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井上達也 短編集3(それでも彼はまだ書いてる)

夏の擬態

作者: 井上達也

 季節は夏。世間は夏休み真っ最中であり、どこもかしこも、レジャーだレジャーだと騒いでいる。なにが、レジャーだ。そんなことを思っていたら、炊飯ジャーがピピッとなった。どうやら、ごはんが炊けたようだ。母さんが、ごはんよーと俺を呼んだ。



「いただきまーす」

 テレビでは、専ら気温の話で持ち切りだった。そんな気温の話よりも、俺はこないだビックラブがどうとかいったタレントの結婚話の方が気になっていたのだが、どこのチャンネルをつけても怖いくらいに気温の話しかしない。地球温暖化、南極の雪が溶けて、シロクマさんたちが大変よ、と溶けゆく流氷に必死にしがみついて溺れまいとする子供のシロクマの映像がお茶の間を賑わしていた。ビデオカメラを回すくらいなら、なんとか助けて、日本の動物園にでもつれてきて、お金でも稼がしてやれば良いのに。それに、きっとビデオカメラの撮影を止めた瞬間に、その子供のシロクマはきっとその流氷をビート板代わりにして泳ぎだすに違いない。めざせ、南極大陸横断とか勝手に思っていそうだ。

「ごちそうさまでしたー」



 あの無限ループのような六年間をこなして、俺は今年中学生になった。本当に自分は一生小学生なんじゃないかと思うくらい六年間は長かった。しかし、中学生になっても小学校の目と鼻の先にある中学に通っている。そして、小学校に一緒に通っていた奴らは大半同じ中学に居た。七年目が始まったような気がした。

「ヨウ、今日はたしかトムくんとプールに行くんでしょ」

 母さんは俺に聞いてきた。

「ああ……そうだよ。うん」

 正直、忘れていた。そういえば、プールに行く約束をしてたのだ。

「何時に、待ち合わせ?」

「えっと……あっと……」

 俺は、必死に思い出そうとしてみたが、やっぱり思い出せなかった。実は、約束なんて無かったんじゃないのかと思うくらいだった。

「電話して聞いてきなさい」

 母さんは、飽きれて俺に言った。いや、あきれる理由がよくわからないのだが。



 俺は、トムの携帯に電話をかけた。ツーコールくらいで彼は出た。

「もしもし、トムか?」

 返事がなかった。

「もしもし?もしもーし」

「ぶしゅぶしゅ!!」

 携帯のスピーカーから得体の知れない生物の鳴き声が聞こえてきた。しかし、俺は動揺なんてしなかった。なぜなら、俺はトムの最近の流行を知っていたからだ。

「なんだ。今日は何に擬態してんのさ」

 そう、トムの中では何かの生物を真似するのが彼のマイブームとなっているらしい。正直俺にはその感性がイマイチ理解ができなかったが、彼の中ではそれが楽しいらしい。

「なんでしょー。ヨウちゃん当ててみて」

「えっと……ネコかな」

  俺は恐る恐るなぜだか答えた。

「ぶっぶー!不正解!」

 受話器越しに満足そうな顔をしているヤツの顔が思い浮かび、少しだけ悔しい気持ちになった。

「じゃあなんだよ」

 俺はムキになって聞いた。

「正解は……バッタでした!!へへ」

 わかるかぁ!と携帯を床に叩きつけそうになったのは言うまでもない。

「まぁ、いいや。んで。今日は何時に集合だって。図書館の上のプールに行くんだろ」

「ああ。そういえば、そんな約束していたね。じゃ、14時にいつもの橋のさきっちょで良いんじゃない?」

 トムも忘れていたらしい。なんなら、そのままスルーして今日は家でゲームでもやってればよかったか。暑いから正直外に出たくないのだ。

「わかった。そうしよう。14時に集合な」

「ほいほーい」


 電話を切って、俺は母さんに、アイツも忘れてたよと捨て台詞を吐いて、部屋に戻って準備をした。


 14時になった。俺は、いつもの橋を目指して自転車のペダルを漕いでいた。

 ちゃりんちゃりんと、威勢のいいベルを鳴らしながら、俺は目的の場所に向かった。待ち合わせの橋は、プールのある図書館から近い場所にあった。俺たちが待ち合わせをする時はよく、橋の上で待ち合わせをしていた。ただ、みんなどうしてか橋の上では待ち合わせはしない。橋の上にはベンチだってあるし、決してそこに居座ってはいけないわけではない。しかし、どうしてかみんな橋の上では待たずに、その先で待っている。どうしてなんだろうか。

