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勇者抹殺作戦

次なる魔の手は若き勇者の元に!


「あんの、クソじじい~(#^ω^)!!!!」


 誰がどう見ても怒りに歪んでいるが、それでいて美しさを損ねる方向性で無い方に表情を歪める女神を見て「流石、女神様ですねぇ」と感心をする首領。


 とは言うものの、有りがちな怒りに顔が歪んだ上の醜い表情よりもよっぽど恐ろしいのだが・・・。



 秘密基地という名の拠点兼支店兼自宅に帰って来た首領は、休む間もなく女神にコキ使われた。

 通販の受け取りとか、出前の受け取りとか、試着サービス付きの衣服の通販の返送とか、女神の巫女を生贄に差し出せと山奥の村に要求した山賊を凹ったりとか、神殿で私腹を肥やしていた神官を凹ったりとか、9割方女神の都合というか感情というか欲望というか、そういったものに対応する雑務であった。


 まあ、いくつか雑務という範疇に入れてはいけないものも入ってはいたが、首領の主観的には雑務であった。

 山賊を凹るのは村の人間を戦闘員に仕立てて、彼ら自身にやってもらったし、私腹を肥やしていた神官はソードウルフが張り切って一人で解決した。


 そんなわけで、女神の襲撃を受けても「ああ、またですか」と薄いリアクションを返す様になっていた首領だが、今回は少し様子が違う。


 誰だか分からないが「クソジジイ」という相手に対して腹を立てているようなのである。


 まあ、女神が腹を立てる相手なんで「おそらく、神か悪魔かなんかなんでしょうねぇ」と首領は予測を立てているが、鬱憤を一通り吐き出すまでは用件は口にしないだろうと、ただじっと女神の罵倒を聞いている。


 聞き流したりしようものなら、すぐさまそれを感知して、最初からエンドレス状態になるのは目に見えている。

 人の話をじっくり聞くことがあまり苦にはならない首領とは言っても、意味も意義も無い罵倒(それも自分に向けられたものでない)をじっくりと聞くのはなかなかの苦行である。


 「まあまあ、女神様、お口湿しにお茶でも一杯どうぞ?」

 「あら、気が利くわね・・・ってこの娘、誰よ?」


 女神に緑茶を差し出した存在、それはこの世界ではかえって珍しい、首領の元の世界の日本人女性の外観を持った存在であった。


 


 ◆

 ◆




 「へえ、影武者ね・・・私も作ろうかしら?」


 女神に茶を出した存在、それは首領の影武者であった。

 本来、首領と全く同じ外見、言動をするだけの存在なのだが、どういう訳かそのメンタリティは女性のものになってしまったらしく、基地に女神が放置した通販カタログなどの女性向けの服を見てはため息をついたり、首領やソードウルフたちに料理を作って感想を嬉しそうに聞いていたりと、一緒にいればいるほど女性らしいところが首領たちにもはっきりと分かる様になっていた。


 自分に関しては女神直々に変えられてしまったため諦めざるを得ないが、確かに女性にこの外見は気の毒であるし、自分と同じ外見の存在が女性的に振舞っている姿を見るのは首領の精神的にもダメージがある。


 ダメもとでと、影武者の仕事をする時以外は本人の望む人間の女性の外見に姿を変えられるよう魔改造を行ってみたところ、あっさりと成功してしまったのだ。男性形から人間の女性形へというのも少しアレだが、「ザボー○ーのミス○ーグみたいなもんですね」と首領はあまり気にしていない。

 

 望みつつも諦めていた外見を得た影武者は当然喜んだし、自分と同じ外見の存在がいそいそと家事を行う姿を見ないで済む様になった首領も喜んだし、訳の分からないなりに周りが喜んでいる姿を見て根が善良なソードウルフも喜んだ。


 そんな訳で本拠地に首領が居る時は、自然、影武者は人間の姿をとるのが普通になっていて、それに首領もソードウルフもすっかりと馴染んでしまったため、女神に最初「誰?」と聞かれても「え? 影武者さんでしょうに、なにを言ってるんですか?」と逆に不思議に思うほどであった。


