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「おはーよー」
翌朝、外で寝たためバッキバキになった体をほぐしていると、小屋の中から寝癖をつけたニャディーが出てきた。
こうして猫耳少女を見ると、改めて異世界に来たんだと実感する。
「パンだけだけど、朝飯食べるにゃよー」
朝に弱いのか、ふにゃふにゃしながら朝食を呼びに来てくれたみたいだ。
軽く朝食を済ませたら、映像投影魔道具のサーチアイを使いゴブリンの移動の様子を確認する。
元々8階にいたゴブリンは、10階の草原エリアに到達してる個体もちらほら出てきて、5階に密集していたゴブリンも、着々と上の階に移動しているようだ。
ゴブリン関係は引き続き、とくに手を加える事もなく放置で、時間が解決してくれるだろう。
後はやる事も無いので、ニャディーと特訓をしようと思ったが、昨日の特訓で全身筋肉痛になり、あまり激しく特訓をしても逆効果になるだけなので、軽い動きだけで今日は終わりにする。
あとやりたい事と言えばお風呂作りだが、筋肉痛の今、やろうかやらないかの葛藤の末、ツルハシを持って14階へ向かう。
前回は気にしてなかったが、光源がないはずの洞窟でもダンジョンは薄暗い程度で済んでいて、そこまで明かりを必要としないのは嬉しい誤算だ。
しかし、薄暗いは薄暗いのでカンテラをニャディーから借りて持っていく。
昨日に引き続き、コーンコーンといい音を響かせて石の床を掘る。昨日よりもツルハシの使い方に慣れたのか、いいペースで掘り進めていく。
そのままテンポよくツルハシを振って居ると、後ろで積み重ねていた石が、崩れる音がきこえてきた。
「あっぶねッ」
巻き込まれると思い、石を避けるように振り返ると、大型犬ほどのトカゲと目が合った。
トカゲのモンスター、コモドランの下には崩れた石の山があり、こちらをじっと見つめて舌をチラチラ出している。
サーチアイ越しではしっかり見れなかったが、手にはゴブリンくらいなら簡単に引き裂けそうなほど、太く鋭い爪があり、時折開く口からは骨を噛み砕くための凶悪な牙が
顔を出す。
画面越しとは違い、リアルで感じる迫力に心拍数が上がっていく。
お互い目を逸らさずに見つめ合う。
いや、逸らせないと言った方が的確だろう。
たまたま石が崩れ気がついたからいいものの、音もなく背後に立たれていた事実に背筋が凍る。
モンスターが居る世界だとわかっていても、元々平和に生きていたせいで、危機管理ができていなかったと今頃ながらに後悔する。
そんな思い関係ないとばかりに、コモドランが動き出す。
鋭い爪を振りかぶり、こちらに飛びかかって来るのを、咄嗟に横へ逃げる。
完全に避けきることができず、服が切り裂かれる音が聞こえ、遅れてヒリヒリとした痛みが横っ腹から伝わってきた。
傷口を見たら余計に痛くなりそうで、かすり傷だと自己暗示をして痛みを頭の端に追いやる。
狭い部屋にお風呂を作っていたのが裏目に出て、すぐに壁に追い込まれた。
逃げ道は無く、足元はさっきまで掘っていたためへこみや、石が転がってて足場が悪い。
「ふぅ……やるしかないか」
最初のエンカウントはもっと弱そうなゴブリンが良かったと思いながらも、覚悟を決めてツルハシを構える。
下手に動き回っても、石やへこみに足を取られるだけなので、狙うはカウンターだ。
足元の石を投げる考えもあったが、拾ってる合間に襲われるのがオチだろう。
しばらく睨み合っていると、コモドランが痺れを切らして、再度鋭い爪を立てて襲ってくる。
ミスれば大怪我じゃ済まない緊張の中、タイミングを合わせツルハシをフルスイングする。
確かな手応えがツルハシから伝わり、深々とコモドランの横っ腹に突き刺さる。
「おっらぁぁ!」
勢いそのままに、ツルハシごとコモドランを投げ飛ばす。吹き飛ばされたコモドランは悲鳴のような咆哮を上げ、のたうち回る。
