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4話⑤

「って感じのことがあって……」


 凛都の顔色を窺う。難しい顔をして黙っている。拗ねているようにもみえた。


 紘との出会いから解散までを事細かに話したが、部屋で二人きりの時間があったことや、ベッドの上で間一髪であったことは省略して誤魔化した。今の話にやましい点はなかったはずだ。


「……紘とは会わないで」


 どこか遠くを見ながらぼそっとつぶやいた。


「ねえ、楓」


「はい」


「俺たち付き合わない?」


 今度はこちらを真剣な眼差しで見つめてくる。思ってもみなかった言葉に、楓の鼓動が高鳴る。


「えっ」


「嫌?」


「嫌ではないです……」


「でも良くもないんだ?」


「いや、なんていうか、嬉しいんですけど、まだ二人で会うの二回目ですし、白川先輩のことまだ何も知らないし……」


 心は今すぐにオッケーを出したがっている。こんなイケメンと付き合える機会など二度とないと直感で分かっていた。しかし頭が急激な変化にストップをかけようとしている。


「付き合ってから知っていけばいいじゃん」


「そ、そういうもんなんですかねー」


 引きつった笑顔を無理やり作った。すると、急に凛都が楓の左手を握った。


「俺だけのものに、なって欲しい」


 少し荒くなった息遣いが聞こえてしまった。急接近する凛都に、楓は思わず身体をのけぞらせる。それでも凛都は手を離さない。この時、楓は初めて凛都に恐怖を感じた。これだけ眉目秀麗な人間に対しても生理的な拒絶反応が起きることに楓は自分自身でも驚いた。


 そしてこのような強引な迫り方をするタイプだとは思ってもみなかった。


「ちょ、あの、とりあえず友達から、始めませんか?」


 できるだけ穏便に話を終わらせたが、気まずい沈黙が続いた。 


「あの、今日は一旦帰りませんか?」


「ごめん。熱くなりすぎた……。そうしようか」


 二人は来た道を重い足取りで戻る。高校時代の話も尋ねる予定だったが、そのような流れではなくなってしまった。


「これからも白川先輩と仲良くしたいです。もう少し時間をかけていきたいです」


 大失敗と言えるこのデートに、楓は精一杯のフォローを入れた。


「ありがとう……。でも俺、楓を好きな気持ちはもう変わらないから」


 落ち込んでいると思いきや積極的なアプローチだった。楓は戸惑い、反射的に、ありがとうございます、としか言えなかった。


 それ以上は喋ることもなかったので、ふかふかの芝生をぼんやり見ながら歩いた。恋愛の距離感の難しさ、歩みのペースの違いに打ちひしがれながら、青い道は続いていく。二人の細長くて頼りない影が左前方に伸び……。


 そして楓は違和感に気づく。細長く伸びた二つの影を見比べた。その濃淡だ。


 ――あれ?


 これだけ強い西日。影は濃くはっきりと地面に映るはずなのだが、どうも凛都の影はその原理に反している。


 凛都の影だけ明らかに薄いのだ。まるでぼんやりと薄暗い部屋にいるかのような薄さだった。楓が顔を傾けても、何度まばたきしても、それは変わらなかった。


「どうかした?」


「いや! 何でもないです」


 それから駅で別れるまでずっと凛都の影をちらちらと見続けていたが、やはりどんな明るさになっても凛都の影は薄かった。駅構内の日陰では凛都の影だけもうほとんど見えなかった。自分がおかしくなったのかと、他の通行人も観察して見比べるが、影の異常性に間違いはなかった。


 凛都には話さなかった。話してはいけない気がした。凛都は気づいているのだろうか。


 ――まさか。いや、まさか。


 色々な憶測が頭を駆け巡った。


 それでも、自分の影と凛都の影に何かが起こっていて、少なからず関係していることは楓も直感で理解できた。

 

 楓は帰宅してすぐにその件で老婆に電話をかけてみた。


 不通だった。


 妙な胸騒ぎがした。


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