山か、魔物か? バランの大魔城!
遅くなりました<m(__)m>
シャリアという人材を獲得し、ようやく回りだした首領の貴族としての領地経営。
まずは人材確保のための面接である。
首領本人はその真面目な性格でコツコツと学業も修め、ゼミの教授の推薦付きで今の会社に就職したため、お祈りメールの経験は無いが、それに心を折られる人間の姿を何度も目にしてきてしまったため、こうして職を求める人を目にするとまず切り捨てることが出来ない。
最初の数人でそれを理解したギズモ伯爵、そしてシャリアによって事前の審査、面談で「この人なら雇用しても問題無い」という人だけ首領が最終面接をするという運びとなった。
実質、面接と言う名の顔合わせである。
ちなみに最初の数人、これは断りきれない上位貴族の推薦状付きの相手であったため、結果としては問題は無く、早速怪人アックスボア、ハルバードスタッグ、ミラーアントなどとして、支度金を渡された上で首領に先行して既に領地へと旅立っている(改造馬車でギズモ伯の家へ、そこから空中戦艦ナガトで基地へというコースで領地に戻る予定の首領は途中で追い越すことになる)。
シャリアは首領の力を知ると自ら改造を志願してきた。
死体に関しては厨房に運び込まれていたメスの子牛を鬼気迫る迫力で「お願い」して確保したが、アイテムに関しては「お金になりそうなものは全部先祖が売ってしまったもので……」と涙目どころか泣きじゃくりながら首領に相談しに来た。
あまりの哀れさに「別にあちらの世界の品物でも魔改造出来ますよね」と、女神があちらの世界に行った時に使用し、秘密基地に放置されていたスマホを使うことにした首領。
女神に関してはすぐにスマホを使う訳ではないが許可も取り(「あー、あの子ね、割とちゃんとお祈りしてくれる子だからいいわよ、そろそろ何かしてあげなきゃと思ってたんだけど、首領のトコ行ったんなら問題無いわね」との快諾)、代わりにしっかりと最新の高機能なスマホを通販で購入してフォローもばっちりである。
首領にしては気が利くことに、ちゃんと色、その他の好みも女神に確認済み、海外ブランドのスマホケースまで購入している。
女神にさんざん振り回された結果、女神対策に関してはこの世界でも上位の能力を獲得してしまった首領である。
その内、神殿などから相談やお願いを受けることになるかもしれない。
こうしてシャリアは「スマホカーフ」として、念願の人並みを遥かに超える体力と、更なる計算、処理能力の向上を獲得しただけでなく、首領配下の怪人、戦闘員と遠隔通話を可能とする能力まで得た。
ちなみに牛の怪人となったせいかどうかは分からないが、栄養状態と健康状態が改善された結果、人間形態でも痩せ過ぎという感じは全く消え、ダボダボだったあのドレスも胸のところだけキツいという状態になっている。
シャリアは首領配下に他に全くそうしたスキルを持つ人間が居ないため、家宰兼首領の秘書といった立場に収まっている。
戦闘以外ではソードウルフもランスビートルも全く役に立たないのだ(小学生のランスビートルに何を期待しているんだ、という話でもあるが)。
シャリアは今も秘書的役割を果たし、最終面接の相手を首領の執務室に案内してきた。
シャリアに連れられ、室内に入って来たのはどこからどう見ても「執事」そのものといった男。
というか、これで別の職業だったら「詐欺だ!」と周囲の人間が怒り出すくらい執事している……まあ、これまでは実際には無職だった訳だが。
なんでも代々某侯爵家へ使えていた執事の一族で、侯爵家がお家騒動で断絶、職を失った後も「執事としてまたどこかの家に」と、男子には執事の、女子にはメイドの教育を徹底して行ってきたのだそうだ。
「シャリアの一族にしろ、彼の一族にしろ、努力の方向性が著しく間違ってませんかね? 結果として私は助かって有り難いんですが、これ、私のことが無ければ後何十年も同じことを続けてたってことですよね?」と首領は内心ため息交じりの感想を漏らす。
本人の人柄、能力は全く問題が無いため、そのままこの屋敷で明日から働いてもらうことになった。
事前に他の人間に話を聞いていたのか、アイテム、死体持参でその場で魔改造を受け、モノクルニュートという片眼鏡とイモリの怪人に。
「この世界にもイモリの黒焼きがあるんだ……」変なところで感心した首領であった。
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こうして一気に配下の怪人を増やし、領地ということになっている秘密基地へと帰って来た首領。
これまでの拠点は秘密基地だったのだが、領主としての館を手配しなければならない。
実際のところ、首領の領地は土地面積こそ広いものの、その大部分は森と山であり、開発も特にされていない。
ギズモ伯が爵位が上がったため領地が増えたこともあって、人口の多い農村はギズモ伯傘下に収まり、首領の領地部分での産業は農業より林業や冒険者や猟師たちによるモンスターや野生動物の狩りによるものである。
人の手が入っていない土地が多いことから他の地域ではあまり見られないモンスターや動物が居るため、それを目当てにやってきた冒険者や猟師などを相手にした町が片手で数えられる程度で、農地は家族、血族規模の開拓地が点在するのみである。
