<第3話 転生初日にもうピンチ その2>
み、見つかった……!?
『いえ、我々ではないです』
アシュラがそう言ったから顔を上げると、確かにウッド・ドラゴンは別の獲物を見つけていた。
奴の血走った眼。
その先には、子供と老人がいた。
彼ら二人は馬の死骸の下敷きになったさっきの女戦士を助け出そうとしていた。
同じ部族の仲間を見捨てられないみたいで、二人とも必死だ。
下敷きになっている女戦士も、彼らに自分は置いて逃げろと叫んでるみたいだった。
そんな三人に、重い足音が迫る。
「こ、これまずくね!? た、助け呼ばなきゃ……」
『助けを呼ぶあてがあるのですか?』
「え、えーと110番とか猟友会呼ぶとか?」
『呼ぶための通信機器はありませんし、この世界にそもそもそんな組織はありません。あったとしても間に合わないでしょう』
「じゃあどうしろっての!?」
『傍観を推奨します。あなたの生命が優先です』
傍観……
見て見ぬふりをしろってことだ。
不意に、昔の記憶がフラッシュバックした。
昔の記憶だった。
学校で僕をいじめてた連中の顔。
それを傍観してた連中の顔。
その顔が能面みたいに僕を見下ろしている。
ああ嫌だ。またこの記憶だ。
傍観されるのは、辛いもんだった。
ましてや、あの人達を傍観するのは、死ねという意味だ。
そう思ったら、何もせずにはいられなかった。
「おおーい! ドラゴンさんこっちだこっち!」
僕は立ち上がって大声で叫んでいた。
何か解決策があるわけじゃなかった。
でも、僕が囮になればあの三人が逃げる時間が稼げるかも。
騎士が馬で逃げようとしたのに追いついたあいつから、運動不足のニートが逃げ切れるかは分かんなかったけど。
後先なんて考えてない。
そもそも、後先を考える知能がありゃニートなんてやってない。
『何をしてるのですか? 死にますよ』
「他人事に構えてないで死なずに済むサポートしてくれよ!」
『無理筋な提案をする人ですね』
ギョロリと奴の殺気立った眼がこちらを向いた。
やばい、ちびりそう。
『失禁しそうなところ悪いですが、川辺へ前進できますか?』
「え!? 森に逃げ込んだ方が……」
『私の計算ですとどう逃げても追い付かれます。ここは前進を推奨します』
「うう……マジかよ」
確かに背中見せた騎士達が真っ先に狙われてたし。
熊なんかも背中見せて逃げる相手を本能的に襲うってなんかの動画で見た覚えがある。
僕は川辺に向けて歩み出た。
ドラゴンがこちらに体を向ける。完全に、次に殺す相手は僕に決めたようだ。
「ひーっ! どうしよその辺に落ちてる棒で戦うか!?」
『いいえ、両手の〝ドラウプニル多機能干渉端末〟の使い方の応用で戦うことを推奨します』
「はえ? 端末って、これのこと?」
目覚めた時に勝手に装着されてて外れないあのリストバンドだ。
「これでどうやって戦うってんだよ!?」
剣でもなければ銃でもない。
これで戦えるとは到底思えなかった。
『落ち着いてください。私がサポートします。そこに大きな岩があるでしょう?』
「え、あ、矢印出てるこれか」
ご親切にも視界に矢印が投影されていた。
2〜3トンくらいありそうなデカさの岩だ。
『持ち上げてください』
「はあっ!? 持ち上げるう!?」
ネット通販で届いたエナドリの箱持ち上げただけで腰いわすニートの僕が!?
『大丈夫です。手をかざして持ち上がったイメージをしてください』
「い、イメージってあんた……」
僕は右手を開いて岩に向けてみた。
イメージっていうから、なんかこう、超能力者のような感じでやってみる。
その時だ。
右手に青白いまとわりつくようなオーラが現れた。
それだけじゃない。
グラグラと巨大な岩が震えたかと思うと、ぼこんと音を立てる。
そのまま僕の肩の高さまで浮き上がった。
「うわあなんだこれ!? ほんとに持ち上がった!」
まるで発泡スチロールで作られた岩みたいに軽々と。
それも宙に浮いた!
「エンネユゥベイ!?」
こっちも驚いてるのだけど、あっちの部族民のみなさんも驚いていた。そりゃそうだ。
『ドラウプニル多機能干渉端末の機能の一つです。イメージを続けてください。奴が来ます』
「うえ!?」
悠長にこの現象を眺めてる場合じゃなかった。
見ると向こうから凄い勢いでウッド・ドラゴンが突進してくる。
戦士と騎士を虐殺したように僕も奴の目からすればただの獲物だ。
このままじゃ死ぬ。殺される。
いつもは半分寝てるような僕の脳味噌に、生存本能というものが初めて宿った。
「ぬ、ぬわああああっ!」
僕はドッジボールの球を横投げするようなポーズを取ると、目前まで迫ってきたドラゴンにぶん投げる動作をした。
ドゴォッ!!
もの凄い音がした。
ドラゴンの横っ面に、岩が直撃して砕け散った音だ。
グギャアッ!?
さすがのドラゴンも数トンある岩がぶっ飛んでくるのは堪えたらしい。
突進してきたのが、完全にヒットバックした。
『まだダウンしていません。次です』
「お、おうさ!」
僕はまたその辺にある巨大な岩を持ち上げる。
「もいっちょ!」
しかも調子に乗って二つ。
今度は雪合戦の雪玉を投げるように、ぽいぽいと放る仕草をする。
面白いように岩が「ぐおん」と鈍い風切り音を立ててドラゴンに飛んで行った。
メギャ! グシャ!
二つとも命中し、ウッドドラゴンの硬い苔むした表皮の一部が割れて流血する。
ガァアアアア!?
奴は完全に怯んでいた。
これまで、ここまでのダメージを負ったことはないのかもしれない。
(なんかいじめっこほど反撃されたら弱いって感じだな)
『たとえが随分と矮小ですね』
「うっせえわ!」
アシュラにちくりと言われながらも、僕はトドメとばかりに一際でかい岩を持ち上げた。
軽自動車くらいの大きさはある、たぶん重さ10トンはありそうな巨石だ。
「どっせええええい!」
僕は両手をそれを頭上に持ち上げる動作をする。
それを見たウッド・ドラゴンが、人間じゃないのに顔面蒼白になったのが分かった。
ギャウッ!
奴がこちらに背を向けて反対側の森へと走り出す。
素早いものの、それは脱兎のごとくといった感じだった。




