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農村制圧計画

悪の結社バランの魔の手が平和な農村へと伸びる!



 「ソウちゃんカッコいいだよ! オラも怪人さなりてぇだ、なあ首領様、オラも怪人にしてくれねぇべか?」



 健康的に日焼けした「オレンジ色」の肌の、如何にも純朴な農家の青年と言った感じの怪人ソードウルフの幼馴染に、「果たしてそんなに簡単に怪人にしちゃっていいものなんですかねぇ」と首領は内心困惑した。



 ◆

 ◆




 ここはノーク村、怪人となってしまったソードウルフこと、中堅冒険者ソウの故郷の村である。


 あの後、ソウと旅を続けた首領は先ほどこの村に着いたところだ。


 道中では遭遇したモンスターをあっさりとソードウルフがやっつけたり、立ち寄った町で傭兵団にスカウトされたり、チンピラに絡まれている娘をヒーロー的に意味も無く高い所から登場して救って見せたりと色々あった。

 ・・・色々あったのだが、主役はソードウルフでこれだけ目立ち違和感のある外見をしているにも関わらず首領の周りは平穏であった。


 普通に物売りのオバちゃんと会話したり、農家のおっさんに畑で取れた野菜を貰ったり、見知らぬ子供に懐かれたり、その母親にお礼を言われたりと実に一般人である。


 「異世界と言えど人はそうそう変わりませんねぇ」と当初の異世界への警戒心はすっかりと無くなっている。

 何度か連絡を取った影武者は、女神にいい様にこき使われているらしい。

 割と本気で「早く帰ってきてください」と泣きつかれた。


 

 そうして到着した村の第一目標であるソウの実家は、生憎とソウの妹は薬草を取りに外出中で誰も居なかったが、その後、村長に挨拶を済ませた首領とソウはソウの幼馴染であるこの青年ダグのところへとやってきたのだった。


 久々の再会に話が盛り上がった挙句、変身まで見せてしまうソウ。

 子供の様にはしゃぎ、何度も変身をせがむダグ。


 そうして冒頭の光景へと繋がるのである。



 「まあ、この改造の場合、一般的な改造人間の悲劇ってやつは関係無いみたいなんですけどねぇ・・・。ただ、明らかに人間とは違う能力を持つ訳ですし、そう気軽に言われましてもですねぇ・・・。」


 女神によって与えられた首領の改造の能力、改造された人間は実の所、変身時こそ超人と化すが変身していない時は生命力と回復速度が上がるだけの常人スペックである。

 ゲーム風に言うとHPとHP回復量が増えるだけ、人間としてそのまま人生を送っても何の問題も生じないのだ。


 なもんだからこの場合、本人も望んでいる事だし、改造人間にしてしまっても何の問題も無いのだが、首領の倫理感と特撮的お約束へのこだわりで、お手軽に改造してしまう事に抵抗を感じているのだ。

 これがマッドサイエンティストなら、本人の意思を無視してでも改造している所。

 人格と能力の不一致が極まってしまっている。



 「首領様、俺からもお願いします、ダグの奴を改造してやってください。いい奴ですし、きっと首領様のお役に立ちます。」


 「ソウちゃん! ありがてえだよ。お願いします、首領様!」


 

 「・・・本人だけだと戦闘員にしか成れませんよ? 動物、またはモンスターの屍骸、なんらかのアイテム、それと本人で怪人に改造出来ます。」


 自分が出来る事を頼まれて自分にリスクも無く手間も大してかからないのに「しない」という事も、やはり日本人的な首領には居心地が悪い。


 それとなく条件を列挙する事で意見を変える事を促すが、そうした日本人的ニュアンスに満ちた言葉が異世界というこの場所で通じる筈も無い。


 「動物でいいだか! それなら畑に出たモグラを殺したのが有るだ! アイテムってのは道具だべか? なら古くてすっぽ抜けるんで使えなくなった鍬が有るだ! これでオラも改造人間になれるんだな! 嬉しいだよ!」


 並べられるモグラの死体と古ぼけた鍬、期待に胸を膨らませ、キラキラとした目で見てくるオレンジ色の青年。


 首領はこっそりとため息を吐くと覚悟を決めた。


 「それではいきますよ、考え直すなら今ですよ・・・(仕方ないですねぇ)行きますよ『魔改造』!」


 光に包まれ新たな姿を見せた青年に思わず首領は叫んだ。


 「モ○ラ獣人、モ○ラ獣人じゃないか! お前は戦っちゃだめだ! 人間と仲良く暮らすんだ!」


 側に転がっていたヒマワリの花の形状を取り込んだ如雨露まで合体されてしまったらしい鼻先をしたモグラの怪人に、思わずトラウマを刺激された首領に、流石の怪人たちもドン引きしている。


 トカゲをモチーフにした特撮ヒーロー作品に出てきたモグラ型のコミカルリリーフ的怪人、その死に涙した者としての譲れない一線に我を失っていた首領はようやく気を取り直し、怪人を命名しようとして乏しい英語知識を引っ張り出して硬直した。


