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閑話

一章と二章の間のお話です。

現実世界側のお話となります。

閑話のため、かなり短めです。


では、どうぞ。

 12月25日。

 今日は年に一度の祭典。世間ではお祝いムードに満ち溢れ、お祭りな気分を満喫する日。

 クリスマスである。

 しかし今年のクリスマスは、例年とは異なるクリスマスとなった。実際、世間ではお祝いムードどころではない。

 自分の親しい人が帰って来ない、なんとかしろ――と、殺気だつ人。

 情報を隠すな、正しい情報をよこせ――と、狂乱する人。

 自分たちだけいい思いをしようとするからだ、ざまあみろ――と、嘲笑する人。

 ふーん、あっそ――と、無関心な人。

 世間は斯くも多種多様な感情で埋め尽くされていた。ただ彼らに共通していることは、クリスマスを祝う雰囲気ではないということだ。

 その理由は、『機械仕掛けの箱庭』のオープンβテストにおける致命的な『事故』の発生。そしてそれに伴うβテスト失敗の発表にあった。


 米国国防総省の一室での出来事である。

「レイナード大将閣下」

 軍服を着た若手の将校が大将と呼ばれた男の目の前で敬礼する。身に着けている彼の階級章は中佐を示している。

「定時連絡です。ここまでTMMG計画フェーズ3はすべて順調に推移しております」

「うむ」

 必要な作業をこなすだけという無機質ぶりで、淡々と報告書を読み上げる将校。

「またわが国の被験者の家族への対処も完了しております。英国政府と日本政府側の対応についてもわが国同様、対処は万全と連絡が入っております」

 クリスマスイブの夜。

 『機械仕掛けの箱庭』のオープンβテストに参加したテスターたちは、望まぬ形でVR世界へと囚われた。世間には一切の真相が知られぬままに。

 三ヶ国でそれぞれ実施された公式発表は、おおむね以下のようなものであった。

 いわく――。

〔VRSの機能に致命的な欠陥が生じる原因不明の『事故』が発生し、全ユーザの意識が戻らない状況にある〕

〔強制的にVR機器を取り外すことは、テスターの神経系を傷つける恐れがあるため不可能である〕

〔国家機密と軍事機密が絡むため、現時点ではこれ以上の発表も不可能であるし、テスターへの面会も許可することはできない〕

〔テスターの家族への金銭的補償には応じる〕

 つまりVRテストにおける『事故』なので補償金だけ払うが、情報の開示は一切拒否するという内容である。この発表で被害者の家族親族が納得できるはずもなかった。

 だが、その無理を押し通すことができるのが、権力というものである。

「そうか。では、いよいよなのだな」

「はい。TMMG計画のフェーズ3実施によって、われわれは一万五千にも及ぶ貴重なサンプルを手にしました。もちろん適性のない者から死んでいくはずですので、その数は大きく減るでしょうが」

「ふん。サンプルか」

「いかがなされましたか?」

「……いや、なんでもない」

 軍人の守るべきは国家の威信、国民の生命と財産。

 大切なそれらを守るための貴重な人材をサンプル呼ばわりすることに、レイナード大将は違和感を覚えていた。しかし同時にその感傷が偽善であることにも、彼は気がついていた。

 自国民や同盟国民に犠牲を強いているという事実、そしてその犠牲の上で守ろうしているものもまた、国民の生命と財産であるという矛盾に、あえて目をそむけていた。

「今回の『事故』を受けて、民間への技術移転の流れもすべてストップとなります。これによって、わが国を敵視する国家やテロリストへの技術流出は最小限に抑えられると想定されています」

「わかった。他に報告はあるか?」

「いえ。以上で報告は終わりです」

「そうか。なら下がってくれていい」

「はっ」

 将校はビシッという擬音が聞こえてきそうなほど隙のない敬礼を示す。彼が部屋の中から出ていくと、レイナード大将はポツリとつぶやいた。

「ふん。ワシはいまさら止まるわけにはいかんのだ。そのためにVR構想とTMMG計画に長い年月と、心血を注いできたのだから」


以上です。

次回以降、本編の第二章に入ります。

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