最終話(エピローグ):人生という名の「クソゲー」を、君と走る
日本。とある地方都市のアパート。
午前6時59分59秒。
デジタル時計の数字が切り替わる「1フレーム前」に、相馬駆は布団から飛び起きた。
バッ!! (起床モーション硬直キャンセル)
「……よし、起床RTA、自己ベスト更新」
カケルは流れるような動きで着替えを済ませ、キッチンへとスライド移動する。
そこには、フリフリのエプロンを着た金髪の美女――元・聖女セセリアが立っていた。
「あ、おはようございます勇者様! ……じゃなかった、カケル様!」
セセリアがフライパンを片手に、花が咲くような笑顔を向ける。
「朝ごはん、もうすぐ焼けますわ! 今日は『目玉焼き』という料理に挑戦して……」
「遅い」
カケルは冷蔵庫からプロテインとバナナを取り出した。
「食事に時間をかけるのはロスタイムだ。俺はこれを3秒で摂取して出社する」
「むぅ……。ダメです!」
セセリアがカケルの進路を塞ぐ(ボディブロック)。
「地球の神様から言われたでしょう? 『人間らしい生活を楽しむこと』が、この世界での滞在条件だって!」
カケルは舌打ちした。
「チッ……。面倒な縛りプレイだ」
カケルは大人しく席に着いた。
足元には、モフモフの大型犬――ゴールデンレトリバーの姿になったポチが、「ワフッ!(飯くれ!)」と尻尾を振っている。
(※地球に適応するため、テクスチャが『愛されワンコ』に書き換わった元・魔狼だ)
「はい、どうぞ召し上がれ♡」
出された目玉焼きは、黄身が崩れて少し焦げていた。
だが、カケルはそれを一口食べると、小さく呟いた。
「……味付け判定、良好。回復効果あり」
「えへへ……よかった!」
カケルの職場は、システム開発会社だ。
満員電車という名の「物理演算エラー多発地帯」を抜け、彼はオフィスに到着する。
「おはようございまーす……」
同僚たちが死んだ魚のような目で出社してくる中、カケルだけは目がバキバキに決まっていた。
「相馬くん、例のバグ修正だけど、進捗どう?」
上司が尋ねる。
「終わりました」
「えっ? まだ頼んで10分だけど……」
「コードの冗長な部分を全カットし、仕様を簡略化しました。ついでに上司さんのPCの不要ファイルも削除しておきました」
「ええっ!? あ、ありがとう……?」
カケルにとって、仕事は得意分野だ。
定時退社への最短ルートを構築し、残業という名の「延長戦」を徹底的に回避する。
「17時00分00秒。……退社フラグ成立」
カケルは誰よりも早くタイムカードを切り、会社を飛び出した。
帰り道。
スーパーマーケット『サトー』の前で、セセリアとポチが待っていた。
「カケル様ー! お疲れ様です!」
買い物袋を下げたセセリアが駆け寄ってくる。ポチもリードを引いて嬉しそうだ。
近所の奥様方が、ヒソヒソと噂している。
「あら、相馬さんのところの奥さん、すっごく美人な外国人よねえ」
「ワンちゃんも可愛くて……羨ましいわあ」
カケルはセセリアの荷物(装備重量)を無言で半分持ち、歩き出した。
「今日は特売日でしたの!」
セセリアが嬉しそうに報告する。
「半額シールが貼られる瞬間を狙って、おばちゃんたちの包囲網を『すり抜け』てゲットしました!」
「……ほう。敵の攻撃パターンを見切ったか。成長したな」
「えへへ。カケル様の指導のおかげです!」
夕暮れの商店街。
かつて異世界の空を「青一色」にした男は今、セセリアと並んで、茜色に染まる空を見上げていた。
「ねえ、カケル様」
「なんだ」
「この世界は……スキップできないことだらけですね」
赤信号での待ち時間。
レジの行列。
焼けるのを待つ目玉焼き。
そして、こうして二人で並んで歩く、家までの道のり。
「ああ。効率は最悪だ」
カケルは認めた。
「イベントムービーは長いし、NPCの会話は要領を得ないし、バグ(理不尽なこと)も多い。……まさにクソゲーだ」
カケルは、隣で幸せそうに笑うセセリアと、足元でじゃれつくポチを見た。
そして、少しだけ口角を上げた。
「だが……。ソロプレイじゃないなら、続けてやってもいい」
セセリアがカケルの腕にギュッと抱きついた。
「はい! 私とポチが、ずーっとパーティメンバーですもの! 離脱は許しませんからね!」
「ワフッ!」
カケルは小さく息を吐き、歩く速度を少しだけ落とした。
最短ルートで帰るのはやめだ。
今日は少し遠回りして、このクソスカした、けれど愛すべき『現実』のテクスチャを眺めて帰ろう。
彼の人生RTAは、まだ始まったばかりだ。
クリアタイム未定。
エンディング予定なし。
だが、今の彼には、タイムよりも大切な「セーブデータ」がここにあった。
(『地球の神様、ブチギレにつき。 ~RTA走者は、完璧主義の神の世界を”最速”で攻略(荒ら)します~』 ――完)
最後まで『地球の神様、ブチギレにつき。 ~RTA走者は、完璧主義の神の世界を”最速”で攻略(荒ら)します~』をお読みいただき、本当にありがとうございました!
カケルとセセリア、そしてポチの地球での新生活(RTA)は、これからものんびりと(?)続いていくことでしょう。
彼らの物語が、皆様の日々の「攻略」の活力になれば幸いです。
さて……カケルの活躍によって、またしても「地球の神様」の溜飲は下がりましたが。
神様の仕事は終わりません。
地球の神様は、新たな問題児(神)に目をつけました。
「第88世界『ミステリオン』の管理神……。コソコソと裏で陰謀を巡らせて、地球から人を拐っては、わけのわからない『デスゲーム』や『謎解き』をさせているな?」
「私の許可なく、地球人をオモチャにするとはいい度胸だ」
秘密主義で、陰湿な神。
そんな相手に、地球神が送り込む「劇薬」第3弾は……。
「暴露系・迷惑配信者」です。
【新連載予告:地球の神様シリーズ第3弾!】
『地球の神様、配信りにつき。 ~陰謀好きの神様が隠蔽したい「世界の真実」、全部ライブ配信でバラします~』
来週、1月11日(日)より連載スタート!
今度の敵は、謎と秘密を愛する「陰謀の神」。
そんなミステリアスな世界に、スマホ一台で乗り込むのは、承認欲求の塊であるトップ配信者!
「はい、ここ隠し部屋ありまーす! 神様の悪事、全世界に拡散希望でーす!」
神の威厳も、世界の秘密も、全て「ネタ」にしてバズらせる!
視聴者参加型の異世界崩壊(炎上)劇、お楽しみに!