 (英語でモグラはモール、これはいいとしましょう、鍬はホー、これもまあいいでしょう、ただ合わさるとホーモール、なんか変な響きです、狼×モグラならまだいいですが、首領×モグラなんて薄い本が出来そうです、これはナシですね。)


 「怪人モグラ男よ、秘密結社バランの為、この村の平和を守るのだ!」

 

 「おお、感激だべ。見てくれだ、首領様、ソウちゃん、畑を耕すのがこんなに簡単だべ!」


 モグラに鍬、土とこれだけ相性のいい怪人も居ないだろう。


 その平和な光景に首領は懸念が杞憂に終わりそうで、少しほっとした。




 ◆

 ◆




 「お兄ちゃん、どうしたのその格好は!」


 変身状態であるにも関わらず、一発で兄で有ることを見抜くソウの妹サラに、「血の繋がりってやっぱり凄いんだなぁ」と和む首領。


 「うわぁ、モフモフだよ、モフモフ、前のお兄ちゃんも好きだったけど、今のお兄ちゃんはもっと素敵!」


 うっとりとした声を出しつつモフモフの兄の毛皮に抱きつくサラ。

 兄と同じく青い髪青白い肌だが、兄に抱きついて顔をうずめているため、現在はその整った顔は見えない。


 兄妹ならではのコミュニケーションというより、単なるモフモフ好きに見えるのは気のせいだろうか?


 まんざらでも無い様子で優しい手つきで妹の頭をなでるソウの様子を見つつ、「やっぱりモフモフは気持ち良さそうですよねぇ」と羨ましく思う首領であった。



 



 「そうでしたか、首領様、兄の命を救って頂いただけでなく、こんな素晴らしい力を授けてくださりありがとうございました。」

 

 兄から事情を聞き、改めて感謝の言葉を述べるサラ。


 「女神様が適当に選んだなんて言えない状態ですよねぇ」と内心冷や汗をかく首領。

 慣れないと表情を読み取る事が難しい現在の外見に、ちょっと感謝する。


 「それでですねぇ」キラキラした視線に嫌な予感がして後ずさる首領。


 「な、なんでしょうか?」


 「私も改造人間にしてくださいませんか?」

 言葉は懇願だが、視線は「してくれますよね!」と強く訴えている。


 元々女性には紳士的、と言う名の弱気な首領。

 逆らえるはずも無く頷くのであった。




 ◆

 ◆






 あの後、結局、ソウの妹サラは治療の甲斐無く亡くなったツバメの屍骸と手持ちで最上級のポーションを使い、怪人ポーションスワローとなった。

 すらっとしたスタイルの良い彼女は変身後おしとやかさの欠片も無く上機嫌で空を飛び回った。


 「普通に飛べるもんなんですね、身体構造とか重力とか無視してますよね、流石ファンタジー世界ですね。」


 人間の体に鳥の羽が付いた所で飛べない。

 物理的に飛ぶには骨格を鳥のものと同様の中空構造にして軽量化した上で、水泳選手を更に極端にした様な上半身集中筋肉形状にする必要がある。


 それなのに何の苦労も無く飛んでいるのだ。

 「ファンタジーだからだね」と首領が思考放棄しても仕方が無い。




 話を聞いてやってきた村の老人、怪人の材料は無いんで戦闘員に、という爺さんをもはや惰性で改造する首領。



 「なんで戦闘員がこんなに格好いいんですか・・・。」


 どこかゴテゴテした首領のデザインをシンプルにした感じの、角とかが無い髑髏に昆虫の目玉を嵌めこんだ頭部を持つ戦闘員。

 体はプロテクターを貼り付けた全身タイツ形状で、プロテクター面積がかなり広い為ブラックワッ○マンとでも言う感じのダークヒーローっぽい、結構カッコいいデザインだ。


 「おお、ゲンじいカッコいいだよ、調子はどうだべか?」


 「腰痛も目のショボショボも無くて快調だべ! これなら畑さ、もう一枚増やしても平気なくれえだ!」


 「おお、オラも、オラも戦闘員になるだ!」


 「オラを先にしてくれだ!」


 

 「はいはい、全員やりますから並んでください。」


 首領はもはや諦めの境地に入っていた。




 ◆

 ◆




 丸一日をかけて村人全員(村長は出所の怪しそうな家宝の短剣と夕食になる予定だったらしい雄鶏で怪人グラディウスルースターとなった)を改造した首領は流石に疲れ果て、その日はソウの実家に泊まった。


