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再び華が咲く日まで  作者: 井ノ上雪恵
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天才発明家

 時を遡ること半日程前、丁度殿下が宝石を渡して地下牢から出て行った直後のことだった。



 〜       〜       〜



 殿下から貰った翡翠色の宝石を眺めて、フッとほくそ笑む。

 檻の前に突っ立っている看守のおっさんは先程からコックリコックリとうたた寝中だし、大方グルッと見回してみたところ監視カメラなどの類は見当たらない。

 つまり、今なら何をしても誰にも何もバレないということだ。

 すぐに私はテーブルの前に置かれた椅子に座ると、右耳に付けているピアス、それに埋め込まれた青い石に触れた。

 触ること約五秒。今まで何もなかった筈のテーブルの上に、様々な工具や材料が大量に現れる。


 ……バーカ。身体捜索なんて何の役にも立たないんだよ……。


 フラワーガーディアンに捕まった時、持ち物検査されたのを思い出して、心の中で彼らを馬鹿にする。

 このピアスは私が開発した自慢の便利アイテムの一つだった。

 ピアスに埋め込まれた青い石の中に四次元空間を作り、予め設定してある武器や工具などを石の中に収納……石に触れるだけで好きな時に好きな場所で必要な物を出し入れできるという優れ物だ。取り出したい物は頭の中で念じるだけで、ピアスが勝手に脳内電波を読み取り、お目当ての物を出してくれる。

 収納したい時もピアスの石に触れるだけで勝手に片付けられるので、非常に便利だった。しかも指紋認証システムを搭載してあるので、私以外の人間に出し入れすることは不可能。

 このピアスさえあれば、地下牢だろうが何処だろうが好きな物を好きなだけ持ち込むことができる。

 ピアスの設定は開発道具一式あれば簡単にできるので、事実この牢の中だけでピアスの設定を弄り、今ピアスの中に入っていないありとあらゆる武器をこの場に出現させることも可能だった。まあ、武器なんて私には一切必要ないので、それをする気は更々ないが……。


「……やっぱりか……」


 ピアスから取り出した開発道具を両手に、殿下から渡された宝石を解体すると、中から出てきたのは馴染み深い一つの機械……小型の盗聴機だった。

 特段驚くこともなく、道具を色々持ち替えて盗聴機の回路を弄っていく。


「……ん、これでこっちの音は聞こえない筈……ていうか、何でこんな性能低いやつ、わざわざ選んだんだ?これじゃあ、よっぽど近くに持ってないと音拾えないじゃん。馬鹿なのか?」


 作業する手を止めることなく、この場にいない王太子の悪口を言う。

 宝石を一目見た瞬間、中に何か仕掛けられていることには気付いたが、まさかこれ程低能な盗聴機だとは思ってもみなかった。こんなもの、私から言わせればただのガラクタだ。

 何故わざわざこんなものを選んだのか殿下の意図がわからず、首を傾げる。


「まあ良いか。どうせ何仕掛けてきても無意味だし……さて、あの薄気味悪い笑顔の仮面、完膚なきまでに叩き割ってやりますか!」



 〜       〜       〜



 そうして一晩かけて作ったのが、超小型の盗聴機だった。

 殿下が仕掛けた盗聴機ガラクタなんかとは比べ物にならない程の高性能で、半径十メートルの間に居る人間の声だけを拾い、防水機能は勿論、一度取り付けたらどんな衝撃を与えても、盗聴機本体を壊さない限り、絶対に外れないように作ってある。

