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オカルト・ホラー・ミステリー

沸き立つ波に

作者: 静夏夜

■まえがき


 これから海へ行かれる方は、ご注意下さい。


 色々と……



■本文


 高校二年の夏から皆と毎年行っていた海水浴場で、何が関係あるのかコロナを理由に遊泳ローブの外でもボディボードが禁止されていた。


 一昨年はそれを知らずに行って、遊び道具を失った野郎共は放心状態。海水浴場で遊びの次に求める事など……


 けれど、整った顔の和希(カズキ)頼みのナンパでは、おこぼれ頂戴も良しとする貴章(タカアキ)以外は良しとしない。


 いや、和希は顔に似合わず面白過ぎて、毎度男も女も笑い過ぎて良い雰囲気にもなれず、和希の底無しネタに笑い疲れた腹が下るだけ。


 故に遊ぶ、兎に角遊ぶ他になく、何かないかと浮き輪を買ってぷかぷか浮かぶ……


 当然スグに飽きて、焼いてやる! と、スネて日焼けに興じ砂浜で寝る高野(タカノ)に賛同する他三名。


 そんな中、和希が運動神経の良さを生かして浮き輪で波に乗り出すと、それを見ていた連中も和希にコツを聞いて真似し始める。

 ボディボードは勿論禁止だが、和希の始めた浮き輪乗りを禁止する事が出来ない監視員の葛藤を他所に、仲間以外の海水浴客までを巻き込み浮き輪乗りが流行り始めていた。


 荒い波さえあれば浮き輪でも波に乗れる事を証明した和希だが、誰を指しての発言か、監視員の悔しさ滲むいやらしい意図を含む、まるでデモを先導したかの様な言われように浮き輪乗りも止めさせられた。


「他の海水浴客を巻き込んでの変な遊びはやめて下さい!」



 仕方なく去年は北陸の海へ行ったが北斎の絵に見る荒々しい波は無く、とても穏やかな日本海でぷかぷか浮かぶだけのビート板状態だった。


 そこで今年は皆を乗せたワンボックスカーを夜通し走らせ関東へ、波が高くサーフィンの地としても有名な太平洋の海までやって来た。



「ウォオオオ、波荒えええっ!」



 永遠広がる砂浜は弧を描いているのか、カーナビの地図上では少し離れた所に海水浴場も在るようだったが、それこそ砂粒の如くでどれが何だかも判らない。


 高校の同級生が相も変わらず野郎六人で乗り込んで来たのは海水浴場ではなく、サーフィンを主とする浜。

 見渡すと、ボディボードも本格的なウエットスーツを着た人達ばかりな事に気付く。


 水着で気軽なボディボードを楽しもうとしていた自分達の場違い感に多少の引け目を持つも、仲間が六人居る事の強みに折角来たんだからと我を押し通す。


 海水浴場に在るような海の家はココには無く、トイレと外に佇むシャワーらしき物がポツンと在るだけの駐車場の車の陰で、互いの裸をからかいながら水着に穿き替え、ラッシュガードを着たらトランクを開け皆のボードを取り出した。



「早く行こうぜ!」


 最初から水着で車に乗って来た貴章が急かして来る中、俺はパンツの紐を締めていた。


 高三の夏、好きだった子が同じ浜に来てる事を貴章から聞いた俺は、格好付けようとボディボードをエラく軽快に速度重視で波に乗ってた最中に下半身まで軽くなっていた。


 裸になった俺は沖へ引き返してパンツを探すも見付からず、あのお笑い芸人のトレイのようにボードで前を隠して浜辺を歩き、皆に笑われた記憶が気を引き締めるように紐の結び目をキツくキツく締めていた。



「おい、テンパー早くしろよ! いつまで紐結んでんだよ、どうせ脱げるんだから変わんねえって!」


 あれ以来俺のあだ名はストレートヘアなのにテンパーだ。

 相楽(サガラ)なのにアキラと呼ばれる。


 いや真中(マナカ)、お前の頭こそ天パーだろが!!




