4話
本日(2012/1/1)更新の第二弾です。
本編の第一章の四話目です。
少し短めです。
では、どうぞ。
俺たちは夕食を終えて、部屋に向かって廊下を歩いていた。
後は部屋に戻ってアバターメイキングをする必要がある。明日は朝からゲームにログインする予定だから、今夜中にやらなきゃいけない。
「それじゃ明日は七時半から朝ごはんです。九時からはログイン開始なので、夜更かしして寝過ごさないように注意してくださいね。と・く・に、兄さん、いいですね?」
「わーってるよ」
「ホントですか? 毎日、寝坊して学校に遅刻すれすれなのに?」
「あれは、たまたまだよ。たまたま」
「たまたま? 兄さんは毎日の出来事をたまたまって言うんですか? 一度、たまたまっていう単語の意味を辞書で調べることをお勧めします」
あーあ、まーた始まった。ほとんど日課だよな、これ。
ふう、というため息が隣から聞こえてきた。見ると、苦笑を浮かべている坂下さんだ。スルースキルのマスターランクを極めている彼女が、興味を示すなんて珍しいな。
俺の視線に気がついたのか、坂下さんの方から話しかけてきた。
「あの二人は、なんだかんだいって仲がいい兄妹ですよね。綾が聞いたら、全力で否定しそうですけど」
「ああ、確かにそれはあるな。二人とも打てば響くっていうか、息がぴったり合ってるし」
「ふふ。ダイさんも中々言いますね」
「まーね。これでもあの二人とのつきあいは、そこそこ長いし」
「なるほど。それより明日のこともありますし、私たちは先に部屋に戻りませんか?」
「そうだね」
俺と坂下さんは、口喧嘩に夢中な水原家の兄妹を置いて、それぞれの自室へと戻った。
彼らが明日、寝坊しないことを祈るばっかりだ。
部屋に戻った俺は、アバターメイキングをすることにした。
「えーと。なにをどうしろだって――?」
部屋備え付けのPCに、自分の操るアバター情報を登録していく。
とはいっても、受付時に行ったスキャンによって自分の性別や体型といった基本的な情報はすでに登録されていて、変更はできなくなっている。
ここで登録する内容は、主に『髪色』『髪型』『瞳の色』『アバター名称』といった基本的なアバター情報に加えて、個々人のこだわりでステータスに関係ない小物を追加できる『アバターデコレーション』だけだ。
髪の色か……『黒』だな。日本人なら黒以外にない。
髪型か……『短髪ツンツン頭』で。俺が対戦でよく使うコンボの強いキャラは、短く切った黒髪をツンツンに立てていた。それにあやかってみよう。
瞳の色か……『黒』以外にあるか。俺は日本人だ。蒼だの翠だのが似合う人種じゃない。
名前か……『DAI』で。やっぱり使い慣れた名前が一番だ。
デコレーションか……『赤バンダナ』だな。俺が使う格ゲーキャラは、どいつもこいつもみんな赤バンダナを巻いてるし。
「よし。これで決定だな」
俺のアバターの、常識的で平凡な設定の中にキラリと光るセンスのよさに自分でも驚きだ。これで明日の初ログイン時に、他の三人からの賞賛の声があがることは間違いないだろう。
これほどコンボをビシバシ決めるのが似合うアバターは、他にないはずだ。
「んじゃ明日は早いし、今日はもう風呂入って寝るか」
この時、俺は気づいていなかった。
俺が設定したアバターの外見は、ゲーセンで『DAI乱舞』と呼ばれていたキャラの姿そのままだったということを。
****
翌朝。
七時半の約束だった朝食の時間だが、結局四人全員が食堂に集まったのは、実に八時過ぎとなった。
原因はとある人物の寝坊である。
「だから、あれほど言ったじゃないですか。寝坊はしないでくださいねって」
「んなこと言ってもよぉー。うぅぅ、ねみぃ~……zzz」
「こんなところで寝ないでくださいっ」
潤は寝坊をした。綾ちゃんが業を煮やして直接起こしに行くまで、起きて来ないほどの堂々たる寝坊っぷりだった。
おかげで朝から綾ちゃんの機嫌は悪化の一途をたどっている。坂下さんは、伝家の宝刀スルースキルを発動し、われ関せずといった様子で紅茶をすすっていた。
とりあえずβテスト開始まで時間がないのにちっとも話が進まないので、俺が事情を聞くことにした。潤は相変わらず眠そうだが、俺にはこういう時用の秘策がある。
手順は簡単だ。
アメリカンコーヒー用の大きめカップいっぱいに濃い目のエスプレッソを淹れて、ブラックで無理やり一気飲みさせればいいだけだ。後はカフェインさんが仕事をしてくれる。
ということで、実行してみた。
「ガボボ、ゴホゴホォッ……グェ、はあはあ。ダ、…イ」
「目が覚めたみたいでなによりだ、マイフレンド。それで早速だが、昨日はあの後何時頃まで綾ちゃんとやりあってたんだ? 時間がないから、こちらの質問には手早く答えるように」
「テ、テメー後で覚え……はい。だいたい一時間くらいです」
当初反抗的な態度を取る被告人だったが、さっきまでスルースキルを発動していた坂下さんが、手際よく二杯目のカップを準備してくれると、素直に質問に答えてくれるようになった。
やっぱり話を聞いてもらうには、こちらの誠意を示すことなんだな。
「でもそれくらいならアバターメイキングやっても、充分寝れただろうに。実際、綾ちゃんはちゃんと七時半には集合してるわけだし」
「いや、そのアバターメイキングに時間がかかったんだよ。せっかくのVRデビューなんだし、できるだけかっこよくアバターメイキングしてーじゃん」
「それで寝たのは結局何時だったんだ?」
「たしか五時は過ぎてたと思う」
あ、あほか、こいつは……。実質睡眠時間は三時間未満じゃないか。
「それで。結局、満足いくアバターはできたんですか?」
「そりゃ、もちろんだ。かっこよさの粋を極めたって言っても過言じゃねーな」
「……ふう、どうだか」
どこまでも不信感あらわな綾ちゃんだった。
結局、その後はみんな大急ぎで朝食を済ませて、それぞれの部屋へと戻ることになった。
いよいよβテストが始まる。俺は、VRSログイン用の専用スーツに着替えると、ベッド付属機器として置かれているVRSインターフェースをかぶった。
VRS専用スーツとは、外界からの刺激を完全にシャットアウトするための特殊素材で作られているスーツだ。しかもトイレの大も小も自動で済ませてくれる優れもの。
これのおかげで、プレイヤーは仮想世界に長時間ログインしても、オモラシの心配からは解放されている。
VRSインターフェースとは、五感ごと仮想世界にログインするための機器で、フルフェースタイプのヘルメットに似ている。バッテリーを内臓しているためかなり重いが、バッテリーのみでは長時間の使用はできないらしいので、使う場合は電源コンセントが必須だ。
ログイン準備を全部済ませてベッドに横たわり、ログイン開始となる9時を待っていると、やがてピンポンパンポーンという軽快なチャイムとともに、放送が流れ始めた。
〔九時になりました。これより『機械仕掛けの箱庭』のオープンβテストを開始します。テスターの皆様は、順次ログインを開始してください〕
放送が流れると同時に、俺はVRSインターフェースの電源スイッチをONにした。




