異界からの使者、副長登場!
ご要望がありましたので、こちらも更新
本拠地である大魔城を築いた首領ではあるが「落ち着きませんし、受け取りとか用事もあるんで」と魔王の城に相応な玉座の間やら大貴族に相応しい執務室にはほとんど姿を見せずに、最初の秘密基地でほとんどの時間を過ごしている。
女神にペコペコしている姿や、一気に信仰心を失わせる様な女神の振る舞いを見せまいという意図もある。
ただ、新しく増えた部下たちから「せめて城に直接行き来出来る様にしてください」と言われたことに対応して、山中での基地の高さを城の部下たちの執務スペースと同じ高さにし、通販で買ったルームランナーを魔改造したら何故か出来てしまった動く歩道で城と繋いでいる。
入り口はそのままでエレベーターを増設した。
増設されたエレベーターは「これ、これ、この感じ! 秘密基地っぽくていいじゃん!」とランスビートルから絶賛されている。
「これで一仕事終わりですよね」と影武者の入れてくれたほうじ茶を飲みながら、ランスビートルとメタルヒーロー視聴マラソンをしようとした所で「私の神殿も同じ……いや、もっと豪華な感じで繋ぎなさい」と毎度の女神直電。下手なことを考えると天罰がオートで下るため、ため息を口の中に封じ込めたまま腰を上げる首領であった。
◆
◆
大魔城とも言うべき首領の城より大きな神殿。
別荘扱いの女神が自分の滞在ために神殿内部からの影響が外に漏れない様、ガチガチに結界を張ったため、副次的効果として外部からの干渉も一切受け付けず、その内部はとてつもない清浄さを持つ準神域と化してしまった。
女神の神託で王都から派遣された大神官が感涙にむせびながら首領を讃え、総本山に報告書を提出したため、王国内での首領の評価は更に高まるばかりである。
それでなくても登場以来、女神からの無茶ぶりがめっきり減ったこともあり、国内の神殿勢力からの信頼と感謝は首領の全く関知しないところで高まり続けており、この大神殿の建立はダメ押しと言っていいものである。もし首領が宗教関係者に何かを頼んだとしたら、二つ返事の超特急で大喜びのレスポンスが返って来たことであろう。
ここに王国内の宗教勢力も首領によって完全に掌握されてしまった。
政治、宗教を掌握し、民衆からの人気も高く、これで経済すら把握してしまったら、首領傘下のバランによる王国征服は完了してしまう。
そんな絶大な力を持つ首領ではあるが、メンタリティは日本に居た時のまま「会社への業務報告って、これどうすればいいんでしょうかねぇ」とパソコンを前に頭を抱えている。
日報や月報では当たり障りのない内容を、出来るだけ穏当な言葉で報告してきた首領だが、ここ最近の爵位や領地を得たり、貴族として配下を獲得したりなんていう出来事は業務報告で済む範囲の話ではない。
女神から(主に女神関連の支払いのためだが)お財布を預かって、経済的に全く問題無い状態の首領であるが、会社からの給料はしっかりと支払われ続けており、通帳の残高は膨らむ一方である。
「文章にすると物凄く嘘っぽいですよね、これは。悪の組織の首領みたいな外見にされた上で、改造する力を女神から与えられ、その力によって配下を獲得した挙句、異世界からの侵略で多大な貢献を果たし、貴族になって、領地貰って、城と神殿建てて……中学生の妄想でももう少し地に足が着いてます。それが現実だとちゃんと理解してもらってもそれはそれで、本社の方で重役たちが胃痛や頭痛で入院することになりかねません。誰かにこちらに来て見てもらうにしても、女神さまでもあちらの人間をこちらに連れてくるのは色々大変そうですし、実際、私なんか意識を失ってますしねぇ……短期出張とかでは無理ですよね」
そうして頭を抱えているところに本社からの電話、なんでも「そちらに色々送るための仕事をやらせる人間を一人寄越しなさい。え? 影山? ああ、首領のことね、首領にはこっちの仕事を色々と任せてるから手が回らないのよ。寄越すのが遅くなっても、こっちとしては別に構わないわよ、そちらに送るものが遅くなるだけだから」と人員の追加要請があり、大慌てで選出された社員の派遣が決まったため、受け入れの準備をしてくれとのこと。
「そういえば、私がこちらに来た代価とも言えるわが社の恩恵って、全く聞いたこともありませんでしたよねぇ」と秘密基地に取りあえずの居住スペースを作りながらも「運の悪い追加人員っていったい誰なんでしょうねぇ」と新たな犠牲者に思いをはせる首領であった。
◆
◆
「先輩、お世話になりマッスル!」と軽くポージングする茶髪の若者。
今どきのチャラ男風ではあるものの、大学デビューの後天的な努力の賜物と知る首領からすれば微笑ましさを感じる範疇である。
職場の飲み会で酔った際の愚痴の聞き役となったことのある首領は、そうした事情を知っているのでマイナスの感情を持っていないが、社内には眉を顰める人間も居たため、今回の人柱となったのであろう。
話しの聞き役として非常に優れ、また聞いた話を第三者に決して話したりしない首領は、彼に限らず社内の多くの人間の愚痴の聞き役になっているため、多くの社員の個々の事情に通じている。
高校時代に相次いで親を失い奨学金で大学を出ているため、その返済に苦労しており、出向手当分増える給料が彼にとっては魅力的だったのだろうということまで分かってしまう首領としては涙を禁じ得ない。
「マジで異世界なんスね、これSNSで拡散しちゃってもいいんスかね?」
