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第二章 ただ傍に居るだけで

 次の日の朝。

 姉さんの作った朝ご飯を食べ、姉さんの作ったお弁当を持った僕は、身支度を整えて学校へと出発した。

 先に家を出た姉さんも、僕と同じ学生だ。そんな姉さんに、僕は毎日の三食を準備してもらっている。正直、かなり心苦しい。

 だけど僕の料理スキルは皆無と言っても過言じゃない。だから料理を代わってあげることはできない。何か違うことで穴埋めできればと思うけど……、如何せん、僕に思い付くのは、部屋の掃除と朝のゴミ出しぐらいだ。

 何か姉さんの役に立てることはないだろうか。そんなことをつらつらと考えていると、

 「せんぱーいっ!」

 後ろの方から、底抜けに明るい声が聞こえてきた。声だけでわかる。くるるちゃんだ。

 振り向くと、予想通り。長いツインテールを揺らしながら、明るい笑顔で駆けてくる、くるるちゃんの姿があった。昨日のポニーテールも可愛かったけど、僕的にくるるちゃんはツインテールが一番似合うと思う。

 「あれ?」

 なんかおかしい。いや、髪型じゃなくて。

 いつもなら、僕がくるるちゃんを待ち伏せしている。もちろん、ストーカーする為にだ。でもその時に待ち伏せするポイントは、もう少し先だ。時間だってまだ早い。いつものくるるちゃんなら、この時間に登校していることも、この場所にいることも、どちらもありえない。

 「どうかしましたか?」

 不思議に思う気持ちが顔に出てしまったのか、僕の前まで来たくるるちゃんがそんなことを訊いてきた。

 「いや、なんでくるるちゃんがここに居るのかなあと思って」

 「はい?」

 「いや、だってくるるちゃんの家、こっちの方じゃないよね?」

 「…………」

 重ねて訊ねると、急にくるるちゃんが押し黙ってしまった。僕、なんか変なこと言ったかな?

 しばらく俯いていたくるるちゃんは、やがて決心したように顔を上げた。

 「あの……、昨日も訊こうかと思ったんですけど」

 「ん、なに?」

 「どうしてわたしの家を知ってるんですか?」

 「!」

 ……しまった。

 「家だけじゃないです。名前だって、わたしが言う前から知ってましたよね? 昨日の河原で三年生が呼んでたのを聞いたのかなって思ったんですけど、あの人たちはわたしのことを『くるくる』って呼んでたし……」

 迂闊だった。

 何がストーカー歴十年だ。何が尻尾を掴ませないだ。思いっきり怪しまれてるじゃないか。くそぅ、どうする。

 「どうなんですか?」

 「それは……」

 いつしか詰問口調になっているくるるちゃんを前に、僕は必死で考えた。

 そして、思い付いた。よし、これならいける。

 「実はさ、僕の父親が町内会の防災係してたんだよね」

 これは嘘じゃない。ただし、かなり昔の話だけど。

 「防災係……ですか」

 「そう。それで偶然、この周辺に住んでる人の名簿を見る機会があったんだ」

 自分で言っといてなんだけど、もし本当にそんな物が出回ってたら、個人情報保護とかで問題になってると思う。

 「そこに書いてあったわたしの名前と住所を覚えてたんですね」

 「変わった名前だからね」

 「それって、いつの話ですか?」

 「よ……よく覚えてないけど、最近だよ。つい最近」

 危ない危ない。つい『四年前』って言うところだった。もし四年前にくるるちゃんがこの辺に住んでなかったとしたら、その時点で嘘がバレてしまう。

 「そうだったんですか。すみません、変に疑っちゃって」

 「いやいや、いいよ別に」

 ふぅ、どうやら信じてもらえたらしい。くるるちゃんが素直な子で助かった。

 疑惑がなくなってホッとしたのか、くるるちゃんの顔に笑顔が戻る。

 「実はわたし、昨日助けてもらったタイミングがあまりにもよかったので、ひょっとしたら小熊先輩がストーカーかも知れないなんて、失礼なこと考えてたんです。本当にすみません」

 「ハハハ、くるるちゃんは正直だなア」

 どうしてだろう。明け方だからそれほど暑くないはずなのに、背中が汗をかいている。

 「わたし、ストーカーって許せないんですよね」

 急にくるるちゃんが、真剣な表情になった。僕の身体が強張る。

 「誰でも秘密にしておきたいことってありますよね。それがいいことでも、悪いことでも。ストーカーっていうのは、そんな秘密を覗いてくるんです。全部見られるんです。探偵の人とか、仕事の為にする人は仕方ないと思いますけど、ストーカーは自分の好きでやっていて、それが人に迷惑をかけるとか、全然気にしないんです。ストーカーする人は、ストーカーされる人の気持ちなんてこれっぽっちも考えてないんです」

 くるるちゃんの言葉の一つ一つが、僕の胸に突き刺さる。

 否定したい。反論したい。でもそんなことしたら、僕がストーカーだってことをバラすようなものだ。だから僕は奥歯をぐっと噛み締めて、我慢する。

 そうして代わりに口にしたのは、僕が疑われることのない無難な質問だった。

 「くるるちゃんは、ストーカーされたことがあるの?」

 「はい。小学五年生の時です」

 あまり詳しく話したくなさそうだった。だから僕も、敢えて訊こうとはしない。

 気まずい空気を払拭する為、僕は慎重に言葉を選んで、紡ぐ。

 「僕はストーカーされたことがないから(むしろするほうだし)、話を聞いたとしても、大変だったねとか、可哀相だとか、安っぽい同情の言葉しか掛けてあげられない。けど……でも」

 くるるちゃんの瞳を見つめる。くるるちゃんも僕の目を見ていた。

 「もし今、そのストーカーみたいにくるるちゃんを傷つける奴がいたとしたら、僕がそいつを許さない。くるるちゃんのこと、絶対助ける」

 ピタッと、くるるちゃんが足を止めた。

 「――どうして?」

 てっきり、僕の決めゼリフに赤面すると思ったら、そんな言葉が返ってきた。

 「え? どうしてって……」

 「どうしてそこまでしてくれるんですか? わたしたち、昨日会ったばかりじゃないですか。わたしなんか先輩に何もしてあげてないのに、なんでそこまで……。なんでそんな風に、言ってくれるんですか?」

 くるるちゃんの目が潤む。

 僕はなんて答えたらいいんだろう。まさか『ずっとストーカーしてました』なんて言えない。かと言って、適当なことを言ってごまかせる雰囲気でもない。

 僕はどうして、くるるちゃんを助けたいと思うのか?

