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改造人間第一号




 「・・・まあ、よしとするしかないわね。それでは、荷物を中に置いたらチュートリアル第二弾と行きましょう。」

 先に立ち直った女神が気を取り直して言うのを、なかばぼーっとしたまま聞いている首領。

 しぐさはどことなくお間抜けで可愛らしいのだが、その外見がぶち壊してミスマッチが酷いことになっている。


 「その前に大事な事を決めなくちゃね。秘密結社の名前、何にする? 私としてはミシア様親衛隊とか女神様の美しさを褒め称える団とかいいと思うんだけど?」


 「全然、秘密結社らしくないじゃないですか・・・それに神殿とかに目を付けられそうですし。」


 「じゃあ、何がいいって言うの?」

 

 「濁音が多い、ラ行が入る、終わりが『ン』なんてのがそれっぽいです。」


 「じゃあ、私、バラが好きだからバランでいいわね?」


 「なんか有りそうな気もしますが、この世界の話じゃないからいいですかね?」


 「はい、決まり! じゃあ秘密結社バランの第一歩として、怪人を手下にしましょう!」




 

 ◆

 ◆





 「さて、チュートリアル第二弾、『改造人間を作ってみよう!』です。ちょうどいいところに死に掛けている冒険者がいますので、彼を使ってみましょう。」

 まるで料理番組で「その下ごしらえが済んだものがこちらですね」と言うような軽いノリで女神が指差す先にはまだ若い、皮鎧と金属鎧を組み合わせた装備をした男が狼の様な生き物と共に倒れている。


 「いや、死に掛けてるってそんな気軽に・・・女神様なんだからぱーっと奇跡とかで助けられるんじゃ?」

 「助けなきゃ」とは思うものの何をしたらいいかうろたえてしまう、特別な知識の無いごく一般的な日本人のノリそのままで慌てる首領。

 取り敢えずは何か出来そうな女神に頼ってしまう。



 「出来る事は出来るけどね、私の場合、存在の力が強過ぎて、これで助けたりすると彼が世界クラスの英雄になっちゃうのよねぇ。魔王とか居る世界なら勇者にでもすればいいトコだけど、この世界はそんなの居ないし、そうすると英雄王になるしかなくて、この世界全体に戦乱の嵐が吹き荒れるわね。」


 「と、とんでもないですねぇ・・・。」

 転んで出来た擦り傷を治すのに全身サイボーグ化してしまう様なものなのだろう、とファンタジーに縁の無い首領は特撮ノリに変換して理解する。


 「だから首領の出番。さあ、人間対象の場合の説明をするわね。人間だけを改造すると人間の強化になるのね。これは戦闘員クラスね。でもって怪人の作り方だけど、人間と動物またはモンスターの死体、それにアイテム、武器でも防具でも薬でもなんでもいいわ、その3つを組み合わせて魔改造すると怪人になるってわけ。ちょうど都合のいい事に、たぶん戦ってた相手だろうけど狼型のモンスター、これはブラッドウルフかしらね、ずいぶん大きいけど、それと彼の折れた剣があるから、さっきの怪人作る素材は足りてるわね。」


 「あの、死に掛けてる人やって死に掛けてる怪人にならないんですか?」


 「はい、いい質問だね、ナイス首領! 戦闘員でも怪人でも魔改造前のバッドステータス、つまり悪い状態や怪我なんかは無くなって完全な状態になるから心配要らないわよ。逆にこれ利用すれば治せない病気も治せるかもね? ・・・って早くしないと死んじゃうわよ?」



