6話
本日(2012/1/2)更新の第一弾です。
本編の第一章の六話目です。
では、どうぞ。
石畳で舗装された中世風の大きな広場に俺はいた。
周囲にはすごい数の人たちがいる。アメリカ枠やイギリス枠もあるのだ。老若男女どころか、人種的にも千差万別なのは当たり前のことだ。
だが、全体的な傾向として金髪だの銀髪だのの割合が多いように思う。しかもそういった人間の二割近くが、顔立ちが日本人なのに、蒼い瞳やらオッドアイだったりしている。
「なるほど。日本人の顔に西洋系のパーツをむりやりくっつけると、こういう痛々しい結果になるってことか。厨二病を発症していた人は、これから一週間、大変だな」
自分の容姿に気がついた連中もいるのだろう。厨二病患者たちの中には悲鳴を上げたり、マジ泣きしているのもいる。なんというか……ご愁傷さまです。
俺は黒髪黒瞳を選んだ自分の選択に最大級の賞賛を贈りつつ、悲鳴を上げている人たちの脇を抜けて広場から出ることにした。
装備を整えるための武器屋を探すためだ。
初期状態の職業は全員『見習い』職。
この職業の最大の特徴は、あらゆる装備品を装備できることだ。そのため、このゲームには武器の初期装備というものがない。
防具については『庶民の服』という微妙な初期装備があるのだが……。
街中をぶらぶら歩いていると、いくつか武器屋は見つかった。
だが、どの武器屋も異常なほどの混雑ぶりだ。たしかに初日のログイン直後なら、武器を求めてプレイヤーたちが殺到するのも道理だろう。
それから延々と王都の町並みをさまようこと、一時間。
俺はようやく人通りの少ない細い路地の先に、小さな武器屋を見つけることができた。
「へい、らっしゃい」
店の中では、ねじり鉢巻きをしたガテン系のNPCが店番をやっていた。どうでもいいが、店の中にプレイヤーが誰もいないんだが……。
「あんちゃん、『見習い』かい? なら、このあたりの武器がお勧めだよ」
NPCの示す棚を見てみると、たしかに武器が置いてある。竹刀、銅の剣、竹槍、銅の槍、釘バット、トゲ付き棍棒、石斧、ナイフ、杖……と、種類も豊富だ。
だが一つとしてロクな武器がない。アイテムランクも売値とともに記載されているが、すべての商品がCheapだ。そして値段が異常に高い。
今まで廻った武器屋の倍以上。武器一個買うだけで、初期配布の金はほぼゼロになる。どうりで他のプレイヤーたちがいないわけだ。
俺もこの店で武器を買うべきか、それともより安いものを求めて他の武器屋を巡るか……メンドイし、ここで買ってしまおう。どうせ混んでる今日は防具を買いに行く気はないし、金は全部使っても惜しくない。
そんなことより早くコンボをやってみたいし、ステップやらジャンプの練習もしたい。
「銅の剣くれ。一本な」
「おおっ、あんちゃん。お目が高いね」
通常の二倍以上の値段で銅の剣を購入した俺は、ぼったくり武器屋を出ると、そのまま王都の外へと向かった。王都を出る直前に携帯食料を持っていないことに気がついて、NPCの運営する露店に飛び込んだのはご愛嬌といったところだろう。
対戦で負けて殺されましたというならともかく、餓死――HRの払底による継続ダメージが死因となること――ではあまりにも格好悪すぎる。
露天で一番安い携帯食料を買うと、ちょうど所持金はゼロになった。現実世界と同じく、俺の財布に春が来る日は訪れるのだろうか?