この隙に逃げ出すため、一気に出口まで駆け抜けるが、あと少しの所で体勢を立て直したコモドランが怒りで荒ぶりながら突進をしてきた。
何とか回避に成功したが、また部屋の奥に追いやられ、戦いが仕切り直しとなる。
相手はツルハシが突き刺さり致命傷を負っているが、興奮状態でむしろ危険度が増している。
対してこちらは傷は大したこと無さそうだが、武器を失い絶対絶命だ。さっきの隙に逃げるより、石を拾っといた方が良かったと後悔する。
ガンギマっているコモドランの気迫に押され、無意識に1歩後ろに下がる。
するとコツンと足に何かが当たった。
確認するよりも先に、コモドランが怒りに任せ襲ってきたので、足元にあったソレを思いっきり蹴りあげる。
金属音を響かせ、弧を描きながら飛ぶカンテラは見事コモドランに直撃し、中の炎が牙を剥く。
もともと温かい物が苦手なコモドランは、カンテラの炎で更に暴れ回る。
この隙に石を拾いトドメを刺そうとするが、コモドランは暴れたままどこか闇の中へ消えていった。
「勝った……のか……?イテテッ」
狭い部屋に静けさが戻り、同時に忘れていた痛みも戻ってきた。
ほかの敵に遭遇しないように、すぐに15階へ戻っていく。幸い、突き刺さってたツルハシはカンテラの炎で暴れた時にハズレたようで、忘れずに回収していく。
「にゃ!ボロボロじゃにゃいか!大丈夫かにゃ?」
15階に駆け込むように帰ってくると、今日もニャディーが出迎えてくれた。
「コモドランに襲われた。お風呂作りに集中しすぎてちょっと油断しすぎたよ」
「にゃ?カンテラ持って行ったのに襲われたのかにゃ?」
どうやらこっちの世界だと、コモドランはポピュラーなモンスターらしく、普段はゴブリンなど弱いモンスターしか襲わず、ニンゲンは火さえあれば襲われることはないらしい。
今回はたまたま、カンテラが自分の影に隠れて見えなかったのと、後ろ姿で隙だらけだったのがマズかったみたいだ。
「無事……じゃにゃいけど、生きて帰って来てくれて嬉しいにゃ。今度からはにゃーも一緒に行った方が良さそうだにゃ」
ニャディーに言われ、忘れていた横っ腹の痛みを思い出してきた。確認するともう塞がってはいるが赤い線が入り、傷の周りには乾いた血がこびりついていた。
1歩でも回避が遅れていたらと思うと、ゾッとする。
「イテテッ……ニャディーがついて来てくれるなら安心だけど、ボスがコアルームから離れると離れるほど弱くなるんでしょ?さすがに危ないんじゃない?」
ルールブックにそんなような事が書いてあった。
ちなみにこの15階にもどこかに隠されてるらしい。
「1階くらいなら大丈夫だにゃ!それに火を持ってても襲われるのは心配だにゃ……すっごい弱そうに見えたかにゃ……」
最後の方は何を言ってるか聞き取れなかったが、ニャディーが一緒に居てくれるのはありがたい。女の子に守ってもらうのは気が引けるが、自分が1発も当てられないほど強い彼女であれば多分大丈夫だろう。
早く強くなろう……
今日はいろいろ疲れたので、ニャディーから渡された軟膏をお腹の傷に塗って、大人しくしている。
料理でもやろうと思ったが、ニャディーに「けが人は安静にしてろにゃ」っと言われてしまい、やる事がない状態だ。
ゲームやテレビなど娯楽が無いので、暇つぶしにゴブリンの観察でもする。
10階のゴブリンは着々と増えていき、5階にギチギチに居たゴブリンは皆移動して、今は8階がピークに多い。さすがに配給を止めてキノコだけだと、餓死をしてしまう個体もいるが、心を鬼にして見過ごす。
ダンジョンに住むと決めたからには、ある程度の死には慣れないといけない、必ず討伐されるモンスターは出てきてしまうのだから。
せめて周りの人達は守れるようにしよう……。
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