プロローグ
本作の1章にあたる部分については、ほぼ完成しています。
お正月の期間を通じて、下書きを順次改稿して投稿していきます。
よろしくお願いします。
薄暗いがかなりの大きさの部屋の中。
部屋の奥には、かなりの大きさの執務机が置かれ、部屋の中央には大きな来客用ソファーが置かれている。部屋の大きさ、調度品の質などからも、かなりの地位を持った人間の部屋だとひと目でわかる。
椅子に座った年配の男が、姿勢良く直立している若い男を前に、腕を組みながら感慨深げにうなづいていた。二人の関係は上司と部下。あえて特筆すべきことがあるとすれば、部屋の中にいる二人とも、軍服を着ていることだろうか。
「……ようやくここまで来たのだな」
「はい。VR構想が始まって約二十年。TMMG計画スタートから見ても十年。ようやく本計画を実行段階のフェーズ3にまでこぎつけることができました」
立っている男は慇懃に答える。まさに教科書通りの軍人といった様子である。
「前世界大戦からすで百年。世界のいくつかの野心的な国家は、わが国の覇権を狙い、同盟国の保有する権益を脅かす。たわけた狂信者どもはわが国に理不尽な暴力をぶつけてくる。いつの時代も、犠牲になるのは無力な国民たちだ」
徐々に熱を帯びてくる言葉。そこに秘められた感情は、自らが仕える国家への忠誠か? 庇護すべき自国民への義務感か? それとも大切なそれらを脅かす憎むべき敵への怒りか?
「これらの脅威に対抗するには、いまやハードウェアとしての兵器だけでは足りぬのだ。ソフト面の最大限の強化、すなわち圧倒的に優秀な人材を軍に安定的に供給することこそが必要なのだ」
「はい。そしてそれこそがこの先の五十年、わが国が世界覇権を維持し続けるための力となるでしょう。自らの命が世界の平和につながるならば、本計画の被験者たちも本望なはずです」
椅子に座った男は、わが意を得たりとばかりに深くうなずく。
「そのとおりだ。わが国が世界覇権を投げ出さないからこそ、第三次世界大戦はおきていない。世界はわが国によって管理されるからこそ、平和裡な発展が可能なのだ。その事実を鑑みれば、この程度の犠牲はやむを得まいよ。多少心苦しいものはあるが、被験者たちには今後五十年の平和の礎となってもらうとしよう」
その言葉に無言で差し出される一枚の書類。
「計画のフェーズ3実施を承認する」
椅子に座った男が、差し出された書類のサイン欄に自らのサインを記す。その書類のタイトルには『~The Mechanical Miniature Garden~』と書かれていた。
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