<第43話 機動無職ガンバル その3>
気分はスタローンで勝利の雄たけびを上げていたら、全然そんなものに興味なさげなコユミの冷めた声が聞こえた。
『方位270。高速飛翔体接近じゃぞ』
言われた刹那、傀儡鬼の周囲を凄い速さで何かが飛び去った。
四本の〝黒い槍〟がそれぞれ明後日の方向へ曲がっていくと、木々に貫いたり地面を抉ったり、湖に水柱を立てたりとド派手な光景を作った。
ただ、黒い槍は何かに直撃するとまるで幻のようにその姿を消してしまう。実体があるのは飛翔している時だけのようだった。
「うひっ!? 何だ何だ!?」
というかヒーローの勝利ポーズになんつー無粋な!
『敵を前に隙を見せ過ぎじゃたわけ! アクティブ防御システムで弾道を逸らしてなかったら直撃しとったぞ!』
「え? なにそれさっきのシスターの時に使ってよ!?」
『あの時は懐に入られ過ぎとったんじゃ!』
コユミとそんなやりとりをしていると、また四本、滅茶苦茶早い速度で〝黒い槍〟が突っ込んでくる。
うわあ、と思うものの、コユミが言っていた傀儡鬼の防御機能なのか、直撃するかと思ったらその弾道をぐにゃりと変えて四方へすっ飛ぶ。
「くっ!? 何故当たらん!?」
「怪物め!」
「魔法詠唱を長めて強化して打ち出せ!」
なんか向こうで慌ててる声が聞こえた。
暴力シスターが撤退して、今度はリーリオ王国の軍隊の方だ。
あのイケメン王子の前に、三十人ほどの杖を持った騎士たちが布陣していた。
彼らは四人一組でそれぞれ四陣に分かれ、後方の三人が呪文を詠唱して前の一人が掲げた杖の周囲に〝黒い槍〟を現出させているようだった。
一本、二本、三本と増えていく。
「ほえ〜……!? あれ、凄い魔法だね」
『見たところ魔法騎士団と呼ばれる部隊のようです』
『奴らの虎の子じゃな』
ツァスが光の魔法を使ったのを見たことはあるけど、あれはそれよりかなり高度かつ強力そうだ。
「黒きマナよ風呪に流れよ、我が呼びかけに応え飛槍となりて敵を貫けっ!」
射手というべきなんだろうか、魔法陣の中心にいた魔法騎士が掲げた杖の周囲に浮かんだ黒い槍に貯められた魔力を一気に開放させた。
一斉に今度の十本を超える黒い槍がこっちに襲い掛かってくる。
単なる直線ではなく、誘導ミサイルみたいに曲線を描いて飛んでくるものまである。
普通の人間の動体視力なんかじゃまず避けきれない。
「のわあっ!?」
僕は反射的に両手を前に出して防御しようとする。
が――
『案ずるでない。当たらぬわ』
コユミが言った通り、その十本は当たらなかった。
それどころか、空中に静止して、グルグルとスピンだけしている。
「なっ!?」
「と、止めたっ!?」
「馬鹿な! あり得ない!」
魔法騎士達が驚愕している。
「お、おお……なんか凄い。こっちの武器にしちゃったみたい」
『お主の相棒、なかなかやるでないか。ドラウプニル干渉端末とやらを応用してあの黒い槍を掴み取ったようじゃぞ』
「え、そうなの?」
『はい。私もサポートAIとして何もしないわけにもいきません』
アシュラも蚊帳の外にいるのは不本意らしい。
「んじゃあ、こっちもちょっとはやり返しちゃおうかな!」
僕は両手でまるで槍を持ち帰るようなジェスチャーをすると、空中で止めた十本を超える槍がぐるりと向きを変えた。
魔法騎士団が、自分たちの放った魔法槍が自分らに向いたことに青ざめる。
「ぼ、防御魔法に切り替えだっ!」
「駄目だ間に合わんっ!」
慌ててる中へ、お返しする。
十本の槍が、一斉に魔法騎士団の陣へと降り注いだ。
(といっても、直撃させちゃうと死人出そうだから足元に打ち込んでるけど)
それでも何故だか効果は抜群だった。
「うわぁあああ!?」
「ひゃああああああ!?」
まるで、夏の花火が事故って地上で炸裂しちゃったみたいな閃光が飛び散った。
