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「「……」」
お互い目を合わせる。
「ぐぉ?」
少しの沈黙を破り、クロがニャディーと自分の顔を交互に見比べて不思議そうにしている。
「ニャディーさん?」
「……来ちゃったものはしょうがないにゃ!どんな冒険者なのかまずは確認にゃ!」
いそいそとサーチアイの準備をし始めて、冒険者を確認しに目ん玉がパタパタと飛び立っていく。
「見たところ駆け出しの冒険者っぽいにゃ。剣士2人に弓使い1人の、バランスが取れた良くも悪くも典型的なパーティーだにゃ」
普段の状態なら、駆け出し冒険者のパーティーが17階まで来ることは無いだろうが、今は反乱でダンジョンの中のモンスターが著しく減ってしまっている。もうしかしたら17階層まで来てしまうかもしれない。
「あ、見つかったかも――にゃぁ!」
「?!大丈夫?」
「撃ち落とされたにゃ……あの女、オドオドしてる割に弓の腕がいいにゃ」
◆◆◆
「な、なんだったのかな……」
「エコレ!勝手に弓を使うな!危ないだろ!」
まだ幼さを少しだけ残ているガタイの良い剣士の男が、今しがた洞窟の天井に矢を射った仲間に声を荒らげる。
「だ、だって視線を感じたんだもん……」
薄暗い洞窟の天井はさらに暗く、目を凝らしても見通せないほどくらい。姿は見えなくとも何かを感じ取り矢を放つも、仲間には分からなかったようで、ただ無駄に矢を消費したかのように責められる。
「言い訳は不要!早く矢を取ってこい。無くしたら配当から天引きだからな」
「そ、そんな。消耗品はパーティー負担って言ってたのに」
「ダン君の意見に歯向かう気か?せっかくパーティーに入れてやってるのにとんだ恩知らずだ!」
「ゲイスの言う通りだ。俺の意見が嫌なら別にパーティーを抜けてもらっても構わない」
細身の背が小さい剣士と、ガタイのいい剣士に責め立てられ、エコレと呼ばれた少女は渋々矢を放った方を探しに行く。しかし天井を目指して放った矢は見つからなかった。
渋々2人の元に戻った彼女は肩を落としたまま進んでいく。
「……ただの洞窟だと思ってたけど、どうやらダンジョンみたいですぜ。ほらあそこに階段が」
「ほんとか!ダンジョンならギルドに報告すれば報酬が貰えるな!それに未発見のダンジョンならお宝だってまだ眠ってだろうし、いいのが出れば俺らもさらに高みにいける!」
「ダ、ダンジョンなら危なくないかな。まだ冒険者になって日が浅いんだし」
「はー。これだから女は。危ないから冒険のしがいがあるんだろ。それに俺達はもう討伐依頼を達成した事があるんだ、ゴブリンだけのダンジョンなんて朝飯前だ」
「コイツは男のロマンが分からないんですよ。それにしてもモンスターが少ないっすね」
階層自体そこまで広く、モンスターもダンジョンにしては少なく、たまにゴブリンが現れるだけだ。
駆け出しとはいえ、群れていないゴブリンの相手など剣を持っていればなんて事はない。
苦戦すること無く階段を1階。また1階と降りていき9回降りると見えて来る景色が一気に変わった。
「はわぁぁ、凄い」
「冒険らしくなってきたな!」
「岩とゴブリンしか見れない景色に、うんざりしてたところっすよ!」
視界が開け、目の前に広がるのはダンジョンの中とは思えない広大な草原。
柔らかな風と外に居るような光が3人を出迎えてくれる。
「ここなら採取とかもできそうだな」
「さすがダン君、野草の心得もあるんすね!」
「まぁな、村でよく近くの森に忍び込んでたからな!」
どこか照れてるようなドヤ顔で胸を張る。
それから話し合いの結果、とりあえず遠くに見える森を目標にし3人で歩いていく。膝まで伸びている草に足を取られそうになり洞窟よりも歩きにくい。
それに加え、時々現れる突きうさぎは背が小さいため、完全に草の中に隠れていて、突然出てくるのでヒヤリとする場面がいくらかあった。足元の草を剣で刈ながら進んでいくも、剣で刈る範囲よりも外側の範囲から突きうさぎが飛んで来るので、早々に刈るのを諦め微かに揺れる草に気を尖らせる事にした。
「つ、突きうさぎです。撃ちます」
少しだけ揺れる草に機敏に反応し弓を放つ。
