地獄への一本道か? 首領街道の恐怖!
お待たせしました
翻訳仕事が入ったので息抜きに書きました
「いやぁ、建物まですっかり世話になってしまって申し訳ない。これは、そのお礼と引っ越しのご挨拶を兼ねた品物です」
従者に様々な贈り物を持たせたランバートは自らも巨大な熊の毛皮を持ち「この大きさで、これだけ綺麗な状態のものは中々手にはいりませんぞ!」と豪快に笑っている。
髪の毛と共に若い頃の覇気も取り戻したかの様だ。
「髪の毛しか改造してないハズなんですけど、なんでライオンの怪人みたいなんでしょうねぇ。あの熊も自分で狩ってきたとかでもおかしくないです」和やかに挨拶を返しながらも首領は内心、首を傾げている。
戦闘員や怪人に改造したならともかく、そうで無いランバートが怪人化した人間よりパワフルになっているのだ。
引っ越しの挨拶の言葉通り、ランバートは本店をこの首領の城のすぐ傍に移した。
多額の寄進に気を良くした女神の指示もあり、本店店舗と付随するランバート邸、従業員寮も首領の手によって建てられたため、規模、性能共に従来の本店を遥かに上回るものだ。
ランバート邸の書斎も「凄過ぎて、逆に誰にも自慢出来ませんな……」とランバートが鼻白むほど。
それでもすっかりと気に入った様子で、元の自邸から運びこんだものや、新たに購入したもので、自分の城を作り上げるのに余念が無い。
建物は首領の手に寄りあっさりと建ったが、物品、人員の移動はまだで、それに伴って首領も色々と動かざるを得なくなっている。
真っ先に取り組んだのは下働きの募集と採用である。
近隣の住人が少ないため、ギズモ伯が頼りだ。
農家の三男とか、一旗狙いの若者だけでなく、病弱だったり、ケガで障害を負ったりした人間でも首領配下となれば戦闘員化で即戦力となる。
冒険者リタイア組の中には昔の商売道具を持ち出し、道中で倒したモンスターと愛用の商売道具での怪人化を目指す者も現れた。
今はまだ余りそういう動きは見られないが、リタイア組の状況によっては現役冒険者や狩人の中からも怪人化、戦闘員化を望む者が現れそうだ。
そうして押し寄せる人々を、全部飲み込む勢いで採用しているが、それでもまだ人手が足りない。
ナガト号乗組員やノーク村からの出稼ぎ組(空中戦艦ナガト送迎)の手助けも焼石に水である。
そんな状況に追い打ちをかけたのがランバートの本店移転宣言である。
自分の城と女神の神殿だけだったので「ぼちぼちと手を着けて行けばいいですかね?」とハルバートスタッグに任せて下見調査を行わせていた街道整備が、ランバート商会の本店移転に伴い、計画を前倒しにしなくてはいけなくなったのだ。
「調査と根回しはハルバートスタッグに継続してもらうとして、調査済みの道に関してはすぐにでも着手しなくてはいけません。特にこの城や神殿、ランバート商会の本店と立て続けに大きな建物が出来たにしては、この周辺の道は貧弱過ぎます」
「子供の乗用玩具、魔改造で車になりませんかね、先輩? 本物の車はパーツに分解しても運び込むの無理ですけど、プレハブが大きな店や邸宅になるんですし、いけそうだと思いません? いけそうなら、俺にカイエンお願いします!」
「道路か? 首領がズバババンって作るのか? ならオレ、バイク、バイク欲しい、ライドシューターみたいなの!」
首領が道路建設について口にすると、副長はスポーツカー、ランスビートルはバイクと早速乗り物をねだり始める。
副長も女神による改造ショックからすっかり回復し、城にも、この世界にもすっかりと馴染んだようだ。
城での娯楽として提供された特撮作品の影響もあって、バイクその他のマシンの存在に魅了された配下の怪人たちも、これを欲しがるであろう。
首領の忙しさは高まる一方である。
「とりあえず、ランスビートルはソードウルフといっしょにノーク村の人たちなんかに手伝ってもらって、道の両側を更地にして道幅を広げる準備をしておいてい下さい。副長は会社の業務の合間でいいですから、通販で使えそうなもの、特に道路とかの土木作業や新たな怪人を作るのに役立ちそうだなものを片っ端から通販で購入しちゃってください。通販の支払いは女神様のカードでいけます。暗証番号は◯×▽△です」