 説明の間にも徐々に弱って行き「い、妹の為に俺は死ねないんだ・・・」とうわごとの様に弱弱しい声を漏らす男を見て首領は慌てる。

 「あ、あ、あ、えっと『魔改造!』この人と狼と剣で・・・怪人ソードウルフ!」




 「わおおおおぉぉぉぉ~~んん! 死ななかった、お兄ちゃんは死ななかったぞ~!」

 青い光に包まれ、それが消えるとそこには狼の頭部を持ち、青い鎧の様な装甲とモフモフの青と白の毛並みを持った怪人が雄叫びを上げていた。



 「あー、はじめまして、秘密結社バランの首領です。こちらは女神様。」

 「やふー、元気してる?」

 どんどんと斜面に転がされた雪球の様に凄い勢いでキャラ崩壊している女神と、偉そうな外見に似合わないどこか下手に出る首領。

 助かった喜びから一転、訳の分からない人たちに直面して唖然とする怪人。


 「め、女神様、そ、それに、首領? 様・・・。」


 「おまけチュートリアルといきましょうか。そこの怪人『変身解除』と言ってみなさい。」


 「へ、『変身解除』・・・です・・・うわっ、なんですか、これ?」

 そこには元の人間の姿の男が立っていた。

 青い髪、青白い肌、目も青いと青づくしの、首領よりよっぽど主人公っぽい顔立ちの男である。


 「まだ体調が悪いんですかねぇ、顔色が悪いですよ?」

 「いやいや、こういう肌の色だって説明したでしょ?」


 女神と首領が漫才をしている横で、自分の体を確認している。


 「傷が無くなってる。それにさっきまで、なんか違う体だった気が・・・。」


 「じゃ、続いて今度は『変身!』って言ってみて。」


 「変身!」

 意外にいいノリでポーズまで取ってみせる男。

 首領は軽くパチパチと手を叩く。


 青い光に包まれ、再び先ほどの怪人の姿に。


 「おおお、凄いですよ! 前に一緒に冒険した事のある神官の『強化』の呪文よりも力が溢れてきます。今ならドラゴンとでも戦えそうだ! これは女神様のお力ですか?」


 「んー、大本はそうだけどね。今のその力を貴方に与えたのはこっちの首領よ。」


 「首領様! 命を救って頂いただけでなく、この様な力までいただけるとは!」

 純粋な尊敬に目がキラキラと輝いている。

 尻尾は千切れんばかりに振られている。


 「狼というよりワンコっぽいなぁ」などと首領は撫でくり回したくなる衝動と戦っている。


 「追加レッスン。怪人や戦闘員の戦闘力は、首領、貴方への忠誠心に比例します。今の彼はさっきより更に強くなってるの。その代わり忠誠心が無くなれば弱体化して普通の人間と大して変わらない程度まで落ちるわね。それから、こうした配下の忠誠心で首領の力も強化されるわ。この調子で自分に心酔する配下を増やしていきなさい。」

 説明を受けて「うわ、かなりえげつない反乱防止対策付き能力なんですねぇ」と自分の配下から特撮的ヒーローが出ない事に少し安心する首領。

 横では怪人が嬉しそうに尻尾を振っている。



「それじゃ、あんまり下の世界に居過ぎると歪んじゃうから私はそろそろ帰るわね。報告や質問があればその携帯で私のトコ繋がるようにしといたから、それで聞きなさい。ただし、あんまりくだらないことで電話するんじゃないわよ!」

 白い光に包まれると女神は彼らの前から姿を消した。


 携帯電話を取り出して女神の連絡先を確認すると住所録の方ではなく、専用のアイコンが用意されてそれを押すと通話出来る様になっていた。

 可愛らしいアニメタッチの女神アイコンに「似合いませんねぇ」と思った途端に激しい頭痛に襲われる首領。

 どうやら天罰モード付きの体にされてしまったようだ。


 うかつな考えはよそうと固く誓う首領であった。




 ◆

 ◆ 

 


 

 さんざっぱら女神には馬鹿にされた秘密基地へと戻ってきた首領。


 当然の様な顔をして付いてきた狼怪人に「うわっ凄いですねぇ、流石、首領様!」と感動されて、少し気分が上昇してくる。


 異世界ショッピングを満喫しただけでなく、それ以前からあちらの知識があったらしい女神とは違って、この世界の一般人であった怪人にしてみれば有り触れた事務所だろうが、ワンルームだろうがこの世界の貴族の館より更に優れた物に見える。