「どこに拠点の建物を建てましょうかね?」
きちんとした領主が居た訳ではなく、王家の直轄地として、何かあった際にはギズモ伯などの近接する領地の貴族が動くといった形だったため、正式な代官も存在していない。
全体としての正確な資料も無いため、そうした調査だけでも大仕事になる。
そうした後のことは置いておいても、中心となる町というものも無い上に、それぞれの町で大きな建物と言うと冒険者ギルドと商業ギルドという二大ギルド、それに酒場兼宿屋、神殿くらいしか存在していない。
魔改造でなんとかする、その元の建物が無いのだ。
「基地のある山のてっぺんとかいいな! こう、暗雲漂って時々雷鳴が鳴ったりとか」
「首領様、空飛ぶ城なんてどうでしょう? 船を飛ばすことが出来るんだから城も空を飛べますよね?」
「我輩思うに自分で勝手に大きくなっていく城などというものはどうでしょう? 周囲の素材を回収し、それを利用して増築を行い、どんどん大きく、高くなっていく、そう言えば生き物以外に感情や意思は発生するのでしょうかね? 生きている城というも良さそうですね……」
ランスビートルはホラーに出てきそうな城を、ソードウルフは呪文で崩壊しそうな城を、男爵はSFに出てきそうな城をそれぞれ思い浮かべ、好き勝手言っている。
「秘密基地との行き来が面倒になるのも問題ですからね、道などに関しては後から考えることにして、ここに作ってしまいましょう!」
通販でプレハブ小屋の組立てキットを購入。
ランスビートルやソードウルフたちとわいわい言いながら、日曜大工のノリで組立て、怪人パワーであっという間に完成したところで魔改造を施し、秘密基地とも繋ぐ。
山の数が急に増えたかの様に見えるほど巨大な城。
高さは秘密基地がある山と変わらない。
特に材質を指定した訳でも無いのに黒っぽい石、金属で作られていて、悪役感満点である。
「おお、首領、やっぱこれだよ、本拠地っての、こうボスっぽくていいよな!」
「す、すごいですね、首領様! みんなで組み立てた小屋もちょっと気に入ってましたが……」
「うひゃひゃひゃひゃ、なんと我輩の研究室まであるではないですか! 流石、首領様ですねー! うひゃひゃひゃひゃ……」
ちょっと気合入れ過ぎたかもしれない、冷や汗を流す首領だが「私の神殿も当然作るのよね?」との女神のお達しに、再度通販でプレハブ小屋を購入する首領であった。
当然、女神に配慮して、元からあった山や、首領の城よりも神殿の方が大きく豪華である(元にしたプレハブキットもワンランク上のものだ)。
ちなみにソードウルフが改造前のプレハブ小屋を気に入った様子を見せていたので改造の元にする小屋の他に、いくつかプレハブキットを購入した首領である。
ソードウルフが「自分の」小屋を作っていれば、ランスビートルも欲しがるであろうというのは既に首領の予測範囲に入っている。
若い内の苦労は買ってでもしろというが、「もう、そんなに若く無いですし、売れるもんなら他の人に売りたいところですよね、苦労なんか」と、せめて女神関連だけでも誰かに売れないかと考える首領であった。
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「おお、流石首領様、素晴らしい城、これをお一人で?」
「わ、私たちもこの城に住めるのですか?」
「あ、あの家族とか呼んでも……え、いいんですか? ありがとうございます!」
徒歩で王都からはるばるやって来た新たな配下たち。
それでも改造の恩恵で常人では考えられないスピードでの到達である。
最後の最後で速さを競い合った挙句、城の巨大さに遠近感を狂わせ、予想以上の時間スパートをかけ続けた結果、息も絶え絶えとなっているアックスボアとハルバードスタッグは感想も言えずに居るが、その表情は嬉しそうだ。
「林業関係はアックスボアに、街道警備はハルバードスタッグに、町の現状調査に関してはミラーアントにそれぞれ任せます。それと城の管理はモノクルニュートに、あ、別にすぐに動かなくていいですから、まずは自分の部屋を確かめて荷物を置いて一休みしてください、お腹の減っている人が居れば食堂の方に来れば食べられるようにしてありますからね」
ようやく、丸投げできる人間が増えて首領のテンションも上がっている。
城が巨大な分、個々の部屋や共通して使用する場所などはかなり広い。
水周りや寝具などは何故か現代日本のこだわりの品々が使われているため、実のところ王宮を上回るレベルである。
特にトイレ、浴室は何人か居る女性の配下から大絶賛され、瞬く間に噂として広まり、王宮や王都の代表的建物、大神殿などの改装に首領が駆り出される結果へと繋がった。
「配下の人が増えて楽になると思ったら、なんでこんなに忙しくなってるんでしょうねえ……」
首領のボヤキに追い討ちをかけるのは、いつものごとく女神の無茶振りである……。
「なんか、首領の会社から業務内容について問合せがあったから、書類作って出しといて、あ、明日までね」
ガックリとうなだれる首領であった。
ついに姿を現したバランの大魔城
次々と現れる新たな怪人
果たしてこの国はどうなるのか!?