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第32話 治癒魔法

 やはりというか、火を出す以外に出来ることを探しておいて損はないだろう。

 というか、今後のことを考えれば必要不可欠。

 出来れば使い勝手のいいモノがいいが、贅沢は言わない。

 もっと言うなら、攻撃でなくてもいい。


 取れる手段は増やしておくべきだ。

 

 今日の目標は、火を出す以外に魔法で使い勝手が良さそうなのを探すことにしよう。

 顔を隠す手段も考えないといけないが、それはまた後でだな。折角、広々と魔法の実験が出来る場所に来たんだから考え事なんてしてたら勿体ない。


 はて、具体的にどんな魔法が使えたらいいだろうか。

  雷とか出せたらかっこいいけど、扱いきれる自信がない。目の前で音を置き去りにされても困る。


 目の前でフワフワと宙に浮いている炎の玉と同じようにコントロールできるだろうか。

 

 そういう心配がなさそうなのは水の魔法とか扱いやすそうだが、果たして攻撃に使えるのか。

 水を凍らせて氷の魔法とかは強そうだな。


 魔法、魔法使い。

 絵里香が小さいときに読み聞かせていた絵本を思い出す。1人の魔法使いが世界を救う物語。

 前世の世界との相違点の1つだ。俺の知る限り、前世じゃあんな絵本なかった気がするんだよな。

 この世界特有の絵本だ。それだけに印象に残っている。


 あの魔法使いはどんなことしてたっけ。傷ついた人を魔法で治していたり、炎を出したり……。


 子供向けの絵本だったからな、そこまで細かく魔法については触れられてなかったな。

 傷を治す魔法は使えたらかなり便利そうだが、実験ができない。

 最後の手段としては、自分で傷を負ってそれを治す、ってのがあるが、猟奇的すぎる気がするので極力遠慮したい。

 いや、絶対にやりたくない。


「けど、いざというときに使えたら便利だよな」


 いつか必要なときが来てから困っても仕方ない。

 絵里香が包丁で手を切って泣いてからじゃ遅いのだ。


「うーん、やるしかないのか?」


 自傷行為。

 まず俺の魔法って、俺に攻撃出来るのだろうか。

 こんな至近距離で燃えてるのに熱を感じないんだから、発動してる俺には効かないのかもな。

 皮膚に触れはしないが、普通の炎なら火傷をしているであろう距離まで魔法の火を近づけても平気だ。

 

 今後、自分に向けて撃つことなんてないだろうし、試してみるのも悪くないが、もしも治癒魔法が出来なかったら、重傷患者が生まれておしまい。

 あの爆発を自分が受けたらと思うと、冷や汗が止まらなくなる。


 一先ずやめておくとして、何しようかな。

 【妖精魔法】なら何でも出来そうだし悩む。

 順当に水を出せるか試してみるか。

 

 自由自在に操っている炎を眺めながら考えていると不意に、背後から声がした。


「……あれ、違う?」


 女の人の声。


「っ!?」


 まずい。

 魔法を使っているところを人に見られるわけにはいかない。

 慌てて火の玉を消して顔を向ける。


「あなた、不思議」


 病的までに白い肌をした女の人が真っ赤な瞳で俺の事を観察していた。

 彼女が喋るまで、気配が全くしなかった。

 この感じ、覚えがあるぞ。


「人、なのに、妖精の魔力がする」


 今、妖精の魔力って言ったよな。

 妖精について知っているのか?


「あなた、人? 妖精?」


 どこか剣呑な雰囲気で彼女が問いかけてくるが、唐突すぎて頭が追い付かない。

 何故、この人も妖精について知っているんだ。

 

 考えられるのは、この人も魔法少女という線。

 それなら当然、妖精について知っているだろう。俺から妖精の魔力がすると言っていたのは気になるが、この人が魔法少女というのもありえなくはない。

 だが、恐らく違う。


 返答を間違えば、恐らく戦闘になるだろう。

 なんと答えるのが正解なんだ。

 どう答えても戦いになる未来しか浮かばない。

 戦闘になったとして、俺はこの人に勝てるのか?


「俺は……っ!」


 答えを迷っていると、ドサリと音がして、目の前の女の人が倒れていた。


「は?」


 今、何があったんだ?