 それは……。

 「助けたいから、じゃ、ダメ?」

 「え?」

 そうだ。何もごまかす必要なんかない。本心をそのまま言えばいいんだ。

 「一目見た時から、ただ何となく、くるるちゃんのことを守りたいって思った。理由なんかないし、必要ない。僕が僕で、君が君であるのと同じように……」

 そう、僕がストーカーであるのと同じように。

 

 「僕は僕だから、君が君だから、僕は君を守りたい」

 

 今度こそ、くるるちゃんは赤面した。

 その顔を隠すように、バッと横を向く。

 「お、女の子みんなに、そういうこと言ってるんですか?」

 「そんなわけないじゃないか。くるるちゃんだけだよ」

 「疑わしいです。昨日の今日でそんな歯の浮くような台詞……。う、疑わしいです!」

 「嘘じゃないって。だいたい女の子みんなを守ってたら、身体がいくつあっても足りないよ」

 「そうですけど……」

 何かブツブツ呟きながら、先を歩き出したくるるちゃん。

 こうして直接話してみてわかったけど、どうやらくるるちゃんは、僕が思っていたほど純真じゃないらしい。ちゃんと疑うこともするし、人を恨む気持ちもある。だけど、それがわかったからと言って、僕のくるるちゃんへの愛は少しも変わらない。むしろどんどん膨れ上がっていくのを感じる。

 そしてその分、くるるちゃんを騙していることに対する負い目も、どんどん膨れ上がっていく。

 過去にくるるちゃんを傷つけたのはストーカー。

 そして僕もストーカー。

 僕は、くるるちゃんを傷つけたストーカーとは違う。それはわかっている。だけど、このまま騙し続ければ、僕もくるるちゃんのことを傷つけてしまう日が来るかも知れない。

 くるるちゃんが僕の秘密を知った時、その時、僕が嫌われるだけで済めばいい。だけど多分、それだけじゃ済まないだろう。きっとくるるちゃんの心に、一生消えない傷を残す。そうなれば僕は、くるるちゃんを傷つけたストーカーと変わらない。

 それだけは避けないといけない。でも、いったいどうすれば……。

 「――輩。小熊先輩!」

 名前を呼ばれて、ハッと我に返ると、すぐ近くにくるるちゃんの顔があった。思いがけない距離に、顔が熱くなる。

 「大丈夫ですか? なんだかぼーっとしてましたけど」

 「ああ、うん、大丈夫。何かな?」

 「あの、子猫にご飯をあげてるんですけど」

 「あ、そっか」

 昨日の約束を思い出す。気付けば、もう河原まで来ていた。かなり長い時間考え事をしていたらしい。

 くるるちゃんは、先に出しておいたらしい子魚を、猫に食べさせていた。

 僕は鞄の中から、今朝冷蔵庫から取ってきたキュウリを出した。くるるちゃんの横に並んでしゃがみ、猫にまるごと突き出す。

 それを見たくるるちゃんが、怪訝な顔をした。どうしたんだろう?

 「あの、先輩」

 「なに? くるるちゃん」

 「多分……、猫はキュウリを食べないと思います」

 「え? そうなの? 犬が玉ねぎを食べないとか、そういうのと同じ?」

 「ええと、その……。猫は肉食ですから」

 「……………………あ」

 バカだ、僕。

 「いや、これは、そのっ。僕の朝ご飯だよ! 猫にあげるんじゃなくてさっ」

 「そ、そうですね。キュウリ、おいしいですもんね」

 「う、うん」

 勢いに任せてキュウリを丸かじりする。

 「うっ!?」

 ヘ、ヘタが喉に……。

 「せ、先輩! 大丈夫ですか!?」

 くるるちゃんが慌てて、僕の背中を叩いてくれた。

 「――、――ごふっ、……ふう。ああ、もう大丈夫。ありがとう、くるるちゃん」

 「いえ、どういたしまして……」

 「ふぅ」

 息をついた僕の目線は、何となく手の中のキュウリへと注がれた。それに釣られるように、くるるちゃんもキュウリを見る。

 「……食べる? くるるちゃん」

 「いえ、結構です」

 「だよね……」

 しばし、奇妙な沈黙が訪れる。

 「…………」

 「…………」

 「…………ぷ」

 「ふふ、ふふふ……」

 「ハハ、ハハハハ……」

 何となく、笑ってしまった。大笑いじゃないけど、静かなほのぼのとした笑い。

 「ハハ、バカだな僕は。猫にキュウリを食べさせようとするなんてさ」

 「そうですね。おかしい」

 「あれ? 否定しないんだ」

 優しいくるるちゃんが、僕の自虐に乗っかかってきたのは意外だった。

 「して、欲しかったですか?」

 「ううん、本心で喋ってくれたほうがいい」

 「……ありがとうございます」

 「こちらこそ、ありがとう」

 そうしてまた二人で笑い合う。そんな二人の真ん中で、猫が、みー、と鳴いた。

 「さて、もう行こうか。いつまでもこうしていられないし」

 「そうですね。ばいばい、また夕方ね。猫ちゃん」

 猫の頭を軽く撫でてから、くるるちゃんは立ち上がった。

 僕たちは特に意味のない会話をしながら、河原沿いの土手を歩いた。

 「夕方にあげる分も準備してあるの?」

 「はい、半分残してあります」

 「ふーん。魚?」

 「はい、猫と言えば魚かなあと思って」

 「うん、言われてみればそうだね。肉食ってことは、鶏肉とかも食べるのかな?」

 「食べるらしいですよ。スズメを捕まえて食べたりするって、聞いたことありますから」

 「スズメって、畑とかによく居るあのスズメ?」

 「そうです」

 「あれ食べるのか……。おいしいのかな?」

 「さあ? ネズミよりはおいしそうな気がしますけど」

 「確かに」

 「あ、」

 くるるちゃんが立ち止まった。

 「どうしたの? 忘れ物?」

 「いえ、そういうのじゃなくて……」

 もじもじと言いづらそうにするくるるちゃん。その仕種で、僕はピンときた。

 「あ、もしかしてトイレ?」

 「え?」

 言いにくくてもじもじすることといったら、それしかない。

 「弱ったな。この辺はコンビニもないし、女の子だから外でするわけにもいかないし。こうなったら学校まで走るか。あ、でも振動で漏らしちゃうとまずいな。それじゃ、漏れない程度に走って……」

 「違います!」

 くるるちゃんが急に大声を出した。顔が真っ赤だ。

 「ち、違うの?」

 おそるおそる確認すると、くるるちゃんがこくん、と頷いた。唇を尖らせながら。

 「もう、失礼ですよ、先輩は。もし本当にトイレだったとしても、そんな明け透けに言うなんて。わたし女の子なんですよ?」

 「ああ、ごめん。お花摘みとかの方が良かったかな?」

 「…………。それ以前の問題ですけどね……」

 呆れたような声を出すくるるちゃん。うん、僕がどうしようもない大失敗をしたのは、何となくわかった。

 僕が自分なりに反省点を振り返っていると、くるるちゃんが恥ずかしそうに言葉を継ぎ足した。

 「それに、男の子でも外でトイレしちゃだめです。特にここは、川の近くですから」

 恥ずかしいならそんなこと言わなきゃいいのに。真面目だなあ。

 「そんなにしょっちゅうしてるわけじゃ「たまにでもだめです」

 やっぱり真面目だ。

 「それより、さっき何か言いかけてなかった?」

 「話を逸らそうとしてますね」

 「いや、戻そうとしてるんだけど……」

 「何の話でしたっけ?」

 「忘れちゃったんだ……」

 「冗談です。猫は肉食って話ですよね?」

 「戻し過ぎだ!」

 また、「冗談です」と言って少しはにかむくるるちゃん。あれー? こういう冗談を言うキャラだったっけ?