 俺は、そんなことを考えているうちに、橋の反対側についた。いや、橋の反対側であってもそれは俺からの話であって、人からみたら反対とかそういうことではないのかもしれない。トムは、既に待っていた。どうやら、ギリギリだったようだ。俺は、少しペダルを漕ぐスピードを速めて向かった。

 すると、トムの横から猛スピードで駆け抜けてくる制服の女の子がいた。あれは、たしか近所の高校の制服だった気がした。俺も、いつか高校に進学するのか。いやいや。まだ、中学校すら始まったばかりである。

 と、次の瞬間。目の前にその自転車が居たのだった。俺は、ぼーっとしていたのである。いや、正確には避けようとしたら、同じ方向に避けてしまったともいえる。とにかく、俺はそのスカートが見えようが見えまいが関係無しに猛スピードで漕いでいる女子高生の自転車にぶつかってしまった。

「きゃ」

 さらに、次の瞬間。その女子高生は橋の欄干を飛び越え、高さ5メートル以上はあろうかという橋の下の川へと落ちていったのだ。ばしゃんという盛大な音ともに。

「よ、よ、ヨウちゃん!?」

 トムは、俺のほうへ慌てて、走ってきた。

「だ、大丈夫?」

 正直な所、大丈夫ではなかった。なんだか、腕が痛くて仕方が無かった。手は、折れてはいない気がしたけれど、ねんざは確実にしていると思った。

「まぁ、なんとか。とにかく、さっきの人助けなきゃ」

「そ、そうだね」

 俺たちは、そう言って大慌てで、橋の下に降りていった。



 川の水辺に立って辺りを見回したが、どこにも居なかった。もしかしたら、そのまま川底に頭をぶつけて、亡くなったのかもしれない。幸い、あのときには人の気配はなく、知らぬ顔をで立ち去れば、なんとかなるだろうという悪いことを考えていた。

「ヨウちゃん、居ないね」

 トムは言った。

「ああ。居ない」

 俺は言った。

「死んじゃったのかな」

 トムは言った。

「さぁ」

 俺は言った。

「なぁ、お前、最近の趣味は擬態つってたよな。魚にでも擬態して泳いで探してきてくれよ」

 俺は、続けて言った。

 その時だった。目の前の水辺から、じゃばじゃばと音を立てながら、ずぶぬれの女の子が現れたのだ。

「あーマジ最悪。なんで、川になんかダイブしなきゃなんないのよ」

 生きていた。なんてことだ。生きている。そして、制服がスケスケであった。

「ちょっと、どこ見てんのよ変態」

 よく聞くセリフを俺は、初めて言われてしまった。実際に言われると少し凹んだ。

「あの……大丈夫ですか」

 俺は、恐る恐る聞いた。

「大丈夫そうに見える?これが?」

 質問を質問で返してきた。

「まぁ、体は丈夫そうに見えます」

「なかなか面白いこと言うじゃない」

 彼女は笑った。

「まぁ、いいわ。とりあえず、あんた今日からあたしの奴隷だから。とりあえず、携帯の電話とアドレス教えて」

 俺は、一つ思った。どうしてそうなる。

「不思議そうな顔だね。なんでかって。決まってるじゃない。奴隷として使いたいからよ。丁度今、奴隷がほしかったのよ」

「はぁ」



「これから、火星からくる友達がなんか、途中で木星のヤンキーに絡まれたらしくてさ。仕方ないから土星のおっちゃんに頼んで、人集めてもらってるからさ。それに、あんたも行って、ヤンキーと戦ってきて」

「え?」

 俺は、理解ができなかった。

「あ、ごめんごめん。言ってなかったか。あたし、火星人。地球人に見えるけど、これ擬態だから」



 プールが無性に入りたくなった俺だった。






単なる、思いつきを書いただけでした。

これを広げるのもまた面白いかもしれないですね。

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