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番外:明るいノークライフ

番外小話連作です



 首領の「なるべく、ここぞという時にしか使わない様にね」という言葉は村人たちに伝えられた。



 「ここぞという時ってのはどんな時だべか?」


 「オラ、農作業の時だと思うがな」


 「狩りの時とかもそうだべ?」


 「魔物さ来た時とかか?」


 「家事や子守だって大変だべさ」


 


 結果、家の中では元の姿、外では戦闘員姿になっていい、という村の不文律が定められた。


 まあ、家の中に物を運び込んだり、主婦の家事もある。


 結果として「ただいま」と家に帰ってきた挨拶をした時が変身解除、「行って来ます」と挨拶して出る時が変身となった。


 子供等が時々それを忘れて、母親やら父親から拳骨を食らっている。


 更にものぐさな連中は「変身」が「行って来ます」、「変身解除」が「ただいま」となってしまい、徐々にそれが主流となって、この地方独特の方言とまで化すのである。





 ◆

 ◆




 

 ソウの妹、サラは村の人気者である。


 明るく爽やかな性格の上に、村の人々を気遣い更には治癒師として、病気や怪我からも守ってくれる。


 その上見た目も良く、村の独身の若者からは女神の様に見られている。



 老人たちも自分の家族より自分の体調を知っていて、何かにつけて気にかけてくれるサラの事を気に入っている。

 「自分の孫の嫁に」とサラの見ていない所では、その孫たちがドン引きするくらい熾烈な牽制合戦を繰り広げている。




 「サラさん、治療をお願いしたいだ」


 「あらあら、どうしたんですか?」


 「熊と戦って足をくじいただ」


 「一人でですか? あんまり危ない事はしちゃいけませんよ」


 「いやあ、熊なんぞ大したことねえだが、木の根に足ひっかけちまっただ」


 「治癒ヒール、はい、これで平気です。念の為湿布も出しておきますね、ほとんど良くなってるとは思いますが、痛んだ方の足にしばらくは強い力をかけないでおいてください、お大事に・・・次の方」


 「・・・・・・・・・」




 「家の中で物動かそうとして腰をやっちまったみてぇだ」


 「戦闘員姿の時とおんなじ調子やろうとしたんでしょ、変身してない時はそんなに無理はきかないんですから気を付けてくださいね。」


 



 なんとか話す機会を作ろうと診療所に治療を受けに来る若者も居るが、そもそもが戦闘員の能力ではそうそう怪我をする機会が無い上に、自然治癒力も上がっている為、診療も長続きしない。


 その上、サラ自身がそういう色恋沙汰に余り関心が無く、理想の男性像と言えば最低でも兄と同水準というハードルの高さ。


 怪人と化し、更にはポーションの力を取り込んだ事で、高司祭を上回る治癒力を獲得したサラ、しかしながら肉体的には健康そのものながら内心に傷を抱える若者が量産されている事には全く気付いていないのであった。




 ◆

 ◆




 首領によって建てられたバラン・ノーク村支部こと公民館。


 村のちょっとした集まり等はこれまで村長宅で行われていたが、ここが出来てから寄り合いはここが使われている。


 村の主婦等で持ち回りで清掃をしている為、常に綺麗な状態だし、カラオケや将棋、囲碁のセット、麻雀卓すらある為、日中は戦闘員となった事で余暇の増えた村人が誰かしら居るという状態で、ちょっと暇が出来たら足を運ぶのが村人の新たな日常だ。


 カラオケも将棋も囲碁も麻雀も、首領が遊び方や使い方を実践指導するハメになり、この為だけに村での滞在日数が増えたりもした。



 「ふっふっふ、狂気の沙汰ほど面白い」


 「神の一手を・・・」


 「王手、これで決まりじゃな・・・」


 「次、おれ、おれが歌う、爺ちゃんマイク離せよ!」


 「あー、フドん家のおっちゃん、それ、ロンね、緑一色、四暗刻、ダブル役満」




 どう見ても悪の秘密結社の支部では無いが、ここまで活用されれば首領も満足であろう。






 ◆

 ◆






 「オーガの群れだって!!??」


 「5匹って話だけんど、もっと居るかもしれねえだ」


 「騎士団に討伐されたトコから逃げてきたって噂だ」


 「あー、この国の騎士様あんま強くねぇからなぁ・・・。」


 「脅して追い払っただけで倒したって報告したんだなぁ、きっと」


 「隣村じゃ牛がやられたって話だ」


 

 「ふっふっふ、ここはワシに任せるのじゃ!」


 「「「「「村長!!!!」」」」」


 「家宝の剣の錆にしてくれるわっ!」




 怪人になる前なら皆ががっかりしていた村長の言葉(何かある度に「ワシに任せろ、家宝の剣の錆にしてくれわ!」と言っていた)だが、首領に怪人として改造されてからは意味合いがかなり違っている。


 怪人グラディウスルースターとなった村長は、実の所、村に3人居る怪人の中で一番戦闘に向いた改造人間なのだ。


 農作業用ズゴックの様なモグラ男、治癒と飛行には優れているものの戦闘能力はさほどでないポーションスワローに対し、あのサイズだから家畜に出来ているのであって、大きくなれば人間ですら危ない雄鶏と、凶器というか武器である短剣から出来たグラディウスルースターは、完全に戦闘向きの怪人である。


 村の若者に混じっていい年こいて狩りに出て、その剣の(腕の下に羽が広がり、その羽の先端が剣になっている)切れ味を試して悦に入っていた村長にとって、格好の活躍の場と言える。


 

 

