砂漠に咲く一輪のオカマ
「うわぁああああ!!!」
「レベッカ!!」
「クソッ!フロスター二体はキツ過ぎるって!ミシェルの鬼畜ゲームと同じくらいキツ過ぎるって!」
「なら次からはもっとキツくしてあげるよ!」
「……来るぞ」
戦場に着くと、既に戦闘を始めていたフラワーガーディアン達が二体のフロスターに押されていた。
フロスターを生で見たのは初めてで、こんなに巨大だったのかと驚く。
だが驚いている場合でもないので、フロスター一体に向けて手をかざすと、俺は身体の中を流れる花のエネルギーに集中した。
「ハアッ!」
掛け声と共に俺の手から放たれたエネルギー弾は、真っ直ぐ飛んで行きフロスターに命中する。
それによって、俺の存在に気付いたのだろう。フラワーガーディアン達が一斉にこちらに振り返った。
「殿下!?」
「何で殿下がここに……」
「話は後だ!!一体は引き受ける!もう一体のフロスターをとりあえず倒すんだ!!」
声を張り上げれば、フラワーガーディアン達の顔付きがそれぞれ変わる。
皆一斉に一体のフロスターに向かって飛び出していった。
「行くよ、姉御!!“ピーチフラワーファンファーレ”!!」
「“ウィスタリアブーケ”」
レベッカとアリシア殿の手の平から同時に花びらの嵐が巻き起こり、フロスターの両腕を封じる。
その間にミシェル殿がフロスターの懐に入っていた。
「ジッとしてなよ!“クローバーアンデッドフィナーレ”!!」
ミシェル殿が手をかざすと、フロスターの巨躯を上回る巨大な四つ葉が現れ、押さえ付けるかのようにフロスターが上から押し潰される。
「今だよ!ユウリ!クリスさん!」
「おう!“ブラッドチェリークラッシュ”!!」
「“カメリアブレード”!」
ユウリ殿に生み出された大量の鬼灯がフロスターを巻き込んで大爆発を起こし、クリス殿の椿の花を纏った斬撃が巨大なフロスターの首を一瞬で切り落とした。
もう一体のフロスターの注意をエネルギー弾で適当に引きながら、フラワーガーディアンの活躍を見つめる。
胴体だけになったフロスターはゆっくりと地面に倒れていき、そして一気に体内の冷気を爆発させた。
身体の芯から冷えるような氷の粒を含んだ寒波が周囲一帯を凍てつかせていく。残るはもう一体だけ。
「あーらあら、一体やられちゃったわ、残念ね」
「!?」
ド太い男の低い声で女のような口調が聞こえて、思わず声の主へと振り返る。そこにはバッチリと厚化粧を決めた何とも言えない巨漢もといオカマが、これまた巨大なワニの背に立っていた。
誰にも着こなすことが出来なさそうなユニークかつド派手な衣装を着ているが、濃いメイクや顔立ち、褐色の肌も合間って「あ、もうそういう生き物」なんだと脳が勝手に解釈してくれる。
何が言いたいのかと言えば、ヤバい奴だ。絶対に。
隣に居る能面男ハクですら、開いた口が塞がらずにヤバいモノを見たという表情をしている。
話しかけるのも躊躇われるが、どう見てもデゼールの幹部であろう奴を無視するわけにもいかないので口を開く。
「お、お前は……」
「あーら、こんなところに王子様が居るなんて、この国は不用心ねぇ。それにしても思ってたよりも良い男♡貴方好みよ」
「ウーンマッ」と投げキッスをされ、背筋に一気に悪寒が走った。許されるなら今すぐにでも距離を取りたい、五百メートル程。
「ワタシの名前はセシュレス。美しく気高きデゼール帝国の軍隊長よ。よろしくね、カワイイ王子様♡」
「ご丁寧にどうも。出来れば一生宜しくしたくないな」
「あら、可愛くないお口ね。それよりも……」
「ッ!?」
セシュレスと名乗ったオカマが突然視界から消えた……と、すぐ背後に殺気を感じて反射的に剣を振り抜く。
剣に重みが加わり、何かを受け止めたことがわかった。
「まあ、中々やるじゃない」
「クッ!」
剣で受け止めたのは、セシュレスの拳だった。グローブを付けているとは言え、信じられないことに刃が肌を通らない。
有り得ない皮膚の硬さだ。
それどころか、とんでもない馬鹿力に腕が持っていかれそうになる。
「……フローズは何処かしら?」
「教えるわけないだろ?」
強気に笑みを浮かべると、すぐにその場から後ろへジャンプした。その直後、セシュレスへ向けてハクが剣を真横に振るう。
確かに直撃した……筈だった。
「「……」」
ハクと二人揃って目を見開いて固まる。
セシュレスの肌に直撃したハクの剣が木っ端微塵に散ってしまったのだ。
本当に人間なのかと疑いたくなる中、セシュレスはこちらに向かって突進してくる。
「殿下!避けて!!」
「ッ!!」
ハクの掛け声に合わせて、大きく跳んで体当たりを躱した。あんな鉄皮膚人間の突進を受けた日には、身体中の骨が粉砕骨折してしまう。
「あんな化け物とどう闘えば良いんだよ」
「……ロゼ様は一旦お下がりくださ……」
「へぇ〜……案外楽しそうじゃん」
ハクの言葉を遮って、聞き覚えのある鈴のような少女の声が鼓膜を震わせた。
ここには居ない筈の声の主に、慌てて姿を探す。
すると、丁度俺とセシュレスの間に彼女は降り立った。
「な、何で……ここに……」
俺の質問に彼女は答えることなく、ただ真っ直ぐとセシュレスだけを見据える。
対するセシュレスは「ラッキー」とでも言いたげに口角を上げた。
「あら、フローズ。貴女の方から出て来てくれて助かったわ」
「やあ、セシュレス。相変わらず騒々しいね、君は。そんなことより、念の為聞くけどさ……こんなところまで軍隊引き連れて、わざわざ何しに来たわけ?」
目の前で繰り広げられる会話は何処か冷たい。
彼女の方の表情は見えないが、少なくとも彼女を見ているセシュレスの瞳に仲間を想うような温かさは感じられなかった。
……何だ?彼女を助けに来たんじゃないのか……?
幸運にもその疑問はすぐに解消することになる。
ニヤリと笑ったセシュレスが口を開いた。
「あーら、もうわかってるでしょ?デゼール帝国皇帝デゼルト様からの命令よ。ワタシは貴女を殺す為に来たの」
言うが早いか、セシュレスは目にも止まらぬ速さで彼女に向かって鉄拳を繰り出していた。