 「まあ、いいわ、ともかく、首領、あんた『勇者』をなんとかしなさい!」




 ◆

 ◆



 女神の話によれば、こことも首領の世界とも別の世界の神が夫婦喧嘩の時に避けた皿が下界まで飛んで行ってしまい、それにブチ当たった少年が死亡。

 お詫びにと経験値で際限なく成長するという勇者の能力を与えて、この世界に放り込んだのだそうだ。


 神々の世界も色々とせちがらく、自分より下の存在が作った世界には比較的簡単に干渉出来てしまうらしい。


 神様たちの協会みたいなトコを通して苦情は言ったものの、既になされてしまった干渉も人間が関わることなので女神が直接介入する事も難しく、かといって放置すれば勇者に留まらず『英雄』と化して多くの人間の運命を巻き込んでしまうのだそうだ。


 「なんか、秘密結社というより『すぐやる課』みたいな扱いですよねぇ」と、結局、その勇者への対応を丸投げされた首領にしてみるとため息しか出ない。

 この世界に連れて来た女神や、厄介ごとのネタを放り込んだ「ジジイ」としか聞いていない別の世界の神など、神という存在に対しての敬意を失わせるのに十分な出来事が続いて、「元の世界の神様もろくなもんじゃなさそうですねぇ」と会う前から不信感マックスである。



 さて、問題の少年だが、今現在、本業である冒険者の仕事を放り出して虫取りに夢中になっている。


 なんせ、現在の年齢は11歳。


 なんと小学生である。


 元々が実家だのなんだので武術の鍛錬を積んでいたわけでもなく、野球やサッカーの少年チームに入って練習を重ねていたわけでも無い。


 学校行って、休み時間、放課後と友達と遊んで、家帰って、塾のある日は塾に行って、テレビ見て、漫画読んで、ゲームしてといった生活をしていた少年である。


 最初の内こそ「おお、ゲームみてぇだ!」と喜んでモンスターと戦っていたものの、手のマメは潰れるわ、漫画もテレビもゲームも無いわ、食い物は食い慣れないものばかりだわ、周りは大人ばっかりで子ども扱いされまくるわですっかりとやる気が失せていた。


 元々が両親が長女と長男を連れて海外赴任、小学校の友達と離れるのを嫌がった彼は父方の祖父母の家に住んでいるが、叔母夫婦も祖父母と同居していることもあって、比較的放置されぎみであったことから、一人で居ることには耐性がある。


 最初に神様がある程度まとまったお金はくれたものの、後は誰もなんともしてくれないので、お金を稼ぐためにモンスターを倒している。

 生活のため、といった感じで過剰な熱は全く入っていないため、女神が心配する様な英雄化の兆しは全く見えない。


 これが中学生なら「俺ツエェー!!」と自分の強さに夢中になって、高校生なら「女性にモテるようになるかも?」との欲望に引きずられて、レベルアップをガンガンしてトンでもない存在になっていたかもしれないが、良く知った漫画やゲームの世界に入り込んだとかならともかく、単なる異世界に来て自分の強さにのめり込むほど妄想に傾倒しておらず、また女子と話したり仲が良かったりするだけでからかわれる小学校高学年男子にとって女性と仲良く出来る可能性が牽引力となることも無い。


 最初はそれなりに苦戦したもののレベルアップのお陰でそれほど苦も無くモンスターを倒せる彼は、経済状態も一般の冒険者より裕福なほどである。

 毎日モンスターを倒しに出なくても暮らせるほど稼げるようになっているのだが、友達もおらず、時間つぶしのネタも無いために、皆勤賞でギルドに通ってはモンスター討伐を引き受けたり、狩ったモンスターの落としたモノを売ったりしている為、自然とお金が貯まるのだ。


 装備はその分駆け出しにしては異様なほどお金がかかっている。

 この辺、「カッコいい」ものを欲しがる男の子の心理なので、「これがあれば楽に」とか「これならもっと強く」などという他の冒険者の心得としての装備投資とは大きく異なっている。