 満足げに改めて中を見回す首領だが、良く見ると自分が作った覚えの無いドアが一つ存在している。

 しかもその表面にはなにやら紙が貼られている。


 【向こうの物入手する必要があるだろうから、ア○ゾンとか使える様にしたからね。注文はネットで、受け取りはこのドアから受け取れるから。あと私が頼んだものも届く事あるからちゃんと受け取っておくこと!   女神より】


 日本語で書かれているため怪人には読めないようだ。

 自分が女神にパシリ的便利扱いをされている事を知られずに済んで安心する首領。

 試しにドアを開けてみると見える景色はなんかアパートのドアの前っぽい。

 手前に少し通れるスペースがあって、その向こうはブロック塀。

 横には隣の住人のものかママチャリが停まっていたりする。 



 「ここから簡単に行き来出来るんじゃ?」と思い一歩踏み出そうとするが、見えない壁の様なもので進めない。

 怪人も出られない様で「変わった景色ですね、首領!」と感心している。


 隣の家からなのか何か煮物の様な臭いがしていて、むしろそちらへの関心の方が高まっている様にも見える。



 「あー、食料とか、この世界の物手に入れるまで、それもネットで買わないとダメですかね? そう言えばここの住所ってどうなるんでしょう? 女神様に聞いてみましょうか。」

 自分が出られないのに何故か入ってくる食べ物の匂いに食欲をそそられた首領は、携帯を手に取り女神アイコンを押す。


 「もしもし、お忙しい所恐れ入ります、首領です。ネットで注文する際の住所なんですが、どこになるのでしょうか?」


 『あー、言ってなかったわね。○○市の××町の三丁目の5-29の103、首領の会社の傍よ。』


 「なるほど、有り難うございます。受け取りの判子とか、女神様のが有れば預かりますが?」


 『ないから、その辺のもの適当に改造して作っておいて、「女神」で注文してるから。』

 「それで届くんですか・・・凄いですね、日本の宅配便。」


 『首領のも「首領」で届くはずだからその判子も作って置いた方がいいかもしれないわね。』 

 

 「分かりました・・・これからピザでもネットで注文しようと思うのですが、食べに来られます?」


 『あ、行く行く。なんか辛いの入ってるのにしといて、飲み物はウーロン茶で!』


 



 ◆

 ◆




 なんとなく怪人が沢山食べそうなイメージだったので、ついつい頼んでしまった様々なピザとサイドメニュー。

 受け取りの支払いで首領は自分の財布からお金を支払ったが、その時になってようやく「こちらやあちらで何か買う必要が生じたらどうすればいいのでしょうか?」というお金に関しての疑問を抱いた。


 受け取ったものを次々と怪人に手渡して応接セットのテーブルの上に並べてもらう。

 「ありがとうございました!」と元気に配達員が挨拶するのを見送ってソファへ向かうと、女神は既に当然の様な顔をして食べ始めていた。


 コップが無い事に気付き、ピザの入っていた紙箱を千切って紙コップに「改造」する。

 意外とあっさり自分の能力に順応しているようだ。


 

 怪人はコーラの炭酸が苦手の様で、オレンジジュースをおいしそうに飲んでいる。

 女神は他の人間に「残らないのでは!?」と焦りを感じさせる程のハイペースで食べている。

 首領も取り敢えずお金の話は後回しにして、自分の分を確保するのであった。



 

 ◆

 ◆




 成人男性でも7~8人前はありそうな量の、少なくとも半分は女神の腹の中へと消えた。

 つられるようにかなり食べた首領も怪人も満腹で動きたくない状態であるのに、まだまだ余裕がある様に見える。



 「たまにはこういうのもおいしいわよねぇ。今度からはデザートもちゃんと頼んでおきなさい!? まあ、私に一声かけてきたのは褒めてあげるわ。」

 これが「デザートは別腹」というやつなのだろかと、首領は戦慄する。


 「首領様、俺、こんな美味い物食ったの初めてです!」

 怪人は苦しそうに腹をさすりながらも嬉しそうな顔をしている。

 更に忠誠度が上がったのであろう、首領はなんとなく自分の力が上がったのを感じる。



 「それで女神様、こういった支払いやら、この世界での買い物やらでお金が必要なのですが、それはどうやって稼いだら良いのでしょうか? 手持ちであちらのお金はいくらかはありますが、銀行もありませんし・・・。」