 気を取り直すように、可愛らしい咳払いを二回してから、くるるちゃんは言った。

 「先輩、お弁当って持ってきました?」

 ……っ! こ、このシチュエーションは……!

 「持ってきてない」

 「嘘つかなくてもいいですよ?」

 「持ってきてない。持ってても、持ってきてない」

 「意味がわからないんですけど……」

 「持ってきてても、早弁するからお昼にはない」

 「ダメですよ、早弁は」

 また叱られた。

 にしても、猫のエサからお弁当を連想するあたり、この子もすごい。

 「あの……、もうわかってるみたいですけど、お弁当作ってきたんです。少しでも恩返しできればと思って」

 言いながらくるるちゃんは、鞄の中から包みを取り出した。女の子らしい包み……かと思ったら、男物のハンカチで包んであった。僕が恥ずかしくないように配慮してくれたんだろう。

 「ありがとう。すっごく嬉しいよ」

 「でも、先輩お弁当持ってきたんですよね?」

 「大丈夫。持って帰って、夕方に食べるよ」

 「そんな……。先輩のお母さんに申し訳ないです」

 「作ってくれたのは姉さんなんだけどね。可愛い子にお弁当作ってもらったって言えば、姉さんも許してくれるよ」

 「うぅ……。可愛いとか、そんな簡単に言わないで下さい……」

 ふふふ、照れてる照れてる。本当に可愛いなあ。

 「それじゃあ、受け取ってもらえますか?」

 「うん、昼休みにね」

 「? 今じゃダメなんですか?」

 「駄目じゃないけど、ついでに昼休み一緒に過ごせたらいいなあと思って」

 「え……。あの……」

 「駄目、かな?」

 「だ、ダメじゃないです。でも、あの……」

 くるるちゃんが次の言葉を言い渋っている間に、学校に到着した。

 「さすがにこの時間だと、人も少ないね」

 いつもはくるるちゃんのストーカーをしながら登校するんだけど、それだとたいがい遅刻ギリギリになる。多分、くるるちゃんが朝に弱いとかじゃなくて、イジメ対策なんだろう。早く登校すると、その分イジメに遭う時間も延びるから。

 「今日くるるちゃんがこんなに早く登校したのは、猫にエサをあげる為?」

 いつまで経っても返事が来ないので、僕は話を変えるつもりで質問した。

 「……え? あ、いえ、そうじゃないです。先輩がいつ登校するのかわからなかったので、早めに家を出て、あのT字路で待ってたんです」

 「でも、会ったところはT字路じゃなかったよね」

 確か、もう少し手前で声をかけられた。

 「はい……。その、待ちきれなくなって、先輩の家を探してた時に、先輩の後ろ姿を見かけたんです」

 「僕の家を探してたって……、もしすれ違いになってたらどうするの?」

 「うぅ……。頭ではわかってたんですけど、居ても立ってもいられなくて」

 恥ずかしそうに縮こまるくるるちゃん。

 「ハハ。義理堅いなあ、くるるちゃんは」

 「え?」

 「いや、そこまで恩返しのお弁当を渡したかったなんて、義理堅いなあって思ったんだよ」

 「お弁当……? いえ、そうじゃなくて……」

 「え? 違うの?」

 「(どうしても先輩に会いたかったんです……)」

 「え? なんて? 聞こえないよ」

 「ご、ごめんなさいっ。なんでもないです。そうです、お弁当を渡したかったんです!」

 「……?」

 なんなんだろう。ごにょごにょしだしたかと思ったら、急に早口でまくし立てて、しかもその間ずっと顔が真っ赤だ。それで今は、心なしか機嫌が悪いような気がする。

 「くるるちゃん、ひょっとして怒ってる?」

 「ぃいえ! 怒ってないですよっ」

 この反応は意地っ張りとかじゃなくて、本当に怒ってなかった時の反応だ。僕の気のせいだったかな?

 「(鈍いと思ったら、急に鋭くなって……。よくわかんないなぁ)」

 「くるるちゃん、なんか言った?」

 「いえ、なんでもないです。それより、さっきの話ですけど」

 「さっきの……。ああ、お昼の話?」

 「はい。それで、すみませんけど、やっぱりお昼一緒にするのは無理そうです」

 少し暗い顔で告げるくるるちゃん。嫌とか駄目とかじゃなくて、無理、か。

 「どうして?」

 「それは……」

 その時、下駄箱の辺りから、部活の朝練組が出てくるのが見えた。それを見たくるるちゃんが、途端に慌て出す。

 「あ、り、理由はまた明日……! お弁当どうぞっ。すみません、先行きます!」

 くるるちゃんは慌ただしくお弁当を僕に渡して、言い終わる前に駆け出していった。中庭の植木を使って、朝練組に見えないようにしながら下駄箱へと向かう。

 そうして取り残された僕の手には、お弁当の包みが一つ。

 「無理、か」

 理由は、さっきの様子を見れば、聞くまでもなくわかった。イジメだ。

 昼休みは、誰かのパシリをしないといけないんだろう。呑気にその辺でお弁当を食べている暇はない訳だ。

 どうにかして、くるるちゃんをその境遇から救ってあげたいと思う。でも今の僕には、何もできない。してあげられない。

 「助けたい、か」

 靴箱に靴を入れながら、さっき自分で言った言葉を思い出す。

 何が『傷つける奴がいたら』だ。そんな人間、この学校にはごまんといる。全員倒そうと思ったら、それこそ学校全体を相手にすることになるだろう。そもそも、本当の敵はイジメをする人間じゃない。イジメを許容する、この学校の風潮だ。そんな見えない物を相手に、どう戦ったらいいんだ。

 「どうしたらいいのかな……」

 悩みながら、自分の教室の扉を開けた。

 「あら、小熊くん。おはよう」

 「おはよう、委員長」

 中に居たのは日直を合わせても三人。閑散としていて、普段は遅くに登校する僕からすると、少し新鮮だ。

 三人居た内で、挨拶をしてくれたのは委員長の宮本さん一人だけだった。予習でもしていたのか、自分の席に座って、机の上に教科書を広げている。他の二人は、全く見向きもしなかった。ま、それがどうってわけでもないけど。

 「珍しいわね。小熊くんがこんな時間に来るなんて」

 「いや、ちょっとね」

 適当な言葉でごまかすと、宮本さんは特に気にした様子もなく、勉強に戻った。真面目なことで。

 僕は自分の席について、鞄を横に掛けた。

 時計を見たら、朝のホームルームまであと三0分もある。宮本さんのさっきの言い方、ひょっとして、毎朝この時間に来て勉強してるのかなあ。僕も宮本さんに倣って予習してもいいんだけど、どうにも気が乗らない。まあ、そんなこと言ったら、勉強に気が乗ることなんて、まずないんだけど。