 問題はどうやって盗聴機を仕込むかだったが、キレて殿下の髪に氷の薔薇を挿すついでに、殿下の左耳のピアスにその盗聴機を取り付けることに成功。

 これでもう、殿下がピアスを外さない限り、殿下を巡る全ての会話が筒抜けであった。


 そして、先程の殿下とその側近……ハクとかいう男の会話である。


 ……『愛で釣って、利用するだけ利用したあげく処刑』


 やはり、私に告白してきたのは裏があったようだ。

 別に信じていたわけじゃないが、こんなものかと落胆する。仮面えがおの裏を知ることはできたが、思っていたよりもつまらない。ありきたり過ぎて、笑い話にもならなかった。


 ……対フロスター用の兵器開発か……どうするかな……。


 とりあえず殿下の目的はわかった。どうせそんなことだろうと思っていたし、私としては別に開発することに抵抗はない。

 フィオーレの為に働くのは御免だが、自分で作った兵器を壊す為の兵器を作るのもまた一興だ。協力するフリをして、フロスターを更に強化するアイテムを作っても良い。

 こんな狭い牢の中じゃ、できる実験も限られているのだ。

 騙された演技で相手を油断させ、用が済めばこっちから捨ててやる。その時の王太子殿下の表情を想像するだけでニヤリと口角が上がりそうだ。


「騙し合いで私に勝とうなんて百年早い……精々見下して笑ってやるさ、エセ貴公子め……」



 *       *       *



 その日の昼、「やあ」という清々しい挨拶と共に、本日二度目の殿下訪問があった。

 朝のアレは嫌味だったが、朝昼と一日の内に二度も罪人の様子を見に来るなんて、本当にこの国の“王太子殿下”は暇なのだろうか。


「何?また口説きに来たわけ?」


 小馬鹿にするように笑えば、殿下は一瞬惚けるとすぐさまパッと顔を綻ばせた。

 意味のわからない反応に、逆にこっちがキョトンとしてしまう。

 そんな私に構うことなく、殿下は格子越しに私の手を取ると嬉しそうに口を開けた。


「私の想いを信じてくれたんだね。贈った薔薇も受け取ってくれているし、本当にありがとう!とっても嬉しいよ」


 言葉通り、王子の声には喜びが溢れていた。表情も含めて、とても演技しているようには見えない。

 まあ自然過ぎて、逆に芝居っぽく感じてしまうが……。


 ……本性がバレてるとも知らないで……馬鹿な奴……。


 心の中で相手を嘲笑うと、私は遠慮なく殿下の手を振り払った。


「勘違いするな。別に信じちゃいないし、この先信じることも絶対にない!さっさと帰れ!」

「……そうか……ごめんね、つい嬉しくなってはしゃいでしまった。でも、薔薇を受け取ってくれたのは本当に嬉しいよ。ああ、そうだ。薔薇の花言葉は知ってるかい?」

「はぁあ?」


 悲しそうに微笑んだかと思えば、突然突拍子のないことを殿下が聞いてくる。

 いきなり過ぎて訳がわからないが、『花言葉』という単語には反応してしまった。

 花言葉なんかに興味はない……と言いたいところだが、子供の頃色々と調べていた時期があり、薔薇の花言葉も当然覚えていたのだ。

 薔薇の花言葉は色によっても渡す本数によっても意味が変わる。

 殿下の贈ったガラス細工の薔薇は赤色だった。真っ赤な薔薇が一本だけ。


「……“一目惚れ”と“愛している”だろ?」


 ぶっきらぼうに答えれば、殿下は意外とでも言いたげに目を見開いた。


「驚いた……花言葉知ってたんだね」

「喧嘩売ってんのか?」

「あはは、違うよ。馬鹿にしたわけじゃないさ。ただフィオーレを捨てたくらいだから、花のことも好きじゃないのかと思って……」

「別に好きも嫌いもない。ただ……」


 続きの言葉は殿下の耳に届くことなくかき消された。

 大声で殿下の名を呼びながら、一人の兵士が慌てた様子で地下牢に入ってきたからだ。


「大変です!!ロゼ殿下!!」

「そんなに慌てて、どうした?」

「それが……」


 先程までの勢いは何処に行ったのか、兵士は言葉を濁して視線を彷徨わせると、ふと私の方をチラリと見た。


 ……?


 見ず知らずの兵士に見つめられる程悪いことはまだしていないので、頭にハテナを浮かべる。一体何だと思っていると、兵士は真っ直ぐに殿下を見つめ直し、大きく息を吸って口を開けた。


「大変です、殿下!デゼール帝国の人間が『フローズを出せ』と国境に攻め入って来ました!!」

「「!!」」


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