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朽葉色の髪の少女…③

 そこは、元々は領主の玉座の間だったのだろう、正面少し小高くなったところに、舞台の様なちょっとした段があり、その中央に重厚な作りの玉座が置かれている……。其処に、『彼』は居た……。豪華な黄金の髪を長く伸ばし、マリンブルーの瞳を持つ、白皙の貴公子、怪しげな美貌の魔法使い……。


『人形遣い‼』


 彼は眠ってなどいなかった、笑顔で、……拍手し始める。

 パチ・パチ・パチ……と、ゆっくり。優雅な仕草で。


「エークセレント‼実に見事な手並みでぇ~ス……。流石……『黎明の探索者』……噂に違わぬ凄腕……感心しましたぁ。」

 椅子から立ち上がりもせず、上機嫌な声……少し上気した表情で……喜んで手を叩いている。彼の両横には……ひときわ美しいメイド達が、空虚な笑みを浮かべて控える。『人形遣い』のお気に入りだろう。

「いや~城壁を超えた辺りからぁ、『魔法の鏡』を使って見物させて頂いましたぁ……実に見事、実に素晴らしい手際っ……ファロールの騎士団を壊滅させた『メイド』達をぉ、あれほど、一方的に制圧するなんて……お陰で、今後の警備計画の見直しが出来て助かりましたぁ。」饒舌な『人形遣い』……彼は傍らの美しいメイドを一人抱き寄せて、口付けし、その頬をねっとりと舐める……。メイドは魔法使いにその美しい顔を為すが儘にさせ、更にその身を委ねる……。満面の笑顔を浮かべている筈の彼女の表情は……なぜか無機質な人形のそれを連想させる……。

「ジェーン‼」……叫んだのは、ジャック……。

「オレだ‼ジャックだ‼助けに来たぞ‼お前を助けに来たぞ‼」玉座に向かって駆け出すジャックを、グリーンが制止する。

「これまでが、茶番だったようだ……ここにいる奴らには隙がない……。儂等はどうやら、ハメられたようだ……。よく見ろ……左右にもかなり隠れている……。撤退した方がいい。」珍しく口数の多く意見するグリーン……あの早業の剣豪をして思い止ませるオーラが、確かに武装メイド達からは発せられている。

「オレだ‼ジェーン‼分からないのか、お前の兄貴のジャックだ‼正気に戻ってくれ‼」だが、今のジャックは、妹の姿を見て平常心を失った、ただの兄ちゃんである。ナージュが必死で走りだそうとする彼を抑えつけるが、ジャックには状況がちゃんと理解できているかどうか……。

「ねえ、あの、ジャックとやらに言ってあげては如何ですかぁ?、今の君が何者なのかぁ……。」蛇のような笑みを浮かべる『人形遣い』に促されて、メイド姿の美女は口を開く。

「はい、私の名はクリスティーネです。ご主人様の忠実なる下僕……全てをご主人様に捧げた忠実なるメイドです。」無機質な……それでも美しい笑顔でメイドは答える。美しく優しげな声で……しかし、其処に人の感情の温もりは感じられない。

「ジェーンとは……一体……誰ですカァ?」意地悪気な口調でメイドに質問する『人形遣い』。

「はい、以前この体を使っていた下等な人間の魂です。この肉体にまだこびりついている記憶に、そうあります。」

「で、その魂はどうなったのかなぁ?」『人形遣い』は聞えよがしに更に問いかける……。

「はい、クリスティーネが処理して、エネルギー源にしちゃいました……つまり、食べちゃいました。」にまーっと笑うメイド……元来美しいその顔が、(おぞ)ましく歪む。

「き、貴様ァ‼」ナージュの腕を振りほどいて『人形遣い』目掛けて飛び出すジャック……しかし、両脇から光陰のごとく飛び出てきた影によって、簡単に叩きのめされる。剣を抜いた武装メイド達、だが、彼女らがジャックに止めを刺す前にグリーンとナージャが割って入ってその斬撃を払いのけ、間一髪ジャックを回収する。


 眼鏡の魔法使いバリオスは既に次のアクション、攻撃呪文の詠唱に入っている。術は広範囲『極冷凍結波アルティメット・フリーザー』これは、氷系呪文で最大の威力を誇る。本来は通常詠唱だけで一〇分程掛かる大呪文を、『呪文短縮』と『高速詠唱』を掛けあわせて一〇秒ほどで完成させる。魔力(マナ)を多少余分に消費するが、速度を重視して高速展開する。

「『極冷凍結波アルティメット・フリーザー』‼」バリオスが呪文発動のキーワードを口にすると、呪印で描かれた構造式に魔力が流れ、術が起動する……。極低温の猛吹雪が前方の『人形遣い』を中心として吹き荒れる。一瞬、……一同は微かに勝利をイメージする。


 ……が、現実はそう甘くはなかった。


「なんですかぁ?その、ヌルい術はぁ……。」吹雪が収まり視界が晴れた状態になった時……玉座から微動だにしていなかった『人形遣い』が嘲笑するように言い放った。しかも、彼の左右の武装メイド達も術の影響を全く受けていない風である。「そんな技では、ちゃんと『戦闘モード』になって、全属性に対して耐性マックスになった、私のぉ可愛い『武装メイド』達には痛くも痒くもないでぇ~ス。」

「馬鹿な……。」バリオスがギリギリと奥歯を噛み締める音が聞こえる。

「ではぁ……今度は、こちらの番でぇ~ス‼」『人形遣い』は高らかに宣言する。彼がその指を鳴らすと、高い音がホールに響き渡り、先ほど一行が中に侵入した入り口が独りでに閉じられる……退路は断たれた。