 することもないし、少し寝るか。

 机に顔をつけて、目を閉じる。そうしてると頭に浮かんでくるのは、やっぱりくるるちゃんのことだ。

 くるるちゃん、今頃どうしてるかな。まだみんな登校するような時間じゃないから、イジメられてはいないと思うけど。いつイジメられるのかってビクビクしながら過ごしてるんじゃないかな。

 くるるちゃんが安心して学校に通える日って、いつか来るんだろうか。ターゲットがターゲットじゃなくなる方法……。今度誰かに訊いてみよう。光輝か、唯あたりがいいかもしれない。そういえば姉さんも、ここのOGだったっけ。それなら姉さんに訊いてもいっか。

 もしくるるちゃんがターゲットじゃなくなったら、きっと今以上に笑ってくれるだろう。くるるちゃんが傷つけられることもないし、僕も約束を守れる。

 ……あ、駄目だ。他にもくるるちゃんを傷つける奴がいた。僕だ。

 僕が一緒に居る限り、くるるちゃんはいつ傷ついてもおかしくないんだ。僕はくるるちゃんにとって、時限爆弾なんだ。

 だったら僕は、早くくるるちゃんの傍から離れないといけない。イジメを解決して、そのあとすぐに別れる。これがベストだ。別れる時に、くるるちゃんを悲しませないようにしないと。

 そうか。くるるちゃんを悲しませない為には、あんまり仲良くしたら駄目なんだ。今朝みたいな会話は禁物だ。フラグを立てないようにしないといけないんだ。今更気付くなんて、どれだけ僕はバカなんだろう。

 悲しませない。仲良くならない。この二つを同時にするのは難しい。悲しませないようにしようと思えば、自然と優しくしてしまう。でも優しくしたらいけない。仲良くなってしまうから。

 昔読んだ恋愛小説で、死期の迫った男が、恋人を悲しませない為にわざと嫌な男を演じて、嫌われようとする話があった。あれじゃ駄目だ。あれだと結局傷つけることになる。

 幸いなことに、僕とくるるちゃんは、まだそこまで仲良くない。あの恋愛小説では、確か恋人どうしになってから病気が判明した。だからああいう荒っぽい手を使うしかなかったんだろう。けど、今の僕たちは違う。

 僕なら、きっとやれるはずだ。くるるちゃんを傷つけずに済ませることが。いつもくるるちゃんのことばかり考えている僕なら、きっと……。

 

 * *

 

 『――いな、おっさん」

 「僕をおっさんって呼ぶな」

 「うわっ、なんだ。起きてたのかよ」

 「いや、寝てた。でもおっさんってとこだけ聞こえた」

 最悪の目覚めだ。僕は重い頭を上げる。

 目を開けると、そこには、中学からの腐れ縁、光輝が居た。不良でもない癖に髪を金髪に染めて、ピアスを付けた、なんかムカつく奴だ。くるるちゃんがイジメられて、なんでこいつがイジメられないのか、不思議で仕方ない。

 「お前そんなに嫌なの? おっさんってあだ名」

 「嫌に決まってるじゃんか、そんなの」

 「でもさー。他にいいあだ名ってないだら?」

 「おぐちゃん、おっくん、おぐっち、おぐおぐ、くま、くまちゃん、まーくん、まーちゃん」

 「おぐおぐはねーだら」

 赤ん坊か、とシケたツッコミをかましてくる光輝。僕としては、最後に言ったほうにツッコんで欲しかった。まあ、光輝は本読まないから、知らなくても無理ないけど。

 「じゃあ、あれは? ごん「コロスゾ」

 こいつ今、僕を下の名前で呼ぼうとした。その名前で呼んでいいのは、家族だけだ。

 「冗談だらあ、冗談。マジギレすんなって」

 「うるさい。お前に僕の気持ちがわかってたまるか。光輝なんて立派な名前貰いやがって」

 僕は何かと、両親に対する不満を感じることが多いけど、何より不満なのが名前だ。両親は生まれてきた僕に何か恨みでもあったのか? どうしてこんな、テレビCMで骨をかじってる犬みたいな名前を付けたんだ。

 「ところでおっさん、「結局それか」今朝はずいぶん早いけど、どうしたよ?」

 「別に。どうもしないよ。ただ何となく、早く来ただけ」

 「ふーん」

 興味なさそうに相槌をうった後、まるで内緒話でもするかのように、顔を寄せてきた。

 「(昨日のことは関係ないんだな?)」

 「!」

 昨日。この訊き方は多分、三年との諍いのことだ。

 僕は信じられない思いで、光輝の顔を見た。

 「なんで光輝がそれを知ってる?」

 訊くと光輝は顔を離して、しかし声は落とし気味にしたままで答えた。

 「あの人は一応バスケ部の先輩だからな。っても、ほとんど幽霊部員だけど。昨日、遅くにいきなり顔出して、二年の俺らに訊いてきたんだよ。『小熊ってのはどのクラスのどんな奴か』ってな。服が汚れてたし、あの様子見たら何があったかはだいたいわかる。――安心しろよ。弱みになりそうなことは、何も話してねえ」

 「……ありがとう」

 素直にお礼を言うと、光輝はニッと笑った。

 「これぐらいダチなら当然だらあ。ま、助けた女の子紹介してくれたら、チャラにすっぜ」

 なんでお前みたいな男に、可愛いくるるちゃんを紹介しないといけないんだ。

 ――ん?

 え? あれ?

 「て、ちょっと待った。なんで僕が女の子助けたって知ってるんだ?」

 「どへぇ、マジで女の子助けたの? いや、ちょっと噂でよ、女の子助けた奴がいるって聞いたし、お前が喧嘩する理由なんてそれぐらいしか思いつかなかったから、カマをかけたんだけどな」

 「あのね……」

 くそぅ、やられた。やっぱこいつムカつく。

 「で? 誰助けたんだよ?」

 急に興味深々になって、机の向こう側にしゃがみ込む光輝。

 「一‐Aの、月城くるるって子」

 「可愛いのか?」

 「うん、かなり」

 「かなりってお前……。どうせ下心満載で助けたんだら?」

 「バカ言うなよ。可愛い子じゃなくても、女の子が目の前でイジメに遭ってたら、僕は助ける」

 イジメ、という言葉に、光輝がぴくりと反応した。

 すう、と視線を左右に送ってから、もう一度僕の目を見て、言った。

 「まさかその子、ターゲットか?」

 学校全体ではどうか知らないけど、僕の周辺では、『ターゲット』と言えばイジメのターゲットのことだ。

 「……うん」

 「おいおいおい」

 光輝が立ち上がった。声に焦りが生まれている。

 「なにやってんだよおっさん。ターゲットを助けるなんてよ。次はお前がターゲットにされるぜ? てかもうされかけてんじゃねえか」

 「だからって……、あんなのを放っておくなんて……」

 「まさかその月城って子と、仲良くなったりしてねえよな?」

 「いや、それはまだ大丈夫だけど……」

 「よし。今すぐその子とは縁を切れ。纏わり付いてきても無視しろ。いいか、絶対だぞ」

 「うん……」

 はぁあ、と光輝が、呆れたように溜息をついた。

 「全く、何やってんだか。お前がムッツリなのは知ってたけど、まさかこんな……」「光輝」「なんだよ」

 「ターゲットじゃなくなる方法って、なんかないかな?」

 光輝の目が一気に冷たくなった。

 「お前俺の話ぜんっぜん聞いてねえな」

 「ねえ、なんかない?」

 「ねえよ、と言いたいところだけどな」

 ここへ来てようやく腰を落ち着ける気になったのか、光輝は前の席の稲垣くんの椅子を出して、反対向きに座った。背もたれを跨ぐ感じだ。

 「いくつかある。一つは、学校をやめること。もう一つは、空気を掴むことだ」

 「空気?」

 「ああ、イジメってのは、そのクラスの空気から起こるものだからな。そいつはイジメてもいい奴だって空気。それを上手く掴んで、自分の都合のいいように持っていく」

 「それって、口で言うのは簡単だけどさ……」

 「そう、実際には並大抵のことじゃない。具体的には、クラスで力を持ってそうな奴を味方につけて、その上でイジメ側の主犯っぽい奴をターゲットの方に蹴落とすのが、一番楽だな」