城門から一歩でも先に出ると、そこは戦闘エリアだ。
王都から北のドニーの街へと伸びる街道沿いの草原を見渡すと、そこはモブ狩りに勤しむ人たちでごった返していた。
遠目に大きなウサギやらバッタに、剣や槍で斬りかかっているプレイヤーの姿が見える。
「こんだけ人が多いと、練習するような場所もとれないか?」
人気のない場所を求めて、しばらく街道を歩いていると、人でいっぱいだった草原は、いつしか人気のない荒地へと変わっていた。もう少し先は岩場になっているようだ。
「目立たないように、今日はあの岩場で練習しようか」
岩場に着いた俺は、まず自分の現状を確認することにした。
ステータス画面を開けると、レベル1、スキルポイントは30の初期配布があった。
続けて装備画面を開けると、銅の剣、庶民の服を装備している。盾などは持っていない。
さらに熟練度/スキル画面を開けると、中型剣スキルとしては初期スキルの『上段斬り』が習得済みに、中型剣熟練度25で『中段斬り』のスキルが習得可能になっていた。
「とりあえず、『中段斬り』は習得しておくか」
スキル習得後、『上段斬り』『中段斬り』をそれぞれ実行して性能を確かめてみた。
『上段斬り』スキルは、相手の上から大振りするスキルだ。発生が少々遅く感じる。
『中段斬り』スキルは、自分の胸くらいの高さを剣で横に一閃させるスキルだ。上段斬りよりずっと発生は早いが、それでも発生速度には不満が残る。
さらにどちらの技も突進力に欠けるため間合いの取り方が非常に難しい。よほど接近した状態からじゃないと、空振りの危険性がある。
「こりゃ使いづらいな。うまいこと相手に接近する手段がないと、対戦にならねーぞ」
さらに剣を持ったまま、ステップとジャンプの性能を確かめていく。
結果としてステップもジャンプも、実行時の調節でロングステップ(ジャンプ)とショートステップ(ジャンプ)を使い分けられることがわかった。さらにステップとジャンプを合計で五回以上連続で実行すると、数秒間の硬直が課せられることも判明した。
「なるほど。これがベーシックスキルの回数制限か。たしかこの回数は職業依存だっけな」
ベーシックスキルは、攻撃回避とコンボの要だ。使用回数には充分な注意が必要だな。
ベーシックスキルについてもひとしきりの確認を終え、『中段斬り』と『上段斬り』を繰り返すコンボの練習している時だった。
前方の岩陰から現れる、モグラらしき奴らが二体。
大きさはスクーターほどで、周囲の岩場と同じ色の肌をしている。頭上に表示されている名称は、見た目のまま『岩モグラ』である。
「なんでモグラが地面に潜らないで、太陽の下をうろうろしてるんだ?」
ク、クック。キューッ、キュキュキューッ。
モグラの生態について考えているうちに、当のモグラたちがぶっとい腕を振りかぶりながら襲い掛かってくる。
「これがいわゆる、不意を突かれて先制されましたってやつか?」
二体の同時攻撃をサイドステップ一発で回避すると、すれ違い様に目の前のモグラの隙目掛けて『中段斬り』スキルから始まるコンボを叩き込んだ。
ビシッ、ザシュ、ビシッ、ザシュ。
モグラにぶつけたのは<中段斬り⇒上段斬り⇒中段斬り⇒上段斬り>の四段コンボ。さらにコンボの四段目を入れると同時に、バックステップで距離をとる。バックステップ終了と同時に、俺にはステップ回数が五回に達したことによる強制硬直が課せられる。
バックステップの代わりに、もう一段『中段斬り』を入れることもできたが、コンボ終了後の隙を突かれたくなかったため諦めた。
だがその選択は正解だったらしい。硬直中の俺に、モグラからの追撃はなかった。
それにしても結構、このモグラ結構硬い。
『中段斬り』と『上段斬り』を繰り返すコンボをぶつけても、敵のHPは二割も減らない。
だけどそれでも負けるような相手じゃない。
モグラのスピード自体はかなりのものだ。だけど、二匹しかいない上に行動が直線的だから、冷静に相手の動きを見ていれば、ステップやジャンプでの攻撃回避は難しくない。
結局。
時間こそかかったけれども、俺の『機械仕掛けの箱庭』の初戦闘は、モグラ二匹がポリゴン片に還るという形で決着がついた。
俺はたまにポップするモグラをコンボ技で狩りつつ、一日中、延々とステップとジャンプの特性把握と、そのスムーズな発動のための練習を続けていた。
モグラも一時間に一回くらいのペースでポップしていた。だけど同時に二匹以上に襲われることはなかったため、逆にベーシックスキルやコンボのいい練習台になったもんだ。
レベルは定期的なモグラ狩りのおかげで六まで上げることができた。街道沿いの平原で狩りをしていた人には遠く及ばないだろうが、練習のついでで上げられたのなら御の字だろう。
ちなみにNPCが売ってた携帯食料の味は、激マズだった。