 俺は何も攻撃をしていない。

 この場所に俺とこの人以外には、人の気配もしない。

 

 なら、なぜ急に倒れたのか。それはすぐにわかった。


「怪我してるじゃないか!」


 恐る恐る近づくと、彼女の体が傷だらけなことに気付いた。

 真っ白なワンピースに赤い模様、ではなく体の至る所からから血が流れ出し、赤く染めていた。

 この怪我、かなり深いぞ。

 よく今まで平然としていられたな。


 どうしてこんな状態になっているんだ。

 誰かから逃げていたのか?


 いや、そんなことよりも。


「何を、している?」


「まだ出来るかわからないから、期待はしないでくれ」


 【妖精魔法】を発動する。そして、彼女の怪我が治ることをイメージしながら魔力をこめた。

 怪我をしているところに手をかざして、念じる。


 お腹にある傷が一番大きい。

 まずはそこから治さないと。

 

 彼女は、俺に攻撃の意思がないとわかったのか、静かに目を閉じていた。

 

 淡い光が俺の右手から発生して、彼女の傷口を包み込む。 ぐっ、かなり魔力を消費するみたいだ。

 ちゃんと治っているのか?

 わからないが、魔力はどんどん消費されていく。


 目を瞑って大人しく俺の魔法を受けているのを見る限り、少なくとも戦う意思はないみたいだが、多分この人は。


「俺が、妖精だったらどうしたんだ?」


「殺してた。けど、あなたは、殺さない」


「そう、か」


 この女の人、魔族だ。

 彼女のこの怪我も、熊に襲われたってわけじゃないよな。

 恐らく、魔法少女さんかそれ以外の魔法少女と戦闘になったんだろう。よく見ると、白銀の髪も土で汚れていた。


 俺の手から出ていた淡い光が収まっていく。

 無事に彼女のお腹の怪我は塞がったみたいだ。もう血も出ていない。


「ふう、治せてよかった」


「……?」


 怪我だらけの女の子に何もしないで放置なんて目覚めが悪いからな。お腹の怪我の次は、肩と脚の怪我も治療しよう。

 どうやら、魔族が全員怪我の治りが早いというわけじゃないらしい。昨日のナルシストが特別か。

 俺の魔力持つかな。家に帰ったら妖精になって魔力を回復しよう。

 人のままでも魔力は回復すると思うが、そっちの方が圧倒的に早い。


 そのまま治療を続ける俺を彼女は何も言わずにじっとしていたが、少しして口を開いた。


「ねえ」


「なんだ?」


「一緒に、来ない?」


 吹き出しそうになった。

 一体どこに連れていくっていうんだ。

 さっきまでの剣呑な雰囲気はなりを潜め、何を考えているのかわからない赤い瞳で俺のことを見ている。本当に魔族、だよな?

 彼女は閉じていた目を開けて、俺をジッと見ている。

 早く答えなければ。

 

「えっと、それは出来ない。俺には帰らないと行けない場所があるし、また機会があったらお願いするよ」


「そう」


 特に気を落とした様子もない。何を考えてるんだ?


「私は、行く」


「そうか」


 彼女がここに来たのは、十中八九俺がここにいたからだろう。戦いにならないでよかった。


「……」


「なんだ?」


 俺に背を向けて歩いていた彼女が立ち止まり、振り返っていた。

 黙って見てくるんだが、どうしたんだ?

 今更戦いはないよな?


 俺のこと殺さないって言ってたよな?


「ありがとう」


「っ! もう、怪我すんなよ」


 どうやら、要らない心配だったようだ。

 それだけ言うと、彼女はまた歩き出した。

 しかし、お礼を言われると思っていなかったから妙に照れくさい。

 ただ、気分は良い。


 服は血で汚れたままだが、気にした様子もなく彼女は森の中に消えていった。

 

「俺も帰るか」


 彼女の怪我、治してよかったのかな。本当に魔族なら、いつか戦うことになるかもしれない。

 今日の俺の行動は、敵に塩を送ったみたいなものだ。けど、どっちにしろ放っておけなかった。


「昨日のホストも今日の彼女も、どうやって俺の場所を調べてるんだ?」


 共通点といば、妖精になってたことか。今日は違うが、直前までは今日も妖精になっていた。

 もしもそれが原因なら、家で妖精にはなれないな。何か改善策を考えないといけない。


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