穴の空いた蝶は大空に何を願う
空の先に何があるのだろう。あるアゲハ蝶はつぶやいた。
この穴の空いた貧相な羽では30cm程しか飛ぶことはできない。
もしも完全な羽があれば、果てしなく青い空の先までこの触覚を伸ばすことができるのだろうか。。。
そこで隼人は目を覚ました。
どうやら今のは夢だったようだ。まるで本当にアゲハ蝶になった気分だった。
ただ1つ疑問が残る。なぜ自分は穴の空いたアゲハ蝶になったのだろうか。
どうせなら穴がなく、完璧な羽を持ったアゲハ蝶でありたかった。それなら世界を自由に飛び回ることができたのに。
わざわざアゲハ蝶にまでなって、地べたを這いつくばるのは惨めすぎる。。。
少し嫌な気分になりながらベッドから起き上がり、顔を洗いに1階の洗面所へ行く。
洗面所の鏡の前に立った僕は、鏡の奥に写る自分を見てげんなりした。
お世辞にもイケメンとは言えない顔であった。不作の年のジャガイモのようにやせ細った頬、窪んだ目、太い眉毛、高いがイチゴの種のような黒いボツボツ。たらこのような唇。
こんな顔では誰にもモテない。
来世はイケメンに生まれ変わりたい。
そこでふと気づく。
これは夢の情景に似てないか?
欠陥のある蝶はまるで僕のようだ。
負け犬のように地べたを這いつくばる。
もし完璧な自分になれたら、そう願わずにはいられない。
でも待てよ。もしも蝶の羽の穴が塞がっても、結局空の向こうには行けないじゃないか。
30cm飛べるか10m飛べるかの違い。
見えるものは全然違うだろうけど、あの大空の先を見る時は微々たる差だろう。
顔を洗った僕の顔には晴れ間がさしていた。