指示を出すと首領はナガトで王都へと向かう。
管理する側の人間を増やすことに関しては、急に立場が上がり、領地が広がったギズモ伯を頼る訳にはいかない。ギズモ伯自身がエミリアの治療で培った繋がりだけでなく、新たな知己を求めて人を増やしている最中であり、そこからの融通というのは無理な話だ。
こうなると頼れるのは国王、幸い、魔改造馬車やらなんやらで友好的な関係は結べている。
偉い人に頼まなくてはいけないという首領の心理的負担は大きいが、事態はそんなことにこだわっていられる段階ではない。
こうして王都へ到着した首領は、順番をすっ飛ばす最優遇のプロセスで国王との謁見を果たし(ついでに国宝の宝剣を頼まれて魔改装し)、担当としてデヌルゼン公爵と引き合わされることとなったのであった。
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「いきなりで王様に会えるとか、色々世話になっちゃってますよねぇ。何か、どこかできちんとお礼をしないと! ここがデヌルゼン公爵邸ですか? これまた立派な邸宅ですね。昔のギズモ伯邸を想うと格差に涙が出そうですが」
廃墟モドキの旧ギズモ伯邸と眼前の邸宅、同じ範疇に入る存在とは思えない。
魔王の侵略を撃退してもらっただけでなく、馬車や王宮の水回り改造などで首領の手を煩わせた(配下に指示してやってくれるものと思ってたら、首領自らが一々対応してしまった)ことに恐縮している王家サイドとしては、この独り言を聞いたら卒倒モノであろうが、根が小市民な首領。国王への謁見優遇など、飛び込み営業が本社社長と引き合わせてもらった様な感覚で居る。
今だ自分が畏敬を受ける立場だという実感が無い。困ったものである。
今日の首領は貴族宅への訪問と言うことで従者も無しにとはいかないためキャプテンシャークを伴っているが、いつもは豪快な船長も気後れしているのか実に大人しい。
まあ、元が漁船の船長である。
貴族相手に気後れしたとしても,背筋を伸ばして首領の背後に立っているだけで大したものだ.
門番相手に取次を頼み、さほど待たず邸内へと案内される。
流石、貴族中の貴族、室内の調度品も高価なだけでなく、その来歴が一冊の本になりそうな物ばかりだ。
それでも傍目からは悠然と出されたお茶に手をつける首領。
「お待たせして申し訳ない。人員の手配ということで、こちらでも直接声をかけたりしておっての。即戦力となり得るであろうと言う者に実は今日、来てもらっている。よろしければ、この後、会っていただけないだろうか?」
「それは実に有難いお話です。何分、こうしたことには疎いもので、すっかりお手を煩わせてしまい申し訳ありません」
公爵は今も尚イケメンの名残を残した初老の男性で、背丈はソードウルフの人間形態よりも高い。
「屋敷だけでなく、本人の格差も酷いですね」とギズモ伯が聞いたら泣きそうなことを考える首領。
それだけ余裕が無いということで勘弁してもらいたい。
一方の公爵としては、この悪意は無いが本心の良く分からない首領と言う存在の扱いに困っている部分がある。国王に対応を丸投げされることは、彼のこれまでの人生で多々あったことだが、今回ほど途方に暮れたことは無い。
正直、どう対処して良いのやら分からない、首領はその存在に関しても、その人物にしても、これまでの人生の中で公爵が全く接したことの無いタイプなのだ。
こうした場合の彼なりの処世術「誠実な相手には誠実に」で、自身の可能な限り手を尽くしてはいるものの、果たしてこれでいいのか、さっぱり自身が持てないで居る。
「父上、ダースが!」
「クラウス様、公爵様は只今来客中で……!」
本来なら許されない不躾な振る舞いだが、息子の乱入に少し救われた気がした公爵は、自身の愛馬の名前が出たこともあり、つい咎めることも無く話の先を促してしまう。
「なんとか出来るかもしれません。取りあえず、私も行ってみましょう」
全く別の用件で来た重要な来客にも関わらず、その首領の言葉に縋りつく様に厩へと足を進める公爵であった。