「お前等ここ初めてか?」


 突然知らないサーファーが話しかけて来た。

 やたらとイキる見た目の先輩風か地元民かは知らないが、何だか凄く上から目線に話しかけられ、水着を穿いて来た貴章は喧嘩っ早く問い返す。



「あぁ゙? 初めてだったら何かあんの?」


 潮の香りより喧騒の匂いに敏感な他二名が途端に臨戦態勢をとってサーファーに近付いて行くのを、俺は紐を締めながらの出遅れ感に追うも止めるも出来ず。


〈ビーサンで蹴るとか痛そうだよなぁ……〉


 等と、喧嘩になった折には加勢しようと準備していたのだが、喧騒を察知した別のサーファーが近付いて来てフォローした。



「何かあった? お、若いねえ君達。ここ人多いからぶつからないように波の順番待ちに暗黙のルールが有るからさ、ソッチでの喧嘩になったらサーファー全員を敵に回す事になるから気を付けてな! ほら、お前も行くぞ! 若いのは元気なんだから一々絡むな!」


 男を連れ去る喧騒に慣れた動きを見せた甘い顔の男だが、半袖ウエットスーツからタトゥーを入れた腕がチラリと見えた。

 無駄な喧嘩はしないタイプ、そういう輩が喧嘩になると一番性質が悪かったりもする。


 喧嘩にもならず、波の順番待ちに暗黙のルールが有るという情報を教えてもらい皆で浜辺に行くと、浜に上がって来た話し易そうなサーファーに聞いて確認した。



 ボディボードはサーフィンと少し場所を違えて、浜から見て右に進むサーファーが多い事から、ボディボードはサーファーより左を使うようにしているらしい。


 サーフボードのフィンでボディボーダーの足を裂く事故を誰かが起こしてから決めた暗黙のルールなのだそうだ。


 偶々話を聞いたサーファーが、ボディボードをする仲間と来ていたらしく、仲良くなった。


 その人はサーフボードの大会で写真を撮ったり、波のトンネルを抜けるサーファーの動画を配信したりしてる人で、カメラの練習に俺達の写真や動画を撮ってくれるという話になって、浮かれていた。


 俺にとってはテンパー事件払拭のチャンスでもあり、格好良く撮れた動画でモテに繋げる事が出来るかもしれない等と、内心の色気心が顔に出る面々を前に、薄々は気付いていただろうカメラマンは何を思っていたのか……




 沖で順番待ちするボディボーダーの人達とはまた別に、更に左の良い波はあまり来ない少し離れた場所でカメラマンの待つ所へと波に乗って向かう五人での順番待ち。


 とはいえそこも底が何処迄あるかも判らない深場の沖で、必死にビート板代わりのボディボードに捕まるも、胸より下が海に浸かり波に揺られて少しズレ落ちる度に足掻いて登るを繰り返す。



「痛っ!」

「あ、ゴメン」


「イテッ! 真中テメー」

「え、オレじゃねえよ!」


 足がバタバタと周りの仲間を蹴飛ばし、太陽が降り注ぐのに底から上がる冷たい海水が身体を冷やす。ボディボードでウエットスーツなんてと思っていたが、今はその理由も肯ける。


 順番が来ても良い波に当たるかは運次第、でもまあ互いの動きを見ていると、波に乗るというより浜へ持って行かれてるだけなのだが、皆カメラの前だけは平静を装い顔を作っていた。


 年に一度の夏休みだけのボディボード歴では技や何かを出来る筈もないが、運動神経がやたらと良い和希(カズキ)だけは回転したりジャンプしたりと、カメラも気にせず本格的なボディボーダー達と同じ所で派手な海パンでボディボードを謳歌している。


