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4話④

 ――私が、今日紘さんと一緒にいたって証明してくれますか? 何があっても、私はここにいたって言ってくれますか?


 楓の意味深長な発言をもろともせず家に誘い込んだ紘。


「あの、確認だけど楓ちゃんって凛都と付き合ってるわけじゃないんだよね?」


「はい」


「そっか。ならいいんだけど」


 そう言って小さな冷蔵庫からペットボトルを取り出した。


「飲む?」


「あ、大丈夫です」


 冷蔵庫の前で黙って炭酸ジュースを飲む紘を、楓はどこかよそよそしく見つめた。


「ベッドの上、座っていいよ」


「あ、はい」


 楓としては隣にいてくれる人がいるだけで良かった。不意に消えるぬいぐるみより頼りがいがあれば良いのだ。


 ――案外、デートしてた方の清澄さんが偽物だったりして


 あの凛都の言葉も引っかかっていた。どうしてこの事態をおかしいと言ってくれなかったのか。存在を脅かすような一言を放ったのか。


「よっと」


 紘が横に座り、間もなく手を繋いできた。


 どうにもでもなればいいと思った。辛いことを一時的にでも忘れられるのなら、時にはこんな場面があってもいいのではないか、と楓は安易に流された。


 そもそも白川先輩が寄り添ってくれていたらこんなことにはなっていなかった、と責任転嫁するような考えも浮かんできたが、紘の顔が近づいて来たので思考を放棄した。


 その時、インターフォンが鳴った。


「紘ー、入るよー」


 扉の向こうで聞こえたのは女の声だった。女はそのまま入ってこようとしたが、鍵がかかっていたようでガタガタと揺らし強引に存在を知らしめようとしている。


「開けてー。いるんでしょー」


「うわ、まじか。ちょい待ってて」


 紘が慌てて立ち上がる。紘は扉の前でこそこそと女と口論したが、やがて押し切られる形で女は上がり込んできた。


「うわ! 凛都の後輩ちゃんじゃんー。やっほー」


「あ、どうも……」


 かなりの修羅場に巻き込まれたかと思ったが、女は怒っているわけではなかった。


「身内連れ込むのやめなって言ってるじゃん、馬鹿紘!」


 女は中井真美なかいまみと名乗り、楓も改めて自己紹介、そして事の経緯を話すこととなった。


「楓~。こんな奴についてきちゃだめだよー。何されるか分かんないんだから!」


 真美の指摘はもっともかもしれないが、楓は反応に困った。


「変な言い方すんなよー。何もしてないじゃんねー?」


 手を繋がれて間もなく顔がくっつきそうだったことは、話がややこしくなるので黙っておいた。


「で、そのドッペルゲンガー? やばいじゃん! まじであんだねーそういうの」


「で、俺が今日遊んだことの証人になるってわけ!」


「なるほねー。じゃあウチも証人! 本物の楓はここに確かにいる!」


 紘もだったが、真美も第一印象ほど悪い人ではないと楓は感じた。見た目こそ派手で、香水臭いが、陽気で面白く、大学にはいないタイプだった。


 そのうち腹が減って、紘がコンビニにおつかいへ行った。真美はパシリ、パシリ、とおどけて笑っていた。


「ごめんねー、紘あんなだけど悪いやつじゃないからさー。でも二人で会うのはやめな?」


「そうします」


 そう言って笑い合いあった。まだ出会って間もないが真美との時間は気まずいものではなかった。


「あの、真美さんは白川先輩と高校の時の友達なんですよね?」


「そだよー」


「仲良しだったんですか?」


「うんー。まあね」


 歯切れの悪い返事に、楓はさらに質問する。


「白川先輩って高校の時はどんな感じだったんですか?」


「どんな感じも何もモッテモテーよ! 顔が良いしね。ま、ウチはタイプじゃないけどー」


「ですよね。モテますよね」


「凛都のこと狙ってんの?」


「いやいや、狙ってるっていうか、どんな人なのかなーって気になって」


「まあ気になるよねー。うーん、基本クールで何考えてるか分かんない感じかな。まあノリは悪くないんだけど、意外とシャイで女の子と喋んないかも」


「やっぱりそんな感じなんですね」


「昨日ひっさびさに見たけど、まあ元気そうで良かったわー」


「白川先輩とは卒業してからあんまり会ってないんですか?」


「あー、うん。卒業前に色々あってさ。凛都だけグループ抜ける感じになっちゃったんだよね。ほんとはまた仲良くしたいんだけど、凛都と揉めた子たちは修復フノーって感じできびいんだよねー」


「そうだったんですね……」


「卒業前とか暗い感じになってたからさ、楓みたいな子がいてくれて良かったよ~!」


 少しだけ凛都の人となりも分かった楓は、紘が買ってきたコンビニ飯をつついて、終始談笑した。いくらか気分もましになり、真美と一緒に家を出ることにした。辺りはすっかり暗かった。


「俺もついてく」


 紘が駅まで送ってくれた。真美はこれから仕事だからー、と歓楽街の方へと消えていった。


 凛都やドッペルゲンガーが繋いだ不思議な縁に、今回ばかりは悪い気分ではなかった。しかし、帰り道ではどっと疲れて冷静になった。軽率な自分の行動を、そっと内省した。


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