<第27話 カッコイイ囲い>
時間がないので早速取り掛かることになった。
ソリルは再度、周辺の調査と危険な魔物が寄ってきた場合の対処。
ツァスとネルグイは食糧収集だそうだ。
そして僕は城壁建設。
「ニートは木を切る〜 へいへいほ〜」
安請け合いしたものの、ちょっと後悔はしていた。
なにせ、城壁を作るために必要な木材の数は家を建てるのとは桁外れに多い。
木製城壁はつまり、地面に木材を隙間なくぶっ刺して結び、拠点をぐるりと囲むという代物だった。
木材さえあれば作れるとはいえ、木材の直系はだいたい20〜30cmくらい。1m幅の城壁で約3本は必要だ。これが100mとなると約300本は必要な計算である。
しかも城壁は100mではたぶん終わらない。
防衛しやすいように五角形型にだいたい500mくらいは必要になる。
そうなると必要な木材の切り出しは単純計算で1500本。気が遠くなる本数だ。
『この針葉樹なら幹の太さが均一です。品種としてはパイン、つまりマツ科に近いようです。高い木なら1本から3本分くらい製材できます。実際はこの三分の一でなんとかなるでしょう』
「そうだとしても500本かあ……」
廃宇宙船のある湖を背にしている形だから、その部分だけは最後でいい。重装備だったり泳げない敵なら湖からの侵入はあまりないからだ。
とはいえ、泳げたりボートを入れられたら詰みなのでやっぱり最後にそこにも城壁は必要だ。湖との行き来は裏門を設けることにする。
「とはいえ、僕も昨日の作業でちょっと切り出しと製材が慣れてきちゃったよ」
僕は僕で、実は新技を編み出していた。
昨日は一本一本ワイヤーソウの要領で切り倒していた。
でも今日は、干渉ビームを両手から出すと、それを3〜5本の木の幹へ絡み付け、いっぺんにこすって切断する。
これで作業効率は3〜5倍。
がんばれば1時間で100本くらいは切り出せるようになった。
あらかた切り倒したら今度は製材。枝を切り落として、木材だけにする。
これも新技を発明した。
アシュラが見せてくれた全自動の機械式枝落とし機のお陰だ。
枝を一本一本落とすのではなく、ぐるりと木の全周を回転させている歯車で洗うようにして製材する機械のように、干渉ビームを回転させながらくぐらせると面白いように枝がとれた。
ちゃんとした家を建てるわけじゃないから、精度はさほど必要ない。人間が通れないなら並べた時の多少の隙間は誤差だ。
『本来なら木製城壁は二重以上にして強度と隙間を高めますが、今はそこまでは時間が足りません。ゴブリンという魔物はソリルの話では攻城兵器までは運用しない様子なので、これで十分でしょう』
アシュラはそう分析するけど、こういう異世界で「ぼくが考えたさいきょうのお城」なんてものは望めず、時間と今いる人数でいかに守るかというのを考えなきゃなのはなかなか大変だ。
それでも、ソリルたちからすれば僕の存在は奇跡みたいなものなんだろうけど。
「ウメタロー、元気そうじゃのう」
「ああ、ネルグイお爺ちゃん」
昼時、お昼ごはんを持ってツァスとネルグイがやってきた。
「いんや大した魔法じゃわい。この量の木をもう切り倒したとはのう」
ネルグイは顎の白いひげをさすりながら感心しきりだ。
ちょっと照れる。
「一体どこの高位の魔法学校で学んだじゃろうか。こういう系統の魔法はわしも見たことがないわい。記憶が戻ったらやんごとなき人じゃったとかあるのかいのう」
「は、はは。どうだろうね」
実際の僕は高校中退だから魔法学校卒業どころじゃないし、身分も一般家庭出のニートだから社会の最下層だった。
「ふ、ふん! 魔法は才能っていうしたまたまそんな力があっただけで偉いなんておかしいよ」
「そうかのう、魔法使いでいえばエルネスティーナ殿も魔法学園で苦労したと聞いたが……」
エルネスティーナの名を聞いたツァスがはっとする。
「お師匠! エルネスは敵なんだよ! もう敵なんだから……」