 別段それほど剣にこだわりも無かった事から強そうに見えて店での値段も高かった槍を選び、鎧なども「カッコよく見える」こと優先でレア素材をふんだんに使った鎧を「カッコ悪~」とスルーして、部分鎧を組み合わせて着ている(まあ、子どもサイズなんで全身鎧や普通の鎧でも特注じゃないと着れないということもあるのだが・・・)。

 

 途中、立ち寄った村で村の男の子が持っていたカブトムシ。

 それが彼がこの森に入って虫取りをしている理由である。


 知らない子に話しかけて気軽に友達になるなんて社交性の無い彼は、関係無いふりをしながらもウロウロして自慢話に聞き耳を立て、そのカブトムシが居るという森に入っている。


 モンスターも出る事から、普通の子どもであれば親にこっぴどく怒られる場所なのだが、普段からモンスターを相手にしている彼にとってみれば、不意打ちにさえ気をつければさほどの脅威ではない。

 

 ギルドで討伐依頼を受けたわけでもなく、「適当になんかモンスター倒して」とやってきた彼にしてみれば、モンスター退治をせずに虫取りに励んでもなんの問題も無い。


 お目当てのカブトムシを目にして、その彼の目が輝いた。




 ◆

 ◆



 目の前で子どもが泣いている。

 不釣合いに立派な槍を放置して、何か微グロ状態のものを前に涙を流している。


 お目当ての「勇者」である少年をようやく見つけた首領とソードウルフ。

 


 「あー、その子、戦闘員でも改造人間でもいいから首領の配下にしちゃいなさい! そうすれば、この世界の枠の内に収まる様になるから・・・なんだっけ、上書きよ、上書き。あんなクソジジイの世界でもこの世界にとっては上位世界だからね、そのまんまにしとくとこの世界の枠に納まらなくなる可能性があるのよ。首領の配下にしちゃえば、そっちが元の世界だの、あのクソジジイやらより優先されるから、いくら強くなってもこの世界の枠の中に納まるのよ。いいわね、ついでにあの近くの町で売ってるお菓子買ってきなさい!」


 女神に言われ、「さて、どうやって話を持ちかけたらいいか」と、ただでさえ悩んでいた所に、見つけてみればないている状態というハードモード。

 「まずは話を聞いてみるところからですかねぇ」と首領は少年に話しかけた。




 ◆

 ◆




 「スゲエ、スゲエ、首領スゲェ! ソードウルフもカッケェ! も一回、刀出して『ジャキーン!』って、おおおおお!!!!」


 あの後、少年をなんとか泣き止ませ、事情を聞いたのはいいものの、その過程の自己紹介やらなんやらで少年のテンションは急上昇。

 特に腕から刃を出すソードウルフは、彼の「カッコ良さ」センサーにメーター振り切れレベルの衝撃を与えたらしい。


 彼が泣いていた理由は、せっかく手に入れた彼的には「スゲェ、カッケエ」四本角のカブトムシを胸に止まらせて歩いていたところ、転んで下敷きにして殺してしまったからだそうだ。

 彼の目の前にある微グロの残骸。

 カブトの成れの果てであった。


 「なあ、なあ、俺もなれる? こう、カッコよく『変身!』って?」


 こちら側から切り出そうと思っていたことが、あっさりと少年の側から提案される。


 「人間だけですと戦闘員、動物やモンスターの死体とアイテムで怪人になれますよ。ソードウルフは怪人ですね。」


 「な、なら俺も怪人! アイテムはこの槍でいいんだよな!? 死体・・・このカブトでも平気か?」


 「大丈夫だと思いますよ、ソードウルフの時の狼もかなり酷い状態でしたし・・・。」


 「よし、頼んだ、首領さん。俺も怪人にしてください、お願いします。」

 ペコリと頭を下げる少年。

 つたないなりに口調もあらため、礼儀を意識した本気の様子に、女神の指示ながら相手が少年ということで内心躊躇していた首領も背筋を伸ばし、真剣に対処する。


 「わかりました。では行きます。カブト虫と槍で怪人ランスビートル、魔改造!」



 

 