 高らかな笑いとともに『人形遣い』の声が響き渡る。

「まずはぁ『武装メイド隊』自慢のぉ、『剣の舞』からぁ‼」

 彼の左右に控える六人のメイド達に動きがあった。美しく端正ながらも……無表情に近い曖昧な微笑みを浮かべていた彼女達が、急に満面の笑顔になり、その腰のサーベルを一度に抜く……。完全に一致したタイミングで……。人間の娘を『素体』にしているはずなのに、人間を完全に超越した動き、跳躍力・反射速度・関節可動性……で、一気に迫り来る。優美ながら、どこか機械的に機敏な動きで、サーベルを振りかざす六体は、階下で出会ったメイド達とはまるで別次元の動き。超一流の剣士であるグリーンですら、三人のメイドを同時に相手にしてやや押され気味に見える。虚脱状態のジャックと、もとから格闘戦を放棄しているバリオスを庇っての、ナージュの意外な働き……刃物を携帯しない彼の獲物は、長い錫杖、フレイルにもなるその錫杖を自在に使って、変幻自在の武装メイドとほぼ互角に戦っている。バリオスはメイド達の高い魔法抵抗性から、攻撃呪文の使用を放棄して、支援型の味方強化呪文に方針転換したようである。『身体強化』『防御力強化』など、幾つもの呪文を唱えて、呪印を結び続け様に放つ。……そして、後の二人は、セフィールが受け持つ事になったようである。彼女は腰から抜いた黒い大きなバトルナイフで、二人の武装メイドの攻撃に対応する。一見、威力の弱い流れるような動きながら、油断ならない二人の武装メイドの剣戟を軽く受け流し切る技の冴え……。人形趣味の長髪の魔法使いはその動きに小さく感心する。


「ナカナカやりますねェ……お嬢サン……。」玉座の上から、うっとおしい長髪を掻き上げながら勝負の行方を愉しむ『人形遣い』……彼の興味はセフィールに移ったようだ。「貴女はぁ……『黎明の探索者』のメンバーではない筈でぇ~ス。一体、何者ですかぁ?」

 人形遣いはその端正な顔に、見る者に悪寒を走らせる弑逆的な笑みを浮かべ、言葉を繋ぐ。

「実はァ~もし貴女が居なければァ……さっさと片付けてしまうつもりだったのですがァ……貴女を見てェ~気が変わったのでぇ~ス‼」

 欲望を(たぎ)らせた賤しい目付き……で、生唾を飲む音が聞こえてきそうな言葉を発する。

「貴女を生かしたまま捉えてェ……ハァ・ハァ・ハァ……栄えある私のメイド隊の一員にして差し上げましょ~うぅぅぅ……。」明らかに、妄想で欲情している魔法使いに吐き気を覚えたが、残念ながら現時点では、その口を直接黙らせる手段は無かった。


()せ返るほど・熱心な勧誘・誠に恐れ入りますが……謹んで、お断りいたします。」取り敢えず、冷たく言い放つ。……そして、武装メイドと、バトルナイフで切り結びながら、何やら呪文を唱え始める。セフィールが相手する武装メイドの一人は、美しい金髪とマリンブルーの瞳が印象的で、彼女は自らの『マスター』そっくりの、狂気じみた笑みを浮かべながら鋭くサーベルで切り込んでくるが、彼女と刃を交えながらも、セフィールは全く呪文詠唱の集中力を途切れさせない……。

「セフィール殿‼貴女が相手しているのが、ファロールの姫君です。出来れば怪我させないように……」比較的近くに居るナージュが小声で囁く。現状では、はっきり言って精神集中の邪魔以外の何者でもなかったが、貴重な情報だ……。セフィールは取り敢えず頷いて意思表示しつつ、呪文を続ける。因みにナージュ自身は、先程のクリスティーネと名乗ったメイドに対応している。クリスティーネの『素体』はジャックの妹とあって、ナージュも、とても戦いにくそうである。横目で全体の戦局を把握・判断しながら……『高速詠唱』・『呪文短縮』・『呪文圧縮』を駆使して、僅かな時間で組み上げていく。


「さ~すが、『黎明の探索者』よくぞぉ、私の可愛い武装メイド達の猛攻に耐えていますねェ~。もーっとぉ、一瞬で蹴りがつくかと思いましたがァ~……意外にしぶといでぇ~ス。でも、そろそろ……飽きましたァ……フィニッシュにしましょ~う‼さあ、私の可愛いメイド達よォ……ここに居る全員で掛かりなさ~イ。」攻撃を六人だけに任せて、『人形遣い』の両脇で微動だにせずに控えていた残りのメイド達が、主の声一つで一斉に電源の入ったロボットのように動き始めた。「そしてぇ……その娘を私の前に跪かせるのでぇ~ス。」そして、彼女等がセフィールたちの方に殺到する。押し寄せる波濤の如く……。寄せ来る雷雲の如く……。

 それまで、辛うじて保たれていた均衡が、崩壊する一瞬である。……新規に投入された武装メイド達はおよそ百体……サーベルを持つ者、槍を持つ者、そして魔法使いの杖を持つ者……それぞれが、一斉に『黎明の探索者』+セフィールに向かって、攻撃を開始する。間合いを詰めてくるもの、呪文詠唱を始める者……。

「神よ‼」ロザリオを握りしめ呟くナージュ。

()んぬる(かな)……。」口を一文字に覚悟を決めるグリーン。

「クソッ、何かまだ方法がるはずだ、何か‼」必死に頭を回転させようとするバリオス。

「ジェーン……。」呆けたままのジャック。


造物主の聖域クリエーターズ・サンクチュアリ‼」

 セフィールの口から、魔法の発動を宣言するキーワードが放たれる。

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