02ささら先生の魔法教室
ささらが『氷撃槍』と唱えると、一瞬凄く寒い風を感じたような気がした。そしてこちらに向かってきてた豚のような化け物は氷の矢に貫かれて、いや体ごと氷に閉じ込められて死んでいるようだった。
「……………すっげー、ささら。お前を現代最強の賢者と認めよう」
「何のんきなことを言ってるの!? ほらっ、誰にも見られないうちに逃げるよ!!」
「了解!!」
「人がいないところに隠れよう!!」
そうして俺たちはその場からそそくさと逃げ出した、ささらにできるなら多分俺にも同じことができるはずだ。でも俺たちはそれを絶対に見つかりたくない、こんな非常事態の英雄なんて命がいくらあっても足りないからだ。
「ふぅ、もう夜ね。いや~、刺激が多いと時間が早く感じるわ」
「ささら、さっきの魔法? あれって俺にも使えるのか?」
「多分、できると思うよー。これって絶対にあのふわふわを集めたせいだもん」
「そうか、それじゃ命が危ない時のために練習しておきたいんだが……」
俺がそういうと埃臭い化学準備室でささらが机の上に立った、そうして俺を見下ろして両手を腰にあてこう言った。
「ついにささら先生の魔法教室のはじまりかな!?」
「ささら、スカートが短い、……見えてる」
俺がそう言ってささらから目をそらした、俺にはばっちりささらの可愛いパンツが見えていたが、俺は何にも見なかったことにすることにした。ささらはちょっと耳を赤くしていたが、机に座って気にしないことにしたみたいだった。
「まっ、見られたのが和樹ならいいか。コホンッ、ささら先生の魔法教室としてはね。なんとなくできるのよ!!」
「なんとなくできる? それじゃ参考にならんような?」
「自分が使いたい魔法の姿を思い描くのがコツね!! 和樹、ここに氷を一個出してみて!!」
「………………『氷撃塊』」
俺はささらに言われたようにしてみて驚いた、勝手に言葉がでてきて氷の塊を生み出しそれはゴトリと床に落ちたからだ。なるほどなんとなくできるという意味が分かった、本当にしようとすることが力のある言葉になるのだ。
「ほらっ、和樹にもできたじゃん!! 私達って言うとなんかダサいけど魔法使いよ」
「これは自由な場所で練習がしておきたいが、今は無理だな」
「ここ避難所だもんね、皆に忘れ去られたこんなとこしか練習場所が無いよ」
「俺は何も気がつかなかったが、ささらは他に何か気づいたことがあるか?」
「そうね、体全体が強化されてるって感じ、今なら綺麗に拳で殴れば木の壁くらい粉砕できそうかな」
「身体強化までされているのか、そうかあとで軽く筋トレでもして確かめてみよう」
「それじゃ、皆に怪しまれるとまずいし。ささら先生の魔法教室は今日は終了」
「うん、勉強になった。ありがと、ささら」
そう言って俺が頭をなでてやるとささらはにこにこと笑顔でそうされていた、なんでもささらにとっては見た目が違っても自分をいじめなかった俺のことは親友なのだ。俺にとっては体の成長が人より早くて周囲の子どもには怖がられていたから、そんな俺を怖がらないささらはやっぱり大事な親友なのだ。
「それじゃ、くれぐれも目立たないようにね。和樹」
「ささらもな、あとスカート短くしすぎだ。直しとけ」
「和樹だけなら見せてあげてもいいよ?」
「俺も一応男に分類されるんだ、変な誘惑はよしてくれ」
「うーん、もう堅物なんだからぁ!?」
「………………それは悪いことじゃない」
それから一週間、俺とささらは避難民向けに開放された運動場で、見よう見まねで格闘術などを試していた。おかげで体の動かし方がかなり上手くなったと思う、俺たちは走るスピードも何か遭った時の反射神経も向上していた。街の方は出てきた化け物、モンスターたちは数少ない不思議な力に目覚めた覚醒者と言われる者たちが退治したそうだ。この辺りは覚醒者が少なくて他の県からまわしてもらったらしいと、皆がそう噂しているのを聞いたがスミマセン。それ多分、俺とささらのせいです。
