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勇者と御一行様

作者: キタノユ
掲載日:2026/03/26

I 王の秘書官


 皆さんはじめまして。

 わたくし、王の秘書官を務めさせて頂いておるものです。


 本日皆さんは「勇者の仲間」となられたわけです。

 これからその心得などをご説明します。


 皆さんが選ばれた理由?

「見た目」です。

 以上。

 続けます。


 まず物理攻撃の要である「戦士」さん。

 本名はユリアス・フォン・ローゼンベルグね…。


 あなたの名前は今日から「ダン」です。

 ただの「ダン」です。


 黙りなさい。


 ファンタジー世界における筋肉バカは濁点がつく短い単純な名前と相場が決まっています。

 好物は肉。

 口癖は「おう」、です。


 次は魔法攻撃の要である「魔法使い」さん。

 その髭、死んでも剃らないように。

 それから語尾に必ず「~じゃ」をつけること。

 服装は常にローブ。

 夏は暑くて冬は寒いですが、下着を調整すればどうにかなります。


 顔は常に半分隠れているように。

 それでは見えにくい?


 黙りなさい。


「心の目」的なもので見ればよろしい。

 攻撃呪文なんてコントロールが適当でも当たります。


 そうそう、杖はマストアイテムです。

 杖の無い魔法使いはただの年寄りです。


 はい、最後に回復の要である「僧侶」さん。

 その髪の毛をまとめているゴムを外しなさい。

 サラサラロングヘアーは清純派の命。

 癖毛・枝毛・寝癖はご法度です。


 それからあなたは、生き物をこよなく愛する…犬と猫アレルギー?

 息をとめて我慢です。


 え?

 自分は回復魔法が得意なだけで職業が僧侶なわけではない?


 黙りなさい。


 手を組んで呪文の頭に「神よ」をつければそれっぽくなります。


 皆さんについては以上です。

 これから勇者と酒場で対面して頂きます。


 その前に、「勇者」について簡単に。

 まず、公表年齢は十六歳ですが、実年齢は二十五です。


 何故って?


 まず十六歳という年齢は世間的に「無職」でもおかしくないからです。

 実年齢が二十歳を越えている理由は…


 皆さん。

 義務教育を終えたばかりの、たかだが十六の坊やにリーダー面された挙句、生き死にを左右されたいですか?


 お分かり頂けたようですね。


 え?

 何故こんなに建前が多いのかって?


 皆さん。

「勇者と勇者一行」の最大の武器は何だと思いますか?


 勇気?

 愛?

 正義?

 力?

 

 いいえ。世論です。


 それでは、

 世界平和を目指して頑張って下さい。



II 勇者


 あ、こっちです!


 皆さん初めまして!

 勇者をやらせて頂きます、私、つい先日まで王宮にて近衛兵を務めておりました。

 どうぞ、よろしくお願い致します。


 あ、態度が十六歳らしくない?

 すみません、えっと……。

 よ、よろしくな! みんな! オレ達で必ず魔王を倒すんだ!


 ……はあ~……。


 と、とにかく!

 左から戦士さん、魔法使いさん、僧侶さん、ですね。

 凄い、皆さんイメージ通りと言いますかプロっぽいと言いますか。

 どうしました? 苦笑いされて。


 では、とりあえず出発しま……え?

「旅資金が百ゴールドしかもらえなかった。これじゃランチも食べられない」?

 そうですよね。

 大丈夫です、それは表向きなので。

 後でちゃんと経費と給料が振り込まれるように、はい、そうです、給料制です。


 魔物を倒しても現金は手に入りません。

 私達のような素人が素材をとろうとしても、業者がやるようにはできません。

 下手に自給自足をしようと動物を殺すと、うっかり条約に反してしまったりと色々面倒ですし。


 なので給料制です。


「根本的な質問をしても良いか」?

 どうぞ。


「そもそも、魔王って何だ」ですか。

 私もよくわかりません。

 見たことありませんしね。


 伝承はあまたあれど、世界中でどれだけの人が「魔王」を見たことがあるかと言えば…、ほとんどいないのではないでしょうか?


 ただ、確かに今、世界は不穏に包まれています。


「魔物」と呼ばれる生物が増え、

 凶悪犯罪がはびこり、

 環境破壊による食糧難への不安が募り、

 不安定な経済情勢、それによる就職難、

 少子・高齢化する社会……、


 え?

 八割ぐらい魔王と関係なさそう?


 でもまあ、そうした不安を人々が「魔王」という存在に投影させ、それを退治する存在がいる…それで少しでも人々に安寧を……というのが各国の狙いなのだと思います。


 いわゆるこれは、国際協力のもと発足した福祉プロジェクト。

 そう思えば有意義な任務ではないでしょうか。


 こうして皆さんと、世界中を旅できて、人々に喜んで頂けて、それでお給料を頂戴できるのですから、私は良い任務を仰せつかったなと。


 え?

 何故私が選ばれたのか、本当の理由が分かった気がする?


