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雑魚狩り(ミニマムキリング)・Ⅰ

第一章 ?????


 帝国(魔物)と王国(人間)が争い合う異世界ヤゼオーペ。


 身体の大きさと戦力が正比例する残酷な世界法則によって徐々に追い詰められていく人間。

 人々の切実な願いを聞き入れた人間側の神が放った一言で事態は変わる。


「異なる世界から勇者を呼んでやろう」


 王国は神の助力の元、初めて異世界から勇者を召喚することに成功する。

 そうして戦線を安定させたのはかれこれ70年前の話。


 勇者が老衰にて死した後、再び異世界からの勇者が熱望されることになる。




【王宮・謁見の間】




「進捗はどうだ?」

「はい、先日観測された勇者の魂の分析結果が出ました」


 その一言に貴族たちが色めきたつ。

 王が一挙手にて静めたのち、召喚士が恐る恐る一言続ける。


「結果は……似非スキルでした」


 貴族たちは落胆と共に椅子に座り込む。

 王も目を閉じて本心が漏れぬように取り繕う。


 そもそも、スキルとは勇者に与えられる神の加護である。

 魔力を消費し、世界の理を捻じ曲げてまで戦い、魔物に打ち勝つ力の源。


 最初の勇者には額面通りの強いスキルが与えられた。

 続く二人目にはそれなりの、三人目からは数えていない。


 その最新の勇者は、語るまでもない。


「で、詳細を伝えよ」

「はい、『雑魚狩り(ミニマムキリング)』です」

「最初の、似非スキルか

 ここまでくると最早嫌がらせとしか思えぬ」


 続いて説明される内容も、大方予想の付くものである。


 自身より大きな相手に明確なダメージを通す『巨獣殺し(ジャイアントキリング)』。

 これによって最初の勇者は魔物と対等に戦い、数々の武功を挙げていった。


 それに対して、自身よりも小さい相手しか傷つけられない『雑魚狩り(ミニマムキリング)』。


 小動物駆除ぐらいしか用の無い力だが、そんなものは木っ端の冒険者にもできる。

 必要ないどころか、ある理由から収支はマイナスといって良い。


「どういたしましょうか?」

「捨て置け。 どこかの田舎町にでも流しておけ」

「探す必要は」

「無い。 実力があれば彼のように自ずとこちらへとやって来る」


 王の言葉に黙って礼をする陰のある人物。

 そう紹介されたはずの『勇者』へ投げかけられる視線は不審と不安と嫌悪。


 そんな空気の中涼しい顔ができるのは確かに『勇者』ぐらいだろう。

 壁の向こうへ吸い込まれ、放流された魂にも一度も目もくれてやらない。


「次の召喚はいつになる」

「あ……いえ、その……」

「良い、皆まで言わずとも分かる。 辺境伯はいるか?」


 その言葉に一番後ろで控えていた甲冑の貴族が起立する。

 ヘルムの中で見えぬ表情の代わりに、冷たい金属音を鳴らして王に応える。


潰しは(・・・)?」

「ご安心召されよ、我らが王よ

 既に一つ仕掛けております故」


 その一言に満足した王が招集を解き、貴族たちが帰路に就く。

 貴族たちが調整や約定で思い思いに集う中、『勇者』だけは離れるように……


 小さく、毒づく。


「生贄の邪神に(かしず)く、キ〇ガイ共が」



【16年後 北方辺境・領主の館】



 ここからは俺の物語を始めよう。

 俺の名は?????……いや、前世(・・)では????であった。


 日本という国に生まれ、流されるままに生き、受電設備(キュービクル)で死んだ。

 ここに呼んできた『神様』曰く、現場監督の怠慢(ミス)で俺の人生が終わりを迎えた。


『ああ、随分と自由な社会でキミはまぁ

 実に愚かで救いようのない、化石のような馬鹿だねぇ』


 随分と癇に障る言い方だったが、事実には違いない。

 何ともまあ、全部自分以外の理由で生きて、自分以外の理由で死んだ。


 腹立たしいほどに、駄目な人生だった。


『でもキミは幸運だ、何せ僕と出会ったのだから

 キミの世界で幻想(ファンタジー)呼ばわりの『異世界転生』に選ばれた』


 違いない、その言葉が正しいなら人生そのものをやり直せる。

 二度目は無いと思った俺が、すべてが手遅れとなっってから悟ったコレが活かせるチャンス。


 今度こそは……


『ああ、そういえばキミをここに呼んだ理由だったか

 全くもう『テンプレ』というものには辟易させられるなぁ』


 ……これは、何も言ってはいけない。

 思ってもいけない。 地の文が駄々洩れの今は特に駄目だ。


『まあいいや、キミは人生をやり直す代わりに僕の願いも叶えてもらうよ

 強大な魔族連合を前にジリ貧になっている人類を救う英雄になって欲しいんだ』


 それは分かったけど、まさか裸一貫で送るなんてことはしないだろうな?


『もちろんさ、キミには僕の加護(スキル)を授けよう』


 暖かな光が俺の中へと流れ込んでいく。

 それと共に確かな力と、猛烈な眠気が満たしていく。


『さあ、目が覚めたら死ぬほど足掻いておくれよ』


 その言葉を最後に、俺は領主の第一子としてこの世に生を受けた。

 同時に『何か』が潰れた音を聞きながら、その悍ましさに涙が溢れた。


「生まれてきてくれてありがとう」


 慈しむ母と見守る父。

 暖かで穏やかな家庭は、これを最後に途絶える。


 子供となってある程度の自由が利くようになった俺は、余りにも凡庸。

 力も平均以下で、頭も生前と変わらず、得られた加護(スキル)もゴミ同然。


 全てを働かせ、初めて得た獲物の兎を見せに行くと、父から平手打ちを受けた。


「何だその顔は! その程度の事で喜ぶな!!

 全く、弟と比べてお前は使い物にならないな!!!」


 赤子のまま自由自在に魔術を操り、積み木遊びをする弟。

 この時点で俺の序列は地に落ちたものと悟るべきだとは思う。


 でも、悔いなく生きようと決めたんだ。


「とうさま、これは……」

「そんな瘦せ細った獣肉なぞ邪魔だ、捨てろ」


 言われたとおりに兎を灰になるまで燃やす。

 こんな感じの一日を何度も繰り返す。


 寝る前は一番苦手な体捌きを鍛えるために、湖に入って剣術訓練。

 途中から物好きの爺さんが見かねて付き合ってくれるようにはなった。


 やきもきする程に遅い成長だったが、それなりには戦えるようにはなった。

 青年となって、父のように民を守る武人として一生を終える覚悟を決める。




 そうして目が覚めると、俺は縄で縛られていた。


 不機嫌そうに頬を突いて、見下すように俺を見る父。

 ああ、ついにこの時が来たのだ。




「お前には出稼ぎに行ってもらう

 無論、家名を捨ててだがな」




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