 そんな中だ。

 十五メートル程離れた沖で波待ちしていた和希が、波ではなく周囲を視ては何かを気にして警戒しているようだった。


 ふと、同じく和希の様子が気になったのか、カメラマンが真剣な顔になりカメラを構え、波間に浮かぶ和希のバッグショットを撮っていた。


 その直後、和希は回転やジャンプやを楽しむでもなく一心不乱に波の勢いに乗せて物凄い速さで浜へと上がった。



「やべぇなアイツ、超速ぇえ!」


 俺等みたいな素人目で見ても、他のウエットスーツを着たボディボーダーと比べても群を抜く速さだった。


 その後和希は浜に近い足の付く辺りで海水浴場の子供の様に、波にボードを浮かべてビート板代わりに漂うばかりの様子に、疲れたか飽きたかだろうと思っていた。


 それからものの十分もしない内にカメラマンも浜へと上がり、そろそろ上がった方が良いぞと言われ、皆も疲れて浜へと上がる。



「和希もコッチで撮って貰えば良かったのに、何一人で遊んで飽きてんだよ!」


 和希は明るく整った顔でモテるからと、貴章がナンパの出汁にしょっちゅう使っていた。

 それ故かモテに繋がる事には遠慮気味になっている傾向があるが、それは明らかに貴章お前のせいだ。



「ぃゃぁ、何か、スゲー嫌な感じがしてさ。鮫でも居るんじゃねえかなぁ……」


「嫌な事言うな! 鉄板ネタかよ!」


 さっきのカメラの件もそんな理由から離れたのだろうと思っていたが、馬鹿な会話に仲は良い。


 カメラマンの撮影に心踊っていたせいか、随分と遊びに夢中になってて、気付けば午後になっていた。


 何時間波に乗って・・・否、海を漂っていたのかを考えると、純粋にボディボードを楽しんでいただけの和希が飽きるのも無理はない。


 海の家が無いだけに、腹を空かせたら車でコンビニか、近くの何処かへ食べに行くしか無い。



「プールの日の小学生かよ!」


 車に乗るのに着替えていると、貴章が着替えのズボンが無い事に気付き馬鹿の称号に箔をつけた。


 高野が車の中に入れっぱなしだったジャージを貸す中、カメラマンが一緒に来てたサーファーと浜から上がって来て着替え始め、駐めた場所が近く野郎が群れ成し裸で仲良く話す駐車場。