「明日から避難解除だって、いや~覚醒者様に感謝、感謝!!」
「これでようやく自由に動けるから、俺はできればゲートに行ってみたいな」
「和樹が行くなら私も行くもんね!!」
「ゲート、魔物がでてくる場所らしいけど、一体どこらへんにあるんだろう」
「それと覚醒者を登録する法律ができたみたいだね」
「やっぱり俺とお前も登録するしかないか」
俺としては誰にも知られずに自由に行動したかったが、国がこの非情事態に合わせて覚醒者の登録、ゲートの登録・報告義務などを普段の政府は行動が遅いくせに今回は素早く法律にしたのだ。今のところ覚醒者の隔離とかにはなっていないので、登録をしてもそれほど心配することはないはずだ。そうして俺たちは避難所での最後の夜を過ごして、それぞれの家に帰ることにした。
「やっと、外だ。俺はとりあえず自分の家を片付ける」
「私もそうする、その後は分かってるよね」
「ああ、覚醒者として登録だ」
「電話かメールして、絶対一緒に行こうね!!」
俺はこうして自分の家に帰った、俺の天涯孤独で身寄りがひとりもいなかった。だから部屋の片づけもうっすら積もっている埃を払うくらいですんだ。ささらには日本人の母親とアメリカ人の父親がいるが、どちらも放任主義でささらが何をしても別に気にされていなかった。だからよけいに親友の俺にささらが懐いているのかもしれなかった、俺としてもささらがいなかったらと思うと人生がつまらないものに思えた。そうして次の休日に身支度を終えると俺はささらに連絡した、すぐに返事がきて俺達は覚醒者登録に行くことになった。
「おおっ、ここが覚醒者登録の場所かー!!」
「いつもの役場の隣の運動場じゃないか、ささら大騒ぎするな」
「身近に一人や二人、覚醒者がいるってことかな?」
「そうかもな」
俺が気が付くまでにふわふわした光が見えて吸収した者もいるだろう、そうして俺とささらは覚醒者登録をした、テストは色々あって、蝋燭に火をつけてくださいとか、土人形を動かしてくださいとか、風車をできるだけ沢山回してくださいとか、小さな氷を生み出してくださいとかだった。
「それじゃ、俺は氷で」
「私も私も、氷で」
俺たちのテストは小さな氷を生み出すという簡単なものだった。俺たちは覚醒者カードというのを貰ってそこまでは良かった、その後がまずかった。黙っていれば可愛いささらを見ていた男たち三人が絡んできたのだ、当然ささらは俺の後ろに隠れて防御体勢をとった。
「何か用ですか? 俺たちは覚醒者ですよ?」
「奇遇だな、俺らも覚醒者さ。なぁこんなでくの坊といないで、女の子は俺らと遊ぼうぜ!!」
「ぜぇーたい!! 嫌!! 生理的に無理ぃ!!」
相手がささらに手を出そうとしたので、俺はちょっと足をひっかけて相手を転ばせた。そうした隙に俺たちが彼等から逃げようとした時だった、ぐにゃりと空間が歪んだ。これがゲートの発生だった、そうして俺たちは全員ゲートに吸い込まれた、次に俺が目を覚ました時には手は何かで拘束され、そしてささらが男に押し倒されて大声で喚き散らしていた。
「ふざけないでよ!? ゲートの中だって強姦していいわけがない!! とっととこの汚い手を放しなさいよ!! っ和樹!!」
「………………全く一体何をやってるんだ、ささら」
「これからささらちゃんは俺達と楽しむのさ!!」
俺はようやくゲートが開いてからの事態を理解したが、キャーキャーと悲鳴を上げるささらに俺が言ったのは一言だった。
「ささら、お前一人で完勝できるだろ」
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