第四話:伝説の剣は「薬草屋」で買える
ポチの背中に乗って爆走すること数時間。
カケル一行は、大陸最大の商業都市『メルカトル』に到着した。
「すごい……! さすが商業都市、活気がありますね!」
セセリアが目を輝かせる。
「勇者様、まずは宿屋で休みましょうか? それとも王様にご挨拶へ?」
「いや、用があるのは『道具屋』だけだ」
カケルはポチから降りると、一目散に街の隅にある、古びた道具屋へと向かった。
『道具屋?』
上空から、神ナルシウスの声(脳内)が響く。
『フン、無駄だぞカケル。この街の武器屋には、まだ「銅の剣」しか売っていない!』
『私のシナリオでは、お前が数々の依頼をこなし、人々の信頼を得て初めて、伝説の武器への情報が開示されるのだ!』
『今の貴様の装備は「木の棒」と「ジャージ」。……この先のボスに勝てるものか!』
神の高笑いが聞こえるが、カケルは無視して道具屋のカウンターに立った。
「いらっしゃい。うちは薬草しか置いてねえぞ」
無愛想な店主が言う。
カケルは無言でシステムウィンドウを開いた。
「薬草を一つ買う」
「はいよ。10ゴールドだ」
「薬草を一つ売る」
「……? ああ、5ゴールドだ」
カケルは、この無意味な「買う」「売る」の操作を、人間離れした速度で繰り返し始めた。
カチャカチャカチャカチャカチャッ!!
「ゆ、勇者様……?」
セセリアが不安そうに見守る。
「(何をしているの? 薬草を買ったり売ったり……。あ! もしかして、この貧しい店主さんのために、売上を貢献してあげているの!?)」
だが、カケルの狙いは「慈善事業」ではない。
彼は今、『メモリ領域の書き換え(オーバーフロー)』を行っていた。
この世界のシステムにおいて、「所持金」や「アイテムID」は隣り合ったメモリで管理されている。
特定の回数、特定のタイミングで売買を繰り返すことで、処理落ちを誘発し、メモリの数値をズラす。
RTAでは初歩的なテクニックだ。
「……よし、255回目」
カケルが最後の薬草を売った瞬間。
ピロリン♪
カケルの手元にあった「木の棒」が、まばゆい光を放ち始めた。
ボロボロの木材が、黄金の粒子を纏い、神々しい装飾が施された聖剣へと変貌していく。
【アイテム入手:聖剣エクスカリバー(攻撃力999)】
「なっ……!?」
店主が目玉を飛び出させる。
「そ、それは……この世に一本しかないと言われる伝説の聖剣!? なんで俺の店から!?」
セセリアが感激して手を合わせた。
「ああ……! なんという奇跡!」
「勇者様の『無償の愛(売買)』に、神様が感動して、奇跡を起こしてくださったのですね!」
「このお店は、聖剣が眠る場所だったのですわ!」
『ちがァァァァァうッ!!』
神ナルシウスの絶叫が脳内に響く。
『バグだ! それは「アイテムID:001(木の棒)」が、オーバーフローで「ID:256(聖剣)」に誤変換されただけだ!』
『私の「第8章:聖剣の試練」が! 洞窟の奥に隠しておいた伝説の剣が、なぜ薬草屋から出てくるんだァァァッ!!』
カケルは聖剣を軽く振ってみた。
「うん、リーチも判定も良好だ。これでラスボスまで行けるな」
「行きましょう、勇者様!」
セセリアがカケルの腕に抱きつく。
「伝説の剣を手に入れた貴方なら、きっとどんな敵もイチコロです!」
「ああ。……ちなみに、所持金もバグって『カンスト(99999999G)』したから、ついでにこの街の最高級アイテムを全部買い占めるぞ」
「まあっ! 経済を回して復興支援ですね! 素敵です!」
『やめろ! インフレが起きる! 物価バランスが崩壊するゥゥゥッ!!』
カケルたちは、涙目になる神を放置して、意気揚々と店を出た。
最強の剣と、無限の財力。
冒険開始からわずか数時間で、勇者は「世界最強」になっていた。
(第四話・完)