 まあとにかく、末永くよろしくお願い致します。

 天気も良いですし、そろそろ行きましょうか。



III 僧侶


 お元気ですか?

 私は勇者の仲間の「僧侶」として、今のところ快適な旅を続けています。


「いつまでも家事手伝いは恥ずかしい」って言われるから、なんとなく応募してみたらまさか受かるなんてね。


 私に「僧侶」が務まるのかって?


 アドバイス通り呪文の最初に「神よ」をつけたり、最近は名詞の前に「聖なる」をつけたり、季語の前に「癒しの」をつけるようにしたわ。


 一般人って簡単に騙されるのね。

 今では「聖女様」とか呼ばれるようになる始末よ。


 悪い気はしないけどね。

 つい最近まで近所で「いき遅れ」「こども部屋おばさん」とか噂されてたのにね。


 それが今や、毎月の給料やボーナスは出るわ、行く先行く先どこへ言ってもVIP待遇だわ。勇者の言う通り、いい仕事にありついたわ。


 冒険や戦いは恐くないのかって?

 そうね~、確かに冒険は面倒臭いわ。


 何だかよく分からないけど、町や村の人ってどうしてああも大事なものを洞窟やら山奥やら、自分達で行けないような場所に隠す癖があるのかしら。


 小さい子どもも迷い込んだりして、それを迎えに行くハメになったりもするんだけど、よくシツケとけっての。


 なんだか今のところ「何でも屋」稼業と変わらない気もするけど、まあいいわ。


 戦闘も多いけど、回復役は楽よ~。

 戦いは男どもに任せて私は列の後ろでダメージ受けた人に回復魔法を投げればいいだけだし。

 もぐらたたきの要領ね。


 復活の魔法使えるのは私だけだから、危なくなった時に逃げても文句言われないし。


 あ、そうそう。「復活の魔法」ってね、死んだ人を蘇らせる事ができるんだけど、国際協定で門外不出なんですって。


 なんで私が使えるのかって?

 出発前の研修で教えてもらったのよ。


 ただ呪文を呟いただけで死んだ猫が生き返ったもの。

 たぶん人間でもできるわ。


 それより何が大変って……ヘアケアとスキンケアね。

 あと趣味が手芸、園芸、お料理、お祈りっていう設定でさ。

 いつの時代の人間よって感じ。


 話は変わるけど、関節痛に効く薬や体を温める食べ物とか教えてくれない?

 仲間の魔法使いのおじいちゃんが、体冷えちゃって辛いらしいのよ。

 顔は土気色、唇は青いわで気の毒ったら。


 町の人は暢気に、

「さすが、人ならざる気を、まとわれておられる」

 とか言うけど、顔色が悪いだけだっての。

 魔王にたどりつく前に、おじいちゃんが倒れるわ。


 ユリちゃん、じゃない、戦士のダンもなかなか大変そうでさ。

 一番前で戦うんだから、もっとしっかりした鎧着させてあげればいいのに、やたら腕とか脚の部分が露出してるのよね。


 最初は「兜はかぶるな」とか言われてたんだけど、さすがにそれは初日で死ぬって。


 まあ、なんだかんだで一番大変なのは勇者ね。


 最初はどんだけ能天気かと思ったけど、違ったみたい。

 あれは諦めの境地ってやつね。


 文句を言わず。疑問を持たず。

 それなりに戦ってれば生活と名誉が保証されるって、分かってんの。


 よかったわ~。本当に十六のガキじゃなくて。

 マジで「俺達で世界を守るんだ!」とか熱血されても面倒くさいもの。

 あ、でも今時の子って、もっと冷めてるかしらね。


 長くなっちゃったから、今回はこの辺にするわね。またお手紙します。

 って、きっとこれも検閲されて届かないんでしょうから、形だけでも残しておくわね。


 さてっと。

 今日も勇者の部屋で集まってみんなで飲もうっと。

 だって酒場じゃ私だけ飲めないんですもの。


「麗しき聖女に酒やタバコはご法度!」っていう事らしいわ。


 やれやれね。

                                                               


IV 魔王(終)


 ああ、来た来た。

 君が今度の新人君ね。

 中央公務局の特務課へようこそ。

 私がここの責任者だ。


 君は今年、公務官試験に合格した中から更に、面接を通してその人となりと素質を見込まれてここに配属となった。

 その自覚を十分にもって公務に……特務課の職務内容?

 焦るな。

 これから説明す……ちょっと待っていなさい。

 呼ばれたようだ。


 なに?

 イーズリー村近辺で大規模な地震が発生?

 家屋が倒壊して被害も少なからず?

 ふむ、よし、それは魔王配下四天王の一人が秘術の開発に成功したという事にしよう。

 すぐに手配するように。

 開発した秘術の内容はどうするかって?