メールですら用件が無い限り書かない首領にしてみると、SNSでの拡散など異次元の発想である。
女神はノリノリで許可を出すだろうが、会社としてはどうなのだろう。
「一応、本社にお伺いを立ててからの方がいいだろうね」
首領の返答は事なかれというより、目の前の彼のことを案じての発言だ。
もし対外的に異世界との取引を会社側が秘匿したいと思っていた場合、彼にマイナスの評価や減俸などの処分、最悪解雇なんてことも考えられる。
見た目ほど中身は軽くない彼もその辺りを理解したのであろう、そもそもが軽い会話の内容として出しただけで、どうしてもそうしたいという訳でも無い。すぐに別の話題へと移る。
「それにしても首領さん……あれ? 首領……、なんで名前言えなく……てか、先輩の苗字なんでしたっけ?」
どうやら自分だけでなく、彼も首領を首領としか呼べなくされてしまったようである。
「えっと、本社で重役連に囲まれて女神様に会って、なんか渦巻いた霧に巻き込まれて……気付いたら冗談みたいに神々しい神殿の中に居て……頭の中の女神さまの指示に従ってココに来て……あれ? 頭の中の指示っていったい……」
ブツブツと呟きながら自分の世界に入ってしまう。
「幸い、本社の方までは影響が及んでいないようですし、気にしない方がいいですよ。女神様の気が変わらない限りこのままでしょうし……」
慰める首領も少し煤けている。
そんな二人の空気を一切読まずに女神の声が響く。
「首領と後輩君揃ったわね……後輩君ってのもちょっと何よね、首領みたいな呼び名が欲しいトコね、何がいいかしらね? 悪の組織っぽい階級で」
「男爵とか伯爵とかは良くありますけど、王国の爵位とかの兼ね合いがありますからね、私も貰ってますし……神官や大僧正なんてのも神殿と問題になっちゃいますし、それ以外だと軍事階級か研究者関係ですね。他には酋長とか団長とかの長系や長官や総統なんてのも考えられます」
律儀に真面目に答えてしまう首領。
「なんかピンとこないわね、首領の補佐で副なんとかとか短めのでないの?」
「副長、副総統、副長官、次官……」
「副長が短くて良いわね、じゃ、今からアンタは副長ね、見た目はどうしようかしら? 副長って言うと新選組、漫画で見た人斬り集団よね、首領が骨+鎧で配下の怪人が獣や昆虫だし、どっちとも違うとなるとメカ系かしらね?」
「え、え、え?」
「幹部級だと人間に近い外見+メイク&特殊な衣装ってパターンも多いですよ?」
「それじゃ、面白くないじゃない、せっかくだから首領の時みたいに私のセンスが光る造形がいいわ」
なんとか後輩の被害を少なくする方向で誘導しようとする首領だが、女神の考えを変えるまでには至らない。
このままではトンデモない姿にされかねないが、メカ系ロボ系でもせめて□ボコンやカ◯タック方面に行かない様祈る事しかもはや首領には出来ない……女神との付き合いで学習してしまった首領は女神のノリ具合に諦めの境地だ。
「先にあげる能力を決めてから外見を決めてもいいかもしれないわね。首領が改造する力だし、サイズを変更する力なんかどうかしら? 怪人の巨大化なんてのも戦隊モノじゃお約束よね? 巨大化、巨大化、打ち出の小槌じゃ流石に不憫だし、巨大化光線……光線……目からビーム、マ◯ンガーじゃ鎧っぽくて首領とちょっとキャラが被るし、外道◯身霊波光線はロボと言うより仏像に近いし……」
そう言いつつ女神が取り出したのはケ◯ブンシャの怪人怪獣大百科、しかも全ではなく原色である。
思わず首領が話の内容そっちのけで注目してしまっても仕方が無いだろう。
次いで全の方も出したり、ウルトラ怪獣のものを出したりと、女神の趣向もかなり首領に毒されている。
首領のDVDを複製したのも一因と言える。
結果として、副長は色違いのジェッ◯ジャガーとも言うべき姿にされてしまった。
巨大化という要素がマッチしてしまった故の悲劇と言えよう。
女神の趣味なのかウル◯ラの父の様な角が付いていて、メインカラーが銀では無く黒になって、赤い部分がガンメタブラックに、黄色い部分が金に、青い部分が蛍光紫になってはいるが、顔の造形は、ほぼまんまである。
もちろん、自称、他称ともに「副長」固定、実に不憫な話だ。
「私はこれでまだマシだったんですねぇ」と首領が遠い目をし、「ま、マジっすか……」と副長が崩れ落ちても女神はご満悦であった。
まあ□ボパーやメ◯沢みたいな外見にされなかっただけ、まだ救いはある。
下には下があるのだ。
「じゃ、副長の仕事を説明するわね。この秘密基地のそこのドア、出入りは出来ないけど荷物の受け取り、受け渡しは出来るから、私の世界からアンタたちの会社に送るモノを宅配便の集配に渡すのが主な仕事よ。後は首領にも頼んでるけど、通販の受け取りとか、出前の受け取りとかあるわね。受け取ったら神殿の私の部屋まで持ってくること! 特に出前は3分以内に届ける様に!」
いまだ頽れたままの副長を気にする素振りすら見せず、上機嫌のまま女神は去って行った。
「ま、まあ、着任祝いってことで、何か豪勢な出前でも取りましょう! 寿司にしますか? ウナギもいいですね、最近ではパエリアや釜飯なんかもありますよ?」
半ば自棄のように色々な出前を頼み、首領配下の怪人たちと一緒に食事を取り、「おお、なんか強そう、スゲえなぁ」というランスビートルの一言でなんとか立ち直った副長であった。
新たな幹部、それも首領に次ぐ存在の副長を迎え
更に強化されてしまったバラン
脅威の巨大化能力が波乱を呼ぶ!




