3話④ 合言葉
星良は二つのアイスを捨てに一階へ下りた。怖かったので楓にも付き添わせた。母が二人仲良く下りてくる姿を不思議に思って色々聞いてきたが、二人は何となくはぐらかした。
そして楓の部屋に戻ってきた。最近の出来事について楓は洗いざらい話す。
「それってドッペルゲンガーじゃん!」
「それ、今日遊んだ先輩にも言われた……」
紘が同じことを言っていた。彼がどこまで本気で話を聞いていたのかは分からないが、冗談で返さずに興味あり気に聞いてくれていたことには、楓も悪い気はしなかった。
「やばくない? お姉ちゃん、あいつに会っちゃったら死ぬんじゃない?」
「そんな縁起でもないこと言わないでよ~」
「ごめん。でもさ、放っておくわけにもいかないでしょ?」
「そうなんだけど……」
二人とも、まるで近くで誰かに聞かれているかのように小声になっていった。実際さっきまでこの場所にいたのだから、どこからか聞き耳を立てていてもおかしくはない。
「またお姉ちゃんのドッペルゲンガーと会うの嫌なんだけど―」
「私もどうしたらいいか分かんないんだよー。まじ迷惑」
星良はうーん、と考え、何か思いついたのか手招きする。
「ね、ね、ね。合言葉決めようよ。お姉ちゃんが本物じゃなかったら絶対答えられない質問とかさ」
「たしかに! それいいかも!」
楓も乗り気になって、二人は言葉を考える。それから星良が思いつき、楓の耳元で囁く。
”ラビテンは、苺のシャーベットが好き”
合言葉を決めた星良はひとまず安心して、楓の部屋を去ろうとする。去り際、星良はドッペルゲンガーが話していたことを思い出した。
「あ、そうだ。お姉ちゃん、何かピクタスに黒猫の写真載せてたけど、あれはお姉ちゃんが撮ったやつなの?」
楓が急いで確認すると、見知らぬ黒猫の写真が投稿されていた。
「え、知らない……」
「まじか。ドッペルゲンガーSNSまでできるんだ」
「携帯まで乗っ取れるのかな……。きもいから消しとく」
「ほんと気をつけてね。また変な写真載せられてたら教える。てかお姉ちゃんも何か変なことあったら言ってね」
怖がるか面白がるだけかと思っていた星良が、思っていたよりは頼りになりそうで楓は感心した。
奇妙なことが続き重くなっていた身体が、少しは軽くなったような気がした。
風呂に入って布団に入ると、楓はすぐに眠りについた。そして次の朝は携帯電話のアラームが鳴る前に目覚めた。
”返信遅れてごめん。土曜日会えるかな?”
凛都からメッセージが来ていた。
「返信おそ……」
”全然です! 会いたいです”
寝ぼけ眼で承諾する。するとまた通知が来た。急に返信が早いな、とアプリを開き直すと、今度は紘からだった。
“おはよ。ちゃんと寝れた? また遊びきてよ”
「はあ……」
思わぬ方向にできた人間関係。
「これもドッペルゲンガーのおかげってわけ?」
”おはようございます。寝れました。昨日はありがとうございました”
いけない方向に進まないように、楓は淡泊な返信だけして勢いよく起き上がった。