 「なんか陰険だね」

 「そういう話してんだから仕方ねえだらあ」

 「ねえ、他には?」

 「他には、うちの学校だからこそできる方法がある。うちには、番長がいるだら?」

 「……ああ、いるね」

 「その番長が一声かけりゃ、大概の無茶は通る。番長の権力は学校一だからな。教師より上だ。ただし、その一声をかけてもらう為には、相応の代価が必要だらあな」

 「代価……ね」

 「ん? なんか気乗りしなさそうだな」

 「番長は、ちょっと苦手で……」

 「この方法が一番手っ取り早いんだけどな。ま、普通そうか」

 コキ、と光輝が首を鳴らした。話を変える時の癖みたいなものだ。

 「ま、その、なんだ。あきらめろ。それが一番だら。わざわざターゲットじゃなくても、シス研覗きゃあ可愛い子なんざいくらでも居るって」

 「シス研に出るような人は、大抵が手が届かないじゃないか」

 椚山シスターズ研究会、略してシス研。これは、とあるサイトの名称だ。

 そこで何が行われているのかと言うと、椚山高校の女子についての討論、審査、そして会の名称の通り、研究などだ。一年ほど前に立ち上げられ、そこから口コミによってどんどん知名度が高まっていった。今では椚山高校男子の約八割が入っているのではないかと言われている。

 進学校としての表の世界。

 イジメが蔓延る裏の世界。

 その二つに次ぐ第三の世界が、この椚山シスターズ研究会だと言う。

 「そうでもないだら。昨日の最新情報見たか? まさか陰気な宇都宮ちゃんにあんな顔があったなんてな」

 「ナチュラルにちゃん付けしてるけど、宇都宮さんは三年生だよ?」

 「知ってるけどよ。ほら、アイドル的なノリで」

 「同じ高校に通ってる生徒だよ」

 「わかってるっつの。なんだよノリ悪ぃな。こないだの羽賀ちゃんの時はノリノリだった癖に」

 「悪いけど僕、基本的に年下のほうが好きなんだ」

 「あ、さいですかー。悪かったな、ロリコン」

 「なんとでも言えよ」

 「ふんっ」

 光輝は不機嫌そうに、口を尖らしてそっぽを向いた。その仕種、男がやってもキモいだけだぞ?

 「僕が言いたいのはさ、シス研に紹介された時点で一気にその子の人気が上がるから、狙おうにも狙えないってこと」

 「ああ、それはあるかもな。自分の好きな子がシス研で紹介されて、怒ってる男もいたもんな。普通喜びそうなもんだけど」

 「独占欲が強い男だったんだろね」

 人のこと言えないけどね、僕の場合は。

 「今月の椚山クイーンは誰だらあな。俺的には、水城ちゃん推しなんだけどな」

 「僕は……候補に上がってた中なら、桐野ちゃんかな。あのチワワみたいな目がいい」

 候補じゃない子も入れていいなら、断然くるるちゃんだけどね。

 「チワワって犬だら? 犬みたいな目って、褒め言葉なのか?」

 「褒め言葉だよ。チワワなんだから」

 「てかチワワってどんな目してんだよ?」

 「僕もよく覚えてない」

 「さっきチワワみたい目がいいって言ってただらあ」

 「だからイメージだって。そこ突っ込むなよ」

 「イメージなあ。じゃあイメージで言うと、お前の頭の中はまるで三毛猫だな」

 「その心は?」

 「九九%が♀」

 「ふむふむ、ちょっとわかりにくいから、三点ってとこかな」

 「うっせーな。じゃ、お前やれよ」

 「おっと、もう先生が来る時間だ。光輝、早く自分の席につかないと」

 「逃げんなよ!」

 「あ、本当に来た」

 「うわっと」

 光輝が慌てて自分の席につく。

 宮本さんが号令をかけて、先生が挨拶をして、今朝のホームルームが始まった。

 

 * *

 

 宮本さんが号令をかけて、先生が挨拶をして、今日一日の授業が終わった。

 「ふぅ」

 「じゃあな、おっさん」

 「ああ」

 早々にバスケ部へと向かっていく光輝の後ろ姿を見送る。

 いつもならここからストーカーの時間が始まるんだけど、今日は違う。いや、今日からは違うと言うべきか。

 もうストーカーする必要はない。なんせ、くるるちゃんと知り合いになれたんだから。

 いやいや、浮かれてなんかないさ。なにせ、好感度を上げたら駄目なんだから。そこら辺はちゃんと弁えてる。だけど、イジメ問題を解決する為に、一緒に帰って道中で話し合うというのは、決して悪くないだろう? そう、悪くない。むしろこれは、必要なことなんだ。

 自分を納得させながら、くるるちゃんの居る教室へと向かう。

 ストーカーしてた時、くるるちゃんが先に帰ってしまって見つからないことがあった。待ち合わせしてるわけじゃないんだから、当然と言えば当然だ。

 でも、待ち合わせしていないという意味では今日も同じだ。それに今日は、いつもよりホームルームが長引いた。くるるちゃんが居るかどうか不安に思いながら、教室を覗いた。

 「ほ……」

 居た。一人で掃除をしてた。他の生徒も掃除道具を持ってはいるけど、喋ったり携帯を弄っているだけで、手伝おうとはしない。

 僕はこの光景を何度も見てるから知っている。放課後の掃除を無理矢理押し付けられてるんだ。

 僕はとりあえず顔を引っ込めて、少し声の調子を整えてから、扉を開けた。

 「月城」

 「はい!」

 わざと低い声で呼ぶと、くるるちゃんがびくっと飛び上がった。

 少し申し訳ない気持ちになりながらも、声の調子を崩さず、ぶっきらぼうに言う。

 「ちょっと来い」

 「は、はい!」

 くるるちゃんは持っていたモップをロッカーに収めて、小走りでやってきた。僕は何も言わずに、移動する。後ろから、女子の笑い声が聞こえる。「くるくる呼び出しくらってやんの」「あーあ、かわいそ」……今はそう思わせておいた方がいいんだ。

