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番外:魔王さんの異世界侵略レポート

新たなる脅威、異世界からの魔王の侵略に立ち向かう首領


 とある世界、勇者は倒れ世界は魔王に支配された。


 全てを支配した魔王の欲望は留まることを知らず、新たな目標として別の世界へと目をつけた。

 多くの人々の魂を犠牲に開かれた異世界への門。


 8つの軍団と億に迫る数の魔物たち。

 繋がった異世界が普通の世界、いや、その「村」の側で無ければ大いなる脅威となったであろう。


 魔王は破れた。

 それこそプライドも夢も全て粉微塵に粉砕されて、支配した自分の世界すら放棄して城に引き篭もるまでに・・・・・・。

 


 ◆

 ◆



鋼の月 鎖の日(晴れ)


 今日は絶好の侵略日和。

 人間どもの魂を使って開いた異世界の門の前に立ち、これからの戦いを思い武者震いをおこす。

 門の作成には手間取って5万人ほど人間の魂を無駄にしたが、あいつらゴブリンと変わらないくらいポコポコ生まれるし問題は無いだろう。

 尖兵として送り出すのはそんな人間の廃物利用で作ったアンデッドたち。

 材料はいくらでもあるし、万が一とてつもない強敵に出会っても使い捨てて惜しくない連中だ。

 一応はデュラハンやワイト、それにドラゴンゾンビなんかも付けてやったから全滅に近い状況になったとしても報告くらいは来るだろう。

 まあ、そうそうすぐに進展がある訳でも無い。


 この出陣のセレモニーが終わったら、暇潰しに滅ぼした各地の王族の棺でも使ってジェンガでもやるか?


 少しは歯ごたえがあるヤツが居るといい。

 勇者もたいしたこと無かったしな。

 

鋼の月 鎌の日 (くもり)


 アンデッド軍団が全滅した。


 門はごく普通の農村の側の山につながったそうだが、その普通に見えた農村が化け物ぞろいだったのだ。

 いや、あれが普通とか無いよな?


 「人の畑を踏み荒らしただな!」との声と共に襲い掛かってきた異形の群。

 揃いの仮面を被った黒尽くめの者たちと、先頭に立つ人とモンスターを合わせた様な者。

 まるで害虫駆除の様に倒されていくアンデッドたち。


 情報収集用に飛ばしたアンデッドバットが最後に目にしたものはゴミ処理の様に積み重ねられて、作業的に焼かれていくアンデッドたちの成れの果てであった。


石の月 紅玉髄の日 (晴れ)


 思いもかけぬ強敵に、どうしても動きの遅くなるアンデッドでは話にならないとビースト軍団を送り込むことにした。

 最近は人間どもの国がすっかりとひれ伏してしまったため出番が無く、血に餓えている奴らだ。

 押さえ込むのも一苦労だったが、ちょうどいい機会だろう。


 この世界の人間でも鍛えた者なら相手が出来てしまうアンデッドを軽い気持ちで送り出したのが間違いだったのだ。

 一歩間違えば味方すら食い殺しかねないあいつらなら、瞬く間に国の一つや二つは落として見せるに違いない。


 思わぬ初戦の躓きで動揺している奴らも居るから、ここは大盤振る舞いだが軍団のほぼ全部を送り込むことにしよう。


 せいぜい無駄な抵抗をするがよい。


石の月 瑪瑙の日 (雨)


 なんなのだ、あの女は。

 アレがあちらの女王なのか?

 あの高笑いが耳から離れん。


 お茶菓子を用意して娯楽感覚で眺めていた第二次侵攻。

 流石に我が軍において打撃力、機動力に優れたビースト軍団だけあって楽勝かと思っていた。

 門から溢れ、原野を疾走する様は非常に勇壮で血が沸き立つ光景だった。


 騎士たちすらその牙にかけ、返り血で本来の毛皮の色すら分からなくなっていた三つ首ライオンが、小人でもない限り子どもであろう小さき者にボコボコにされて腹を見せて命乞いをしている。


 キメラもホーンドベアも素手で倒されている。

 群で相手を翻弄する一つ目狼たちがハエでも払うかのような平手打ちで、女性らしきシルエット(それも鍛えた冒険者風で無く、その辺のおばちゃん体型のものだ)の相手にけちょんけちょんにされている。


 鶏に似た外見の男がドラゴンですら狩り尽すであろう圧倒的な数のモンスターの群の最も密集した地点に飛び込むと、まるで冗談の様に首がポンポンと転がり出てくる。


 巨体のベヒモスはモグラの様な男の鍬の一撃で沈んだ。

 「オラのジャガイモが~」とか叫んでた様な気がするが、きっと気のせいだろう・・・うん。あんな化け物がただの農民であってたまるか。たぶん気合を入れる掛け声がそう聞こえただけに違いない。


 む、無論、我が軍団も無抵抗では無いぞ。

 相手に手傷を負わせる者もいるが、その怪我をした相手を次から次へと空を飛びながら治して回るハーピーとはまた違った鳥の様な女。

 治療を受けているヤツの鼻の下が伸びてたり、怪我をすると喜んでる様に見えたのはきっと錯覚だ。


 そして高笑いと共に勇者の共をしていた魔法使い以上の魔法を平然とぶっ放すだけでなく、自らの手でそれに追い討ちをかけ蹂躙していく蜂の様な女。

 なんなのだ、アレは!

 あちらの世界の邪神だとでも言った方がまだ信じられる。

 桁違いの魔法と、桁違いの武力、スピードは獣たちを置き去りにし、その上、空まで飛ぶだと?

