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ゴブリンが10階に移動してくるまでの間、ニャディーと特訓をして待ち、久しぶりにいい汗をかいた。
「なぁ、ニャディー。ここってシャワーとかあったりする?なければ汗を拭くタオルでもいいんだけど。」
「あるわけないにゃ?体拭くのも面倒臭いだろうし、もっと良いのがあるにゃ《クリーン》」
ニャディーがこちらに手を向けると、ふわっと暖かい風が全身を包み込む。
少し時間が経つと風がなくなり、それと同時に汗もどこかえ消えて、少しだけさっぱりした気分だけが残った。
「どうにゃ?いちいち水浴びしたり、体拭くよりも楽だにゃ?」
確かに楽だし時間もかからずにさっぱりした。
魔法というのは素晴らしい。是非とも今後習いたい。
だがしかし、日本人として染み付いている湯船の感覚を疲れた体が欲している。
最初は汗さえ拭ければいいと思っていたが、1つの欲望が満たされると、さらに欲をかいてしまうのが人の業だろう。
「……なぁニャディー、1つ相談なんだが……」
節約しないといけない事は十分わかっているが、現代の便利な生活から、お風呂やベットの無いダンジョン生活へと、急激に生活レベルが下がる中、お風呂を何とか用意できないか聞いてみる。
「リフレッシュは大事だから、ポイントに縛られずに作ってもいいと思うにゃ。 どうしても安くしたいなら、自分で作ってみるかにゃ?」
「ダンジョンって掘れるの?」
「基本破壊できないにゃ。戦闘の傷とかダンジョンを攻撃しても、すぐに傷が塞がっちゃうにゃ。だけどこれで掘った穴は無くならないにゃよ!」
そう言って渡されたのは、見るからに普通のツルハシだった。
「スコップもあるけど、ここじゃ、水捌けが良くてお湯が溜まらないから、少し危ないけど1個下の14階に作るのはどうかにゃ?」
「周りが石だと水の処理に困らないか?」
「それはコイツが何とかしてくれるにゃ」
ニャディーの手に握られていたのは、小さめのスライムだった。
「このウォータースライムは、これ以上大きくならないし、水と汚れしか食べないから、水周りに便利だにゃ。」
浴槽の1部を凹ませて、こいつを入れて上から蓋をし、水を捨てたい時に蓋を取って1日置けば、ウォータースライムが水を吸って、汚れまで食べてくれるらしい。
さすが異世界。便利なのは大歓迎だ。
そうと決まれば、さっそく14階に降りていく。
14階には大型犬程のトカゲ型のモンスター、コモドランを解き放っているので、15階へ続く階段の近にある、小さい部屋に浴槽を掘ることにする。
ニャディーとの訓練で疲れている体にムチを打ち、小さい部屋の真ん中に、ツルハシを振り下ろしていく。
カーン、カーンとテンポ良く心地いい音が洞窟に響いている。
硬い石の床に突き立てる度、ツルハシから伝わってくる振動が、疲れた体に響く。
訓練後というのもあり、すぐに力尽きてあまり作業は進んでいないが、急ぐものでは無いのでコツコツ進めて行けばいいだろう。
15階の階段の近くとはいえ、14階には数は多くないがコモドランを放っているので、長居をせずに15階へスタコラ戻っていく。
「あれ、もう帰ってきたにゃ?」
15階に戻ってくると、ニャディーが入口で待っててくれていた。
「1日で終わるものでも無いしね、それよりゴブリンは順調?」
「今の所順調だにや。少しだけどゴブリンが道中のキノコに釣られて、移動し始めた所にゃ」
ゴブリンへの配給を辞めたので、小腹がすいたゴブリンが彷徨い出した様だ。
この調子で10階までトントンと進んでもらいたい。
「にゃー達も、ご飯食べて寝ようかにゃ。」
そのまま一緒に木製の小屋に帰宅していく。小屋の中では既にニャディーがご飯を作ってくれていた。
「簡単な物しかないけど、良ければ一緒に食べるにゃ!」
やっぱり見慣れない料理が並んでいるが、どれも美味しそうな匂いが立ち込めている。
思えば、就職してからこうして誰かと夕飯を食べるのは久しぶりかもしれない。