 やがての人気のない階段に着くと、僕は息を吐いて後ろを振り返った。

 「ごめん、あんな乱暴な言い方して。あのほうが、くるるちゃんがイジメられないで済むかなって思って」

 「……あ、そう、だったんですか。良かった……。わたし、小熊先輩にまで嫌われてしまったのかと思って……」

 やっぱり怖がらせてしまったらしい。安堵の為か、目尻に涙が浮かんでいる。

 「本当に、良かった、です。先輩にまで、嫌われ、たら、わたし、どうしたら、いいか……」

 えづきながら言うくるるちゃんの目から、涙がポロポロと零れた。その様子に胸が締め付けられそうになる。思わず慰めの言葉をかけてしまいそうになったけど、そこはぐっと堪えた。

 傷つけても駄目だけど、必要以上に優しくして好感度を上げても駄目だ。今は僕に依存しているくるるちゃんだけど、イジメがなくなれば僕がいなくても大丈夫になるだろう。その時に後腐れのないようにしないと。

 「くるるちゃん」

 僕は自分の気持ちを押し殺して、言った。

 「どうして一人で掃除してたの?」

 理由はわかってる。でも敢えて訊く。

 「え? あの……」

 「イジメられてるんだよね?」

 しばらく逡巡していたくるるちゃんだが、やがて観念したように、ぽつりと言った。

 「…………はい」

 「どうして抵抗しないの?」

 「そんなことしたら、余計ひどい目にあいますから」

 「それでも、なんとかしないと。放っておいたら、くるるちゃんはずっとこのままだよ」

 「それは……わかってるんですけど……」

 そうさ。わかってるに決まってるじゃないか。

 僕は何を言いたいんだ? こんなの、ただくるるちゃんを追い詰めてるだけじゃないか。

 「あの、先輩はどうしてうちのクラスへ……?」

 「僕は、くるるちゃんと一緒に帰ろうと思ったんだけど」

 それを聞くと、くるるちゃんは悲しそうに笑った。そう、悲しそうに。人間がこんな表情もできるってことを、僕は初めて知った。

 「嬉しいです。そう言ってもらえて」

 どうしてそんな顔をするんだ。そこまでして笑わないと駄目なのか。悲しいなら、泣けばいいじゃないか。

 「でも、すみませんけど、一緒には帰れません。明日からも、ずっと」

 泣けない時もある。無理してでも笑わないといけない時もある。でも今はその時じゃないだろう。

 「登校する時なら大丈夫ですから、また明日、あのT字路で会いましょう。いえ、会ってください。待ってますから」

 ここには僕が居て、ここには僕しかいない。なのになんで本心を見せてくれないんだ。僕はそんなに信じられないのか。

 「なんでだよ……。掃除なんかほっぽって、帰ればいいじゃないか。イジメてくる奴なんか、無視してやればいいんだ」

 くるるちゃんは、笑顔のままに首を横に振った。

 そうさ、そんなことできるわけない。そんなことで済むほど、生易しい問題じゃない。僕だってわかってる。

 僕はどうしたらいいんだろう。どうしたら、くるるちゃんを幸せにしてあげられるんだろう。

 「先輩、いいんです。もう気にしないでください。先輩みたいな人がいるだけで……わたしの味方をしてくれる人がいるだけで、わたしにとってはこの上ない救いなんです。昨日までは、そんな人は居ませんでした。昨日、先輩が飛び出してきてわたしを助けてくれた時、わたしには、先輩がヒーローみたいに見えたんです。なんか、子供みたいですけど、本当にそう見えたんです。先輩がわたしをイジメる人を倒せなくても、それでも先輩っていう味方がいるだけで、わたしは、逃げずに立ち向かっていこうって思えたんです。小熊先輩には、本当に感謝してるんです。だから、そんな悔しそうな、悲しそうな顔しないでください。笑ってください。嘘でもいいから、作り笑いでもいいから、笑ってください。そしたら、きっと、みんな幸せになります」

 笑顔で語ったくるるちゃんに対して、僕は首を横に振る。

 「嫌だ。作り笑いなんて、作り笑いしないといけない世界なんて、そんな世界にいて幸せだなんて、そんなの僕は認めない。心の底から笑って、心の底から悲しめる世界じゃないと、僕は幸せだなんて思わない」

 「先輩……」

 くるるちゃんが困った顔をした。僕のせいだ。

 さっきから僕のしていることはなんなんだ? くるるちゃんを助けるわけじゃなくて、困らせるだけ。こんな会話、何の役にも立ってないじゃないか。これじゃあくるるちゃんを余計に傷つけるだけだ。傷つけて……。

 好感度を上げてるだけじゃないか。

 なんだ、僕は狙いとはまるで正反対のことをしてたのか。バカだ。前にあれだけ失敗して、あんなに悩んで、それで何も成長してない。また繰り返す。バカだ、僕は。

 「……帰るよ」

 「先輩……」

 嫌われようと思ってわざと素っ気なく言ったけど、却ってくるるちゃんに気を遣わせてしまった。ほんと、何やってんだ僕は。

 これ以上失敗したくなくて、僕は足早に階段を降りた。

 「先輩!」

 踊り場まで降りた時、くるるちゃんが呼びかけてきた。

 「なに?」

 「あの……」

 くるるちゃんの手が宙を泳ぐ。唇が歪む。目が悲しげに寄せられる。そして口から、苦しそうに言葉が洩れた。

 「あの……、明日も、お弁当作ったら、また受け取ってくれますか?」

 「あ……」

 そうだ、お弁当。お昼に食べてお礼を言おうと思ってたのに、すっかり忘れてた。

 「ごめん、お礼言うの忘れてた。すごくおいしかったよ。なんて言うか、一生懸命作ったって感じがした」

 正直、姉さんの作るほうがおいしかったけど、気持ちは十分に伝わってきた。

 「作ってくれるのは嬉しいけど、迷惑じゃないかな?」

 「いえ、うちには妹と弟が一人ずつ居るので、一人分増えても全然変わりません」

 「そっか……。じゃ、お言葉に甘えて、お願いするよ。あ、でも明日はやっぱりいいや。弁当箱まだ洗ってないし」

 「? どういうことですか?」

 「弁当箱、明日洗って返すからさ。弁当箱ないと、作れないよね?」

 「いいですよ、そんなの。わたしが洗いますから」

 くるるちゃんが、話しながら階段を降りてきた。

 「いや、さすがに礼儀としてさ」

 「いいですって。ほら、お弁当箱出してください」

 「いや、でも」

 「もう、言うこと聞かないと、怒りますよ?」

 「弟とかにそう言って言うこと聞かせてるの?」

 「あ、ばれましたか?」

 ペロッと舌を出すくるるちゃん。いつの間にか、明るさが戻っていた。

 「そこまで言われたら、言う通りにするしかないかな」

 明日はスポンジと洗剤を持って来ようと心に誓いながら、弁当箱を出した。

 「ありがとう」

 「どういたしまして、です」

 弁当箱を受け取ると、くるるちゃんは踵を返して階段を昇っていった。

 笑顔で振り返ると、ぺこりと腰を折った。

 「それじゃ、先輩。また明日」

 「うん、また明日」

 また明日、か。

 いつか『また明日』じゃなくて、『さよなら』と言わないといけない、本当のお別れの時が来るんだろう。そしてその時は、くるるちゃんのイジメが解決した時でもある。

 願わくば、一日でも早くその日が来てほしい。

 くるるちゃんの後ろ姿を見ながら、そんな風に思った。

 

