第19話 変身
俺が小学校低学年、絵里香はまだ小学校に入学前のことだ。
休日に家族で水族館に行ったことがあった。
クールな子になってしまった絵里香がまだかなりの甘えん坊で俺にべったり、それはもう大層可愛かったそうな。
小さいぷにぷにした手で俺の手を握り、水槽の中を泳ぐお魚やぺちぺち歩くペンギンを見てはしゃいでいた絵里香がこの世のものとは思えないほど可愛かったのを覚えている。
水族館で欠かせないものといえばイルカショーだが、当然俺ら一家もイルカショーは見に行った。
俺の隣に座りたいと言って俺から離れない絵里香の方が天使だったのは一先ず置いておこう。
その前になぜ俺が小さい時の甘えん坊時代の絵里香を思い出していたかといえば、さっきの魔法が原因で発生した水しぶきが、あのときのイルカショーの水しぶきを彷彿とさせたからだ。
イルカの起こした水しぶきで服が濡れてしまって、まだ小さかった絵里香が泣いてしまったのをよく覚えている。
思っていたよりも水がかかってしまって驚いたらしい。
泣きながら抱き着いてくる絵里香は服が濡れていることなんて微塵も気にならないほど天使だった。
ああいう場では濡れることもイルカショーの醍醐味ではあるが、それを楽しむには絵里香はまだ幼過ぎたという非常に可愛らしいエピソードだ。
因みに今の絵里香も可愛いのは言うまでもない。
閑話休題。
それにしてもさっきは結構な高さまでしぶきが上がって驚いたが、濡れたりしなくて本当に良かった。
びしょ濡れの人が歩いていたら、注目を集めるのは必至。
それだけじゃなく、髪が濡れると顔を隠すのが難しくなるのだ。
濡れたうえにチャラ男になってしまうなんて厄介極まりない。
急に濡れて帰ってきたら絵里香たちも驚くし。
俺は能力で風邪なんか引かないが、余計な心配をかけてしまうだろう。
幸いなことにそれは免れた。仮に濡れていたら能力の検証どころではなくなっていたので本当によかった。
後顧の憂いなく次に進める。
さて、こうなると次の問題は1つだ。
妖精魔法に関しては、今日は無事に発動出来ることもわかった。威力やら他に出来ることを探すのは後日にするとして、残った能力はあと2つある。
その2つの検証をしなければいけない。
「問題はどっちを先に試すか、だな」
☆
【強欲】
【無病息災】
【確殺0/1】
【妖精魔法】
【契約】
【変身】
☆
残っているのは、【契約】と【変身】の二つ。
正直どっちでもいいってのが本音だから、素直に上から検証していきたいが。
まず、【契約】だな。
「これってあの妖精が絵里香に使おうとしてた能力だよな」
恐らく、契約した相手を魔法少女にすることが出来る能力。
俺の記憶が正しければ、絵里香はかなり可愛くて性格もよくて頭もいいだけの普通の女の子だ。ただの、普通の俺の妹なんだ。
間違っても悪い奴と命をかけたバトルをできるような女の子ではない。
運動神経も悪い方じゃないが特段、力が強かったり俺のように不思議な能力があったりもしない。
そんな可愛い普通の女の子に、世界を滅ぼそうとしているような輩と戦えるだけの力を与えることができる力って考えると中々に強力な能力だ。
尤も、まだどんな仕組みでそんな事をしてるのか分からないが恐らくそんな能力だろう。
制約とかもありそうだ。素質のある人間しか魔法少女にできないとかそんな感じの。
そうじゃないと魔法少女が量産できてしまうだろう。
少なくとも、今ここで使えそうな能力ではない。
「一応、発動だけでもしてみるか」
使いたいときに使えませんでしたなんてなったら困るしな。
「契約」
今までの能力同様、念じるだけでも大丈夫だろうが口に出して使ってみる。
「おおっ」
静かに俺の身体がキラキラと光り出し──。
すぐにおさまってしまった。
何も、起こらないか。
しかし、予想通りだ。能力の名前の通り、契約相手がいないと何もできないだろう。
発動できることがわかっただけでも儲けものだ。
そうなると、残されたのは1つだけ。
「変身、か」
名前からして、何かに変身出来るんだろうが。
恐れていることが1つある。
「俺が魔法少女になったりしないだろうな?」
正直、1番有り得そうだ。
絵里香の魔法少女姿は見たいが、自分が魔法少女になってるところとか想像するだけで拒絶反応が出る。
俺に女装の趣味はない。
「まだそうと決まったわけじゃないから試すけどさ」
もしかしたら、この能力が滅茶苦茶強い可能性もあるわけだからな。
確殺を失った俺は手段なんて選んではいられないのだ。
……変身するってなると何かポーズ取らないといけない気がしてくるけど、やらんでいいよな?
よし、やらない。
今更だけど、あの妖精が魔法少女になるところとか想像できないんだが。急に変身するの怖くなってきた。
え、変身しても戻れるよね?
や、やるぞ?
大丈夫だろうな?
色んな意味で覚悟を決めよう。たとえどんな化け物になろうと魔法少女になろうときっと戻れる。
瞼を閉じて自分に言い聞かせ、最後の覚悟を決める。
左手を腰の辺りで握り、右手でグッと握りこぶしを天に突き上げ、目を開く。
「【変身】!」
ぽん!
間抜けな音と共に足元からモクモクと青い煙が立ち上り、自分なりの最高に格好いいポーズをしている俺の全身を覆っていく。
「うわっ!?」
一瞬の間に青い煙は完全に俺の身長180センチを超える体を覆っていた。
くそ、何も見えない。幸い、普通の煙じゃないらしく呼吸は問題ないが、どうしたものか。このままでは身動きが取れない。
考えてる間に、煙は少しずつ晴れてきた。
「……見えるようになってきたな。魔法少女になったっていう雰囲気じゃないが何になったんだ?」
怪しげな煙に、明らかに魔法少女ではないことを感じつつも、自分が何かに変化していることを感じている。
思っていたよりも短い時間で完全に煙が晴れた。時間的に10秒にも満たないだろう。
「ん?」
顔を上げて、周りを見て、違和感に気付いた。違和感は目線の高さ。世界が随分と大きくなったように感じるんだがこれは一体?
赤ん坊のときの目線とか覚えてないが、それが一番近い気がする。それぐらい目線が低くなっている。
もしかしなくても、俺の身体縮んでないか?
「ん!?」
不意に自分の手を見て、あまりの驚きに固まった。見慣れていたはずの自分の手が、確実に人間のそれではなくなっている。
指というか、関節とかが存在していないような感じだ。
モコモコという擬音がぴったりな見た目。
まるで、ぬいぐるみのような。
認めたくはないが、そういうことだろう。
「これ、あの妖精になってないか?」
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
と少しでも思っていただけたら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
執筆の励みになります。
何卒よろしくお願いいたします。




