2話⑥ 絶対突き止めてやる
黒く長い髪。青白い肌。華奢な腕。地味なカーディガンに、しわの寄った顔。
「はい、始めますー」
講師だった。
「はあ……」
息をするのを忘れていた楓は、長く薄いため息をつく。
チャイムが鳴った。
訳の分からないまま授業が始まった。望実と優香は驚くほど切り替えが早く、授業に集中している。横目で二人を見ても、全然目が合わない。楓は授業の内容など全く頭に入ってこないままで、しばらく物思いにふけった。
ここ数日で起きたことをルーズリーフに走り書きする。
・カレーの具
・自転車空気
・授業出席
・レポート完成してた ←さいしょ
思い返してみると、木曜の朝にレポートがなぜか完成していたのが最初の不思議な出来事だった。あの時はただラッキーだと思っていたし、小人が助けてくれたなんて軽く捉えていたが、どうも事はもう少し大きいらしい。
他にも細かい不自然な出来事はいくつもあったが、楓は忘れてしまっている。
大きく印象に残っている出来事をもう一度よく考え直す。
・カレーの具 →忘れてた具を誰かが買ってきた
・自転車空気 →なかった空気を誰かが入れてくれた
・授業出席 →ねぼうした代わりに授業でてくれた
・レポート完成してた ←さいしょ
→やってないレポートをやってくれた?
どれも不気味ではあるが、実はどれも楓のミスやピンチを救っているのだ。案外悪いやつじゃないかも、などと思い直してみる。しかしそれでもやはり得体の知れぬ不安は拭えない。
父が言っていた座敷童説も思い出した。買い出しに行く座敷童。自転車の空気を入れる座敷童。授業を代わりに出てくれる座敷童。レポートを書いてくれる座敷童。
馬鹿馬鹿しくて笑えてきた。
後で望実と優香にもう少し詳しく聞いてみる必要がある。どうもそれは楓の姿をしていて、友人をも騙せるイリュージョン振りらしい。
ぼやぼやと考えているうちに授業は終わりが近くなった。机の上に置いていた楓の携帯電話の画面が光った。誰かからの通知だ。まさか白川先輩か、と講師の目を盗んで手に取る。
”昨日出勤してくれてありがとうー助かった”
”デートは中止になったの? また話聞かせてね”
メッセージは芽からだった。何の話か分からない。しかし本当は直感で分かっていた。楓は分からないままでいたかったのだ。
最初は誰かと間違って送ってきたのかと思ったが、デートの話はおそらく楓のことだ。
楓が、昨日出勤している。
ただ事ではなかったが、少し冷静にその事象を俯瞰している楓がいた。そしてその上で、沸々と新たな気持ちが生まれて燃え上がってきた。
絶対突き止めてやる。
楓の代わりに楓を演じる誰か。その正体を追い詰めるべく、楓は動き出したのであった。




