堕落者と亡失者
空に見えたのは、一つの月だ
だけど、色がいつも見るものと違う
もし、宇宙が無限に広がっているのならば
どうかこの罪を、その無限で吸い込んでくれないか
「あぁ...」
商店街をすぐ出ての信号が目の前で赤になった
今日はやけに雲の流れがはやい
特に急いでいる訳ではない
だが、何故か損した気分になった
「まぁそう急ぐなよ」
後ろからゆっくりと響が歩いてきた
風に乗って甘い香りが鼻の前を舞う
いつも響の周りには甘い匂いが舞っている
でもいつも違う甘い匂いがする
不思議だ
いつも呑気で授業中も寝てばかり
そのくせ成績はいつもトップレベルで、まるで漫画に出てくるキャラクターみたいだ
「いやいや、響は歩くの遅いよ。」
僕は冗談っぽく躱した
車が動き出した
どうしてだろう、空がいつもより青い
「なぁ神星、見てみろよ」
響は空に向かってまっすぐ指を指した
僕が目を向けると、そこには白色の月が見えた
「夜は黄色いのに、何で昼は白く見えるんだろうな」
響は疑問を浮かべてきた
「さぁ、考えたことも無かった。」
「理科でも習ったこと無いよな」
僕は正直驚いた
(まぁ、いくら頭が良くても知らない事くらいあるか...)
「いつ習うんだろうね」
僕はまた軽く躱した
空に広がる青の中に色の無い丸が存在している
「もし、月が白い理由が、『月は二つあってそれぞれ朝と夜で出てくる役割がある』だったら面白いな」
響は笑みを浮かべ、空の方を見た
「なわけ」
僕は馬鹿馬鹿しいと感じた
月が二つあったら、今頃海は荒れ狂ってるはずだ
「そうだよな」
響はそう言って青に変わった信号を渡り出した
僕も遅れて一歩足を前に出した
そしてもう一度空を見上げた
「月の色か...」
「ん?何って?」
背けたいものを手で隠せば、それは背けたと言うのか?
手をどけたらどうなるだろう
僕はそれを無くしたいのに
見ないことと、無くなることは違うんじゃないか?
道を踏み外しても、また"普通"に戻れるか?
世間は許してくれるのか?
幸せを失っても、人生は面白いか?
面白い事が幸せなんじゃないか?
この2人を、人々は、神々は許すだろうか