そこまで言ってしゅんとしてしまう。
「そうじゃったな。忘れよう忘れよう。ほうれ、まあ飯にするかいの」
ネルグイは大人の対応で話を変える。
彼の手には何やら煮込み料理の入った金属製のポットが提げられていた。
見たところ、金属製品は部族のものではなく、王国から交易で入手したらしきデザインだ。
切り株に三人で腰掛け、昼食にする。
「わあ! すげえ、エビなんてどこで手に入れたの?」
ポットの蓋を開けると、中身は真っ赤に煮込まれたエビとキノコの入ったスープだった。
「あの〝空を行く船〟の浸かっとる湖にはようけおるようじゃったからの。昨日の内に籠罠を沈めておいたんじゃが入れ食いじゃよ」
「エビの餌はその辺の土掘って採れるミミズを刻んで入れておくだけでいいから簡単だぞ」
ネルグイとツァスの説明にへえーと思う。
『年中温かい水温はエビが好む生息環境です。天然のエビ養殖池のようになっているのでしょう』
補足してくれるアシュラ。
みんなよく知ってるなあ。僕、実は今の今までエビは海にしかいないと思ってたくらいなのに。
小学生低学年の頃に、いじめっこに「海にいるのがエビで川にいるのがザリガニだ」と言って殴られたトラウマが原因だろうか。そんなわけなかったのに。
「ふふ、おいしい」
そんな記憶と一緒にエビを食べる。
微かに味付けに入れられた岩塩の味と涙の味が混ざった気がした。
・
・・
・・・
翌日――
一夜城なんて言葉をどっかで聞いたことあるけど、二日城はなんとか建設できた。
といっても、立派な城や要塞というより、拠点の周囲をぐるりと五角形に木製の壁で囲っただけだ。
中学生の頃に日本史の資料集に載ってた吉野ケ里遺跡の写真をちょっと連想させる。
そして、結局数えたところ、切り倒した木は526本に及んだ。
単に壁を作るだけじゃなく、門をきちんと作ったり、城壁というからには壁の上から敵を攻撃できるように足場も必要なので、要所要所にそういった足場も作らないといけなかったからだ。
いざ建設してみると、森のど真ん中にこんな壁が現れるのは結構ぎょっとするだろう。
木製とはいえ壁の高さはなんと5m。梯子をかけない限り乗り越えは不可能だ。
一重の壁だから隙間はあるものの、人間や魔物がすり抜けるのは無理だから問題ない。
「それにしても森林破壊もいいとこだなこりゃ……」
自分でやっといてなんだけど、500本も木を切ったらそこそこの範囲の森が消滅した。
切り株だらけになった森の光景はなんか罪悪感にさいなまわれる。
「切り株を撤去できればここを畑にすればええわい」
「そ、それでいいわけ……?」
ネルグイはシャーマンだし、自然破壊に厳しいのかと思ったら案外そうでもない様子だった。
「ええじゃろうて。ここの先住者はあの〝空を行く船〟じゃ。あのお方が何も異を挟まないなら問題はなかろう」
そういう問題かなあ……と思わなくもない。
「それに針葉樹は50年もすればすぐ成長するぞい。というかこの辺りの森は結構若いのが多いしのう。あの〝空を行く船〟がたまに魔物相手に雷で焼き払うからじゃろう」
ツァスも頷いた。
「それでも生えてきてるってことは森の再生力が高いんだ。水も豊かだし、植林すれば再生するよ」
自然との付き合い方がちょっとドライにも聞こえるけど、自然を大事にするというのがあくまで共存関係だからなんだろうな。
「それにしても疲れた……僕はもう飯食って寝るよ」
「お疲れさまじゃウメタロー。城壁の番はわしらが交代でするからゆっくり休むがええ」
ゴブリンの襲来を警戒し、不寝番を立てることが決まっていた。
三交代で城壁に詰めて見て回る。異変を感じたら皆に報せる決まりだ。
ありがたいことにその役割はしばらく免除してくれるらしい。
「さーて、ちょっと僕も考えてたことをやろうかな」
僕にはある計画があった。
さすがにもう我慢の限界だったから。
それは――
「お風呂を作る!」