「え、どゆことこれ!? そこまでした覚えないんだけど!」
『どうも誘爆したようじゃなあ』
魔法陣にはどうも次の攻撃に備えて魔力を蓄えていたらしい。
そこへ同じ魔法の槍が突っ込んだせいで、魔法陣が暴走したようだ。
虹色の魔光とでもいうような爆発が起こり、魔法騎士団どころか周囲の自軍へと飛び火する。
軍馬が驚き、馬上の騎士を振り落として暴れ馬と化し、虹色の魔光の火の粉は色によって降りかかった者に火を点けたり凍らせたり痺れさせたり衣服を切り裂いたりと様々な災難を撒き散らす。
『きょっきょっきょ! 良い気味じゃあ! そんな子供騙しの魔法で傀儡鬼を貫けると思うたか』
「悪党みたいな台詞吐くなあこのマザコン……」
パニック状態に陥るリーリオ王国軍にケタケタ笑っているコユミにどん引きだった。
『さあて、ニートよ背中にうってつけの武器が載っておるから、使うてみい』
「背中?」
僕は傀儡鬼の背中をまさぐった。
確かに何かコンパクトに背中に収まっている。
「おお、これは……!」
手に取ってみると、ハマってたFPSゲームでよく見たアレだ。
『いわゆるひとつの〝散弾銃〟じゃな。電磁式で弾丸を撃ち出すタイプじゃが』
「シャッガァーン!」
ゲームの入手ボイスっぽく言ってみる。
つまり、これはショットガンだ。
初めて徒手空拳じゃなくて武器らしい武器がきた。
でも、はっとする。
「し、死人が出る武器は駄目だよ!」
『安心せい。装填しとる弾は全て非殺傷弾じゃ。これで殴り込みといこうではないか』
『確かに、混乱を突くのは戦術の基本です。ここは攻め込むべきでしょう』
アシュラも後押ししてる。
「珍しいね。アシュラが逃げるって言わないの」
『あなたが逃げる以外の選択肢がない条件に首突っ込んでばかりだからですよ』
だいたい僕の考えなしが原因のようだ。
『ウメタロー。逃げるのは大事ですが、逃げてばかりでも勝てません』
「そうだね」
それは同感だ。逃げれば危険は減るけど心も何か減る気がする。
僕は散弾銃のスライドを引いた。
ジャコン
テンションの上がる音がした。
僕は混乱する王国軍に向き合った。
そして叫ぶ――
「ニート行きまぁすっ!」
腰のブースターがマナエネルギーの火を噴き、僕の乗った傀儡鬼は空にジャンプした。
その影に気付いた敵兵の何人かが空を指さすが、どうしようもない。
傀儡鬼は魔法騎士団のど真ん中に降下していた。
「白兵戦だっ! 武器に付加魔法を――」
それでも魔法騎士は精鋭らしく、驚きはしても怯みはしない。
即座に反撃しようとする。
でも、魔法の詠唱とこっちが銃の引き金を引くのならこっちが早い。
ずどん!
青白い発射光を銃口に迸らせ、ショットガンから弾が飛び出した。
「おごふっ!?」
胸甲をひっくり返したみたいに凹ませ、衝撃が魔法騎士を襲った。
ゴム弾に近いものだったようだ。
魔法騎士はぶっ飛び、後ろの仲間を巻き込んで薙ぎ倒す。
いくら甲冑着けてるといってもあれはあばら骨派手にイっちゃってるだろう。
『ターゲットと優先目標のサポートを行います』
「頼んだ!」
アシュラのサポートで、逃げ惑ってる敵ではなく反撃しようとしている敵が視界に赤くピックアップされて表示される。
そいつらを優先して狙えばいい。
「おのれ怯むなどぶえっ!?」
「部隊を再編成するのだ無傷の魔法騎士は集ぐげぇっ!?」
「死ねい怪ぶごおっ!?」
戦意がある奴がどんどん減っていく。必然、指揮官クラスが減るので敵の混乱には拍車がかかる。
『くふふ、ここらでもっと慌てふためいてもらおうかのお』
「まだなんかあるの?」
『その傀儡鬼五一型は暴徒鎮圧用じゃ。群衆に効果的な武装も積んどるぞ』
コユミはにたあっと笑っているのが想像できるくらいねっちょりと楽しそうにそう言った。