 そうだな。先月起きたガラン鉱山の毒ガス事故があっただろう。

 あのガスの解明がまだだったはずだ。

 魔王軍の新兵器開発だったと説明付けておきなさい。

 これで他のガス漏れ事故の説明付けにも応用できる。


 待たせたな。

 ふむ。

 だいたい今ので分かったと思うが、我々の仕事はいわゆる「魔王」だ。

 何だその顔は。

 我が特務課の隠された別称は「国際魔王プロジェクト事務局」、略して「魔プロ」である。

 実務に関わる研修は改めて行うので、今は魔プロの概要をかいつまんで説明しよう。


 良いか。他言は無用。これが絶対条件だ。

 我々に限って情報漏洩は最大の罪。

 極端な事を言えば殺人よりも、だ。

 あらゆる罪の中で漏洩が筆頭に上がるのだ。

 言い換えれば、秘密厳守のために「消す」事を厭わないとも。


 そんな難しく考える必要はない。

 就業規則を遵守し、普通に勤務していれば滅多な事はない。


 ではまず、魔プロが設立に至った理由の説明だが、ふむ?

 そう、まさに「世界平和」のため。

 世界に平和をもたらすために勇者と仲間を選定し、その旅を支援する。


 ん?

 ちまたでは、勇者とは「創世の女神のお告げ」により選ばれ導かれるのではないかと?

 そんなものを待っていたら永遠に話が先に進まん。


 古よりの神伝書に記された話ではないのかと?

 ああ、あれは我々が書いたものだ。簡単な話だよ。


「神伝書の節が新たに発見された!」

 の吹聴一つで通じるのだから。


 そうだ。

 だから毎年のように発見されるのだよ。

 

 勇者の選定基準?

 国が認めた者であれば、それはそれで優秀なのだろう?


 まあのう、確かに白痴では困るからのう。

 それから、下手に若く熱意に滾るようでも困る。


 適度に己を知り、適度に世の中を知り、そして順応力がなければならない。

 そういう意味で、彼奴らは選民と言えるのかもしれぬな。


 で、勇者を選定してどうするのかって?

 その顔は、薄々感づいている、という顔だが。

 まあ良い。

 形式的だが順を追って説明しようか。


 君も知っていると思うが、先日、あの勇者一行共が邪教徒を根絶させたという報せが出回っているであろう?

 その通り。

 教祖ラハールを崇める数百人の邪悪なる異教組織だ。


 それを勇者一行が退治した…と、たいそう華やかで勇ましい英雄譚が出回っているが、実際はほんの数名の学者集団よ。


 ラハールは元・教授。

 魔術も剣術も使えぬ奴らだ。


 何故そんな小規模な学者集団が滅ぼされたのかと?

 答えは簡単だ。

 ラハールが説く、新しき政治経済思想が問題なのだよ。


 明瞭な金の流れ、透明な政治、こんぷらいあんす、などという危険極まりない思想は排除されるべきである。


 まあ待て。

 誤解するでない。

 何も官が私欲を満たしたいが故ではない。


 ラハールの理想が実現すれば、世の中が上手くまわってゆかぬのだ。

 何でもかんでも情報開示や原因究明を求められてみろ。

 我々の人手がいくらあったところで足りぬ。


 ただでさえ少子高齢化傾向、教育問題、経済不安な中での食料問題や貧富問題で手がいっぱいのところに、やれ自然災害や事故の究明を求められてはどうなる。


 そうだ。

 そこで「魔王」なのだ。

「魔王の仕業」の一言で済ませられれば、最低限の事後対応で済む。


 分かっているではないか。

 理解が早い。

 さすが、厳しい面接と心理テストを掻い潜ってきただけの事はある。


 君の言う通り、この「神話に基づいた古のタペストリー」も、我々が作ったものだ。

 紅茶やコーヒーで染色する事で、古びたように見せかけられる。

「王宮の宝物殿で保管されている秘宝」としておけば、勇者一行のメンバーが総代わりしても作り直せばいいだけの話。


 伝説なんぞ所詮は形の残らぬ口伝え。

 いくらでも使い捨てができるのよ。


 世界中をだましている事に良心は痛まないのかって?

 逆だ。

 むしろ私はこの仕事に誇りを持っている。

 何故このような素晴らしき使命に罪悪感を覚える必要があろうか。


 出世が見込めない若者を英雄にのし上げさせ、

 モテない大男に活躍の場を与え、

 妻に先立たれて痴呆寸前だった老人に生きがいを与え、

 婚期を逃した行き遅れを聖女にし、

 秘密を共有する事で各国の王家間の親睦を深めて国際戦争の勃発を抑え、

 人々に安らぎと心のよりどころを与え、

 子どもたちには夢を与えている。


「魔プロ」は究極の世界救済プロジェクトなのだ。


 そう。

 その通り。

 物分りが良いな。


 では早速、新人の君に新しい仕事を手伝ってもらおうか。

 先日、ダムが決壊して村落が一つ流された事故があってな。


 おっと。「事故」ではない。

 その通り。「魔王の手下の仕業」だ。


 その風評作りを手伝ってもらおうか。

 なあに。

 難しい事はない。


 小説を書くのと変わらないのだからな。





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