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機械仕掛けの箱庭 ~The Mechanical Miniature Garden~  作者: 雄堂 栫
1章 ~仮想なる箱庭へ~
10/17

9話

本編の第一章の九話目です。

では、どうぞ。

 あれから紆余曲折はあった。

 だけど結局、俺の提案どおりに昨日の岩場に行くこととなった。

 やはり、有望な狩場は、全部、人で埋まっていたからと言う事情が大きかった。

「王都を出る前に、店に寄って行きたいんですけどいいですか? 昨日ギリギリまで狩りをしてたんで、装備品の補修も回復アイテムとかの補充もやってないんです」

「あ……。俺もすっかり忘れてたわ」

 武器補修はチュートリアルで聞いた記憶もあるけど、回復アイテムに至ってはそういうアイテムの存在自体を忘れてた。今考えると、昨日は俺よく生きてたな。

 それから俺たちは、ミーシャの提案で手分けして用事を進めることにした。

 俺とアヤヤが武器屋で全員分の装備品の補修。ジェームスとミーシャが、消費アイテムの購入だ。

 メンバーの組合せはミーシャが強引に決めた。

 シスコンなジェームスは、アヤヤと一緒がいいと声高く主張していたが、ミーシャ&アヤヤ連合主導によって強行された多数決で二対一、棄権一という結果になって泣く泣く諦めることとなった。

 もちろん棄権の票を投じたのは俺だ。

 ミーシャは多数決の後、なぜかアヤヤに「がんばってね」と応援していた。しかもアヤヤはそれを聞いて、頬を赤く染めている。

 そんな大層なことをしに行くわけじゃないんだが。いったいなにを頑張るつもりだ?

 そして今。

 俺の左手には新品の青銅の盾がある。四角の木の板に取っ手を付け、青銅の板を貼り付けた盾だ。アイテムランクはMass。この店で扱う盾の中では最高級品だ。

 これは綾ちゃんから武器屋隣接の鍛冶屋のところに銅の剣の修理しに行った時に「剣士なら盾くらい持った方がいいですよ」と言われて隣の武器屋で買った物。

 盾の見立ても全部アヤヤまかせだ。

「似合ってますよ。格好いいです」

 にっこり微笑んで、OKを出してくれるアヤヤ。

 相手が妹みたいな気のおけない娘だとはいえ、こんな一言で男をいい気分にさせてしまうのだから、女の子の力は偉大だと思う。

 ちなみに購入代金は、昨日狩ってた岩モグラのドロップがストレージに知らないうちに貯まっていたので、それを売った金で賄った。


 買い物を終えた俺たちは連れ立って、昨日の岩場に向うことにした。

 途中の平原では、ウサギやらバッタを狩っている人たちでごった返していた。

「おいおい、ありゃ昨日よりも人が増えてるな」

「ええ。今日はあの平原に行かなくて正解ですね」

 ポップするモブの奪うためPKに走ってる連中もいるみたいで、部分的に殺伐した雰囲気が漂ってもいた。でも……PKということは、対戦なんだよな。

「いや、今日は平原でもよかったかもしれないな」

 俺の発言を聞いた女の子二人はハテナマークをいっぱい浮かべていたが、ジェームスは俺のそばに来てボソリと一言。

「この対戦厨」

 あ、やっぱりこいつには気づかれるか。


 岩場に着くと、そこにいたのは金髪碧眼の美少女マリー……ではなく――。

「早速のお出迎え、ごくろーさん」

 一匹の岩モグラだった。

 キューッ、キュキューッ。

 俺たちの姿を見ると興奮した様子で、いきなり殴りかかってくる。なんだか昨日から先制攻撃を食らう確率が妙に高いような気がするが……?

「みんなサイドステップで避けろっ」

 俺の声と同時に、ジェームスとミーシャがサイドステップで回避行動をとる。だが、アヤヤだけはいきなりのことに反応が追いつかないのか、ステップを始めるようなそぶりがない。

 なるほど。これが虚をつかれた状態ってやつか?

