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彼は割りと白く綺麗な顔立ちの方であり、身体は細く長かった。この容姿からは不釣り合いなふてぶてしい態度を普段から彼は意識してとっていた。


彼は今旅に出ようとしている。

ある冬の日曜の昼下がりの事である。『僕は明日から少し旅に出ようと思う。行き先は親父んとこまで。それまでに寄る所があるかもしれないから3、4日かかると思う。仕事は休みます。島さんにも告げているから。』


そうして今彼は家から一番近い駅で電車を待っている。

午前5時50分の電車に乗り過ごすまいと20分も前に着いてしまった。

4本目のタバコに火を付けようとした時、到着を知らせる耳障りな警告音がなり彼は視線をライターの先から行き先と反対側の線路の方へ移した。

まもなく電車の音が彼方から聞こえたかと思うと、すぐに光が彼を包み何だか少し恥ずかしい気持ちになった。

一旦火を付けかけたタバコを箱に戻しライターと共に胸ポケットにしまった。


始発であり、県庁とは逆方面という事もあり席はいくらか空いていた。

しかし今は、少し窮屈な方がかえって旅らしいと彼はあえて男子学生の隣に少し肘かけに詰めて座った。男子学生は眠っていたのを起こされたからか、隣に座られたのが気に障ったのか窓に寄りかかった体を少し起こし彼を横目で睨んでからまた窓に頭を付けて眠りについた。


彼は背負っていたリュックを足元に置き腕を組んだ。両下肢を通路に出すくらいに開き、目を閉じて口を心持ち尖らせながら考えた。このどっしりとした態度が彼は考え込むのに最適な態勢だと確信していたし、こう構えられては誰も自分の思考の邪魔はしないだろうと思っていた。


まず、実家に着いてからどう親父に話そうか考えた。久しぶりに長い休暇が取れたので。と切り出すか、ちょっと旅をしていてその道中に寄りました。とついでのように話すか。彼は悩んだ。本当の所、こんなことは考える程の事でもないのだが、なんせ2年ぶりなのであるからして少々気恥ずかしいのである。


空はすっかり明けてしまった。隣に座っていた学生はまだ隣に前と変わらない姿勢で今度は横目で外を眺めていた。

彼は無視していた違和感を否応なしに確信させられた。この先に学校はない。この学生は世界に存在しないように努力している。


あぁ失敗したな。いや俺がこの学生の隣に座る事が世界の必然ならば、その必然を受け止めるべきか。

足を組みながらそう心の中で呟いて決心した。


『君は…歳はいくつだい?』

少しためらいながら学生には聞こえるには十分な声でしかし静かに尋ねた。


学生は急に隣の男が話し出した事で反射的に体ごと目をこちらに向けた。


『16です。』


出来る限り静かに話したつもりだったがびっくりさせてしまった事を悪く思いながら彼は言った。


『若いね。もう少し歳取ってからなら朝から一緒に飲めただろうに。』


『朝からなんて大人でも珍しいでしょう。』

学生は少し微笑みながら言った。


『そうだね。しかしまぁこの際だ。僕はね、実は15の時から飲んでたよ。親父の目を盗んでは…飲んでたよ』

懐かしい記憶と共に懐かしい景色が学生の背後に現れ始めた。

『はぁ。そうなんですか。』

興味のない返事だったが顔は微笑みが残っている。


『若い時は人を傷付けないならある程度何をしても構わないと思っていたからね。今もそう思っているが、何にしてもつまらない事のしのぎにはなる。今の状況を変えるためには若い気持ちが必要なんだよ。君の今から降りる場所は人生の終点にはならないはずだよ。君はなぜ人が生まれ死ぬのかという理由さえまだ見付けられない子供だ。そこのとこを見極めなさい。あと面白くもない世の中より哲学でも良いし人の事よりも動物の事でも良いし何か考えてみなさい。つまらなくなったらまた新しい事を。つまらなさは始まりだ。出発だよ。途中で疲れたら下車して休憩して少ししたらまた戻ればいいさ。』


偉そうに言ったが、上手い事を言えず下手な台詞を言ったなと悔やんだ。大分照れていて少し説教くさかった事も後悔した。最後の方に少し乱暴な笑顔まで作っていた事も大変に恥ずかしく思えた。


学生は全て見抜かれている事に気付いて黙った。


彼も黙った。


電車は彼の実家のある田舎町の小さな駅のホームへ入った。

電車内にベルが鳴り響く。


彼は何度となく組み替えた足組みをとうとう解いて立ち上がった。

『じゃあ、僕はここから行くよ。あ、はじめまして。富士三六です。またどこかで。』

彼はそう言って電車を降りた。


学生はホームに立っている富士にペこりと頭を下げた。顔は見えなかった。


実家に着いた。

母親と会話しながら仏壇に向かって合掌し目を閉じた。


後ろから低い声がした。


彼は振り返らず、合掌したまま答えた。

『ちと、疲れたから帰ってきてしもうた。2、3日おらせて下さい。』


背後の人影が目の前の写真と同じ優しい顔で微笑んだように感じた。



初心者です。


伝わりにくく内容がないと感じられても仕方ないですし、つまらなかったかもしれませんが、読んで頂きありがとうございました。


天国にいる父に言い訳を考える場面で既に父親が死んでいる事を伝えたかったのですがあからさまになるよりは生きてる感じも残したかった。

彼が本当は臆病者ということももう少しどうにか出来たらと思います。


学生は彼の言葉に納得したのか僕にも分かりません。死にたいと思っている人の気持ちを動かす言葉が経験不足のため分かりませんでした。

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