 しかも全力でないどころか本気ですらないのだ。

 治療をしていた鳥女にじゃれ付いたり、巨体のフォートレスタートルの上で足を組んで腰掛けて休憩して見せたり、そのままフォートレスタートルを力ずくでひっくり返してくるくると回して笑い転げてみたりするのだ。


 こちらでは途中までは「次は自分が!」と逸っていたやつらが、「次はお前が行け」と押し付けあっている。


 そうこうする内にもはや戦いとは言えない状況になっている。

 皮を剥がれ、腹から裂かれ、肉は切り分けられ、場所によっては肉が焼かれて既に宴会が始まっている。


 我が精鋭が害獣以下の扱い。

 家畜も同然に「食われて」いる。


 数少ない生き残りも子どもたちのペット扱いだ。

 首に縄を巻かれて引きずられたり、馬の様に乗り回されたりしている。

 

 ケルベロスのあんな情けない表情を見ることになるとは思わなかった。


 今日は酒を飲んで寝よう。

 後の事は明日考える。



虫の月 蟋蟀の日(雷雨)


 何故、船が空を飛ぶ!?


 もう一度言う、何故、船が空を飛ぶのだ!?


 万全を期して空からドラゴン、陸からはゴーレムと魔導師軍団という勇者百人くらいは楽勝で倒せる布陣で挑んだのだ。


 さすがにただの村人には空を行くドラゴンは相手にならず、今度こそ、と思った時にその船が「飛んで」来たのだ。


 船からは光やとてつもない速さの弾が飛んできた。

 蚊柱にファイヤーボールの呪文を打ち込んだくらいあっけなくドラゴンが消えていく。

 いや、ドラゴンだぞ、ドラゴン。

 小さな国なら一頭で滅ぼせる存在だぞ?


 最強のカイザードラゴンは船に居た黒尽くめの男が何かをすると、前以上に強そうな黒い鎧を纏った様なドラゴンになった挙句寝返った。

 ブレスで炎に強い筈の他のドラゴンたちが消し炭になっていく。

 もう一頭居たカイザードラゴンも、こちらは真っ白でふわふわな毛と羽毛で覆われた姿になった挙句、突然現れた女に犬の様に懐いている。


 気付けば地上もガラクタと死体の山になっていた。


 最強とは・・・なんだろう?


 


獣の月 羆の日


 もういやだ、おうち帰る。





 ◆

 ◆



 「ねえねえ、どんな気持ち、どんな気持ち? ご自慢の『ぼくのかんがえた最強の魔王』がただの村人に凹られたのって?」


 出前で取った特上の寿司を食べながら、電話で相手を煽りまくっている女神。

 美しい顔に嘲りの表情を浮かべて非常にウザい。

 電話の向こうではさぞや相手が青筋を立てていることだろう。


 普段の首領ならそれとなく止めに入るところだが、「私としても随分迷惑かけられましたからねぇ」と内心女神にエールを送っている。


 非常に疲れたのだ。

 

 どこからともなく現れたモンスターの集団。

 それを倒すだけなら村人という名の戦闘員たちで十分に対処出来た。

 問題だったのは後始末。


 牛に似たモンスターや豚に似たモンスターや鳥に似たモンスターなど、「食べられそう」な死体はまだいいのだが、それ以外の死体。

 皮や骨や牙などを取った残りやら人間に似た、それでも明らかに人間では無いと分かる異形の死体。

 後始末は全部首領の仕事であった。


 女神に呼びつけられ、押し付けられたその仕事に加え、倒したゴーレムを村人たちの要望に応えてトラクターやらコンバインやらに改造したり、宴会で特撮主題歌メドレーをアンコールされまくったり、「ちょっとヤバイかな?」と思った強そうなドラゴンを改造して配下にしたら、女神から「私にも似合う感じのドラゴンを進呈しなさい」との無茶振りを食らったりと非常に忙しかったのだ。


 その原因ともなる魔王の世界の神。

 流石に温厚な首領でも庇う気は起きないのである。


 その場の勢いで改造したドラゴンは首領に懐きまくった挙句、ペットの位置を確保してランスビートルと良く散歩に出かけている。

 ドラゴンが鎧と融合した様な外見のそのドラゴンは「うおお、かっけええ!」とランスビートルのお気に入りの存在となった。

 首領が側に寄ると嬉しくて首領の顔を舐めまくってくる。

 首領だから無事だが、戦闘員でも怪我は必至、一般人なら首がもげて即死である。


 女神に献上された白いドラゴンは女神の使いとして早速活用されているようである。

 こちらも性格はわんこで、女神にすっかりと懐いている。

 それ以前の専用の空中船の時もそうだったが、女神から授けられた力だからなのか、女神の要望に基づいた改造の場合、通常よりも更に高いスペックで、しかも女神の嗜好に合った存在になるようなのだ。


 「モフモフ~♪ ウザかったけど、魔王が来て良かった唯一の点がこの子ねぇ~」と女神もすっかりお気に入りだ。


「首領様、この大トロというのは一体どんな魚なのですか、こんな魚初めて食べました」

「首領、首領! 俺、そのイクラね!」

「お茶を入れ直して来ますね。」

「我輩、そのウニの軍艦巻きをいだきます」

 女神のご相伴ということで特上寿司を食べる面々の顔もほころんでいる。


 実はあまり刺身が好きではない首領は、アナゴや鰻や、巻き寿司や稲荷寿司を食べている。

 特上の寿司の有り難味が一番分かってないのは首領かもしれなかった。



 「今度はのんびりと温泉にでも行きたいところですねぇ」

 そんな首領の望みがかなうかどうかは、煽り口調が更に佳境に入って絶好調な女神にすら分からないことである。




鎧袖一触、魔王さえ退けた首領たちに敵はいない

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