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機械仕掛けの箱庭 ~The Mechanical Miniature Garden~  作者: 雄堂 栫
1章 ~仮想なる箱庭へ~
11/17

10話

本編の第一章の十話目です。

では、どうぞ。

 岩モグラ生息地の岩場でのことだ。

 俺の目の前で、一組の少年少女が、手に汗握るにような射撃戦を展開していた。

 少年は小型の弓矢。少女は杖を手に持ち、相手に必殺の一撃を叩き込むべく、ともに牽制の弾を放ちあう。

「そこだっ」

 シュッ。

「残念でしたね、甘いですよ」

 放たれた矢をサイドステップで回避すると同時に、右手に持った杖を掲げる少女。

「これで、どうですか!!」

 ヒュン。

 少女の持つ杖の先から生じた光の矢が、男の胸元に刺さらんと突き進む。

 杖のノーマルスキル『バレット』。

 威力自体は大したことない。だが遠距離攻撃ができる上、スキル種別がノーマルスキルなのでMPやTPの消費がなく、使いやすいスキルだ。

 少年はサイドステップでバレットを回避すると同時に弓を構え、射撃体勢に入る。少女は回避のためのサイドステップを始めるが――。

「えっ!? どうして」

 それは少年の罠だった。

 射撃体勢の構えは、スキルを発動なしの、あくまでただの構えでしかなかった。当然、矢は放たれず、そのサイドステップは少女にとって致命的な隙になった。

 一度発動したスキルは、途中で止めることができない。つまりサイドステップによる移動をキャンセルすることはできず、無防備での移動状態をさらすことになる。

 さらにステップ後の硬直も問題だ。ステップ直後にもう一回ステップするにしても、一瞬のタイムラグは避けられない。

「残念だったな。これでチェックメイトだ」

 引き絞られる弓。今度こそ間違いなく、弓矢スキルが発動している。

「きゃゃぁぁぁあああっっ」

 矢は狙い違わず、少女の腕に当たる。

 本来、対人戦だと、ここから弓矢スキルによるコンボ射撃が続く場面だが――。

「よし。俺の勝ちだな」

 これは仲間内での対戦でしかないので、ここで終わりである。

「うううぅぅぅ、悔しいですっ」

「はっはっは。兄の偉大さを理解できたかね、妹よ。理解できたなら、以後はお兄様と呼んで敬うように」

 顔を真っ赤にして悔しがる少女、アヤヤ。

 そして鼻高々でふんぞり返る少年、潤……こと、ジェームス。いまだに俺は、こいつのことをジェームスと呼ぶことに抵抗がある。

「DAIさん相手ならともかく、兄さんなんかに負けるなんて」

「あ? どういう意味だよ、そりゃ」

「言葉どおりの意味ですっ。兄さんなんか、DAIさんとくらべれば全然ザコキャラじゃないですか。さっきだって、あっさりと接近されて、斬られてましたし」

「あの時は、あいつに華を持たせてやったんだよ! 次やったら、あいつぁ近寄ることもできずに蜂の巣で、俺の圧勝にきまってるだろうが」

 ……この兄妹は。対戦が終わったら、すぐに口喧嘩が始めるし。ホント、いつ見ても仲がいいと言うか、よすぎると言うか。ホントにいい加減、飽きないものかね?