 * *

 

 そのあと、僕は家に帰ろうと思って、校門まで行った。でもなんだか物足りない気がして、引き返した。

 引き返して何をしたかと言えば、それはもちろん、くるるちゃんのストーカーだ。

 やっぱり僕は根っからのストーカーなんだなあと実感した。いつか彼女ができても、彼女のストーカーとかしてしまいそうで怖い。この癖は早く直さないと。

 教室で一人掃除するくるるちゃんを見守って、帰り道に猫と戯れるくるるちゃんにほんわかして、古びたマンションの自宅に入っていくくるるちゃんを見届けたあと、僕は自分の家に帰った。

 「ただいまー」

 「あ、お帰りなさい、ごんちゃん」

 姉さんは、居間にちゃぶ台を出して勉強していた。

 この家では、特にどの部屋がどっちの部屋だとかは決めていない。そもそもくつろげる場所が台所と居間しかない訳だから、決めようがない。居間も狭いし、二人で暮らすには少し手狭だ。

 とは言え、元々は姉さんが一人暮らししていたところに僕が割り込んだんだから、文句の言えようはずもない。文句を言うとすれば姉さんのほうだけど、人間ができている姉さんは愚痴一つこぼさない。

 この狭さのせいで一番問題になったのは、僕の引っ越し初日、寝る場所を決める時だった。僕は断固として、台所で寝ると言い張った。思春期の男子として、いくら兄弟とはいえ、同じ部屋で枕を並べて寝ようとは思えなかった。そもそも、二年以上別居していた姉さんが、実の姉だという実感が湧かなかった。

 その辺りの複雑な男の心境を、言葉巧みにカモフラージュしつつ、僕はなんとか「一緒の部屋で寝たくない旨」を姉さんに伝えた。

 しかし姉さんは、大人しく引き下がったりはしなかった。それどころか、「それなら私が台所で寝るー!」と気丈に対抗してきたのだ。あれを喧嘩と呼ぶのかどうかはわからないけど、姉さんと一緒に暮らした四年間で、一番言い争った夜だったんじゃなかろうか。

 結局、間にちゃぶ台を置いて、二人で居間に寝ることになった。そう、今姉さんが使っている、あのちゃぶ台だ。うちは居間も狭いけど、間にちゃぶ台を置いても二人が寝れるぐらいのスペースはある。

 寝れるだけのスペースはあるけど、とても寝れたものじゃなかった。目はギンギン冴えて、血が脈打ってるのを感じた。今姉さんに布団をめくられたら、なんて言い訳しよう、なんてことを悶々と考えたりしていた。

 そんな僕と比べると、姉さんはあっという間に眠りについた。今思うと、中一の僕を誰より子供扱いしてたのは姉さんだったんじゃないだろうか。

 姉さんが寝返りをうったり、寝言を言ったりする度に、僕は跳び上がるぐらい驚いた。そんな夜を過ごしたものだから、次の日はすっかり寝不足だった。不思議なことに、熟睡していたはずの姉さんも、なんか眠そうにしていたのを覚えてる。

 とはいえ、そんなのは引っ越し初日の話。一週間も経つとすっかり慣れてしまって、今ではちゃぶ台を出す習慣もなくなっている。だけど、慣れた頃にやってきた幼なじみに、僕たちがどうやって寝てるのかと訊かれて、ありのままに答えたら「不潔だ!」とか言って思いっきり殴られたのは、さすがに堪えた。というか、普通に痛かった。

 唯の奴、空手やってる癖に普通に人を殴るなよな。いつか警察に捕まるんじゃないかと思うと、気が気じゃない。いや、むしろあいつが捕まったら、この近所が平和になるのかな?

 「どうしたの? ごんちゃん」

 「いや、ちょっと追憶という名の昔語りを」

 「? ごんちゃんが何を言ってるのか、よくわかんない」

 部屋の隅にある勉強机に鞄を置きながら、「いやいや何でもないから」と首を横に振る。

 「姉さん、わざわざちゃぶ台使わなくても、こっちの机使えばいいのに」

 「前に言ったでしょ。それはごんちゃんの机だって」

 この机は、僕がこっちに引っ越す時に買ったものだから、姉さんは遠慮して使おうとしない。

 「でも僕が使ってない時は使っていいよ。ていうか、僕の方が後から入ってきたんだから、姉さんが変に気を遣うことないよ」

 「後とか先とか、そんなの関係ないよ。今は二人で住んでるんだから」

 こういうやり取りは、最早恒例になりつつある。一緒に住むのには慣れても、どこかお互いに遠慮しているところがある。

 言い合っても決着がつかないのはわかっているので、僕はそれ以上何も言わずに、着替えを持って脱衣所に行った。

 着替えてる最中に、ふと思い出した。弁当のこと、姉さんに何て言おう。

 今朝くるるちゃんにはああ言ったけど、まさか本当に「可愛い子に弁当貰った」とは言えない。恥ずかし過ぎる。かと言って捨てるのはもったいないし、これからもしばらく続くと思えば、早い内に対処しておきたい。必死に言い訳を考えてみた。

 「食欲がなくて……とか?」いやいや、姉さんに心配をかけるわけにはいかない。

 「姉さんの味に飽きたんだ」最低か、僕は。何様のつもりだ。

 「最近は遅弁が流行ってるんだよ」遅すぎだバカ。

 ああ、どうしよう。いい手がない……。

 「ごんちゃーん」

 悩んでいると、扉越しに姉さんの声がした。

 「あ、はーい、なに?」

 「今日の晩ご飯は何がいい?」

 「えーと、じゃあハンバーグで」

 とっさに好きな食べ物を答えていた。なるほど、こうやってバレたのか。

 「え? また? お弁当もハンバーグだったでしょ?」

 「え? おべ……」

 何を言ってるんだ姉さんは。今日のお昼は……って違う!

 「あ! いや、そ、そうだったそうだった! いやー、おいしいハンバーグだったなー」

 そうだ。今日のお昼はくるるちゃんの作ったお弁当を食べたんだった。しかも、昨日の会話から、今日のお弁当がハンバーグだってことは予想できたのに。迂闊にも程がある。

 「ごんちゃん……、何かヘン」

 「いやいやいや、全然ちっともこれっぽっちも変じゃないよ?」

 「ほんとに?」

 「うん、後ろめたいことなんて何一つない」

 ふーん、と姉さん。タラリ、と僕の背中を伝う冷や汗。

 「それじゃ、問題ね。今日のお弁当のご飯にかかってたのは、なーんだ?」

 「そ、そんなこともう覚えてないよ」

 ごまかす。

 「第二問。ハンバーグの横のアルミホイルに入ってた野菜は?」

 「…………」

 黙る。

 「最後の問題。ごんちゃんが今日お弁当を食べてない理由は?」

 「……学校で後輩にお弁当貰ったからです」

 そして諦める。

 

 ガシャァァン!

