き直っていたけど……やっぱり、女の子にちやほやされたかったんだよ、女なんか信用出来ない……だけど、優しくされたい……なら、邪悪な自我を奪ってしまえばいい、優しくなるようにプログラムしてしまえばいい……そう考えたオレの何処が間違っている。オレは自分の本能に忠実に生きただけなんだよ‼……そのために自分に与えられた力を使った‼そのことの……何が悪い‼」

「別に、良い悪いを論じているのではありません……ただ、迷惑だ……と、申し上げているのです。」

 セフィールはすっ……と、音もなく跳躍し、『人形遣い』の傍らに降り立った。

「迷惑なので、対応させて頂きます。」

 彼女がその杖を振り上げると、虹のごとく、プリズムのごとく光の踊る空間が、更に変化する。セフィールと『人形遣い』を中心にしてその周囲に巨大な光の柱が立ち上がる……三本の光の柱が……。


 眩いばかりの光が少し和らいだ時……其処には巨大な三つの姿が浮かび上がっていた。その姿は巨大で……ホログラフのよう、その体は僅かに透光性を有しており、実体ではないと推測できる。一人は黄金に輝く竜頭の巨人。今一人はオーロラのような不思議な色彩を放つ長い髪……幻惑する色彩を帯びたドレスを身に纏うエルフの美女。最後の一人は無縫の衣を羽織った、白い蓬髪の男。その姿は映像に過ぎないが、その一人ひとりが並々ならぬ力の持ち主であることは、その映像だけで十分に推測し得る。

「セフィール・ラヴィアンの権限において、『四役会議』を開催することを提案する。」セフィールが琅琅とした声で彼等に呼びかける。「議題は『人形遣い』ことプレイヤー『北村将人』氏の処分について。」

「承知した。」と、竜頭の巨人。

「いいわよ。」と、エルフの美女。

「同意。」と、蓬髪の男。

「『人形遣い』ことプレイヤー『北村将人』は、星暦2253年から5年間に亘って、ロール地方に拠点を置きNPCの成人女性234人、未成年女性751人、プレイヤーの女性2人を略取し、殺害した上で、メイド型のフレッシュゴーレム製造の為の『素体』とした。メイド型のフレッシュゴーレムは戦闘用、奴隷的使役用および性欲処理用に用いたと思われる。」セフィールは三人に向かって話しかける。「更なる詳細は、今からデーター化して転送する。」彼女が懐から何かのカードのようなものを取り出して操作すると、映像の三人の手元にも同様なものが出現し、三人はそれを見て仕切りに頷く……。

「セフィールは彼に対し、規約に基づき、5型のペナルティーを課すことを提案する。票決は如何に⁈」

「妥当だろう。」竜頭の巨人は呟く。

「もう少し処分はきつくてもいいかなーと思うけど、ま、仕方ないわね……」エルフの美女は、少し不平顔ながら同意する。

「条件付きながら賛成としよう……。」蓬髪の男は唸るように言葉を選ぶ。

「当然、再犯に対する対策は考慮します。このセフィールにお任せいただけませんか?」

「任せる。」竜頭の巨人……『真皇帝・グレンダール』は同意する。

「任せるわ。」古代神エルフ……『世界樹の貴婦人・ラーニア』も同意した。

「一任する。」伝説の拳仙……『黄賢』の許可も得られた。

「同意に感謝します。これより、セフィール・ラヴィアンは『四役会議』の権限によって、『人形遣い』こと『北村将人』の処分を開始いたします。」

 三人の映像に一礼してから、セフィールはその杖を振り上げる。映像の中の三人も同様にそれぞれの映像の中でその杖を振り上げた。……その時。

「チョット、待てよ‼」『人形遣い』が立ち上がる。「何、好き勝手なこと言ってんだよ‼警察でもないお前らになんで、そんな処分とやらが許されるんだよ。」

 彼はセフィールを睨みつける。

「プレイヤーにはプレイヤーに保証された自由ってもんがあるだろう、勝手に客にてぇ上げてんじゃねぇぞ、コラァ‼」完全に三下の屁理屈……。

「第一に、人に気持ち悪がられ、疎ましがられる人間の気持ちがお前に分かるものか‼」『人形遣い』はセフィールに掴みかかろうとするが、セフィールの手が素早く動いて、『人形遣い』の頬に高い音を立てさせた。再び豪快に吹っ飛んで床に叩きつけられる『人形遣い』……。

「それでも、随分手加減しているのです。」きつい視線のレーザーで『人形遣い』を焼き殺すかのごとく睨みつける。

「第一、不細工でモテなかったのではないでしょう……『人形遣い』になって、究極の美男子、イケメンになって……こちらでモテましたか?……かえってモテなかったんじゃないですか?」

「クッ……‼」

「どうしてか分かりますか⁈」

「ど、どうしてだよ……。」

「貴方が自分で自分を嫌いだからです……極めつけに低い自己評価……自分ですら好きになれない男を、何処の女が好きになりますか、もしなったとしても……それは、憐れみからです。そんな、施しやボランティアのような、同情ほど惨めなものはありません……そして、それを受けて、更に、貴方は貴方を嫌いになる……。」

「ウルサイ‼セッキョーなんてもうタクサンなんだよ‼オレはもうこのオレなんだよ、今更聖人君子なんかやってられるか‼」

 自暴自棄にキレるが、その言葉は痛々しい……。

「第一‼お前らに何の権利があって、オレの自由を邪魔するんだよ‼え・何の権利があるんだよ‼日本国憲法かよ‼残念ながら、ここは、日本じゃないぜ‼弱肉強食の無法地帯のファンタジーワールドだぁ‼」

「貴方を縛るのは、当社のゲームの利用規約です。」

「え?」虚を突かれて『人形遣い』は黙りこむ。

「貴方が最初にユーザー登録するときに、利用規約に眼を通して、最後に(☐同意する)にチェック(☑同意する)を入れなければ、アカウントは取得できないはずですから。……利用規約には『第三条十三項、乙は、他の利用者に対し甚だしい損害を与えし時は、乙のゲーム内での乙の権利に対し自由に制限・干渉することが出来る。』とあります。……ここは、ゲームの世界から発生した異世界ですからね……当然ゲーム世界の延長と考えて差し支えありませんから。これが適応されるわけです。」

「……」

「もし、当社の判断・処分に異義がある場合は……弁護士を立てて『東京地方裁判所』に申し立てて下さいな。」

「そ、それは無理……さ、詐欺……。」

「これ以上の論議は時間の無駄です……大人しく『処分』を受けなさい。」

 こんどこそ、セフィールが振り上げた杖は力を放ち始める。……その歪な空間の中に、凄まじい量の光子の奔流が溢れ出す。セフィールも、人形遣いも、巨大ホログラフの三人も、光りに包まれる、『黎明の探索者』の面々も、そして……倒れている『武装メイド』達も……暴力的なまでに力強い光の抱擁にその身を委ねた。

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