大学を卒業してすぐの頃は、周りの友達ともよく遊んだが、皆仕事が忙しくなり次第に外に出るのが面倒で、ゲームをやる時間が多くなっていった。
「にゃ?泣いてるのかにゃ?」
いつの間にか頬に一筋の涙が伝っていた。
電車に引かれ。知らない世界に飛ばされ。特訓して……
久しぶりに忙しい1日で、考える暇さえなかったが、夕飯の美味しさで緊張の糸が切れたみたいだ。
久しぶりに誰かと食べる夕飯もいいものだと思う一方で、元の世界へ帰れるかの不安と、モンスターがいる世界で、借金まみれの中無事生き残れるかの不安が押し寄せて、感情をグチャグチャにしてくる。
「……ごめんにゃ。まさか人間が召喚されるなんて、思ってなかったにゃ」
少し思いに耽っていたら、ニャディーに心配をかけていたようだ。
「いや、大丈夫だよ。向こうの世界では既に死んじゃったからね」
そう、どうせもう死んでしまったのだ。
今更向こうの世界に戻れたとしても、死んだ人間が生き返っててもややこしくなるだけだ。
それなら前世の事は割り切って、せっかくもらった2度目の生をこっちの世界で満喫しよう。
「む、向こうの世界?死んでしまった??」
あ、そういえばまだニャディーに話してなかった気がする……
それからは美味しい食事を囲み、地球の事をメインに色んな話をした。
どんな場所だったのか、美味しい食べ物や職場の事、思い出話などを話て、食べ終わる頃には小屋の外が真っ暗になっていた。
「魔法が無い世界なんて、考えられないにゃー。
あ、もう暗いしそろそろ寝るかにゃ?」
時計が無いからあまり気にしていなかったが、そろそろ寝る時間らしい。
体感的には“夜はこれから“って感じだが、異世界に来た初日で、訓練もしたからアドレナリンが出ているだけだろう。布団に入って目を瞑れば、すぐに夢の中に行けるはずだ。
「…………そういえば、ベットは1つしか無いにゃ。新しく召喚するにも、敷く場所がないにゃ。」
小屋の中は机と椅子、奥に小さいキッチンがあるだけのスペースしかない。
椅子を机の上にあげても十分なスペースが取れず、いつもはキッチンの方にベットを敷いて寝ているらしい。
「それなら寝袋を1個貰ってもいいかな、暖かいし外で寝るよ」
15階は心地よい暖かさで、風も言われれば感じるくらいの微風がたまに吹くだけなので、外で寝るには最適だ。
自分の飲める量がまだ分からない20になりたての時、友達との飲み会で羽目を外しすぎて、気が付けば公園で寝てた時に比べれば、外で寝ることくらいなんてことはない。
それに幼いとはいえ、ケモ耳美少女が同じ部屋で寝てると思うと、緊張して中々寝付けなくなりそうだ。
決して童貞ではない。紳士なだけだ。
欲を言えばテントが欲しい所だが、風もないし、動物も虫も居ないので、性能ではなく気分的に欲しいだけなので我慢しよう。
最後までニャディーは「ホントに家の中で寝なくていいかにゃ?」「襲ってきたらぶっ飛ばすから心配ないにゃ」と心配?してくれていたが、寝袋をもらい早速外に出る。
お風呂作りから帰る時もそうだったが、夜になってもそこまで気温が下がらず、過ごしやすい暖かさの中、小屋の付近で寝る場を決める。
寝袋が入っていた袋に適当に草を詰めて、簡易的な枕を作り寝っ転がると、ダンジョンの中なのにポツポツと星が光っていた。
(星じゃなくて魔石だっけな?確か朝は外の太陽光を吸収して明るくて、夜は月の光を吸収するからそこまで明るくならない。みたいなこと書いてあったような……)
ダンジョンのトリセツに書いてあった事を思い出しながら、すぐに襲ってきた眠気にやられて、いつの間にか眠りについていた。
翌朝目覚めた時には、体がバッキバキになっていたのはご愛嬌だ。
借金 : 1,000,000DP
1日の生産DP : 125
1日の維持費用DP : 150
残り : 約4千DP
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