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「私の実家の一軒家より広いですよね、ここ」
公爵とその息子の後を追う形で辿り着いた馬小屋。
小屋と言う名称に「異議あり!!」と言いたくなる広さだ。
馬が思う存分駆け巡れるだけの広い牧場も隣接して「敷地の広さにも意味があるんですねぇ」と首領は感心している。
どこか呑気な首領とは対照的に、公爵たちは沈んでいる。
既に自力で立つ力を失った、やせ衰えたとは言え雄大な馬格の鹿毛。
公爵の愛馬である。
馬にしては長生きと言えるだろう。
首領は知らないことだが、あと4年でシンザンに並ぶ年齢だ。
事故や戦闘で傷を負ったり、病にかかったりすることもなく、これで死んだとしても天寿を全うしたと言えるだろう。
例え、そうであっても残される者の悲しみは減る者では無い。
縋りつく様な目で見られた首領ではあるが「動物単体は、あのレッサー・ベヒモスになっちゃった子だけですよね、馬車と一体化しちゃった馬はどうなってるのか、おっかなくて確認してませんし」と、既に事後に頭が飛んでいる。
「単体の改造でもなんとかなるとは思いますが、寿命での死が近いということがどう影響するか分かりませんよ?」
「怪人という存在はアイテムと死骸で誕生するという話は聞いている、死骸は無いがアイテムと合わせての改造ならどうだろう? どうなっても文句は言わん、出来るならなんとかしてくれないか?」
そう言いながら自身の佩剣を鞘ごと差し出す公爵。
子供の頃、その馬の背に乗せて貰った息子の方も、涙を湛えた目で首領を見ている。
「……いきます。公爵の愛馬ダースとサーベルで『魔改造』!」
「馬具を、馬具の用意を!」
「また公爵様を乗せられるのが嬉しくてたまらない様ですね」
逸る公爵と、涙を流したまま、それでもテキパキと馬具の装着の手を進める馬丁。
へたり込んだ公爵の息子はまだ立てないでいる。
そして、公爵の愛馬ダースは……。
「角が輝く剣のユニコーンとか、他の人に知られたら、またねだられそうですねぇ。まあ、元気になって良かったです」
いぶし銀の様な毛色と合体元のサーベルを思わせる曲線を描いた眩い角。
見るからに強そうで死ななそうである。
「丁度いい、お前もそのまま着いてって首領様の力になるのだ!」
自身が手配した首領の配下候補者と引き合わせる席に、そのまま同行した自身の四男をまるでオマケかなんかの様に引き渡すと、公爵はまた愛馬の元へと向かうのであった。
「えーと、皆さん宜しくお願いします」
途方に暮れつつも、残された面子に「挨拶は大事ですよね」と声をかける首領であった。
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城に戻った首領、道周辺だけでなく、城の周辺もナガトがそのまま着陸出来る広さの空き地が開けているのに驚きながら城に戻る。
執務室へ向かいながらモノクルニュートの報告を聞き「ランスビートルは仕方ないにしても、ソードウルフもですか?」と2人のはっちゃけぶりに頭痛を感じる。
仕事を任された2人は首領への尊崇の念の高いノーク村民たちの手助けもあり、瞬く間に道を、土地を広げ、道路整備第一期予定ルート(城からギズモ伯領境界まで)は後は首領自身による舗装工事を待つのみとなっているのだそうだ。
舗装に関しては明日から頑張ることにして基地に戻って来た首領を待っていたのは、副長が盛大に購入した玩具の山であった。
「プレバンの大人用変身ベルトにガンプラ……萬代屋に幾ら貢いだんですか、副長は……」
どっと疲れが出て、そのまま部屋に戻り、夕食まで首領が寝込んだのも無理はない。
翌日から一週間で舗装が済み、整備された街道の快適さが商会や神殿関係者、冒険者などによって喧伝され、相次ぐ要望に応える形で最終的に国の隅々まで広げられたその街道が「首領街道」と呼ばれる様になるのは、まだまだ遠い未来の話である。
ついにインフラにまで手を伸ばしたバラン
王都にまでその勢力が伸びる日は近い!
果たしてこの国はどうなってしまうのか!?




