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1話② 楓は目を疑った

 何も知らない楓が、次に起きたのは朝の八時前だった。


「うそ、うそうそうそ。寝てた!?」


 パソコンはとっくにスリープしていて、月明かりは太陽に代わっている。急いでパソコンを叩き起こしレポートがどこまでできていたか確認する。無論、完成した記憶はない。


「え?」


 楓は目を疑った。文字がずらりと並び、章立てされ、結論まで滞りなく書かれているレポートのデータがそこにあった。


「どゆこと?」


 疑問に思いつつ、楓はざっと目を通す。それは理路整然としていて、それでいてどこかのサイトからコピーアンドペーストしてきたかのような不自然な文体や専門用語もない。


「やった!」


 楓は両手で小さくガッツポーズした。完成していればそれでいいのだ。


 リビングにあるプリンターで、意気揚々とそのA4五枚のデータを印刷し始める。


「あれ、楓が自分で起きてる」


 楓の母、すみれが朝食の準備をしていた。


「おっはよー。お風呂入ってくるー」


「えー、お風呂入ってないのー?」


 母は棚の皿を取り出しながら顔をしかめる。


「お姉ちゃんきったなーい」


 高校二年生の楓の妹、星良せいらは携帯電話片手に母が出す朝食を待っている。


「うるさいなー。忙しかったのー!」


 プリンターを働かせたまま楓はシャワーを浴びる。最初は機嫌よく鼻歌を口ずさんでいた。しかしどれだけ頭が冴えてきても、レポートを完成させた記憶が浮かんでこないことが気がかりになってきた。鼻歌はやがて考え事に切り替わり、静かな時間が続いた。そして楓は、そんな童話があったことを思い出す。小人が寝ている間に靴を作ってくれていた話だ。ぼんやりと浮かんだ物語だったが、タイトルは出てこない。そのうちそんなこともどうでもよくなって、まあいっか、と風呂を出た。


「楓、時間ないよー急いでー。プリンターの所も片付けてー。あと今日は帰りにカレーの具材買ってきてー」


 母はいつも要件を一度に言う。楓は「はいはいはい」と要件の数だけとりあえず返事をするだけだ。


 結局プリンター周りを片付ける時間はなく、レポートだけをさっとリュックに詰めて家を出ることになった。


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