第六話:四天王は「背景」なので無視しました
レベル99のステータスと、聖剣を手に入れたカケル一行(+ポチ)。
彼らはついに、魔王城がある暗黒大陸への唯一の入り口、『嘆きの城門』へと到達した。
そこは、天まで届くような巨大な黒鉄の扉によって閉ざされていた。
『フフフ……。ここまでは想定よりも(だいぶ)早かったが、ここで行き止まりだカケル!』
上空から、神ナルシウスの声が響く。
『この扉は、魔王軍最強の幹部「四天王」が持つ、4つの宝玉を嵌め込まなければ開かない!』
『さあ、世界各地に散らばった「炎の塔」「氷の迷宮」「風の谷」「地の底」へ向かうのだ! 推定クリア時間は60時間! たっぷりと冒険を楽しむがいい!』
ゴゴゴゴゴ……ッ!
神の言葉に合わせるように、扉の前に4つの影が出現した。
「我らは魔王様直属、四天王!」
「俺は炎のイグニス!」
「私は氷のブリザード!」
「風の……」
「地の……」
色とりどりの鎧を着た強敵たちが、カッコいいポーズを決めて名乗りを上げようとする。
セセリアが杖を構え、緊張した面持ちで叫んだ。
「勇者様、気をつけてください! 彼らの魔力、桁違いです! 全員が中ボス以上の……」
「……」
しかし、カケルは彼らに目もくれなかった。
彼は無言でアイテムボックスを開くと、先ほどの街で大量購入した「木の皿(10ゴールド)」を取り出した。
「セセリア、こっちへ来い」
「は、はい! ……えっ、壁際ですか?」
カケルはセセリアの手を引き、巨大な城門の蝶番の隙間へと誘導した。
そして、彼女を壁に押し付けるようにして立たせた。
「動くなよ。……『皿抜け』するぞ」
「さ、さらぬけ……? (勇者様と、こんな至近距離で……!?)」
セセリアの心臓が早鐘を打つ。
カケルが彼女の目の前に立ち、両手で「木の皿」を壁に押し当てたからだ。
端から見れば、それは情熱的な「壁ドン」そのものだった。
「(きゃああああっ! こ、これってキス待ち!? 四天王の目の前で!?)」
「(なんて大胆な……! 敵なんて眼中にないってことね!)」
セセリアが目を閉じて唇を突き出した、その瞬間。
ガガガガガッ!!
カケルが「木の皿」を壁に向かって高速で押し込み始めた。
「座標微調整……角度32度……判定の裏側へ……」
この世界の物理エンジンには欠陥がある。
薄いオブジェクト(皿)を壁とキャラクターの間に挟み込み、特定の角度で負荷をかけると、キャラクターの衝突判定が壁の向こう側へと弾き出されるのだ。
「よし、今だ!」
カケルがグイッと体を押し込む。
ニュルンッ!
「ふあっ!?」
セセリアの体が、世界を隔てる城門のテクスチャをすり抜け、扉の向こう側へと押し出された。
続けてカケルも、皿を使って自分自身を壁の向こうへ押し出す。
シュンッ。
二人の姿が、城門の前から忽然と消えた。
「「「……え?」」」
ポーズを決めていた四天王たちが、固まった。
「おい、今の見たか? 壁に皿を押し付けて……消えたぞ?」
「バカな! この扉は『魔王様の加護』で守られているんだぞ!?」
「勇者は!? 戦闘は!? 俺たちの出番は!?」
城門の向こう側から、カケルの声だけが聞こえてくる。
「おーい、ポチ。お前もその皿で抜けてこい」
「ワフッ!(器用だな飼い主!)」
『ちょ、待て待て待てェェェッ!!』
神ナルシウスが絶叫する。
『「壁抜けバグ」はやめろと言っただろう! しかもなんだその「皿」は! 伝説の宝玉はどうした!』
『四天王の出番を全カットするな! 彼らのキャラデザにどれだけ時間をかけたと思っているんだ! 声優も豪華なんだぞ!!』
城門の向こうで、カケルはパンパンと服の埃を払った。
「宝玉集めなんてやってたら日が暮れる。……四天王? 倒す必要がない敵(経験値不要)は、ただの『背景』だ」
「ゆ、勇者様……」
セセリアは、まだドキドキしていた。
壁抜けの衝撃で少しふらついた彼女を、カケルが支えている。
「(キスの代わりが『壁抜け』だったのは驚いたけど……でも、あんな強敵たちを無視してまで、私との旅を急いでくれているのね!)」
カケルはポチにまたがった。
「行くぞ。ここを抜ければ、魔王城は目の前だ」
背後に取り残された四天王たちは、呆然と立ち尽くしていた。
「俺たち……どうすれば……」
「……帰ってトランプでもするか」
最強の門番たちは、一太刀も浴びることなく、RTAのタイム短縮という暴力の前に敗れ去ったのである。
(第六話・完)