 

 何かを落とした音がした。

 「ね、姉さん!? どうしたの!?」

 「うぅ、だ、大丈夫だよ。何でもない……」

 声が全然大丈夫そうじゃない。今すぐ出て行って助けたほうがいいのかな。でもズボン脱いだとこだし……。

 「そ、それよりごんちゃん。もし良かったら、そのことを後で詳しく教えてくれないかな?」

 「う、うん。いいよ」

 ここまできたら、もう話すしかない。

 僕は急いで着替えて、脱衣所から出た。

 姉さんは、畳の上にタオルを置いてポンポン叩いてるところだった。水か何かをこぼしたんだろう。前から思ってたんだけど、姉さんといい、母さんといい、なんで畳に水をこぼすとポンポン叩くんだろう? 余計に染み込みそうな気がするけど。

 姉さんは、吹き終わったタオルを洗い物のカゴに入れると、ちゃぶ台の横に座布団を二枚置いて、片方に正座した。僕も倣って、もう一つの座布団の上で正座する。

 僕が座るかどうかというところで、真剣な顔をした姉さんが、身を乗り出して訊いてきた。

 「そのお弁当くれた子って、ごんちゃんの恋人なの?」

 なんでそんなことが気になるんだろうと疑問に思いながらも、僕は正直に答える。

 「ううん、違うよ。昨日困ってたところを偶然助けて、その恩返しにってお弁当を作ってきてくれたんだ。断るのも悪かったし……」

 僕としても、憧れのくるるちゃんが作ったお弁当を食べたかったしね。

 「そっか……。そうだったんだ、良かった」

 「良かった?」

 「ううん、なんでもないの。それより、昨日のケガは、その子を助けた時にできたんだよね?」

 「うん、まあ」

 「どうして黙ってたの?」

 本当の答えは『姉さんを心配させたくなかったから』なんだけど、そんなこと恥ずかしくて言えない。

 「助けたとは言え喧嘩だからさ、言ったら怒られるかもって思って」

 「むぅ、確かに喧嘩はして欲しくないけど、そんなことで怒ったりしないもん」

 信用されてないなぁ、と唇を尖らせる姉さん。拗ねてしまわれた。なんか全部が全部裏目に出てる気がする。

 「あ、いや、その」

 「ふふ。まぁ、いっか。話してくれてありがと。晩ご飯、作るね」

 僕の言い訳を笑顔で打ち切って、姉さんは腰を上げた。

 「あ、待って姉さん」

 そこを呼び止めた。この際だから、ついでにあのことも訊いとこう。

 「なに?」

 「いや、その助けた女の子のことなんだけどさ。その子、イジメに遭ってるんだ。なんとか助けてあげたいと思うんだけど、なんかいい方法ないかな?」

 ストン、と姉さんがもう一度腰を下ろした。顔から笑顔が消え、虚ろな表情になる。

 「ないよ」

 否定だった。

 そして意外だった。

 答えが完全な否定っていうのも意外だったし、答えるまでにほとんど間が空かなかったことも意外だった。なんて言うか、姉さんらしくない。

 「ないって……。一つも?」

 「うん。学校やめるなら話は別だけど、それ以外でイジメられなくなる方法なんて、ない。イジメがなくなる時っていうのは、偶然何かの拍子にとか、いつの間にかとか、とにかく思いがけずになくなるものなんだよ」

 姉さんらしくない、後ろ向きな意見だ。

 多分僕は、腑に落ちないって顔をしてたんだろう。姉さんが少し目を伏せて、続けて話した。

 「実はね、私が椚山高校に通ってた時、友達がイジメに遭ってたの。それをなんとかしようってずっとがんばってたんだけど………………、無理だった」

 「それは……」

 何か言おうとして、でも何を言いたいのか自分でもわからず、口をつぐんだ。

 「三年生になったらイジメはなくなってたけど、それがどうしてなのかは今でもわからない。みんながイジメに飽きたのか。それとも下級生をイジメるほうが楽しかったのか。わからないけど、イジメはなくなったの」

 「じゃあ、それまで待つしかないってこと?」

 意図せず苛立ち混じりの声になった。これじゃ八つ当たりだ。

 だけど姉さんは気分を害した風もなく、優しく微笑んで首を横に振った。

 「確かに、イジメはなくならないよ。でもね? 自分に優しくしてくれる人が近くに居ることは、イジメられている人にとってはものすごい心の支えになるんだよ」

 僕はくるるちゃんの言葉を思い出した。

 ――わたしの味方をしてくれる人がいるだけで、わたしにとってはこの上ない救いなんです。

 ――先輩っていう味方がいるだけで、わたしは、逃げずに立ち向かっていこうって思えたんです。

 「だからごんちゃんは、その子のそばに居てあげて。イジメに立ち向かわなくてもいい。励ましの言葉をかけてあげなくてもいい。ただ隣に居るだけで、ただ隣に居てくれることが、きっとその子にとっては泣きたいぐらい嬉しいことだと思うから」

 確信めいたその言葉は、優しいようでいて、その実、僕に何もするなと言っているようなものだった。どうしてみんな、僕にそんなことばかり言うんだろう。姉さんも、くるるちゃんも、光輝の奴も。

 くるるちゃんの為に何かできることがあるなら、僕はすぐにでもやるのに。僕はくるるちゃんがイジメられなくなる方法が知りたいのに。なのに誰も、そんなこと言ってはくれないし、教えてくれない。

 この気持ちが、僕の我が儘だってことはわかってる。だから口に出したりはしないけど……。

 悔しくて、やるせない。

 「でも、僕はそれさえもできないんだ」

 「どうして?」

 「僕は……一緒に居ると、くるるちゃんを傷つけてしまうから」

 詳しいことは話せない。僕がストーカーだとバレてしまうから。

 姉さんは首を傾げた。

 「……よくわからないけど、でも、それだけその子のことを真剣に考えてるごんちゃんが、その子を傷つけるなんて、そんなことはないと思うよ」

 「姉さんはそう言うけど、そんな単純な話じゃないんだよ。ほら、ドラマでも、愛し合ってるせいで不幸になる話とかしょっちゅうあるじゃないか。リアルなんか、もっとグロいよ」

 我ながら、こういう時にドラマを引き合いに出すってのはどうなんだろうと思う。

 「うぅん。私は、現実のほうが夢があると思う」

 「夢って……」

 「夢でダメなら、希望かな。だって私の友達にも、ちゃんと支えになってくれる家族がいたし、そのくるるちゃんっていう子にも、今はごんちゃんがいるじゃない」

 「でも……」

 「とにかく、そんなに暗くならないで。明るく前向きにならないと、周りの人まで暗くなっちゃうんだから」

 「……うん」

 最後は姉さんに押し切られる形で、話は終わった。姉さんは満足そうに微笑んで、今度こそ晩ご飯を作りにいく。

 残された僕は、畳の目をぼーっと見ながらしばらく考えていた。本当に僕にできることはないんだろうか、と。

いくら考えても答えは出ずに、無為に時間だけが過ぎていった。

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