 ◆

 ◆



 「シャキーン!」

 「ジャキーン!」


 両サイドからのダブルの騒音攻撃。

 首領は内心ため息を吐いた。


 この騒音、刃を出し入れするソードウルフと槍を出し入れするランスビートルである。

 新しいおもちゃを買ってもらった子と、元々持っていた別のおもちゃを持っていた子が張り合うかの様に、それぞれの武装を出し入れしている。


 ソードウルフの方はちゃんとした大人なのだが、精神年齢的に両者の差は誤差レベルしか存在しないらしい。


 「はいはい、嬉しいのはわかりましたから、そろそろ帰りましょう。それでアキラくん「ランスビートルって呼んでくれよ!」・・・ランスビートルはこの後、どうしますか? うちの基地に来てもらってもかまいませんよ?」


 子どもが一人、見知らぬ世界に放り出された状態、女神の指示が無くても放置出来ない首領である。


 「基地! 秘密基地か!? 行く行く。おー、どんなトコなんだろうな!」

 「素晴らしい所ですよ、ランスビートルもきっと気に入るでしょう!」

 「そっか、楽しみだな!」


 まるで同い年の友達の様な会話をするソードウルフとランスビートル。

 人間形態だと違和感があるが、ランスビートルの変身後の姿は元のカブトムシの影響か首領やソードウルフを上回る巨体である。あまり違和感はない。


 この大きな体というのも少年のテンションが上がっている一因だ。

 元の世界でも、この世界に来てからも常に見下ろされてきた自分が、人より高い視点を手に入れたのだ。「人間の時も大人ならなぁ」などと言っているが、それは贅沢過ぎるというものだろう。


 「それでは、みんなで基地に戻りましょう。」


 「おう!」

 「はい、首領様!」




 ◆

 ◆



 特撮やアニメの基地を期待してやってきた勇者こと少年ことランスビートルの期待はいい意味でも悪い意味でも裏切られた。


 「これ、普通の建物の中じゃん・・・。」


 秘密基地っぽい訳の分からない機械や、奇怪な造型や、先端的な情報統合を思わせるモニターなどの無い基地内部にテンションが下がり・・・。


 「え、テレビもゲームもネットも出来るの? うわ、これDVDじゃん、え、通販も出来るの? スゲェ! あ、このメシ美味い! 影武者さんが作ったの? うわ、スゲェ!」

 

 現代日本の様々なものに接触、入手可能という(それに家庭的な影武者の対応にも)状況に「スゲエ」の連発でテンションが上がった。



 「女神様、こっちのお金と向こうの円のレートってどうなってるんでしょう?」


 「ん? 一応はビジネスで決めたのあるけどね。別にいいじゃない、その子の欲しがるもの程度なら自由に買わせちゃったって。」


 「いや、生活に必要なものとか、無ければ困るものとかならともかく、他のものまで際限なくというのはですね。」


 一応はねぎらいに、その実届いた通販グッズを取りに現れた女神相手に相談をする首領。

 

 「なら、稼いだ金の半分家に入れさせて、その分、買い物は自由に、凄く高いものを買う時はあらためて相談、でいいんじゃない?」

 「俺、それでいいぞ! それにしても女神様綺麗だなぁ、あの変なジジイの神様と大違いだ!」

 「そうでしょう、そうでしょう。良く分かったいい子ね。なにかあったら首領の携帯取り上げて電話してきなさい。」

 「ありがとう、女神様!」


 女神は上機嫌で帰っていった。

 裏の無い純粋な賛辞に一連のイライラも吹き飛んでしまったようである。



 その後、通販で入手したゲーム機で、これまた通販で入手したゲームを楽しむランスビートルと、ムキになってそれを一緒にプレイするソードウルフ、盛り上がり過ぎて夜遅くまでやっているのを怒って「母ちゃんみてぇ」とランスビートルに言われ、陰でこっそりニヤニヤしている影武者の姿を良く目にする様になった。


 気付かぬ内にお父さん的ポジションを割り当てられ、「なんか秘密結社って感じしませんよねぇ」と悩みつつも「ライダー見ようぜ、ライダー」とDVDを見たがるランスビートルにどこか嬉しそうに対応する首領の姿もそこにはあった。




勇者さえその手中に収めてしまったバラン。

世界はどうなる!?

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