第五話:修業パートは「自害」でスキップ
最強の剣と無限の資金を手に入れたカケル一行。
次なる目的地は、魔王城へと続く唯一の道、『試練の渓谷』だった。
しかし、その入り口には巨大な石碑があり、神々しい魔法障壁が道を塞いでいた。
【警告:この先、危険につき立ち入り禁止】
【通過条件:パーティ平均レベル50以上】
上空から、勝ち誇ったような神ナルシウスの声が降ってくる。
『フッフッフ……! 見たかカケル! これぞ「レベル制限ゲート」だ!』
『いくら聖剣があろうと、貴様のレベルはまだ「1」。このゲートはステータス数値を参照して弾く! バグ技での壁抜けも対策済みだ!』
『大人しくそこの草むらで、スライムを1万匹ほど狩ってレベルを上げるがいい! 3ヶ月くらいかかりそうだがな! ハーハッハッハ!』
「……レベル上げか」
カケルは、道端を跳ねている弱そうなスライム(経験値1)を見つめた。
「真面目にやると40時間のロスだ。やってられないな」
「勇者様……」
セセリアが心配そうにカケルの袖を掴む。
「どうしましょう? 私もお手伝いします! 一緒に頑張れば、3ヶ月なんてあっという間……」
「いや、3秒で終わらせる」
カケルは聖剣エクスカリバーを抜いた。
そして、あろうことか切っ先を自分の腹に向けた。
「えっ……? ゆ、勇者様!?」
「ポチ、俺が合図したら、俺の背中を全力で噛め」
「ワフッ?(正気か?)」
「いきますよー……3、2、1……」
ドスッ!! (聖剣で自分を刺す)
ガブッ!! (ポチが背中を噛む)
「ぐふっ……!」
カケルのHPバーが一瞬で消し飛び、ゼロになる――直前。
カケルは懐から『毒消し草』と『復活草』を同時に取り出し、口にねじ込んだ。
『な、何をしている!? 自殺か!?』
神ナルシウスが困惑する。
カケルの狙いは、『死体ステータスのオーバーフロー』だ。
この世界では、「聖剣による大ダメージ」と「ポチの攻撃」を同時に受け、さらに「回復」と「蘇生」の処理を同じフレーム(0.016秒)内に割り込ませると、システムが混乱する。
システム判定:
* ダメージ判定:HPがゼロになった。死んだ。
* 蘇生判定:生き返った。HP全快。
* エラー: 「死んでいるのに生きている」状態が発生。
* 修正処理: 「異常な数値です。マイナス値を修正します」
ピロリン♪ ピロリン♪ ピロリン♪ ピロリン♪
けたたましいレベルアップ音が鳴り響いた。
カケルの体が、まるでミラーボールのように激しく発光する。
【レベルアップ!】
【レベルアップ!】
【レベルアップ!】
……
【レベル99になりました(カンスト)】
【全ステータスが限界突破しました】
「ふぅ……成功だ」
カケルは涼しい顔で立ち上がった。腹の傷は、レベルアップによる全回復で消えている。
「ゆ、勇者様……!?」
セセリアは、涙を流して震えていた。
「今のは……『己を殺して生まれ変わる』という、伝説の荒行……!?」
「自らを極限まで追い込み、死の淵を見ることで、眠れる力を覚醒させたのですね……!」
彼女の目には、カケルがただの自傷行為ではなく、命がけの修業を一瞬に凝縮して行ったように見えていた。
「なんてストイックな方……! 私のために、そこまで……!」
『ふざけるなァァァッ!!』
神ナルシウスが絶叫する。
『バグだ! それはただの計算式のエラーだ! 努力も根性もドラマもない、ただのズルだ!!』
カケルは神の声を無視し、レベル50制限のゲートに手を触れた。
ブォン……。
ゲートが、レベル99(カンスト)の威圧を感じ取り、恭しく開いていく。
「よし、通過」
「素敵です、勇者様!」
ゲートをくぐり抜けたカケルたちの背後で、
「待ってくれ……私のゲームバランスが……」
と、神様の泣き声が小さく聞こえた気がした。
装備最強、所持金無限、レベルカンスト。
もはや、このRTA走者を止められる「理」は存在しなかった。
(第五話・完)