放たれた矢は空気を切る音を奏で、突きうさぎに吸い込まれる。まだ駆け出し故に見落としてしまう事もあるが、それでも結構な頻度で先手を打てた。
「チッ」
自分より活躍されるのが嫌なのか、ダンは仕留めた突きうさぎを雑に解体し、持参した大きな葉っぱで肉を。血の着いた角は土で擦って血を落とし、背負っているバックに投げ入れる。
10階へ着いた時に予定していた採取は、目ぼしいものが見当たらず、また草が膝の丈まであるので探しづらさもあり、思うような結果を出せずにいる。それもまた彼を苛立たせる要因だろう。
3人はピリつく空気の中、当初の目標であった森の麓まで来ていた。森の中は少し肌寒く草原より草が生えていないので、本格的に採取を行う。
冒険者にとって魔物の素材は、倒した魔物で自分の強さを主張でき、稼ぎにもなる物だが、駆け出しの彼らでも狩れるモンスターの素材はそこまで高くは売れない。
なので危険が少なく需要も高い薬草や、高値で売れる錬金術の素材などがメインの稼ぎになる。
「おぉ、ここにも薬草がまとまって生えている」
「さすがっすね!目の付け所が鋭い!それに比べてエコレはまだ全然集まって無いじゃないか」
「わ、わたし採取は苦手で……ん?これってけもの道?」
そう言い終わや否や、奥の木の影から人の腰ほど高さのある茶色の毛玉が顔を出す。その茶色の毛玉からは立派な牙が2本生えていた。
「く、クレイジーボア!」
仲間に知らせるために出した声で、向こうもこちらの存在に気づいたようだ。
牙が地面に着きそうなほど身を屈め、土を蹴り上げながらこちらへ向かってくる。
「ッ!」
幸いな事に直線的な動きだったので、咄嗟に横へ飛んで回避する。その隙に近くにいた剣士ふたりが合流した。
「俺たちが引きつける!その内に目を狙え!毛皮は後で売れるから傷つけるなよ!」
「そ、そんな?!動く的に当てるのは難しいんですよ!それに目だなんて不可能です!」
「ダン君がやれって言ってるんだ!つべこべ言わずにやれ!」
「わ、わかりましたよ!」
それから剣士のふたりはヘイトを集めるだけにとどめ、直線にくる突進を躱し、時に剣の腹で殴りヘイトを稼ぎ、クレイジーボアの攻撃をいなした。
「いつまで待たせるんだ!早くやれ!」
動き回るクレイジーボアの目に、なかなか狙いをつけられないでいるとダンに急かさる。もうどうにでもなれと、なかば運頼みに弓を放つ。
放たれた矢は、クレイジーボアの顔に吸い込まれる。しかし警戒していたのか狙っていた目から逸らされ、1番硬い頭に当たり弾かれてしまう。
「おぃ!下手くそ!」
叫びながら振り返るダンの顔を掠めるように、2本目の矢が通り過ぎる。
「ぐおおぉお!」
弾かれるれることを見越し、放った2本目の矢が深々と目に突き刺さる。矢はそのまま脳まで到達し、クレイジーボアは少し暴れた後、糸が切れたように地面へ倒れ込んだ。
「よ、よくやった!」
「ダン君の指示が良かったおかげっすね!早く血抜きしましょう!……あれ?顔怪我したんですか?!」
「ちょ、ちょっとな」
「エコレが早くしないからだぞ!」
ゲイスは声を荒らげる。クレイジーボアに集中していて、先程の矢の軌道を見ていなかったようだ。ダンは顔の傷が恥ずかしいのか、そそくさとクレイジーボアを解体し始めた。
「よし、俺らの立ち回りが上手かったおかげで、状態のいい皮が取れたぞ!」
顔を掠った矢のことなどすっかり忘れた頃。解体が無事終り、手元には立派な皮が残った。
「よし!この調子でどんどん進むぞ!」
「えぇ?も、もう帰りましょうよ」
エコレの顔を見るとせっかく忘れていた先程の矢を思い出し、見下していた相手に恐れを与えられた事が、ふつふつと彼のプライドを刺激する。
「いや、ダメだ。1回帰ったら入手場を聞かれるかもしれない。それに他の誰かがダンジョンに入るかもしれないから、このまま先へ進む」
もっともらしい理由を並べ、エコレの意見を否定する。
提案を否定する事によって、相手より上に立ちたいと言う思いが無意識の内に滲み出ていた。
そのプライドが冒険者人生を終わらせるとも知らずに。
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