 「そうね、あっちの支払いはこのカードと、向こう行った時の現金の残りが300万円くらいあるから、それでやっといて! で、こっちはその内自分で稼げるようになるだろうけど、当座は金貨500枚くらい有れば足りるかしら?」


 「金貨500枚なんて、都に邸宅買える金額じゃないですか、さすが女神様!」

 怪人が驚いてくれたので驚きを表さずに済んだ首領は、黒いカードを手に唸る。

 これがブラックカードという奴なのだろか、本来の持ち主で無い自分が使って平気なのだろうか、と不安になりながら。


 「カードが本人じゃないって気にしてんの? そんな事言ったら、さっきのピザだって本当なら大騒ぎになってるわよ、首領のその外見じゃ。」


 言われて自分の今の姿を思い出す首領。

 あちらの基準ではどう考えてもまともではない。

 怪人も怪人姿で溢れるパワーが気に入ったのか、人の姿には戻っていなかった。


 「どういう事です?」


 「まあ大雑把に言えば問題が起きない様にしてあるから、気にしなくていいって事よ。」


 「はあ・・・。」


 「じゃ、私はまた戻るから。」

 言うなり消える女神。

 すっかり順応した怪人は手を振っている。




 ◆

 ◆



 食事も済んで色々と落ち着いた首領は、怪人の身の上を含めたこの世界の話を聞いている。


 ゲーム等で良くある「冒険者ギルド」というものがこの世界にも存在し、狼怪人はそこで中堅どころの冒険者であり、時に誰かと組んで、時に単独でと主にモンスターの討伐を仕事にしていたのだという。


 出身はここから北にある山沿いの農村。

 故郷には妹が一人。

 両親は既に亡くなっている。


 今では治療師としての勉強を終え、故郷の農村に帰って村の人たちの診療をしている妹の学費その他の援助の為冒険者となった彼は、才能と運に恵まれてここまで大きな怪我をする事も無くやってきたのだが、通常の狼退治の筈が3クラスは上回るモンスターであるブラッドウルフが相手であるというクエスト発注ミスで苦戦をし、なんとか倒しはしたものの死ぬ様な大怪我を負ったという事であった。

 

 「これが終わったら、少しまとまった金も入るし、久々に故郷に帰るつもりだったんです。」


 「そうですか、私の方はすぐにやらなくてはいけない事はありませんし、それでしたら貴方の故郷に行ってみましょうか?」


 「おお流石は寛大な首領様! ありがたい話です。」



 こうして怪人と首領は世界征服なんかなんの関係も無い、山奥の農村へと向かう事になった。



 女神には「支部開設の候補地を見に行ってきます」と告げると「留守番どうするの?」と行き先については全く気にしていない返事が返って来た。


 狼怪人の時の様に都合よく人間が近くに来る訳もないし、「さてどうしよう」と悩む首領。

 色々思案した挙句、自分の能力をパワーアップ分まで含めてチェックし、そこで見付けた「影武者創造」という能力を使う事にする。

 これは外見と言動だけ自分そっくりの戦闘力皆無の影武者を作るという能力だ。

 なんともご都合主義的だが、悪の首領には相応しい能力とも言える。

 


 「じゃ、影武者さん、後は頼みました。」

 

 「了解いたしました首領様。お気をつけていってらっしゃませ。」



 

 あちらの現金と女神のカード、それにその辺の石ころを拾って改造した女神と自分の判子を影武者に渡し、金貨を持った首領と怪人は今度こそ本当に秘密基地を後にしたのであった。






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