 口喧嘩に忙しい兄妹に放置されて手持ち無沙汰になっていると、ちょうどいいタイミングでミーシャが戻ってきた。絶賛口喧嘩中の兄妹に向ける苦笑とともに。

「DAIさん。私の方のモグラ退治も終わりました……って、またやってるんですね」

「……ああ。これで何度目だ?」

「もう、数えてませんよ。あえて言うなら、数知れずってとこです。それより、こっちのモグラ退治も終わりましたし、私たちも最後に一戦、やっておきませんか?」

「そうだな。んじゃ、よろしく頼むわ」


 12月24日。

 今日は一週間続いたβテスト最終日だ。

 時刻もすでに夕方。それも後数分で十九時になる。

 後、もう少しすれば王都キャンベルに強制送還される予定だ。なんでも最終日なだけに、普段はログアウトする時間の十九時から、中央広場で全員参加のイベントがあるらしい。

 俺たちは今日は午後から、岩モグラがポップする岩場で、対戦を楽しんでいた。

 対戦は基本的に一対一。攻撃が当たった段階で決着で、コンボ追撃はなしのルールだ。

 岩場でポップしたモグラは、手の空いている観客二名が狩ることになっている。

 なにせパーマネントパーティを組んでいる俺たちは、誰がモブ狩りしても、全員に同じだけの経験値が手に入るのだから。


 俺とミーシャが、武器を構える。

 俺の右手には一週間の相棒、銅の剣。左手には青銅の盾。

 ミーシャの両手には、歴史の教科書に載ってる石器そのままな形状の、石の斧がある。

「そういや、今週一週間はずっと楽しかったよな」

「ふふ、そうですね。ドニーの街への観光にも行きましたし」

 俺たちは往復二日かけて、ドニーの街へと観光旅行に行ってきたのだ。ドニーの街はシドニーをモチーフに作られている。だから――。

「シドニー・ハーバーブリッジなんて、すげぇ緻密に作られてたもんな」

 街並みは中世テイストながら、なぜか観光地はしっかり再現されているローストダリア大陸。俺たちは事実上のオーストラリア旅行な気分でいられた。

「はい。それに最初は手も足も出なかったモグラを、今では楽に狩れるようにもなりました」

「そうだよな。みんな、一気に上手くなったしな」

 最初の頃は、三人ともすごい下手だった。

 まず、まともにコンボが成立しない。

 攻撃スキルの終了時にタイミングが合わず、ベーシックスキルを起動させられないという状況だったのだ。その成功率は五割を切っていたくらいだし。

 それが今では、みんな楽勝でモグラ狩りができるくらいにまで上手くなった。

「DAIさんの教え方が上手かったからですよ」

「そう言ってもらえると、教えたかいはあったな。ミーシャはずいぶんとガン攻めなタイプになったし。ホントに俺そっくりだよな、プレイスタイルが」

「DAIさんと戦う時は、先手を取られたら絶対に勝てませんから。なんたってDAIさんはDAI乱舞な人ですからね」

 お茶目に笑うミーシャ。

 それにしてもミーシャのプレイスタイルは、俺のスタイルを真似たんじゃなく、俺を倒すためのスタイルなわけね。

「さて、時間も迫ってるしさ。そろそろ始めようか」

「はい。それでは――行きますっ」

 ミーシャのなめらかな前方ロングステップ。向かう先は盾を持った俺の左側。

 ガァァァアアアアァァァン。

 ミーシャの振るう石の斧と、俺の青銅の盾がぶつかる音が、大きく鳴り響く。この時、俺は石斧を盾で弾くと同時に、前方ショートステップからの『突き』を発動していた。

 『突き』のスキル発生速度は、今俺が使えるスキルの中で最速だ。

 それを事実上のゼロ距離でミーシャにぶつけてやる。

 だがミーシャはそれを読んでいたのか、間一髪でロングバックステップで逃れた。これをそのままコンボ追撃で、ステップ使用回数制限まで追い詰めるのは簡単だけど……。

「追撃、しないんですか?」

「最後の対戦が、それじゃつまらねーし。むしろゼロ距離での『突き』をよくかわせたな?」

「なんとなくです。なんとなくDAIさんなら、そう攻めてくると思いましたから」

「なるほどね。んじゃ、時間もないし、第二ラウンドスタートだな」

「ええ。そうで……いえ、ダメみたいですね」

 またしても、第二ラウンドを始めようとした時のことだった。

〔プレイヤーのみなさん。十九時ですわ〕

〔みんな~。もう時間だよ~〕

 ……またこのパターンかよ。マリーの時と一緒じゃねーか。

 それにしても、あれからマリーとは一度も会えなかったな。もう一回、会いたかったんだけどな……。

 結局、俺はマリーのことを他の三人には話していない。

 なんとなく秘密にしておきたかったんだ。俺とマリーの。

「残念です。DAIさんにどれだけ近づけたか、もっとお見せしたかったんですけど」

「そうだな。後は製品版が出たら、またやろうか。また四人でパーティ組んでさ」

「ええ、ぜひ」

 俺は今だってRPGはあまり好きじゃない。

 だけど、このゲームならまたみんなでやってもいいかなと、この時は素直に思えた。

 もし、パーティメンバーの最後の一人がマリーだったら、なんて想像さえできるほど。

〔現時点で王都キャンベルの中央広場にいらっしゃらない方には、これより中央広場への強制転送を開始します。繰り返します、これより中央広場への強制転送を開始します〕

〔痛くないよ。すぐに終わるからね~。いい子だから、おとなしくしてるんだよ~〕

 真面目なエルと、おちゃらけたリリの声がVR世界中に響く中。


 俺の視界は白い霧で覆われていった――。


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