大晦日
今日は、ゆっくりとしていた。
「NHKに合わせてくれた?」
高校2年の井野嶽幌が台所に立って、そばを茹でながら言った。
「合わせといたよ。今は、まだ紅白始まってないから」
午後7時のNHKニュースで、大みそかの全国各地の様子を写している。
幌の姉の桜が、食器類をセッティングしながら、リモコンでチャンネルを確認した。
「毎年恒例、手打ちそば。今年こそはみんなにも食べてほしかったんだけどなあ」
幌が残念そうに言いながら、そばをざるにあげる。
「仕方ないって。だって、みんなそれぞれに用事があるんだもの」
桜がそう言いながら、ニュースを見ている。
「ま、そうだな。来年会えればいいか」
そばは1人前に分けられ、それぞれに熱い透き通っただしが注がれる。
あたりには、鰹節と昆布の芳しい香りが広がった。
「いつもの香り。いいねぇ」
桜がお腹を減らしながら言った。
「ま、いつも通りだからな。健康長寿、金運上昇、来年が今年よりもいい年になることを願って、みんなの分も願いながら」
幌がそう言って、桜の前にそばが入った鉢を出した。
テレビでは、もうすぐ紅白歌合戦が始まる時間だと告げていた。