 傍目には近付きたくない光景。


 動画や写真を後でパソコンから個々のスマホに送って上げると言われ、アプリで連絡交換すると、慣れた者の着替えは早くランクルで走り去って行った。



 後を追う処か慣れないシャワーをどう使えば良いのかすら手こずり捲り、車を出せたのは三十分後。


 カメラマンに教わった海鮮丼の店へと車を走らせ、混んでいたけど美味しく食べて、満足すると途端に疲れと眠気がドッと出る。


 夜通し走って運転して来た高野(タカノ)は兎も角、皆も結局眠らず朝の八時半頃に着いてそのまま海に入り、それからずっとボディボードに乗っていたのだから当然ではある。


 海の家があれば茣蓙の上で寝ていられただろうが、どのみちこれ以上は海に入れないだろう事を判らせるように、車のシートの上で身体が波に揺られる感覚を味わっていた。



「やべぇー、この車波に持ってかれてんよ!」

「俺もコレ久々だわ!」

「やべぇ超ゆりかご……」


 等と、もう寝る気満々の会話に、帰りの渋滞を避けるにも寝るにも、トイレと飲み物を有する高速のSAまで行って、休眠を取ってから帰る事にした。



 土産を買うにも調度いいかと思うが、SAの少ない高速だけに寄れる所も限られる。かといって有名なSAのある高速に入る所まで車を走らせるには眠気に勝てそうにない。


 とりあえず近くてそれなりに土産がありそうなSAまで車を何とか走らせ、野郎共は車の中で眠りに就いた。


 目を覚ましたのはそれから四時間後、すっかり辺りも暗くなって土産を買って家路へと走り出す。


 筋肉痛と共にヒリヒリと首や腕や脚やの焼けた箇所が痛みを持ち始めると、後ろの席も騒ぎ出す。


 そんな頃だった。


――PEKORINN♪――


 皆のスマホが鳴り始めると運転中の高野以外の皆が、送られて来た写真や動画に己の讃美歌を奏で出す。


「お、オレこれ意外とイケてね?」


――PEKORINN♪――


「やべぇーオレも動画配信始めよっかなぁ」


――PEKORINN♪――


「プロフィール画像これにしてサーファー気取ろっかなぁ」


 等とアホウドモが(サエズ)る中……



――PEKORINN♪――




「あ、……」



 和希の一言に貴章がからかいに言う。


「お前遠くで遊んで写真撮って無えのに何で連絡交換してんだよ!」


「ぃゃぁ、写真あったみたいでさぁ、てか、居たんだけど……」


 何を言ってるのか解らぬ会話に、和希からスマホを取り上げた貴章だが、画面を覗いて固まった。


「・・・え、」


 固まるそれを取り上げた俺も言葉を失った。


 次々に回されては仲間の言葉を奪う、そのスマホに写っていたのは……



     サメ

      鮫



 ボディボードの上で波待ちに漂う和希へと迫り来る波、海面を高く持ち上げ壁の如くに沸き立つ中を泳ぐそのシルエット。


 それは映画を観る者に海の恐怖を伝えるシンボルマークとも言える、凶暴な殺戮者を想起する生き物。



「いや、和希お前、こんなもんが居るなら俺等に知らせろよっ!!」



 正気に戻ったと同時に誰もが口走るが、和希もあの時何か嫌な感じがしていただけで何かが視えていた訳では無く、ただ物凄く嫌な感じがして浜へと向かって行ったらしい。


 写真をズームしたから判る話で、遠目には海の陰影でしか無い。だからカメラマンも送っておいてメッセージの中にもサメについては何も書かれて無かった。



「え、オレ言わなかったっけ?」


 そう言えば、浜に上がって貴章の軽口への返しに和希は言っていた。


 けど……



「海で言えよっ! 浜上がってからじゃ遅せぇだろ!!」



 危険を察知したのか浜へと向かった和希とカメラマンの二人は運動神経が良い。


 多分、危険を察知する能力も運動神経の中に在るのだと思う。

 喰われる者と逃げ切る者との差も運動神経にあるのだとすれば……



「おい、オレ何にも判んねえんだけど!」


 スマホを中心に置いて話す会話は運転席まで届かないのか、運転していた高野に助手席の真中がスマホをかざす。



「うぉおおっ!!」



 一瞬、車が揺れた。


 目を瞑るとまだ少し波に揺られる感覚が残る身体に、夢心地の悪い記憶が入り込み、喰われる夢に苛まれそうで家に着くまで誰一人として眠る事は無かった。



 

■あとがき


 今年の夏ホラーのお題が「帰り道」という事で、どちらかと言うとアクションやスリラー的な要素が強いサメですが、帰り道に知り思い返してゾゾゾなホラーとして描かせていただきました。

 この話の後ろに退治する物語が付けばアクションやスリラーともなるのでしょうけど、実はコレ……


 作中では男性六人の話としてやんちゃに描いていますが、和希が何か嫌な感じがして浜へと向かった事と、その時サメ自体は視えてなかったという部分は、私の記憶を元にしています。


 何故なら場所と種類は違いますが、私の奥に沸き立つ波の中にサメらしきシルエットが映る写真を持っているもので……



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 南国の透き通る海ではないので、陰影が本当にサメなのかは判り兼ねますが、帰宅から数日後……


 群れを成す鮫の魚影を見付けた海保か海自が空撮し、報道がその地方の漁連や関係団体と海水浴客への注意喚起をと、全国放送もされました。

 それを観て確信した私は確認すると、嫌な感じがした折の写真の中に陰影を見付けてしまった訳です。

 とはいえ、メディアに うぇ~い と送る馬鹿では無いので公開する事は絶対に致しません。


 何故なら、公開したら私の裸も公開する事になって公開した事を後悔する事になるカラダっ!!


(ノ_"_)ノお粗末。



静夏夜

 

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夏ホラー2023参加“連載完結”作品
ダクト
本作に出て来た面子が三人登場、大学構内に在ると云う人体実験をしている地下室を、中学生の相楽と和希が……
〜よろしければ一読どうぞ〜
― 新着の感想 ―
[一言] やんちゃボーイズがわちゃわちゃしているのが微笑ましかったです(*^^*) たしかに傍目には近づきたくないですが……笑 後からゾゾゾと思い返してみれば、序盤の「痛っ!」「あ、ゴメン」あたりから…
[良い点] 夏の海のホラー、リアルな怖さがとても印象的です。姿が見えず、最後の最後で判明するところも、より怖さを増す演出ですね。 あとがきまで目が離せない内容で、背景色がまた雰囲気を醸し出しているよ…
[良い点]  夏の楽しいイベントからの……。    前半はくすりと笑いもある陽気な夏の光景だったので、ラストによけいにゾクゾクとしました。    忍び寄るなんともいえない恐ろしさを感じますね。  もっ…
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