 「ぬるい、ぬるいわ! 本気でかかってこんか!」


 「ふっ、止まって見えるわ!」


 「斬り応えの無いヤツめ!」


 「逃げる気か・・・だが逃がさぬ」


 


 遅れてきた厨二病とでも言うべきか、逝っちゃってるとしか言い様の無い村長無双に村民たちは引きつった笑みを浮かべるしかない。ましてやオーガは涙目どころではない。


 口止めを兼ねたオーガ退治の報奨金で、村長がこっそりと新しい家宝の剣を買ってしまい、村民に凹られるのは後の話である。



 




 ◆

 ◆





 怪人モグラ男と化した農業青年ダグ。

 気は優しくて力持ち、純朴そのもので働き者とかなり優良物件なのだが、女性には縁が無く(親友の妹のサラは自分にとっても妹という感覚)、村のおばちゃんたちをやきもきさせていた。



 「ダグもいい加減嫁さもらわねぇと」


 「いや、オラ女の人と話したりすんの苦手だべ」


 「隣村の子なんだけんどな、いい子がおるんでな、ダグにぴったりだと思うんだ」


 「オラよりもっといい人おるべさ」


 「そうと決まれば話は早い、今度村さ連れてくるだで会ってみれ!?」


 「いや・・・おばちゃんオラの言う事きいてねえべさ」


 口早にまくし立てる女戦闘員にがっくりうなだれる怪人。

 強さが偉さに繋がらないという実例とも言える。




 押し流されるまま、その隣村の子に会う事になったダグだが、いざ当日となると応援する為にやってきたおばちゃん連中やら、興味半分でやってきたおっさん連中やら、微妙な妬みの感情を押し殺している若者衆やら、何かは分からないけど目出度い事だとはしゃぐ子供らでお祭り騒ぎになってしまった。



 「は、はじめました・・・でねぇだ、はじめまして、オラ、ダグいうだ」


 「はじめまして」と連れて来た村のおばちゃんの後ろからピョコンと飛び出すなりお辞儀をした小柄な女の子は「わたしは・・・」と自己紹介をしようと顔を上げて初めてダグを見るなりダグに飛びついた。


 「うわぁ、可愛いです、手触りもいいです、お日様の匂いがします、ふわふわです、モコモコです・・・・・・。」


 唖然とする周囲、怪人姿なので分かりづらいが赤面し硬直するダグ。



 「まあまあ、すっかりダグのことさ気に入っちゃったみたいだべさ。で、あんたはどうなんだい、ダグ!」


 フォローする様に大声でまくし立てるおばちゃん。




 ・・・モグラ男のそのヒマワリ型の鼻先から鼻血が垂れた。





 その後、結婚式に首領が呼ばれて善意で新居を改造してひと騒動になったり、嫁もウサギをベースに怪人になったり、三男五女の子沢山の家庭を築いたりと色々波乱に富んだ夫婦生活を送ることになる二人のなんとも締まらない出会いであった。






 ◆

 ◆





 支部視察という名目で時々息抜きにノーク村を訪れる首領。


 本拠地に居る時と違い女神の干渉も無い為、実質的な休暇であるのだが、それでも時と場合によっては休んでいるという感覚で無くなる事もある。




 「首領様、うちの嫁が赤ん坊さ産んだだ、この子も戦闘員にしてくれねえだか?」


 「いや、流石に赤ちゃんはまずいでしょう。自分の意思で変身や変身解除も出来ませんし、周りの人や物を傷つけたり壊したりしてしまうかもしれませんよ?」


 「だども、余所の子らも戦闘員だで一緒に遊べなくなるんでねえべか?」


 「本来なら大人以外は改造すべきでないと思うんですがね」


 「うちの子が仲間外れは可哀想だべ」


 「うちの嫁もお腹が大きくなってきただ」


 「うちの子はまだ小さいだで、この間首領様が改造した時に連れていかなかったんだけんども・・・」


 「んだあな、この間の改造さ、自分で『オラも』って言った子供だけだんで、リトさんちのメグとか女の子は割と戦闘員になってねえだな」


 「やっぱ戦闘員なってない子となってる子が一緒に遊ぶのは難しいみたいだべ」


 「ウチの嫁が丁度里帰りさしてて、改造してもらってねえだ」


 「子供でも動物の死体と道具あれば怪人さなれるべか?」


 「おお、ダグとか戦闘員は凄いけど怪人はもっとすげえかんな!」


 「戦闘員さなって狩りとかも楽に出来る様になったでな、今なら動物の死体も手に入り易いだ」


 


 赤ん坊を戦闘員に出来ないか、という話から集まった他の村民からも色々な要望が出てきてしまい、のんびりと休暇をとはいかなくなってしまう。



 子供を戦闘員にしてしまった事に関してはかなり後悔している首領である。

 出来れば今後は一切したくないというのが本音だ。



 一方の村人にしてみれば、自分自身が恩恵を被り、その便利さと能力の優位さを感じている改造である。

 親の立場として、それが頼めば得られるとあれば、どれだけ頭を下げようが、どれだけ自分が何かの代償を払う事になろうが苦にはならない。



 双方話し合いの末、それでも渋る首領の頭を突如として現れた女神がどつき、「10歳になった時に本人が望めば改造する」、「余所から嫁いできたり、出戻りしたりした人間は本人の希望を確認した上で、首領が村に来た時に改造する」という決まりが出来た。



 その後も色々あって、首領による改造は年に1回だけ行われる事になり、首領が初めてノーク村を訪れ村民たちを改造した日がその日とされ、次第にただのお祭り騒ぎから行事としての「祭」へとなっていった。




 ノーク村「バラン首領様祭」の起こりである。







番外のノーク村余話です

ネタを思いついたら追加するかもしれません

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