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『地球の神様、ブチギレにつき。 ~RTA走者は、完璧主義の神の世界を”最速”で攻略(荒ら)します~』  作者: さらん


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第十一話:世界のリメイク(軽量化)により、空が「青一色」になりました


デバッグルームの神の座(オペレーター席)。

カケルは、目の前に広がる膨大なソースコードを眺めて、深くため息をついた。


「……汚い。あまりにも汚すぎる」


Tポーズで固まったままの神ナルシウスに、カケルは冷ややかな視線を送る。


「なんだこの無駄な条件分岐は。『村人Aがくしゃみをした時、風向きが北なら、0.01%の確率で雨が降る』? こんな処理を毎フレーム走らせているから、世界が重くなるんだ」

『……ッ!!!(字幕:それは「情緒」だ! 世界の深みを作るためのこだわりなんだッ!)』


声が出せないナルシウスの頭上に、必死の抗議がウィンドウとして表示される。


「却下だ。メモリの無駄遣い以外の何物でもない」


カケルは躊躇なく『Delete』キーを叩いた。

カチャッ。

その瞬間、モニターに映る下界の様子が一変した。

風に揺れる木々、空を流れる雲、街を行き交う人々の雑踏……それら全ての「環境演出」が消滅したのだ。


「えっ……?」


カケルの膝の上にいたセセリアが、モニターを見て目を見開いた。


「勇者様、外の様子が……空が……」


今まで美しいグラデーションを描いていた夕焼け空が、「#0000FF(原色の青)」の単色ベタ塗り変わっていた。


雲ひとつない、太陽すらない、ただ青いだけの背景。


「背景テクスチャを削除して、単色カラーコードに置き換えた」


カケルは淡々と説明する。


「これで描画負荷レンダリングコストが90%削減された。快適だろ?」


『……ッ!?(字幕:私の美しい空がァァァッ!! あの夕焼けのグラデーションには、300色もの色を重ねていたのに!!)』


ナルシウスが白目を剥きそうになる。


「次だ。……なんだこのNPC(村人)のAIは。個別に『悩み』や『人生』が設定されているのか? 重すぎる」


カチャカチャッ。

カケルがコードを書き換えると、世界中の村人たちの姿が、灰色の棒人間に変わった。


彼らは全員、直立不動で「ようこそ」としか喋らなくなった。


「NPCの思考ルーチンを削除。全員『看板』扱いに変更した。これで会話イベントのロード時間がゼロになる」

「す、すごいですわ……!」


セセリアが(無理やり)好意的に解釈する。


「世界から『迷い』や『苦しみ』が消えたのですね! 人々は皆、悩みから解放されて、ただ貴方を歓迎するだけの存在になった……これこそが『楽園』!」


『……ッ!!(字幕:違う! それはただの「開発中の仮素材」だ! ディストピアですらない、ただの手抜き工事だァァァッ!!)』


ナルシウスの精神メンタルゲージが、急速に削られていく。


自分の作った芸術作品が、効率厨の手によって「機能性だけのオフィス」のような無機質な空間に改造されていくのだ。地獄である。


「よし、仕上げだ」


カケルは、世界の根幹に関わる設定ファイルを開いた。


【ジャンル設定:王道ファンタジーRPG】

「このジャンル設定が、そもそもの間違いだ」

カケルは書き換えを行った。


【ジャンル設定:Pongピンポンゲーム

『……は?』

ナルシウスの思考が停止した。


「世界なんて、ボールと棒があれば成立する。余計なストーリーも、魔王も、勇者もいらない。ただ『反射』するだけでいい」


カケルが『Enter』キーを押そうとした、その時。


『待って待って待って! ストップ! ストップゥゥゥッ!!』


突然、デバッグルームの天井が開き、「別の神様」が慌てて飛び込んできた。


スーツ姿の疲れたおじさん――カケルをここに送り込んだ張本人、『地球の管理神』だ。


「ち、地球の神様!?」


セセリアが驚く。

地球神は、冷や汗をダラダラ流しながらカケルに駆け寄った。


「か、カケル君! やりすぎだ! ナルシウスの世界を『攻略(荒らせ)』とは言ったが、『別ゲー』に作り変えろとまでは言っていない!」

「これじゃあ、懲らしめるどころか、世界そのものの崩壊(サ終)だよ!」


カケルは不満げに手を止めた。


「……チッ。これから物理演算を『2D』に書き換えて、全てをドット絵にしようと思っていたのに」


地球神は、Tポーズで泡を吹いて気絶しているナルシウスを見て、憐れみの表情を浮かべた。


「あーあ……。あのプライドの高かったナルシウスが、完全に『処理落ち(廃人)』してるよ……」

「カケル君、もう十分だ。クエスト達成とみなす。……これ以上やると、宇宙の管理委員会から私が怒られる」


カケルは肩をすくめ、セセリアを膝から下ろして立ち上がった。


「そうか。まあ、RTAのタイムとしては満足だ。……で? 報酬は?」


地球神はホッとして、懐から封筒を取り出した。


「ああ、約束通り、君を地球に帰還させよう。報酬として、来世での『運ステータス』をMAXにしておくよ」

「交渉成立だ」


カケルはあっさりと頷いた。

だが、そこでセセリアがカケルの袖を掴んだ。


「ま、待ってください勇者様! 地球に帰るって……私は? ポチは? 置いていかれてしまうのですか!?」


涙を溜めるセセリア。

カケルは少し考え、そして地球神を見た。


「おい。この『セーブデータ(セセリアとポチ)』、クラウド同期できないか?」

「えっ?」


地球神が目を丸くする。


「い、いや、異世界の住人を地球に連れて行くのは……手続きが……」

「俺は、こいつらがいないと『移動速度』が落ちるんだ」


カケルは真顔で言った。


「地球に帰っても、俺の人生のRTAは続く。……効率的な『移動手段ポチ』と、精神安定バフを持つ『回復役セセリア』が必要だ」


それは、カケルなりの不器用な「連れて行きたい」という意思表示だった。

セセリアの顔がパァァァッ! と輝く。


「勇者様……! 貴方の人生という名の冒険に、私が必要だとおっしゃるのですね!?」

「はい! お供します! 地の果て、いいえ、星の果てまで!」


地球神は頭を抱えた。


「はぁ……。わかったよ。特別に許可する。その代わり、地球では魔法禁止だからな!」


こうして。

世界を青一色に塗り替え、神を廃人に追い込んだ最悪のRTA走者は、

「聖女」と「魔狼ポチ」という、地球には存在しないバグ(お土産)を連れて、元の世界へとログアウトしていった。


残されたのは、Tポーズのままピクリとも動かない神ナルシウスと、

カケルによって「青一色」にリファクタリングされた、かつて美しかった世界だけだった。

(第11話・完 ―― 次回、最終回エピローグ:地球編)


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