第十話:クリア後特典は「デバッグルーム(神の座)」でした
スタッフロールが終わり、画面が暗転した。
本来なら、ここでタイトル画面に戻るか、クリアデータをセーブして終わりだ。
だが、カケルたちが目を開けると、そこは真っ白な空間だった。
壁も床もなく、ただ白いグリッド線(格子模様)が無限に広がる、無機質な世界。
『……逃がすと思ったか?』
低い、地を這うような声が響く。
空間が歪み、ボロボロになった神ナルシウスが現れた。
さきほどのスタッフロールの文字盤に殴られたせいで、鼻血を出し、黄金の鎧はひしゃげている。
「よくも……よくも私の感動のフィナーレを……!」
ナルシウスの目には、狂気じみた殺意が宿っていた。
「ゲームは終わったかもしれん。だが、貴様の『データ』はまだここにある」
「ここはこの世界のゴミ箱……『削除領域』だ。貴様らごときバグデータは、ここで完全に消去してやる!」
ナルシウスが指を鳴らすと、カケルたちの足元のグリッド線が赤く点滅し始めた。
【警告:データ消去プロセスを開始します】
【残り時間:10秒】
「きゃああっ!? 足元が……消えていきます!」
セセリアがカケルにしがみつく。
「勇者様! これはいったい!? 私たち、天国に行けるんじゃないのですか!?」
「天国どころか、存在の消滅だ」
カケルは冷静に足元を見た。
「(なるほど。クリア後のセーブ処理をキャンセルして、強制的にデリート処理に移行させたか。悪質な運営だ)」
『ハハハ! 詫びても遅い! 永遠の虚無へ消えろカケル!』
「……まあ、普通なら詰みだな」
カケルは懐から、先ほどの戦いで使った「木の皿」を取り出した。
「だが、お前は一つミスをした」
『ミスだと?』
「ここは『削除領域』。つまり、通常のマップデータが存在しない空間だ」
カケルは皿を地面(グリッド線)に置いた。
「こういう場所は、判定が極端に薄い。……そして、この座標の真下には、大抵の場合『アレ』がある」
『アレ……? ま、まさか貴様……!』
「セセリア、乗れ。降りるぞ」
「えっ、降りるって……どこへ!?」
「『開発室』だ」
カケルはセセリアを抱え、皿の上で強く踏み込んだ。
ストンッ。
まるで落とし穴に落ちるように、二人の姿が赤いグリッド線をすり抜けて落下した。
『バ、バカなァァァァッ!! そこは関係者以外立ち入り禁止の……ッ!!』
神ナルシウスが慌てて追いかけるが、もう遅い。
場面は変わり、雑然としたオフィスのような部屋。
そこには、この世界の全てのアイテム、全てのモンスター、そして全てのフラグ管理ができる「巨大な制御盤」が置かれていた。
カケルたちが天井から降ってくる。
スタッ。
「ここが……『裏・世界』?」
セセリアがきょとんとして周りを見る。
そこには、まだ登場していないはずの「隠しボス」の模型や、「没になったイベント」の台本などが散らばっていた。
「間違いない。デバッグルームだ」
カケルは迷わず、中央の巨大な椅子――『神の座(運営席)』に座った。
「ふぅ。座り心地は悪くないな」
カケルがコンソールを操作すると、目の前に無数のウィンドウが開いた。
【世界管理システムへようこそ】
【権限:GM】
「よし、権限奪取完了」
そこへ、遅れてナルシウスが転がり込んでくる。
『ど、どけぇぇぇッ!! そこは私の席だァァァッ!!』
『貴様のような一般プレイヤーが触っていい場所じゃないんだぞ!!』
「うるさいな」
カケルはキーボードを叩いた。
「お前、ちょっと黙ってろ。……ミュート」
カチャッ。
『……ッ!? !!!??』
ナルシウスが口をパクパクさせるが、声が出ない。
カケルが「神のボイス設定」をOFFにしたのだ。
「ええっ!? 神様の声が消えましたわ!?」
セセリアが驚愕する。
「ついでに、こいつの動きも鬱陶しいな」
カケルはさらに操作する。
「モーション停止。……Tポーズで固定」
カチャッ。
ナルシウスの体がピーン! と伸び、両手を水平に広げた「Tの字」の姿勢でカチコチに固まった。
表情だけは「ふざけるな!」と動いているが、指一本動かせない。
「よし、快適になった」
カケルは椅子に深々と座り直し、隣でオロオロしているセセリアの手を引いて、自分の膝の上に乗せた。
「えっ、ゆ、勇者様!? こ、こんな神聖な場所で……!?」
セセリアが真っ赤になって慌てる。
「(神様の前で……しかも神様を銅像(Tポーズ)にしてからイチャイチャするなんて! なんて背徳的で刺激的なの!?)」
カケルはセセリア越しにモニターを見つめた。
「さて、クリア後の特典映像だ。……この世界の『未実装データ』でも見て遊ぶか」
Tポーズで固まったまま、涙目で睨みつける元・神様。
その席を奪い、膝に聖女を乗せて世界を弄り回すRTA走者。
立場は完全に逆転した。
ここからは、「管理者カケル」による、この世界の徹底的な「骨抜き(デバッグ)」が始まるのだ。
(第十話・完)