 翌朝、朝食を世話になり、そのままソウと一緒に村の中を散策する首領が目にしたものは、とても普通の農村とは言い難い光景だった。




 畑を耕す戦闘員。


 野菜を収穫する戦闘員。


 狩りに出かけたのか馬鹿デカい猪を片手で担いで歩く戦闘員。


 村の中を流れる小川で井戸端会議をしながら洗濯をする女戦闘員たち。


 辺りを物凄い速さで駆け回る子供戦闘員。



 「いやあ、この村がこんなに活気が溢れるとは、さすが首領様です。」

 能天気にソウがそう言ってくるが、自分のしでかした事に今更ながら後悔する首領。


 普通の時だったら子供を改造するなど、泣いて頼まれても断っていただろうが、昨日は余りに次々と戦闘員希望の人間が押しかける為、惰性で何も考えずルーチンでこなしていた結果がこの有様だ。


 「あー、なるべく変身の力はここぞという時だけ使って、普段は使わない様にね?」

 

 「はい! 感謝して使わせていただきます!」


 「そういう意味じゃないんだけどなぁ」という首領の呟きは、何事も無かったようにスルーされる。


 多かれ少なかれ抱えていた体調の悪さや、力が足りない為苦労していた事が楽になる変身。


 経験してしまったら、そうそう元の生活には戻れない、ということだろう。



 

 「この調子でやってたら本当に世界征服出来てしまいそうですねぇ・・・。」


 「首領様に征服されれば世界もきっと良くなることでしょう!」


 特撮を見てる時は悪とされる集団の事はあまり気にしていなかったが、こうして似た立場に立たされてみると、横に並んで本気で言っているっぽいソウの様に、心からの忠誠と善意で行動していた連中も居るんだろうなぁという気がしてくる。




 ダグの畑に着くとモグラ男がのんびりと昼寝をしていた。


 その呑気そうな様子に少し考え込んでいた首領の心も少し平穏を取り戻す。


 「ダグ、首領様だ!」


 目元をグシグシとこすりなが起きてくるモグラ男は中々に愛嬌があって可愛らしい。


 日本の若い女性なら「可愛い!」と目を輝かせるに違いない。



 「首領様、おはようございますだ。怪人になったら力が有り過ぎて、朝方に大方の作業が終わっちまいましただ。」


 戦闘員を軽く上回る怪人スペック、しかも農作業特化とも言えるモグラ男である。

 自分の畑どころか村全体を耕しても一日もかからないであろう、完全なオーバースペックである。


 

 「そうだ、首領様、あの素晴らしい本拠地の様な建物はこちらには作らないのですか?」


 「あー、そうですね、女神様には支部を作ると言って出てきたんでしたね。改造する為の基礎になるものが必要ですんで、何か改造していい建物はありますか?」


 「なんでもいいんだべか? 壊れそうなトコで申し訳ねぇだが、今の納屋を作る前に使ってた古い納屋ならあるんだべが。」


 「取り敢えず見てみましょう。」


 「こっちだべ。」



 「うーん、これはボロ過ぎませんか、首領様?」


 「本拠地は何も無い洞窟でしたし、これでも平気でしょう。ダグさん、改造してよろしいですか?」


 「構わねえけんど、こったらボロでほんとに大丈夫だべか?」


 「中に何か残ってませんか? じゃあ改造しますね、『魔改造』!」


 「おお、なんか格好いい建物ですね!」

 

 「流石は首領さまだべ!」



 どんな建物がいいか思い浮かばなかった首領は田舎→なんか拠点っぽい建物→公民館? との連想で右側に事務スペース、左側に集会場の畳敷きの広間を持った平屋の建物を作り出した。


 どう見ても悪の秘密結社の地方支部ではない・・・。

 


 「首領様また何かやってるだべか?」


 「うわ、綺麗な建物だべ、貴族様の住む場所みてぇだなや。」


 「靴を脱いで・・・って全員戦闘員形態ですか・・・靴は脱げませんよねぇ・・・足拭き作りますんで拭いてから上がって下さい・・・『魔改造』。」


 「首領様、こっちの道具はなんなんだべさ?」



 「なんでカラオケセットなんて有るんでしょうか(汗)・・・公民館イメージが強すぎましたかね? あー、それはですね、こうして・・・なんで画面に出てくる文字がこの世界の言葉なんでしょうか? えっと歌を歌う為の道具です・・・。」


 「首領様! 見本を見せて欲しいだよ!」


 「おお、首領様の歌ですか、楽しみです。」


 「首領様は歌も歌えるだべか? 流石だべ!」


 「いや、あの・・・断れる雰囲気ではありませんねぇ。ヒーローものの主題歌しかカラオケでは歌った事が無いんですが・・・ってこの機械、入ってる曲がやたら多くありませんか? なんでシャンゼリオンの主題歌まで入ってるんです? あ、これはレッドマン、トリプルファイターにミツルギまであるんですか?  なんかテンション上がってきましたね、じゃ、まずは勢い付けに『ギャバン』から!」




 「「「「「「「おおおおおお~!!!」」」」」」

 




 翌日以降、農作業をしながら特撮主題歌を大声で歌う戦闘員という、この村以外では有り得ない光景があちこちで見られる様になった・・・。






また、世界征服へ一歩近づいた

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