「え……、ひゃっ」

 とっさに俺はアヤヤの腰に手を回し、同時にサイドステップする。ステップと同時に、さっきまで俺たちがいた場所を、モグラのぶっとい腕が通りすぎていく。

 サイドステップから連続でバックステップして、モグラから距離を離したところでアヤヤの腰から手を離す。

「大丈夫か?」

「あ、ありがとうございます」

 頬を赤く染めているアヤヤ。ジトッとした目付きのジェームスには気がつかなかったことにしておこう。それよりも今は――。

「今回のモグラは、俺に相手させてくれ」

 そう言うと、素直に三人は後ろに下がってくれた。俺から離れて、じっと俺が戦おうとする様子を見ている。

 俺は一歩ずつモグラに向かって、ゆっくりと歩いていく。徐々に縮まっていく間合い。

 そして俺がある一線を越えた瞬間、モグラが動いた。

 相対する俺に向かってかなりのスピードで突っ込んでくるモグラ。腕を大きく振り上げて、俺を殴り飛ばそうとしている。本来ならステップでの回避の局面だ。

 だが今回俺が取る選択はステップ回避ではなく――。

 ガィィィイイイン。

 モグラのぶっとい腕で殴られた盾が、大きな音を立てる。盾は殴られた部分が若干へこんでいるが、俺自身は完全にノーダメージだ。盾防禦に成功したらしい。

「なるほど。回避だけじゃなく、盾防禦も使えると便利だな。硬直もないし、ベーシックスキルも使わずにすむ」

 盾防禦から続けざまに、さっき習得したばかりの『突き』を叩き込む。

 ドシュッ。

 さらにそこから『中段斬り』と『上段斬り』を繰り返すコンボに繋げる。

 ビシッ、ザシュ、ビシッ、ザシュ。

 『突き』からの五連コンボを入れた段階で、モグラが強制ダウンとなった。これがチュートリアルで言ってたいわゆるダウン値ってやつか? たしかコンボ累計のダウン値が十に達すると、相手が強制ダウンするとか言ってた記憶がある。

 その後も『下段斬り』と『突き』を中心に、色々とその性能を試してみた。おかげでさっき新たに習得した両スキルについては、特性をほぼ把握できたと思う。

 『下段斬り』はダメージ量は『中段斬り』と大差ないが、相手にヒットするとダウンする。相手をさっさとダウンさせたい時には使えるが、ダメージ狙いのコンボには使いづらい。

 『突き』は発生も早く、与えるダメージ量が非常に多い。実に『中段斬り』の三倍近くの攻撃力があるが、突き以降のコンボダメージが激減する。おそらくコンボ補正率の問題なのだろう。ただ、コンボの締めとして使用すれば、ダメージ量の大幅なアップが望めるはずだ。

 モグラの残るHPは三割程度。今の俺にできる最大コンボで一気に決めてやる。

 俺は前方ロングステップで一気にモグラとの距離を詰めると、同時にコンボを発動する。

 <中段斬り⇒上段斬り⇒中段斬り⇒上段斬り⇒突き>の五連コンボ。これが今の俺に出せる最大威力のコンボだ。

 コンボの直撃を食らったモグラは、全HPを削られポリゴン片になって消えていく。

「い、岩モグラがこんなにあっさり……」

「す、すごい……」

「王都脇の平原で、ウサギやバッタとドタバタ勝負を繰り広げてる連中とは全然ちげーな」

 別にこの程度、全然すごくない。

 マリーの方がずっと強かったしすごかった。

 もし昨日、あのままマリーと戦い続けていれば、負けたのはきっと俺の方だったろう。

 今日、俺がここに行こうと言ったのは、たぶんマリーに会えるかもしれないっていう期待感があったからだ。

 残念なことに、その期待は実らなかったみたいだが。

 ステップ回数が五回に達したことによる強制硬直が解けると、俺は三人の方に向き直ってこう提案してみた。

「とりあえず、次のモグラがポップするまで対戦でもしようか」

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