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再び華が咲く日まで  作者: 井ノ上雪恵
9/13

本当のコト

 刃を通さない、思いきり振り払った剣を力を込めずとも粉砕する……そんな常人離れした皮膚を持つ巨漢の拳に殴られる。

 それは即ち“死”を意味していた。

 色々と急なことで思考が追い付いていないが、それだけはわかっていた。

 彼女が……フィオーレに残された唯一の希望が失われた。

 だがしかし……。


「はぁ〜……コレ、大砲だって余裕で受け止めるっていうのに、たった一発でもう粉砕寸前じゃん。相変わらずイカれた馬鹿力だな……」


 一切立ち姿が揺らぐことなく、彼女は何処から取り出したのかもわからない見たことのない扇でセシュレスの拳を受け止めていた。

 表情は変わらず背を向けられているのでわからないが、仲間から死刑宣告をされたにも関わらず、その声に悲壮感は微塵もない。

 そもそも何故仲間である筈の彼女をデゼールの人間が殺しに来るのか自体わからず、状況についていけない頭は疑問符を浮かべるばかりだ。

 俺が混乱している間にも、セシュレスは一旦拳を下ろし冷めた視線で彼女を射抜く。


「あら?拳を受け止めるなんて、どういうつもりかしら?デゼルト様の命令に逆らうって言うの?」

「ハッ、冗談。何でデゼールの情報をフィオーレに売ったわけでも、ましてや開発に手を貸したわけでもないのに、味方から殺されないといけないわけ?君らに殺される義理はこれっぽっちもないんだけど」

「ええ、知ってるわ。でも、貴女の死刑が取り止めになった時点で、貴女はフィオーレにとって有力な駒なの。勿論、貴女の凄さはワタシ達が一番よく知っているわ。だから、敵に回った時……とても厄介なことになるというのも、勿論わかってる」

「だから、面倒事が起きる前に危険な芽は潰しておこうって?フィオーレに協力するとも決まってないのに……随分な話だね」


 成程そういうことかと、二人の会話を聞いて納得した。

 つまりデゼール側のしていることは俺のしようとしていることと全く同じな訳だ。

 彼女の技術力の恐ろしさ……それをちゃんと理解しているからこそ敵になる前に消しておきたい。デゼールもそう思っているのだろう。

 俺が、用が済めば彼女を処刑しようと考えているように……。

 デゼールにも仲間意識くらいはあるのかと思っていたが、どうやら相当に薄情で淡白な国らしい。

 まあ、他人ひとのことを言えた口ではないが……。

 だが問題はデゼールの薄情さではない。

 このままだと、フィオーレの救う手立てが奪われてしまう。何としてでも彼女の命を守らなくてはならなかった。


「……そ、そんな勝手な話があるか!!彼女はどれだけ尋問しても、デゼールの情報を吐かなかったんだぞ!?そんな彼女を裏切り殺すなど……そんなことは絶対にさせない!!」


 二人の間に割って入り、セシュレスに向けて刃先を向ける。まあ、刃物などこのオカマにとってはオモチャも同然なので、セシュレスは目をパチクリと瞬かせて驚いただけだった。


「あら、そのお人形さんみたいな顔で、もう王子様を誘惑したの?キュンとしちゃう言葉言ってくれちゃって。恋って素敵よね〜」


 別に自分に対して言われたわけでもないのに、顔を赤らめるセシュレス。あまりの不快感に身震いしてしまうが、当の庇われた本人と言えば「冗談止めてくれる?」と鼻で笑っていた。


「これが君の言う“恋”なら、私は今すぐにでもドブに棄てるよ。冗談じゃない。こんな時まで、お前の嘘偽りだらけの口説き文句なんて聞きたくもないよ。『愛で釣って、用が済めば処刑』だっけ?そりゃそうだよね。対フロスター用の開発をしてくれなきゃ、この国は破滅するんだから。どんな手使っても私を利用したいに決まってる」

「………」


 咄嗟に言葉が出なかった。

 何故それを知っているのか。

 何処から漏れたのか。

 それ以上に、本性を知られたのだ。これではもう、彼女はこちらのお願いに首を縦に振ってくれることはないだろう。

 それが意味するのは国の壊滅。


「ハハッ!良いね、そういう表情かお。大好きだよ。いつもの澄ました薄気味悪い笑顔よりよっぽど良い」

「……な、何故……」


 ようやく声にできた言葉がこれだけとは、我ながら情けない。

 憎たらしく笑うこの女は一瞬キョトンとすると、すぐに馬鹿にしてくるように口元を歪めた。


「何で知ってるかって?殿下から貰った盗聴機付きの宝石のお返しに、私も殿下に盗聴機プレゼントを仕込んだんだよ」

「ッ!!?」


 反射的に服を触る。

 当然それらしいモノは見つけられなかったが、それ以上に盗聴機がバレていたことのショックが大きい。

 どうやら、最初から何もかもお見通しだったようだ。

 これでは口説き落とすなんて夢のまた夢だろう。というか、自分の本性を知られたまま、相手に好いてもらえる自信は欠片も無かった。


「わかったら、そこ退いてくれる?邪魔なんだよ」


 彼女に肩を押される。

 抵抗することもなく、ただ彼女がセシュレスの前へと進んで行くのを黙って見つめた。


「殺される覚悟は決まったかしら?」

「筋肉に栄養全部持っていかれて、頭空っぽなの?味方に殺される義理はないって言った筈だ。君に殺されるくらいなら、自分で死ぬよ」


 それだけ言うと、彼女は一切の躊躇もなく、手に持っている扇のを首元に当てる。

 あの扇がどんな素材で作られているかなんて知る由もないが、これだけはわかっていた。あの鉄拳を受け止められる程の硬さを持つ武器だ。少女の首を斬り落とすなど造作もないことだろう。

 グッと、彼女が扇を持つ手に力を込めたのがわかる。


 死ぬ。彼女が死ぬ。


 そう頭で理解した途端、俺は彼女の手を思いきり掴んでいた。


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